信州発!大学改革シンポジウム特別レポート

信州発!大学改革シンポジウム

信州発!大学改革シンポジウム

 地方大学は今、地域特性を生かしたさらなる自己改革の波に直面しています。
 18歳人口が減少するなか、その大学ならではの特色を打ち出すとともに、地方創生を担う多様な人材の育成や地域課題を解決するための産学官の連携など、地域と密接に結び付いた新たな役割を果たすことが地方大学に求められています。
 こうした時代の流れを受けて、信州大学は2017年11月、「信州発!大学改革シンポジウム―地域における大学の役割と長野県の高等教育の今後―」を開催しました。まず、国立大学協会、公立大学協会、日本私立大学団体連合会の事務局長らが「地域における大学の役割」と題して、大学改革の全国的な動向や課題などを報告。次に県内大学の学長らによるパネルディスカッションで、学部・学科の改組、地域課題との関わり、人材育成などについて発言いただき、長野県の高等教育の将来像を探りました。
 本誌ではこのパネルディスカッションの様子をご紹介します。

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第109号(2018.1.31発行)より

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「信州発! 大学改革シンポジウム」
2017年11月18日(土)於:ホテル国際21(長野市)
主催:国立大学法人 信州大学
共催:一般社団法人 国立大学協会
後援:長野県、高等教育コンソーシアム信州

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(左から)開会挨拶を行う信州大学長 濱田州博、文部科学省大臣官房審議官(高等教育局担当)(併)内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局次長 松尾泰樹氏、長野県副知事 中島恵理氏と、『地域における大学の役割』をテーマに話題提供を行った国立大学協会専務理事 山本健慈氏、公立大学協会事務局長 中田晃氏、日本私立大学団体連合会事務局長 小出秀文氏

パネルディスカッション「今後の長野県の高等教育について」

県内各大学の特徴と改革などの取り組み

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中島 県内各大学の特徴や学部再編の取り組みなどについて説明してください。

濱田 信州大学は北信、東信、中信、南信の各地域にキャンパスを持つキャンパス分散型大学で、それが今は地域と密接に連携できる大きな強みになっています。
 学生数は学部・大学院合わせて約1万1000人。入学者は県内が25%、北海道から沖縄まで全国各地から学生が集まっています。学部卒業生の約4割、大学院卒も含めると37%が県内就職しており、毎年約200人が長野県の人口増に貢献していることになります。企業側からは「じっくりと物事に取り組む自主性の高い人材」と評価されています。
 そうした特色を生かして、三つのG(Green、Global、Gentle)と三つのL(Local、Literacy、Linkage)をキーワードに、教育・研究のグローバル展開と創造性豊かな人材育成、地域・社会発展への寄与を持続的・戦略的に実施。国際通用性のある人材育成という観点から、日本人学生の海外留学と外国人留学生の受け入れを推進するとともに、本年度から留学生の県内企業への就職促進も進めています。
 地域貢献という点では、文部科学省「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+事業)」を生かして、本年度から全学横断特別教育プログラムを開講。ローカルイノベーター養成コースを設置し、地域社会(ローカル)が抱える問題を的確に分析し、革新的な解決策を考え実践する人材を育成しています。
 同時に学内の先端研究を結集した先鋭領域融合研究群5研究所を設置。アクア・イノベーション拠点(COI)では、あらゆる人々に安全・安心な水を提供する造水・水循環システムの研究開発を、地域イノベーション・エコシステム形成プログラムでは、県や県内企業との共同提案のもと信州型地域イノベーション・エコシステムに取り組んでいます。また人工心臓や人工内耳など生体埋め込み型・装着型デバイスを開発する産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)では、地域のメディカル産業の育成にも貢献しています。

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河村 諏訪東京理科大学は精密工業の集積地・諏訪に1990年に開学し、2018年4月から公立化されます。2002年に四年制に移行しましたが、18歳人口の減少により一時期は県内志願者がだいぶ減ったのですが、公立化の動きを受けて、本年度は県内志願者は2倍、県外からは2.5倍に増えています。
 公立化に向けての基本目標は▽地域貢献と世界にも羽ばたく人材の育成▽地域産業のニーズに応える実用型研究開発と先進的なイノベーション型研究開発を推進すること▽地域産業と連携し、人を地域に集め、地域創生の拠点となること―の三つ。そういう流れの中で、工学系では機械と電気の融合教育に、情報系ではAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の研究開発に取り組みます。その動きを地域に広げ、起業支援や技術者のスキルアップを行うことで地域産業の発展を図りたいと思います。

