信州大学「広報スタッフ会議」外部アドバイザー座談会特別レポート

信大広報戦略の新しい試み

「広報スタッフ会議」

 平成26年3月に設置した「信州大学広報スタッフ会議」は、笹本正治広報担当副学長が座長を務め、外部の広報関係有識者を広報アドバイザーとして招き、新しい大学広報のあり方や戦略性を検討するタスクフォース的な組織だ。これまでに、首都圏調査などを参考に、外部から見た信州大学のイメージやブランド、法人広報、入試広報などのツールの見直し、新しいコンセプトで広報コンテンツを実現する手法など、1年間さまざまな議論がなされてきた。新年度を迎えるにあたり、座長と3名の外部アドバイザーで座談会を催した。

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」」第93号(2015.5.29発行)より

首都圏では約2割の方が信州大学を知らない?(※1)

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2014年3月に行った、首都圏(東京都、埼玉県、神奈川県、千葉県)在住の15歳~69歳の約300人を対象に行った信大の知名度に関する調査。

笹本 昨年3月、朝日新聞さんに首都圏で信州大学の知名度調査を行っていただいたところ、予想どおりネームバリューはありませんでしたが、意外にネガティブなイメージもない、ということが分かりました。これは地方大学として珍しいことのようですが、この利点も踏まえ新しい企画やコンセプトによる広報が必要だと認識しています。これから信州大学の広報はどうなっていけば良いか、さまざまな視点からご意見をいただき、今後の広報戦略を考えていきたいと思います。皆さんには広報アドバイザーとして何度も本学に足を運んでいただいておりますが、本学に対して当初はどのようなイメージをお持ちでしたか。

藤島 「信州大学」という名前は以前から存じていましたが、実は、学部はかろうじて繊維学部の名前を覚えていた程度です。また自然に囲まれて、キャンパス環境は素晴らしいのだろうとは思っていました。

 同じく、ゆっくり教育や研究ができて、豊かな水や自然豊かな山々など、環境に恵まれた大学という印象でしたね。

川崎 恥ずかしながら、教育専門(教員養成)の大学かと思っており、教育以外の分野の研究とか、学部が分散していることは知らなかったです。

 去年の知名度調査は、朝日新聞読者で15~69歳の方を300人選びアンケートを行ったものです。それによると89.2%の人は信州大学という名前を知っており、90.9%の人が長野県の国立大学として認識している。ただ日本唯一の繊維学部があることを知っている人は意外に23%など、「どんな大学?」という側面では、ほとんどが2割以下でした。しかし、フリーアンサーではいくつか面白いキーワードが出ています。

田舎、自然、地方、教育、手堅い、地道、コツコツ、のびのび、のんびり、のどか、山、地域、地味、教育県、神様のカルテ、繊維、スポーツ、水、北杜夫、ユニーク、独創性、などなど、実直なイメージがあります。また地方大学は都道府県名と連動した名称が多いのですが、長野県の国立大学は「信州」大学ですから、それを考えても知名度は高い。でも具体的な教育・研究や成果は知名度につながっていないことがわかりました。

(※1)年齢29歳以下の方20%が信州大学を知らないと回答

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信州大学副学長(広報・学術情報担当)
笹本 正治
1974年 信州大学人文学部文学科卒業
1977年 名古屋大学文学研究科博士課程前期修了
1977年 名古屋大学文学部助手
1984年 信州大学人文学部助教授
2008年 人文学部学部長補佐
2009年 副学長(広報、学術情報担当)、附属図書館長

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広報コンサルタント(元サントリー広報部)
谷 浩志 氏
1976年 サントリー(株)入社 広報部
1997年 (株)ジャパンイメージコミュニケーションズ入社
1997年 同社 取締役副社長 就任
2006年 日本農芸化学会広報委員、東京農工大出版会、編集委員
2008年 ストリートメディア(株) 取締役 就任
2010年 横浜商科大学講師(広報論、広告論)

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(株)ブランドア代表(元電通)
藤島 淳 氏
1980年 (株)電通入社 クリエーティブ局
2006年 同社AP計画局海外事業部
2008年 上海電通赴任
2013年 (株)電通ビジネス統括局次長
2013年 上智大学講師
2014年 ブランドア(株)創設

