先端研究「知」の創造

バイオメディカル研究所(2) 4人の部門長が部門ミッションを語る!

4人の部門長が部門ミッションを語る!

 バイオメディカル研究所の設立式典(5月25日)では、齋藤所長による設立趣旨と概要の説明に続いて、4つの研究部門について各部門長から紹介があった。

(文・毛賀澤 明宏)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第88号(2014.7.31発行)より

超高齢社会における疾患予防の先端的研究

谷口 俊一郎

谷口 俊一郎 (たにぐち しゅんいちろう)
信州大学学術研究院 教授(医学系)
先鋭領域融合研究群 バイオメディカル研究所
先端疾患予防学部門長
博士(医学・理学)


1978年九州大学大学院修了。1978 年九州大学医学部助手。1987年九州大学生体防御医学研究所助教授。1995年信州大学医学部教授、2014年4月より現職。

―先端疾患予防学部門

 部門紹介の先陣に立ったのは先端疾患予防学部門の谷口俊一郎部門長。同部門の目標を「超高齢社会における疾患予防・制御の先端的研究教育を行い、医療問題の解決に寄与すること」だと説明した。
 日本社会における高齢化はいよいよ加速し、このままでは、2025年に高齢者医療費は56兆円に達し、医療経済は破綻すると言われている。高齢者の疾患の予防・制御の向上は「待ったなし」の状況である。
 同研究部門では、医学系の加齢生物学研究と農学系の食料科学研究とを融合して、主にスポーツ医学研究とがん研究の二つの角度から「高齢社会における疾患予防・制御」という極めて現代的な問題に迫ろうとしている。
 第一の柱は、人間の有する環境適応能力の生理学的把握と予防処方の開発。具体的には、高齢者の健康維持効果が注目されているインターバル速歩や、日常的な〝食〟(機能性食品を含む)の改善による生活習慣病の予防方法。分子細胞学やエピジェネティックスまで掘り下げて解明することを目指す。また運動後の乳性食品の摂取による熱中症予防のメカニズムの解明や、個別型健康増進システムの開発なども進める。
 第二の柱は、加齢に伴う諸疾患のモデル動物を用いた分子遺伝学的解析。加齢促進マウスや好酸球増多症ラットなどを用いて、諸疾患の原因遺伝子あるいはそれに関連する遺伝子群を見つけ出し、同定することを目指す。
 第三の柱は、様々な疾患の根底である炎症や細胞死の原因・仕組みの把握と、がんの抑制の研究。信州大学で見出した炎症と細胞計画死を制御するASC遺伝子に着目した新しいがん治療の方法や治療薬の開発。現在臨床第1相試験が進められてビフィズス菌を用いた新規がん治療法の確立などを目指す。

神経疾患・アミロイドーシスの世界的研究拠点へ

矢﨑 正英

矢﨑 正英 (やざき まさひで)
信州大学学術研究院 准教授(医学系)
先鋭領域融合研究群 バイオメディカル研究所
神経難病学部門長
博士(医学)


1998年信州大学大学院修了。2004年信州大学医学部助手。2011年准教授。2014年4月より現職。

―神経難病学部門

 続いて部門紹介に立ったのは、神経難病学部門の矢﨑正英部門長だ。同部門では、アルツハイマー病をはじめ、現在、世界的にその克服が目指されている神経系の難病に焦点をあて、この領域の研究、診断、治療に従事する若手研究者、研究技術者、医師、医療関係者を育成する。
 研究領域は、アミロイドーシス領域とシナプス病領域の二つ。
 アミロイドーシスとは、アミロイドと呼ばれる特殊なたんぱく質が臓器などの細胞外に沈着し機能障害を引き起こす難病(国指定の特定疾患)。この研究、診断、治療の一大拠点を創出することが目標だ。医学部を中心に、医学系研究科(疾患予防科学系専攻)と総合工学系研究科(農学、繊維、工学)、附属病院の連携のもとに、ロンドン大学やボストン大学などとも共同して、病理の解明から治療法の開発、全国・全世界への正確な診断と適切な治療法の発信・伝播を目指す。
 もう一つの、シナプス病領域では、アルツハイマー病、若年性認知症、自閉症、パーキンソン病、筋委縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症など、主に神経細胞同士の情報の伝達を担うシナプスの異常に起因すると見られる難病を対象にして、シナプスが働く新たな仕組み、シナプス病の原因・病態の解明、新規治療戦略の創出などを目指す。
 どちらの領域も、具体的な事業展開を通じて、国内の研究、診断、治療拠点となることを目指す実践的な展望だ。
 「既に形成されてきている信州大学内の医・農・工連携による神経疾患、アミロイドーシスの研究を総結集し、信州から世界へ飛躍したい」と矢﨑部門長は力を込めた。

