継続は力なり!ハナサカ軍手ィ10年の軌跡。特別レポート

継続は力なり!ハナサカ軍手ィ10年の軌跡。

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ハナサカ軍手ィプロジェクト2018年度の主要メンバー。みんな、とにかく元気で笑顔!

 信州大学繊維学部の学生たちによる地域貢献プロジェクト「ハナサカ軍手ィプロジェクト」が、今年10周年の節目の年を迎えました。“学生たちが制作したオリジナルデザイン軍手「軍手ィ」の売り上げで、長野県内の小学1年生に「ちび軍手ィ」を贈る”という活動を主軸に、企業とのタイアップや、遠くイギリスやイタリアで開催された見本市への出展など、さまざまな企画にも挑んできました。2009年度からこれまでに配布された「ちび軍手ィ」の総数はなんと60,000双を超えます。
 そんな「ハナサカ軍手ィプロジェクト」の10年を振り返りながら、現在の運営を担っている学生たちに、これまでの活動の歴史や、この先の目標について伺ってきました。
(文・柳澤 愛由)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第113号(2018.10.1発行)より

信大繊維学部の「感性工学」という特色ある学びから始まった!

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ハナサカ軍手ィプロジェクトの母体である学生任意団体「オンデマンド・リメイク」は、信大1年生が企画運営し毎年初夏に行われる「あがたの森フェスティバル」のためのオリジナルTシャツをプリントしている。

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繊維学部学術研究院(繊維学系)上條正義教授。オンデマンド・リメイクは感性工学科の学生を中心に発足したことから、当時から学生達を応援、よき理解者である。右は、プロジェクトメンバーで大学院生の内海さん。

 ポップなイラストが描かれたものから、シンプルなチェック柄、カラフルな幾何学模様に至るまで、実にさまざまなデザインがある「軍手ィ」。信州大学繊維学部の学生たちの手によってデザインされたオリジナルデザイン軍手です。
 「ハナサカ軍手ィプロジェクト」は、「オンデマンド・リメイク」という学生団体が2009年に立ち上げたプロジェクトです。現在は、上田市内のコワーキングスペースHanaLab.を拠点に、繊維学部の学部生から大学院生まで、約30人で活動中です。学生たちは、商品づくりを担う商品部、スポンサー企業や販売店の拡大を担う営業部、情報発信を担当する広報部の3部門に分かれ、それぞれ役割を持ちながら活動しています。
 母体である「オンデマンド・リメイク」は、もともと感性工学科の学生たちの実践型の学びの場を作ることを目的に2005年に発足した団体です。上田市内の商店街の空き店舗を利用し、産業用プリンターでオリジナルTシャツを制作・販売するショップの運営からスタートしました。現在は、学科をまたぎ、さまざまな課程で学ぶ学生たちが所属しています。
 そもそもの出発点である「感性工学」とは、「ヒトの感性」という論理的には説明しにくいものを、科学的な手法で測り、解明し、活用する学問。「みんなで話し合い、協力し合いながらひとつのものを作っていく『共創型』と呼ばれるものづくりのプロセスそのもの、もしくは、そこから生まれた物語に価値を見出し、消費活動につなげていくことが感性工学の本質です。「オンデマンド・リメイク」は、『共創型』のものづくりに学生たちが実際に取り組むことで、感性工学的価値とは何か、実地体験型で学んでもらうことをコンセプトに発足した団体でした」。そう話すのは、「オンデマンド・リメイク」発足当時からの活動を知る学術研究院(繊維学系)上條正義教授。

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毎年設定したテーマによりデザインが異なるのも「感性工学」ならではの発想。「デザインは相当な協議の上決める(小川代表)」とのこと。その熱意も伝わるのが軍手ィ。

 「ハナサカ軍手ィプロジェクト」の前身となる企画が立ち上がったのは、2007年。長野県では、軍手を作業用としてだけでなく、防寒のために使う人も少なくありません。冬になれば、軍手をはめて通学する学生や子どもたちの姿が多く見られます。「白い軍手にデザインを施しカラフルにして配布すれば、街がもっと華やかになり、商店街も元気になるのでは―」。当時代表だった学生のそんなアイデアが「ハナサカ軍手ィプロジェクト」の原点となりました。当初、制作した軍手は単に「デザイン軍手」と呼ばれていました。それを「軍手ィ」と命名し「ハナサカ軍手ィプロジェクト」として活動が本格的にスタートしたのが、2009年。「ちび軍手ィ」の活動が始まったのもこの年からでした。「ちび軍手ィ」という地域の大人たちからのプレゼントを通して、子どもたちに自分たちが暮らす街とのつながりや魅力を感じて欲しい―。地域での活動、関わり合いの中で「世代を超えたつながりのある街づくり」の必要性を感じた学生たちの、そんな思いが込められました。