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中村 長野大学は2017年4月から上田市の公立大学となり、これまで以上に地域に根差した大学として、地域社会の人々と協働しながら地域活性化、人口減少に起因する社会経済の担い手不足などの課題解決に取り組んでいます。教育コンセプトとして「この地に生きる教養ある職業人の育成」を掲げ、教員と学生・学生同士の対話型討論による教養教育、職業人を養成するための専門科目と実習による実践的な学びの展開、地域を舞台とした地元住民や組織と協働しながら課題解決に取り組む地域協働型教育の3本を柱として教育改革を実施。建学の理念である「地域社会との密接な結びつきにより学問理論の生活化」を目指しています。
 また、地域の未来を担う人材育成という点では、専門知識を習得することだけではなく、漠然とした問題の所在を明確に表現したり、困難に直面したときも打たれ強い、足腰の強い人材を育てていきたいと思っています。

住吉 県内の大学進学者のうち80%余が県外大学へ進学している現状があります。松本大学では、進学者の県内残留率向上のために定員の増員と教育学部の新設を実施しました。県内の大学に入学し、地元で就職、家庭を持ち、伝統文化の守り手になる―こうした県内での人的資源の循環を作ることが地域活性化の大前提になると私たちは考えます。
 また、県内進学者が増えれば、仕送りなどの形で県外に流出していた多大な経済的損失も減り、経済の域内循環にもつながり、地域振興に大いに資することでしょう。
 今年新設した教育学部では、小学校と特別支援学校の教員の育成を中心に取り組んでいきますが、目指すべき教師像は「脱偏差値」「味のある教員」です。子ども目線で幅広く物事を見ることができる、他の大学とはひと味違う教員の養成を目標としています。

金田一 2018年4月に開学する県立大学では、全学生が海外体験をすること、全寮制の導入により、長野県に軸足を置いたグローバルな視野を持つ人材の育成を目指します。
 そのためには、2年生までにTOEIC600点以上の英語力を習得させ、海外で専門性を磨く。地方の小規模大学だからこそできる少人数教育の実践等を通して専門性と教養をバランスよく身につける。また寮生活で社会性を養い、コミュニケーション能力が高いリーダー的存在となる人材を育てていきたいと思います。

地域課題解決型人材を育成する取り組み

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中島 地域が抱える課題を解決したり、県内の魅力を発掘・発信し、地域の夢を形づくるような人材育成についての取り組みを教えてください。

中村 長野大学では「地域づくり総合センター」を設立し、地域人材循環システムと地域課題解決システムの二つを有機的に機能させて、地域を支える若者の育成と上田市の抱える地域課題の解決を進めています。特に地域課題解決システムでは、福祉、教育、心理、環境、観光、企業経営などの諸問題を扱い、学生の主体的なボランティア活動などを支援しながら、起業支援プログラムの開発と運営を進めるとともに、地域住民や企業、組織、行政などと連携して地域課題を解決する仕組みを大学が中核となって設計しています。


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住吉 松本大学では、2013年の「COC事業」の採択を受けて、まちづくり、健康づくり、人づくりの3分野で、地域の活性化と地域連携を担っていこうと考えました。
 まちづくりに関しては、学生が主体となって地域の人々と交流しながら買い物弱者の問題解決などに関わり、新しいコミュニティー形成の一環として街角にカフェをオープンさせたりしています。こうした活動を通して、学生は地域に貢献しながら、地域の人々と接することで社会性を身につけ、学ぶ意欲を引き出してもらっています。さらには、松本市役所でインターンシップ活動をさせていただくことで、行政との連携も図られています。こうした活動を通して、学生が地域の人々に学びを動機づけられ、実践的な活動をすることで、指導者としての力を身につけ成長していることを日々実感しています。

河村 高等教育機関は、人を集め、育て、そして産業界に送り出すところです。専門学校との決定的な違いは、教育と研究の両面を担っているところです。それによって、教員も学生も新しい分野を関心を持って開拓し、成長していきます。諏訪東京理科大学でも、公立化に伴い、ますます地域連携を深め、地域から課題をもらって、学生とともに新たな研究開発を行い、課題解決型人材を産業界に送り出す循環をしっかりと作っていきたいと思います。
 また、地方自治体とも連携することで、大学に集まった人たちが、この地域から学び地域に貢献する大学でありたいとも考えています。

