信州大学 伝統対談Vol.3 グローバルで発揮される信大の独創力。特別レポート

信州大学長と語る伝統対談第3弾は、教育学部卒業生で、海外で活躍する若手経営者出口友洋さんが登場。卒業後、コンサル会社を経て、なんと香港、シンガポール、台湾で日本のお米を専門に販売するというユニークな経歴の持ち主で、「日本米食味鑑定士」という資格も持つ"米ソムリエ"です。今回も信州大学卒業生のフリーアナウンサー土井里美さんに司会いただき、信大の独創性に新たなキーワード、「グローバル」を加えた楽しい対談となりました。(2016年2月収録)

(司会・コーディネート土井里美さん)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」」第99号(2016.5.26発行)より
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信州大学学長
濱田 州博(はまだ くにひろ)
1959年兵庫県生まれ。1982年東京工業大学工学部卒業。1987年同大学院博士課程修了。1987年通商産業省工業技術院繊維高分子材料研究所研究員。1988年信州大学繊維学部助手。1996年同助教授。2002年より同教授。2010年より繊維学部長。2012年より副学長。2015年10月より同職。

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三代目俵屋玄兵衞
出口友洋(でぐち ともひろ)さん
1978年北海道生まれ。信州大学教育学部生涯スポーツ課程野外活動専攻卒業後、コンサルティング会社から、アパレルメーカーの香港駐在員を経て独立。2009年にWakkaInternational Co., Ltd.を設立し、「香港精米所 三代目 俵屋玄兵衞」のブランド名で、現地精米による日本米の販売事業を開始。以後、シンガポール、台湾、アメリカ(ハワイ)に拠点を広げ、新鮮でおいしい日本米を通して日本食文化を世界に伝えている。

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司会・コーディネーター
土井里美(どい さとみ)さん
( 人文学部卒業生)
1970年富山県生まれ。信州大学人文学部国語学科卒業後、BSN新潟放送アナウンサーなどを経て、現在は文化放送などのラジオパーソナリティ、司会・話し方講師など多彩な活動を行う。神奈川県川崎市在住。

フィールドに恵まれた信大ならではの大学生活。

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土井里美さん(以下敬称略) 前掛け姿の出口さん、きりっとしていて格好いいですね。

濱田州博学長(以下「学長」) ちょっと低めに腰のところで締めていて、いいですね。

出口友洋さん(以下敬称略) ありがとうございます。これは、いわば我々のユニフォームなんです。

土井 前掛けに書いてあるのは、香港精米所・商売繁盛・安心美味・三代目俵屋玄兵衞。

出口 三代目俵屋玄兵衞は、屋号と言いますか、ブランド名ですね。香港にあるので香港精米所です。精米する時も、営業でお客さんを回る時もこれを着けています。昔の御用聞きのお米屋さんのような雰囲気を出しているんです。

土井 改めて出口さんを紹介させていただきますと、海外で日本産のお米を販売する会社を経営されていらっしゃる。

学長 お米の仕事を選んだのは何か理由がありますか。

出口 もともとお米が大好きだったんですが、仕事で上海や香港で何年か生活してみて、日本で当たり前に食べられていたおいしい日本産米が、海外ではなかなか食べられない。ないのだったらやってしまおうということで、玄米で仕入れて、オーダーをいただいてから精米してフレッシュなお米をデリバリーするという、本当に町のお米屋スタイルで始めました。

学長 そういえば、私もお米が大好きなので、かつてアメリカに住むことが決まった時には、まず炊飯器を買いましたね。

土井 現在は精米所を香港、シンガポール、台湾にお持ちで、今年はハワイに出店されるそうですね。出口さんは北海道のご出身で、信州大学に来て、アジアへ、世界へと飛び立って行かれたんですが、どうして信州大学を選んだんですか。

出口 当時、国立大学で唯一フィールド教育を実施していたのが信州大学だったんです。野外で学んで、野外で遊んで、それで単位が取れるのは最高だと…。

学長 自然のフィールドを活用し、野外活動を通して青少年を育成していくという教育プログラムですね。キャンプやカヌーなどがカリキュラムに入っています。自然に囲まれた信州大学ならではの特色ですね。出口さんは、入学時から志向がはっきりされていたわけですね。

出口 夏はスキューバ、冬は子どもとキャンプをして単位がもらえるなんてすごいなと。友達からも「そこいいな」と、羨ましがられました(笑)。

学長 実は教育学部では改組があって、今年度から全員が卒業要件として教員免許を取ることになりました。ただし、特色あるフィールド教育は、もちろん残しています。

出口 私はゼロ免課程という、教育学部の中でも免許取得を要件としていない課程だったんです。信州はフィールドにとても恵まれていて、野外教育は信州大学だからできることだと思うので、残ってホッとしています。

さらに開かれた大学へ。さらに優しい大学へ。

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3つのGとL

出口 ゼロ免課程には、社会人入学の方が結構いらっしゃったんです。私の同級生でも、まあ同級生と言っていいのか分かりませんが、30歳とか40歳の方がいらして、社会を経験された方なので、自分の今後の進路などを話した時に、こういう道もあるんじゃないかというアドバイスをいただけた。たまたま経営者の方もいらっしゃって、その方の話がとても示唆に富んでいてすごく刺激をいただきました。