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朝日新聞社東京本社
川崎 紀夫 氏
2002年 朝日新聞社入社 東京本社広告局広告整理部
2005年 広告第三部
2007年 編集局東京総局(現・社会部)
2008年 同 東部支局(同上)
2009年 広告第三部
2013年 コンテンツプロデュース部

まじめで勉強熱心な信大生、その実直さに驚いた、というか…

笹本 日本唯一の繊維学部、工学部の先端研究、神様のカルテといった具合に、知られている情報がばらばらのようですね。実際に本学を見ていただいて、以前から持っていたイメージと異なる部分はありましたか。

藤島 大学案内をリニューアルするということで、何人かの学生にヒアリングしましたが、お世辞ではなく、まじめで勉強熱心、意識も意欲も高い学生が揃っている、と感じました。客観的にいろいろ調べたら地域貢献度が3年連続でナンバーワン(※2)とか、独創性ナンバーワン(※3)とか、きちんとした形で社会の評価に結び付いていることもびっくりしました。以前から持っていた情報は極めて断片的でしたが、戦略的に広報しようとすれば素晴らしいネタを持っている大学だと思います。

 キャンパスが長野県内に分散していて、実に多様性があります。このような多様性を、どのように統一感をもってアピールしていくか。また、北杜夫さんの時代から、面白いことを考える、まじめに努力しながらも、人と違う個性溢れるユニークなことを考える、という伝統があるようにも思いました。

川崎 キャンパスが長野県のあちこちにあって、それぞれが、その地元に根付いている、ということにまず驚きました。その一方ではカーボン・ナノチューブのように世界的に最先端で稀有な研究を行っている、というギャップも面白い。また地元の学生が多いという印象もあったのですが、実際は約7割の方が県外から来ているという事実にも驚きました。

(※2)日本経済新聞社・産業地域研究所

   「大学の地域貢献度に関する全国調査」(2012~2014)

(※3)日経HR「本当の就業力が育つ大学ランキング2014」

広報戦略として重要なことは、断片的にならない「旗印」を

笹本 信州大学のイメージや持っている広報資源についてお聞きしましたが、本学が新しい広報戦略を考えていく上で重要なことは何でしょうか。

藤島 明治大学や近畿大学などは近年受験者数を増やしていますが、2つの大学に共通していると思われるのが、法人部門と教学部門の広報一体化、という戦略。一般的に、情報発信は一つの部門・部署からというのが定石ですが、大学では、各学部や学科などいろいろな部局から発信されています。それを明治大学や近畿大学は一本化し、大学の魅力を明快に、伝えやすくしました。

 広告的な視点で言うと、すでに世の中にデビューして名前を知られているものを、もう一度認知させるというのは非常に難しい。信大は名前こそ知られている一方で、他は断片的な情報ばかりですから、大学をくるむ風呂敷というか、旗印のようなものが必要だと思います。この「旗」として考えられるものの1つが「独創性」というキーワードです。


 そうですね。「独創性」は、日経HRの企業人事関連の調査で、京都大学を抜いて信大が1位になりました。だから自信をもって進めればいいと思います。

 私はサントリーで広報の仕事に20年携わりました。企業でいう「新製品」は、担当者が一生懸命広報部門に売り込むのに対し、大学の「研究」・「研究成果」は、こちらから取りにいかないとなかなか入手できないケースが多い。でもそのように苦労して集めたものの方が、情報価値が高かったり、良い広報ができることが多いのです。大学も先生方はすばらしい研究をされていますが、発表できる段になっても、あまり外に出さない。広報担当者がいろんな学部やゼミの先生を回り、研究や成果がメディアで好意的に取り上げられるようになれば、逆に広報部門に情報を持っていってみようとか、うちの学生の論文がおもしろいから取り上げてくれないかとアプローチされるようになります。そのようにコミュニケーションが良くなると好循環が生まれます。