濱田 信州大学では4年前から、地域の社会人に地域課題について学んでいただく地域戦略プロフェッショナル・ゼミを開講。これまでに200人が受講し、修了生が指導者として講義を担当するという新しい循環もできつつあります。
 学生にもそうした教育を実施したいと、本年度から全学横断特別教育プログラムの一環として、ローカルイノベーター養成コースをスタートさせました。信大はキャンパス分散型の大学なので、各学部で自分の専門を持ちながら付加的な形で地域を学ぶという方式です。彼らが卒業後、どんな活躍をしてくれるか期待しています。
 このほか、市町村と大学をつなぐ連携コーディネーターを数十人置き、地域課題の掘り起こしや、各自治体と連携しながら地域の問題解決に向けた人材育成を行おうとしています。


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金田一 県立大学は「知の拠点」としてソーシャルイノベーション創出センターを設置し、すでに活動が始まっています。ソーシャルイノベーションとは、環境破壊などの社会的課題に対して、解決策を地域の企業や個人を支援しながら一緒に考えていくというものです。
 とはいっても、長野県は非常に広いので、本学のような小さな大学では地域連携は容易ではありません。そこで、当センターで全国からアドバイザーを選び、全国の起業家のネットワークを築いて、地域の課題に対してアドバイスしてもらう仕組みを作りました。小規模大学としては、日本中の起業家を巻き込んだ壮大な構想で、この活動が長野県の地域課題の解決と地域振興につながっていくことを願っています。
 また、創業者・経営者付きの長期インターンシップ・プログラム、問題解決型授業PBLの連携先の開発、社会人ボランティアのティーチング・アシスタントの募集・実施、象山未来塾の開催―なども当センターで随時行い、学生が社会や企業の厳しさを身をもって体験したり、地域とコミュニケーションを図ったりしながら地域貢献に資する人材を輩出していきたいと思います。

県と大学の連携強化に向けて提案を

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中島 大学と市町村との連携はこれまでもよくされてきたと思いますが、県が抱える課題と大学における学びや研究との連携はどのようにしていったらいいか、提案を聞かせてください。

中村 本学の設置者は上田市ですが、もちろん県との連携も大切だと考えています。本年度は県の提案で、懇談会を開いたり、どのような教員がいるのか県から照会があるなど非常に連携が進んだ年だと思います。
福祉の観点でいいますと、近年の少子高齢化の時代をどう乗り切っていくのかといった課題は、県行政にとっても重要なテーマです。行政が行う社会保障など公的支援だけでは解決に限界もあります。
そういった点も含めて新しい福祉政策のあり方を、社会福祉学部と県が連携しながら探ることもできるのではないかと思います。

河村 最近では、企業で成功した方々に来ていただいて、学生たちが社会に学ぶという仕組みを作っていますが、わたしたちだけの力では足りません。会社から経験ある人材を大学に派遣していただく仕組みや、働きながら学ぼうとする人たちを会社としても派遣しやすい制度など、制度整備の面でぜひとも県に力を貸していただきたいと思います。

濱田 「大学は敷居が高くてなかなか接触できない」と言われますが、県内にどういう大学があって、どのような先生がいるのか、ホームページなどで簡単に検索できるようなシステムを作っていただけると、大学と企業、自治体の距離が縮まり、つながりやすくなると思います。

住吉 松本市の職員の知り合いは多いですが、県の職員とのつながりは残念ながら薄いのが現状。県と大学の連携を進めていくには、県としても、各大学がどのような分野を得意としていて、どのような連携ができるか―という視点をもっと持っていただきたいと思います。

中島 県内大学は、非常に熱心に地域の課題に向き合っていることが分かり、大変心強く思いました。大学間のコンソーシアム、そして県との連携をさらに促進し、地域課題解決型人材の育成にもっと力を入れていきたいと思います。


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【ファシリテーター】
長野県 中島 恵理 副知事
【パネリスト】(写真右から)
信州大学 濱田 州博 学長
諏訪東京理科大学  河村 洋 学長
長野大学 中村 英三 学長
松本大学 住吉 廣行 学長
長野県立大学 金田一 真澄 学長予定者

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