"理研"研究者が信大に集結 最先端研究の講義を開講!特別レポート

“理研”研究者が信大に集結 最先端研究の講義を開講!

“理研”研究者が信大に集結 最先端研究の講義を開講!

 信州大学大学院は、平成29年度後期授業の中で国立研究開発法人理化学研究所(通称:理研)の第一線で活躍する研究者を講師として迎えたオムニバス講義「科学技術政策特論―理化学研究所に見る最先端研究の動向」を開講しました(10月4日~11月22日・毎週水曜日)。全8回の講義は松本、長野、上田、伊那の各キャンパスを回りながら実施され、遠隔講義システムで全キャンパスに配信されたほか、一般にも公開。多くの学生たちや一般聴講者が最先端研究に携わる講師陣の講義に耳を傾けました。

 その記念すべき第1回目の講義は10月4日に松本キャンパスで行われ、理化学研究所の前田瑞夫主任研究員(信大‐理研連携研究室教授)が登壇しました。その様子と共に、今回の講義の趣旨とそれに至った背景、信州大学と理化学研究所との関わりについてもご紹介します。

(文・柳澤 愛由)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第108号(2017.11.30発行)より

10人の講師がつなぐ講義は理研にとっても特別な試み

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 「脳神経科学最前線」「未来の医薬品開発」「バイオエンジニアリング・ものづくり新産業の創成」(講義一覧は下部を参照)などをテーマに、理化学研究所からの多彩な講師陣を迎え実施したオムニバス講義は、全8回を終え盛況のうちに幕を閉じました。全国の大学と連携協定を結んでいる理化学研究所にとっても、このようなスタイルの連携講義を受け持つのは珍しいそうです。

 信州大学と理化学研究所との連携が初めて実現したのは、平成25年。信州大学を中核機関とする文部科学省革新的イノベーション創出プログラム事業(COI STREAM)に、理化学研究所から前田バイオ工学研究室(前田瑞夫主任研究員)と杉田理論分子科学研究室(杉田有治主任研究員)が参画したことがきっかけでした。その後、連携・協力の推進を目的とした協定を平成28年3月末に締結。クロスアポイントメント制度(※)等を活用して信州大学に連携研究室を設けるなど、相互の結び付きの強化を図ってきました。今回、この講義は教育面での成果となっただけでなく、理化学研究所の最新の研究内容が信州大学内に広く周知されるという効果もあり、研究面での連携推進も期待されます。

※研究者等が大学、公的研究機関、企業の中で、2つ以上の機関に雇用されつつ、それぞれの機関における役割に応じて研究・開発及び教育に従事することを可能にする制度

第1回は『理研への招待』理研の全容とバイオ工学の世界を紹介

 第1回目に登壇した前田主任研究員は、「理研への招待」と題し、理化学研究所の概要を説明しました。「理研は世界の主要な研究機関・大学と比較しても高い被引用論文比率を持ち、研究機関として高いレベルを維持しています」と前田主任研究員。理化学研究所が年1300人前後の大学生を国内外から受け入れていることについても紹介し、「信州大学との連携を深める中で、学生の皆さんにも将来を考える際、理研をひとつの選択肢に入れてもらいたい」と呼びかけました。

 続いて、「DNA-合成高分子複合体(DNAコンジュゲート)の合成とナノバイオ応用」と題し、前田主任研究員の研究内容についての講義が行われました。専門は、バイオ工学。中でもDNAを研究材料として扱っています。ナノメートルサイズの微粒子に「1本鎖DNA」をブラシ状に固定した「1本鎖DNAナノ粒子」を独自に開発。この物性や動態を調べ、電子回路や医療診断などに使うバイオセンサーなどへの応用を目指した研究を進めています。講義ではその仕組みから応用まで、研究内容がわかりやすく解説されました。その一端をご紹介します。

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DNA鎖の特性を活かし、分子センサーやガンの初期診断などへの応用可能性を紹介。画像は、2本鎖DNAの凝集(水の濁り)により、水銀イオンを目視で検出する実験の結果(当日の講義資料より)

 DNAはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種の塩基があり、A-T、G-Cの組み合わせで結合する性質を持ちます。これを「相補的水素結合」といいます。1本鎖DNAは生理的条件で負に帯電するリン酸基を持っているため、1本鎖DNAナノ粒子は水中で分散します。しかし、前田主任研究員らは、そこに相補関係にあるDNA鎖を添加し1本鎖を2本鎖DNAナノ粒子にすることで、たちまち粒子同士が凝集し水が白く濁ることを突き止めました。さらに、2本鎖DNA末端の一塩基が相補関係でないミスマッチ状態であるだけで凝集しなくなり、分散状態のままであることもわかりました。この原理を使えば、分子センサーやガンの初期診断、テーラーメイド医療診断などにも応用できる可能性があります。

 質疑応答の時間には、各キャンパスから質問が飛び交い、学生たちにも刺激となった様子が伺えました。講義の最後、前田主任研究員は「分野横断的な基礎研究を進める環境を提供したいと考えています。この講義がその1つの窓口となって、信州大学との連携をより強めていけたら」と話し、今後に期待を寄せていました。

研究者のつながりも活かし信大×理研の連携を強化

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理化学研究所
前田バイオ工学研究室
前田 瑞夫主任研究員


1983年、東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了(工学博士)。2001年、理化学研究所主任研究員。2016年に設立した信州大学と理化学研究所との連携研究室の連携教授も兼任。

 理化学研究所は国内40大学、海外61大学と連携大学院協定を結び、学生の受入を行っています。また、大学院生リサーチ・アソシエイト制度等により働きながら学ぶ大学院生も数多くいます。講義のあと、早速信州大学の学生から、理化学研究所で学ぶためにはどうしたらよいかという問い合わせが入りました。この講義をきっかけにして、さまざまな展開を模索していくことが、信州大学ならびに理化学研究所の今後の方針です。

 今回は、理化学研究所が誇る研究者であるというだけでなく、長野県にゆかりのある方が複数登壇されました。例えば、第3回講師の入來篤史氏、第4回講師の坂本健作氏のお二人はともに長野県出身。

 第6回講師の野田茂穂氏は現在長野市に在住で、第7回講師の鈴木隆氏は以前信州大学理事を務めていた方です。

 日本の頭脳の集積地でもある理化学研究所は、多彩な人材と研究環境を有しており、研究機関同士の連携は日本の科学研究にとって非常に有意義なことです。

 今回、第一線で活躍する研究者と共に、信州大学と理化学研究所との連携強化のための確かな一歩が踏み出されたといえるでしょう。

2017年度大学院講義「科学技術政策特論」

理化学研究所に見る最先端研究の動向


講義・講師一覧


 全8回の講義内容は下記の通りです。

 自然科学分野の第一線で活躍する理化学研究所の研究者の方々にお越しいただき、専門的な研究内容から国の科学技術政策、世界の研究動向、科学者の自発的・自律的な研究の意義に至るまで、多岐にわたる講義をいただきました。



第1回「理研への招待」


講師:前田 瑞夫 (前田バイオ工学研究室 主任研究員)


10月 4日(水)


主会場:松本キャンパス



第2回「バイオものづくり」


講師:伊藤 嘉浩(伊藤ナノ医工学研究室 主任研究員)


講師:沼田 圭司(環境資源科学研究センター チームリーダー)


10月11日(水)


主会場:上田キャンパス



第3回「脳神経科学最前線」


講師:入來 篤史 (脳科学総合研究センター シニアチームリーダー)


10月18日(水)


主会場:長野(工学)キャンパス



第4回「未来の医薬品開発」


講師:坂本 健作(ライフサイエンス技術基盤研究センターグループディレクター)


10月25日(水)


主会場:伊那キャンパス



第5回「医工連携研究(バイオデバイス)」


講師:田中 陽(生命システム研究センター ユニットリーダー)


講師:伊藤嘉浩(伊藤ナノ医工学研究室 主任研究員)


11月 1日(水)


主会場:上田キャンパス



第6回「バイオエンジニアリング・ものづくり新産業の創成」


講師:野田 茂穂 (情報基盤センター ユニットリーダー)


講師:大森 整(大森素形材工学研究室 主任研究員)


11月 8日(水)


主会場:長野(工学)キャンパス



第7回「科学技術政策動向」


講師:鈴木 隆(科学技術ハブ推進室 室長)


11月15日(水)


主会場:松本キャンパス



第8回「最先端計算科学による生体分子の解析」


講師:杉田 有治(杉田理論分子科学研究室 主任研究員)


11月22日(水)


主会場:伊那キャンパス

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