川崎 大学組織以外の力、つまり企業やメディア、行政などいろんな外部機関・ステークホルダーに協力してもらい、良いところを見つけていただいて、一緒になって発信していく。無いものを広報することはできませんが、情報はさまざまな角度から伝えることができます。

「まじめ」だけではダメ、遠慮せずに前へ出よう

笹本 確かに我々は自信がないところがあります。良いところを見つけてくれるのはだいたい外部の人ですね(笑)。

藤島 信州大学はまじめでおとなしいと思われていますが、もっとアグレッシブな大学として見せたい。全国にこれだけ大学があると、どこかの研究室で同じようなことをやっている可能性がありますが、遠慮せずに堂々と発信していくべきです。

 マイナスだと思うものでも、違う角度からはプラスの面が見えることもある。だから多面的な視点でアピールするといいですね。幸い今はインターネットが発達して、信州からでも全国、世界に発信しやすくなりました。

川崎 メディアは大学の先生をうまく活用して報道しますから、信大の名前がもっと表に出ても良いと思います。また、これだけネットメディアが発達した中では、英語での同時発信がマストですね。

藤島 報道記者は記事を作る過程でエビデンスを欲しがります。私立と国立では少し考え方が違うのかもしれませんが、例えば近畿大学では、教授や准教授の連絡先を一覧にしてマスコミに配布し、何かのときにはこの分野だったらこの先生が答えます、ということを積極的にやっています。そうすると新聞記事でも大学の先生のコメントとして大学名が出てくる頻度が高まります。

笹本 国立大学の研究者には温度差があるようですが、広報的にメディアと連携した体制づくりは整備していかなければなりませんね。

信大の「強み」を繰り返し、発信する

藤島 コミュニケーションには3つの「S」が大事です。まず「シンプル」。記者が取り上げやすい形でシンプルにしないといけません。ここがポイントだ、と指示してあげる。次に「ストーリー」。「独創性」のように、ひとつのキーワードを念頭において発信すると、ひとつのニュースリリースの中でもストーリーが形づくれ、「独創性」なら、それが信大生のDNAとして訴求できる。最後に「サープラス」。「過剰に」ということです。これだけ情報が溢れる中では、繰り返し何度もしつこく発信することが大事です。

 立地条件も信州大学の一番の強みだと思います。松本、長野、上田、伊那、いずれも豊かな自然の中にある。学生はゆっくりと考え、じっくり学べる環境にあります。豊かな自然環境ならではの、山岳科学などの研究も、もっと掘り下げていけるだろうし、各キャンパスから、常に継続して発信し続けられるだけの材料があります。

川崎 世界的な研究があるのも強みです。世界的なものから関心を持ってもらい、裾野の方を見てもらうという2段階で広報するといいですね。

文系の発信を元気にしたい、そのためのアイデアは?

笹本 信州大学は人文社会系の発信が弱いといわれます。大学はやはり総合力を持っている必要がありますから、人文学部や経済学部が強くないといけません。こうしたら信大の文系が元気になるというアイデアはありますか。

川崎 その分野のプロフェッショナル教員に、まず登場していただくことです。この分野だったらこの先生という発信になることを、まず先生自体が認識することが大切ですね。

 それぞれの先生がどういう研究をされていて、何がどうすごくて、面白いのか、一覧にできると良いと思います。できればテレビに出演を求められる先生も何人か準備する。地元の民放ならいつも出ている先生が10人ぐらいいる、などというのが理想だと思います。メディアに登場することも悪くない、という風通しのいいオープンな組織、ちょっと目立ってもいいんだ、という風土ができてくると良いと思います。

笹本 今の制度では論文を何本書いているかなど、教員の評価方法が限られていますが、これからは先生方にも広報協力が大学のイメージアップにつながることを自覚していただき、広報の施策を考えていかなくてはいけないでしょう。

信州大学広報の理想形は「正のスパイラル」に入ること

笹本 本学の中でも、広報の役割は重要と認識されつつあります。その中で信州大学広報の理想形は何でしょうか。例えばここを伸ばしていくといい、というようなヒントはありますか。