人のネットワークに恵まれ応援してくれる方々と一緒に歩んできた10年

 多くの人、企業からの協力が得られていることも、このプロジェクトの特徴のひとつです。例えば、毎年、そのクオリティの高さから、内外から注目が集まるプロモーション用のポスター。初めて制作されたのは2011年度のことでした。その際、ポスターモデルとして協力してくれたのが、タレントで女優の平山あやさん。2013年度には、今や人気女優でバラエティ番組などでも広く活躍している足立梨花さんが起用されています。その後も、現在女優として活躍中の浜辺美波さん、モデルのマーシュ彩さんなどがポスターモデルを務めてきました。

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なんとこのクオリティ!毎年見事な販促プロモーションを展開している
本格的に販促プロモーションを展開した2011年からの軍手ィポスター。並べてみると結構壮観だ。大手広告代理店におられた大杉さんの協力で、毎年著名なイメージキャラクターが登場しているのも見事。キャッチコピーもいい。

 こうしたプロモーション活動を支えてくれているのは、大手広告代理店(株)電通にお勤めだった大杉陽太さん。AREC(浅間リサーチエクステンションセンター)(※1)専務理事で、信州大学繊維学部の岡田基幸特任教授とのつながりから「軍手ィ」の企画を耳にし、協力を買って出てくれたのだといいます。電通から独立された今も、変わらずご厚意で協力してくれています。
 「初代の学生から『手伝って欲しい』と言われたことが応援のきっかけではありましたが、その活動内容はユーザー視点のものづくりで、感性工学科がずっとやりたかったことでもありました。それを学生たちがさっと実現してしまった。しかも、学生たちのパワーで10年続いている。すごいことですよね!こうして長く続く学生主体のプロジェクトは、全国的にも無いと思います」。岡田特任教授は、そう誇らしげに話します。

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ハナサカ軍手ィプロジェクト2018年度代表の小川美咲さん(感性工学課程4年生)。豪快な性格が売り(?)。

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高付加価値の軍手ィは、10年前からこうしてひとつひとつ手作りで生まれている。初代の産業用プリンターが今も現役で動いており、10年の歴史をしみじみと感じることができる。

 さらに「オンデマンド・リメイク」発足当時から協力してくれているのが、長野県東御市に本社を置く産業用プリンターメーカー(株)ミマキエンジニアリング。活動趣旨に賛同し、産業用プリンターを一台貸与してくれたのも同社です。そのプリンター、10年経った今でも現役。軍手ィの制作は、すべてそのプリンターで行ってきました。現在も同社の社員の方が時折メンテナンスに来てくれているそうです。ちなみに、新作軍手ィの杮落としは、毎年10月、同社の「ミマキまつり」でお披露目するのが恒例となっています。
 同社を始め、スポンサー企業として協賛してくれているのは、約10社。軍手ィの売上はすべてちび軍手ィの制作費へまわってしまうため、団体の活動資金は協賛してくれているスポンサー企業からの寄付でまかなっています。活動開始から名を連ねてくれている企業も多いそうです。販売店として協力してくれている店舗も年々増え、現在20店舗以上。営業担当の学生が、資料を作り、アポを取り、開拓してきました。
 応援してくれる地域、企業の方々に支えられ、活動の幅を広げていった「ハナサカ軍手ィプロジェクト」ですが、実は、一時存続が危ぶまれていた時期がありました。2012年頃のことで、主体的に活動できる学生がほとんどいなくなってしまったことが原因でした。そんな時、大きな支えになってくれたのも、協力企業の皆さんだったそうです。周囲のさまざまな力を借りながら、先輩たちが地道な活動を積み重ね、今につなげてくれたプロジェクトでもあるといいます。
 危機を乗り越え、2013年から3年間は長野県内の「サークルK」全店舗で販売、2014年には、イギリス・ロンドンで開催された見本市へ出展、2016年には、歌舞伎役者・市川海老蔵さんが主宰する山ノ内町の植樹イベント「ABMORI」とタイアップするなど、その活動の幅は、広がり続けています。
(※1)企業のニーズと大学の研究開発のシーズを結びつける産学官連携支援施設。繊維学部内にある。