学長 日本の大学進学率が低い一つの理由は、ほとんどの入学者は18、9歳の高卒者なので、若者人口が減ったら連動して入学者も減っていくのです。一方海外は一度社会に出て、もう一度学び直すというのが当たり前なんです。日本の大学は、18歳人口だけを対象に考えているのですが、将来的には変わっていっていいと思います。信州大学でも、もっと社会人入学を増やしたい。世の中の「学び直したい」という期待に応えたいと考えています。

土井 その点で言うと、信州大学は公開講座などを、年間1,123件も行っていますね。

学長 講座だけでなく授業も公開しているので、松本キャンパスでは、教養課程の授業を松本市民の方が受けています。受講料をいただいていますが、人気のある授業だと、10人、20人という単位で受講されています。

出口 ちなみに人気のある授業はどういうものですか。

学長 人気があるのは身近なテーマで、どちらかというと文系的、歴史的な内容ですね。私は、教養課程の理系の授業で「色」の話をしましたが、3人ぐらいは受けていましたよ。

土井 「色」の話とは、どんな内容なんですか。

学長 例えば服につける色もあれば、机につける色もあれば、建物につける色もありますよね。それをどういう材料でつけているかとか、テレビの色はどうして出るかとか、身近なものとつなぎ合わせて、色というテーマにしてお話ししていました。

出口 ちょっと知っておけば自慢できる感じのお話ですよね。

学長 それから出前講座という、市町村などの要請で、講座を設けることもやっています。先生方がお話しできる内容を登録していて、この人を呼びたいということになると、大学が派遣するという具合です。

出口 いいですね。先ほどもお話ししたように、社会人と学生が共に学ぶメリットは、私が実感しているとおり、たくさんありますから。

土井 学内でいろんな年齢層の人が一緒に学んで、つながりが生まれれば、何か大きなシナジーになりそうですね。そんな信州大学の特徴を、濱田学長はコンパクトなキーワードにまとめておられますね。

学長 グリーン、グローバル、ジェントルの3Gと、ローカル、リテラシー、リンケージの3Lです。

土井 まず3Gからご説明をお願いします。

学長 グリーンは緑に囲まれた環境という意味と、環境を大事にするという意味の両面で、この中では大きな位置を占めます。グローバルは、今の時代ではどの大学も力を入れていますからはずせませんね。ジェントルは他の大学には入っていないと思います。これはいろんな意味を含んでいて、気品高くとか、落ち着いてものを考えられるとか、人やいろいろなものに優しいこと。だからキャンパスづくりにも優しさを反映させていこうとしています。安全・安心なキャンパスというのも、ジェントルなんですよ。

出口 たしかに緑に囲まれていて、とても安らぎがあるキャンパスでした。

土井 市民に開かれているという点も、優しいキャンパスですよね。次に3Lは何ですか。

学長 リテラシーというのは、教養を意味する言葉ですが、もともと大学の研究が次の教養につながっているわけです。つまり研究を通して新しいリテラシーを形づくっていくのが大学なので、ある意味、教科書に載るぐらいの研究をやってくださいという意味を込めていますね。すごいレベルの研究というのは、最終的には教科書に載りますから、そんな研究を信州大学から生み出していきたいんです。

地域貢献は、日本への貢献でもある。

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土井 一つ目のローカルという点でいきますと、4年連続で大学の地域貢献度のランキングナンバー1になりました。これはすでに達成されている感がありますよね。

学長 地域との連携はいろんな側面を持っていますので、一つの指標で1位を取ったことは喜ばしいことですが、それ以外のもっと多種多様な地域連携でも1位を目指していきたいんです。

土井 ご自分に厳しいんですね(笑)。

学長 信州大学が有利なのは、昔はデメリットだと言われていたタコ足キャンパスが、地域と結びついていろいろ活動する際に、むしろメリットになっていることです。地域が望むことによって、連携する事柄は違ってきますから、それぞれのキャンパスでそれらがうまく展開できていると思います。

出口 各地域に学部があるということは、歴史の中でその学部を置くだけのバックボーンがあるということですね。上田は繊維学部が、長野は教育学部・工学部が必要とされていた。それに関わっている方が、その地域では多いということですよね。

学長 その学部を地域が引き寄せていると言えるでしょう。必要性があって呼んでいるので、地域に必要となるものがあるということは、逆に言うと我々も協力できるネタを持っているということですね。