藤島 理想形は「正のスパイラル」に入ること。旗印の下で新しい教育研究が生まれ、広報に取り上げられ、続く教育研究が生まれていく。文系でも、経済学部からアベノミクスに対応して里山資本主義の考え方といったものが出てくるかもしれません。何でもすぐにグローバルな情報になるので英語も同時に発信していくと、海外で取り上げられ、逆輸入で日本のマスコミが追いかけるということもあり得ます。するとまた、多彩なメディアで信州大学の名前が登場する。取り上げられる方もプレッシャーを受けますが、全国や世界で広報されたことで知名度が上がっていけば、優秀な学生も集まってきやすい。

 広報が取り上げて記事になることで、教育研究が評価され、それが海外のメディアにも出る。そうなると先生方の方から広報に情報を届けてくれるようになる。これも正のスパイラルです。広報としても、取材に対して「その先生だったらここにいます。いつでも私に電話をください」と言える。教員・広報部門・メディア3者の良い連携が機能します。

川崎 究極的には365日毎日広報(笑)していくことです。信州大学には多様性があり発信できるネタはありますから、それをどう調理していくか。毎日発信していけば正のスパイラルに近づけます。

地方発、全国・世界、そのための広報戦略は?

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笹本 広報の予算が限られている中で、こうすれば全国区で地方大学をとりあげてもらえるという裏技はありますか。

川崎 例えば、あるアパレルメーカーの製品広告に繊維学部の名前が掲載されていましたし、健康食品の広告でも「信州大学と共同開発」とありました。外部の力を使うと、自分たちの力だけではできなかったこともできるのではないかと思います。

笹本 共同研究をしている企業の宣伝を通じて信州大学を出していくということですね。

 東京に広報の代理人や代理店を置くという方法もあります。ネットの時代だからそんなことをしなくてもいいといわれるかもしれませんが、やはりフェイスtoフェイスで、中央のメディア関係者と直接会う機会が増えるのは強みです。

藤島 海外のお客様をもっと呼びこもうという「ビジットジャパン」が大きな流れとしてあります。例えば、この「ビジットジャパン」に関して信州大学ができそうなことを発信していく。テレビや新聞、雑誌などがビジットジャパンを取り上げたとき、そういえば信州大学がこんな発信をしていたな、と注目してくれやすくなります。したたかに世の中の動きを見ながら、キーワードに向かってメディアにネタを提供しておくということを考えてもいいかなと思います。

受験生が一気に減る「2018年問題」というものが間もなくやってきます。私立大学はかなりの危機感を持ってカリキュラムの見直しを始めていますから、広報予算を使って攻めてくるでしょう。信大も国立大学だからと安閑としていてはダメではないかと。ここ2年ぐらいはしっかり広報活動をして、他大学にない特長をプレゼンしていく覚悟を持たないといけません。

 そうですね。時代のテーマに乗っていれば記事になりやすい面もあります。今でいえば少子高齢化という大きなテーマがあり、それに向けて地域や教育をどうしていくのか、新入生をどう増やしていくのかという課題が全部つながってきますから、関連する研究や成果をどんどん発表していけばいいと思います。

 また、学生の学びの環境も魅力だと思います。一年次生のための寮は300人強の定員がいつも満杯で大人気だと聞きますが、これはすばらしいことです。今どき2人部屋などの寮に入ってくる学生も素敵だなと思います。寮生活でコミュニケーション力もつけ、それぞれの勉強に励めるというのも大いにPRできることじゃないでしょうか。旧制高校以来の伝統も、変わらない魅力があります。

川崎 広報としては攻め続けるしかないですね。大学生も減っていますし、この先良い状況がくるとは思えません。その中で予算がないとか環境が悪いなどと言い訳をせず、それを変えるためにどうしたらいいのかを考えながら、情報発信し、攻め続けていくことが大事ですね。

笹本 専門家でもない私が広報を担当しています。しかし、知らないというのは強みで、皆さんにさまざまなアドバイスをいただけるようになりました。信州大学の広報活動がより効果を生み評価されるよう、首都圏でのPRを含め、皆様方に今後もご協力をお願いします。本日はありがとうございました。

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