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(左から)・コンビニエンスストア販売 2013年には長野県観光部信州ブランド推進室のコーディネートで、コンビニエンスストア「サークルK」長野県全店舗で軍手ィを販売した。写真は長野県庁での記者会見の様子。
・英国見本市に出展2014年には、繊維学部岡田特任教授(当時プロジェクト顧問)の手配で、なんと英国ロンドンでの見本市「テントロンドン」に出展。本人曰く「武者修行」とのこと。
・AREC専務理事で繊維学部特任教授の岡田基幸氏。軍手ィ「育ての親」とも言えそう。

10年受け継がれてきた「軍手ィ」を創る心構えとは

 軍手ィの新作が出るのは、毎年秋から冬にかけての時期。10年前から販売している定番の図柄もありますが、毎年10種類くらいずつ、新しいデザインを発表してきました。
 「その年に販売するデザインは、みんなが出した新しいデザイン案と昨年の柄の中から選びます。新デザインのコンペでは先輩も後輩も関係なくて、初めて参加した学生のデザインが採用されることもあれば、活動5年目で初めてデザインが採用される人もいます」。そう教えてくれたのは、現在の代表を務めている小川美咲さん。これまでの売上を見て、マーケティングの観点から販売するデザインを決めることも。「感謝」「和」といった、その年のデザインテーマも決めています。軍手ィをどのように成長させていきたいのか、今年の活動方針は―、そんな話し合いも毎年重ねてきました。

毎年メンバーが変わっても、変わらないもの

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余った軍手ィを使って作った動物ぬいぐるみとアイデアを出した山口さん。これも売れるかも!

 「贈呈式でちび軍手ィを直接手渡しすると、子どもたちが本当に喜んでくれるんです。『ボクの方がかっこいい!』って言いながら、お互い自慢し合ったりして。小学校の先生からは『また来年もお願いします』と言って頂くので、期待されているんだなぁと思うとうれしいですし、先輩たちから受け継がれてきた活動であることを実感します」(小川さん)。2009年度は5,000双前後だった販売数も、2011年度以降は10,000双前後と、初年度の倍以上の販売数を維持しています。1,500双から始まった「ちび軍手ィ」の配布も、2012年度以降、毎年9,000双前後を実現。初年度は上田市内のみだった配布エリアも徐々に拡大しています。しかし、まだまだ長野県下全体の半分程度。「今の目標は『ちび軍手ィ』を10,000双配布すること。いつか後輩たちから『県内の小学生全員にちび軍手ィ配れましたよ!』って、そんな報告がもらえたらうれしいです!そのためにも売上を伸ばしていきたいと思っています。でも利益を追求する活動にはしたくないんです。それが歴代の先輩たちから受け継いできたことでもあります」(小川さん)。その言葉からは活動への真摯な思いが伝わってきます。

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(写真:左)今回取材に応じていただいた6名の繊維学部生。左から齋藤さん、山口さん、小川代表、倉沢さん、田
中さん、冨樫さん。
(写真:右)軍手ィを販売した収益で「ちび軍手ィ」を作り、県内の小学生にプレゼントした際の贈呈式と交流の尊
い記録。子供達の笑顔がとても素敵です。

 ふと、現在の運営を担っている学生たちに、「ハナサカ軍手ィプロジェクト」に参加したきっかけを尋ねてみました。すると、「私、軍手ィの活動に参加したかったから繊維学部に入ったんです!」と山口瞳さん(繊維学部4年)が明るい笑顔で教えてくれました。長野市出身の山口さんが軍手ィの活動を知ったのは、高校生だった6年程前のこと。在学していた高校に繊維学部の教員が講義に来たことがあり、その際「ハナサカ軍手ィプロジェクト」の存在を知ったのだといいます。「軍手ィのことを聞いて、自分のデザインしたものが商品になって、さらにその売上を地域に還元している…こんなおもしろいことをしている学部なんだって初めて知って…絶対に入りたいと思ったんです。だから必死で勉強しました!(笑)」(山口さん)。
 時折、「ちび軍手ィ」をつけて登校する子どもたちの姿を目にすることもあるそうです。2009年に「ちび軍手ィ」を受け取った小学1年生は、現在16歳。あと数年したら、今度は「ちび軍手ィ」を配布する側になってくれるかも。そんな期待も湧いてきます。10周年を迎えた今年、「ちび軍手ィ」の10年後を追う企画や、10周年限定デザイン、これまで関わってきた先輩たちが一堂に会するOB・OG会なども検討中なのだとか。
 10周年を機にさらに盛り上がりを見せる「ハナサカ軍手ィプロジェクト」。今年ももうすぐ、軍手ィが彩る、明るく華やかな長野県の冬がやってきます!

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