先端研究「知」の創造

山岳科学研究所(1) 山岳地域の自然環境と人間活動の融合の方策を探る

山岳科学研究所(1)

 信州大学は本年、信大改革の一環として、国際レベルの特色ある研究を推進するための先鋭領域融合研究群を設置した。この研究群を構成するカーボン科学、環境・エネルギー材料科学、国際ファイバー工学、山岳科学、バイオメディカルの5つの研究所について、本誌はシリーズで紹介しているが、4回目の本号では、10月7日に、南箕輪キャンパスで国際シンポジウムを開催するなど、活発に活動を展開している山岳科学研究所にスポットを当てた。

(文・毛賀澤 明宏)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第90号(2014.11.28発行)より

分野横断型の総合山岳科学の構築が目的

 「山岳科学研究所の設置目的は、アルプスに囲まれた豊かな自然環境の保全と、気候、生態系、地殻変動の予測、防災や持続的な資源管理を行うことです」。山岳科学研究所の加藤正人所長はこう話す。
 日本の中央に位置し、日本アルプスと豊かな自然環境に恵まれた地の利を生かして、山岳・森林・里山と人間社会との関係性に関わる幅広くかつ奥深い山岳総合科学研究の国際的拠点の役割を果たすことを目指す。山岳科学は様々な分野に及ぶが、個別的・分散的にではなく分野横断的に研究を進めることが主要眼目だ。「世界各地の山岳・森林域で、大学をはじめ教育研究機関と地域社会が連携して課題解決と人材育成を進めていますが、そのグローバルな連携と先鋭技術の活用によって革新的発展の道筋をつけることができればうれしいですね」と加藤所長は力をこめる。

先鋭研究―キーワードは〝センシング〟と〝モデリング〟

 先鋭領域融合研究群の名にふさわしい先鋭研究領域は、5つの分野に共通して適用可能な「三次元計測の先鋭レーザーセンシング技術」と、「分野間融合による複合的視点からのモデリング」だ。
 レーザーセンシングとは、地形や森林・積雪・水域などを、人工衛星や航空機、UAV(無人飛行装置)からレーザー照射して、広範囲にかつ詳細に三次元計測する技術のこと。現在、世界的に開発競争が進む中、国内においては信州大学が─加藤所長らが進めてきた森林における樹種の測定などの研究を先導役として─トップの位置にいる。この技術の開発と応用が、森林バイオマスの把握、地滑り危険箇所の抽出など地形解析、道路や人工構造物の設計など山岳地の活性化を切り拓くと期待されている。
 他方、モデリングとは、広大な広がりを持つ地域を対象にする山岳研究に不可欠な、特定の視点から典型的地域を選定し、その変化を計測してモデル化する手法だが、地球温暖化などに端的なように、現代社会が直面する問題は、その構造も根拠も複雑化しており、地形地質・防災、陸上生態系、水生生態系、大気水環境、森林資源―の5つの研究部門においても、あるモデル化を目指す場合に、多角的で複合的な視点が必要になる。この現在的な課題に、5部門が融合できる山岳科学研究所の特性を活かす形で挑戦しようというわけだ。

レーザーセンシング

国際山岳連携研究室と5つの研究部門

 山岳科学研究所は、研究活動の中核となりアクセス窓口ともなる〝ハブ機関〟として国際山岳連携研究室を持つ。その下に、地形地質・防災部門、陸上生態系研究部門、水生生態系研究部門、大気水環境研究部門、森林資源研究部門―の5つの研究部門を持つ。
 〝ハブ機関〟である国際山岳連携研究室は、山岳科学に関する国内外の大学・研究機関等の研究者と連携した共同研究を進め、各研究分野における国際的ネットワークを構築するためのプロデュース・ハンドリングを行う。
 特に外国人研究者を含む外部卓越研究者や企業等から出向する外部研究者の計画的招へいや国際的共同研究推進のための海外の大学や研究機関との学術交流協定の締結、グローバルに活躍する若手研究者の育成や大学院生の国際共同研究への参画促進、さらに同研究所内の部門間の連携、信州大学先鋭領域融合研究群の他の研究所との融合研究などに力を入れる。研究所の将来的な自立を目指して外部資金の予算を獲得することも重要な使命だ。

山岳アカデミアを構成する研究グループ

新学術領域“山岳科学”