土井 タコ足大学でよかったですね(笑)。

出口 大変でしたけどね。1年次に教養課程の単位を落とした人は、長野から松本まで通ってましたからね。なんでこんなに遠いんだろうって(笑)。

土井 地域貢献という点では、お米を日本から海外に輸出することは、日本の農家さんの役にも立っているのではないでしょうか。

出口 そうですね。海外で農産品の販売をしていると、日本国内の農業とか、農政が気になります。今、作り手の高齢化や担い手不足、不耕作地など、いろんな問題で、国内の市場が縮小しています。その分を海外に市場を求めることによって、農業が活性化できればいいなと。私は北海道出身で北海道のお米のおいしさが分かっているので、北海道のお米を一番多く扱っていますが、二番目は長野県のお米なんですよ。大学1年目に松本で下宿していた時に、そこのおばさんがつくるご飯がすごくおいしくて、それが長野県のお米だったんです。自分の生まれた北海道と自分がお世話になった長野県ということで、そういう意味では地域貢献かなと(笑)。海外でも長野県のお米はすごく評価が高いんです。

学長 私はほぼ毎日、長野県産のお米を食べてますよ。毎日だからそのありがたみを忘れていましたね(笑)。

信州大学で身につくのは、課題を克服する精神力。

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土井 出口さんには、どうにかなるじゃなくて、どうにかしてやるというチャレンジ精神がありますね。

出口 難しいこととか、常識ではどうしようもないことに対して、どうしたら実現できるかを考えるのは好きなんです。この仕事を始める時も、業界の人からしてみると、海外では安いインディカ米が主流なので、日本の高いお米、しかも粘り気が強いお米は受け入れてもらえないよというような話はあったんですけど、どうしたら受け入れられるかを考えるのは楽しかったです。

学長 自分の前にある壁を一つひとつ越えていくのは、自信になりますよね。強い心で挑戦をされているわけですからなおさらですね。

出口 野外教育という自然の中での活動は、状況によってはサバイバルみたいなものです。それこそ雪上キャンプで零下20度の中、雪洞掘って雪の中に寝袋敷いて…。

土井 そんなことしたんですか。

出口 信州というフィールドの中で育ててもらったので、ちょっとやそっとでは動じなくなりましたね。信州大学にたっぷりと対応力をつけてもらいました。

学長 ましてや海外に行くと、日本の常識では通じないことが多いでしょう。対応力は大事ですね。

土井 出口さんのようなたくましい人が生まれて。たくましいメンタリティをお持ちの方が多いんじゃないですか、一緒に学んだ人は。

出口 そうかもしれません。信州大学のホームページでも取り上げておられた山岳ランナーの山本健一さんとか、現役の山岳ガイドで活躍されている花谷泰広さんは、同じ学部のゼロ免課程のメンバーです。

学長 山岳で培われた絆は強いですね。

出口 はい。信州は冬が寒いので、それだけでも鍛えられます(笑)。冬場に布団から出なければいけないとか、灯油をガソリンスタンドまで買いに行ったりとか(笑)。

土井 銭湯の帰りに手拭いを回しながら帰ると凍ってしまうとか(笑)。

学長 国立大学の中では、標高が一番高いところにありますから。何でも一番は大事です(笑)。

出口 日本の大学の中で、いい意味でそんな経験できるところは他にありませんね。

異文化交流キャンパスに、さらにグローバルが加わる。

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出口友洋さんは、日本米食味鑑定士として、なんとパナソニック香港の炊飯器のCM(2011年)に出演している。Youtubeで見ることができる。https://youtu.be/L0CkbEv0uWs
CM タイトル「PanasonicIH 鑽石磁應西思 2011 -日本米食味鑑定士 出口友洋」c Panasonic hk

土井 ところで、海外で活躍したいという志向はお持ちだったんですか。



出口 海外で仕事をとまではいきませんが、生活をという気持ちはありました。私は実は大学は5年半かかっているんです。1年半休学をして3カ国に留学をしました。



土井 どちらへ?



出口 中国と韓国とアメリカに行きました。外国の言葉はいつか役に立つ、時間のある時に海外で生活をしてみたいと、学生の時に留学をしました。

学長 野外教育に加えて、海外留学ですか。またまたいい経験をしましたね。



土井 信大生らしいというか。じゃあ、ちょっと外国でも行ってくるかな、みたいな。



出口 のんびりした感じですよ。



学長 信大生を見ていると一見のんびりに感じますが、本当はいろいろ考えていて、しかもその経験が人生の役に立っていたりするんですよね。



出口 私も学生時代に海外経験ができましたので、海外で仕事をすることに対してのハードルみたいなものは感じなくてすみました。



学長 学生時代にこそ、多様な経験にチャレンジしてもらいたいし、留学生も増やしていきたいと考えています。



出口 そのお言葉で安心しました。私の留学の件もそうですが、学生だからできるということがあるので、そういうことにはどんどん挑戦してもらいたいですね。



学長 やはり異分野にふれることは貴重で、日本のことも知ってるようで知らないんですよ。でも異文化に触れると、もう一度日本を見直すことができる。それが重要なんじゃないかなと思います。それは一朝一夕にはなかなか分からないものですが、幸い信州大学は、全都道府県から学生が集まるので、いわば、北海道から沖縄までの異文化交流サークルなんですね。それが、信大の独創性を養う大きな要素でもあるのです。



土井 信大の独創力をグローバルに。出口さんに続け、ですね。今日はどうもありがとうございました。

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