国際連携研究の日本の拠点として

加藤 正人

信州大学学術研究院 教授(農学系)
先鋭領域融合研究群 山岳科学研究所長
国際山岳連携研究室長
森林資源研究部門長
加藤 正人教授(農学系)


宇都宮大学卒業、北海道大学大学院(農学研究科)、農学博士
北海道立林業試験場などを経て、2000年信州大学農学部非常勤講師、2001年より同アルプス圏フィールド科学教育研究センター助教授、2005年教授。2014年より現職。

 同研究所を舞台にした新たな国際的共同研究はすでに始まっている。
 「三次元レーザー研究の先駆けである国立フィンランド測地研究所との研究交流、地球規模課題対応国際科学協力プログラムの相手国代表機関であるインドネシア国ボゴール農科大学との大学間交流などをはじめ、キルギス、ブータン、中国、韓国、モンゴル、ベトナムなど、国際共同研究の取組みが具体的に始まっています」と加藤所長は胸を張る。別欄で報告している国際シンポジウムもその一環だ。
 信州大学は、これまでも、大学院理工学系研究科や農学研究科を中心にして、筑波大学、岐阜大学などと共同して「文部科学省特別教育研究経費:地球環境再生プログラム(JALPS): H22-26」などを推進してきた。そうした共同研究の成果を踏まえて、信州大学で初めての科研費「新学術領域研究(研究領域提案型):山岳科学-環境変動の解明と地域創生-:H27-31」を申請した。世界を代表する山岳国であるわが国において、山岳地特有の自然災害、地球温暖化、生物多様性などはいずれも国際的にも最重要課題であり、中部山岳はその最前線にある。既存学問分野の枠を越えて新しい学問領域「山岳科学」を創出し、疲弊した日本の地域社会の抱える課題を解決する学問として国公立試験研究機関、地方自治体や住民と有機的な連携体制をつくり、科学的に証明された資源利用と保全修復など豊かな地域社会の創生に取り組む。信州大学の強みである地域創生に還元するとの着想である。いよいよ、山岳科学の国際連携研究推進の日本における拠点となることを目指して歩みを始めたのである。

10月7・8・9日 国際シンポジウム 「インドネシアの森林・林業を考える」を開催!

 先端領域融合研究群を構成する山岳科学研究所は平成26年10月7日、今年3月に大学間協定を結んだボゴール農科大学(IPB)と、「インドネシアの森林・林業を考える“Forest and Forestry in Indonesia”」と題した国際シンポジウムを南箕輪キャンパスで開催した。  インドネシアは、島国だが、その幅は北米と同程度の広大な国土を持つ。しかし、その大半を占める森林には管理の手が入らず、毎年大規模な森林火災が発生する。自国だけでなく隣国にも煙害被害が発生し、早期発見と消火対策は国際公約となっている。同国林業省では人工衛星で早期に森林火災を発見し、消火対策につなげるシステム構築を目指しており、この領域の専門家である山岳科学研究所長の加藤正人教授と国際科学技術協力を進めている。
 今回のシンポジウムでは、ボゴール農科大学・森林学部からJaya先生とTiryana先生を招へい。国内からは、独立行政法人 科学技術振興機構の地球規模課題対応国際科学技術協力プログラムSATREPS(サトレップス)の実施者である株式会社ビジョンテック代表の原氏、新潟大学の阿部信行先生を招待して、ボルネオやスマトラの熱帯原生林の現状や森林火災の問題などに焦点を当てて、地球規模で森林や林業を考え、日本の国際貢献の在り方、サトレップスの基盤づくりであるグローバル人材の育成について考えた。信州大学の学生の他、東京大学、長野県林業大学校からも参加があり、盛況なシンポジウムとなった。
 開催2日目は山岳科学研究所上高地ステーションを見学。山岳アルプスの素晴らしさを体感した。3日目はインドネシアの森林リモートセンシングの現状と課題について、2時間の講義を行い、学生から違法伐採の把握の仕方、なぜ森林火災は減少しないのかなどの意見・質問も出され、インドネシアの抱える問題を共有しながら解決策を探った。数名の学生から「IPBに行き、インドネシア林業に貢献したい」という心強い意見も出され、学生交流を展開していくことも確認された。

集合写真

 集合写真

講義写真

  講義風景

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