生命科学系と理工学系の連携で革新的技術の開発を

齋藤 直人

齋藤 直人 (さいとう なおと)
信州大学学術研究院 教授(保健学系)
先鋭領域融合研究群 バイオメディカル研究所長
バイオテクノロジー・生体医工学部門長
博士(医学)


1988年信州大学医学部卒業。信大医学部附属病院医員。1996年信大医学部助手。1999年信大医学部講師。2004年信大医学部教授。2014年より現職。

―バイオテクノロジー・生体医工学部門

 バイオテクノロジー・生体医工学部門の部門長は、バイオメディカル研究所長の齋藤直人教授が兼任する。
 医学部・農学部の生命科学系と、工学部・繊維学部・理学部の理工学系の研究者が広く連携し、境界領域でしか得られない新知見を多数発見し、それらを応用した革新的技術を開発すること。また大学間連携・産学官連携の研究を推進し、さらなる異分野の融合・研究の高度化・研究成果の社会還元(実用化)を実現すると共に、大学院教育を含めた連携研究の人材を育成することが目標だ。
 研究領域は、再生医療研究、医療機器開発、ナノバイオテクノロジーの三つ。
 再生医療研究では、iPS細胞・ES細胞・生体幹細胞の加工・凍結・分化誘導・移植技術や、新規材料・物質を応用した組織工学、重症虚血(心臓・血管)に対する移植・再生などの、信州大学における再生医療研究のハブ化(学部横断的な連携・集約、研究者のエネルギーの集中、研究の質・量の向上、発信力強化、資金及び人材の確保・育成など)に注力する。
 医療機器開発では、ナノカーボンを複合した人工関節や脊椎固定機器、世界初の歩行アシストサイボーグなどの生体埋め込み型医療機器や、手術支援機器、医療福祉機器などの生体外使用の医療機器の開発を進める。
 そして、ナノバイオテクノロジーでは、ナノ材料から生体に働きかけるトップダウン型研究、ナノサイズの生体物質の機能を解明して生体に有効に応用するボトムアップ型研究、ナノ粒子の生体安全性評価研究などを行う。
 「ナノカーボンを使った人工関節や脊椎固定機器など、すでに試作品ができているものもあり、ダイナミックな展開が期待できる部門」と齋藤部門長は話した。

21世紀予防医学を先導する農学系研究拠点

藤井 博

藤井 博 (ふじい ひろし)
信州大学学術研究院 教授(農学系)
先鋭領域融合研究群 バイオメディカル研究所
代謝ゲノミクス部門長
博士(理学)


1983年東北大学抗酸菌病研究所(現加齢医学研究所)、助手。1991年新潟大学医学部講師。1994年新潟大学医学部助教授。2007年信州大学農学部教授。2014年4月より現職

―代謝ゲノミクス部門

 同研究所の四つめの部門は、藤井博教授が部門長を務める代謝ゲノミクス部門だ。本部門は、ゲノム解読と他のオミクス解析を組み合わせた新たな手法で生物の特性や機能など生命の基本的メカニズムの解明によって、種々の難治性疾患(癌・生活習慣病、アルツハイマー病など)の予防や治療のための新規機能性食品や創薬の開発を行い、21世紀予防医学を先導する農学系研究拠点の形成を目指す。
 「超高齢社会を迎えるわが国において、健康維持・増進により疾病を予防するとともに、疾病になったとしても、その進行を遅らせ、寿命を全うするまでのQOL(クオリティー オブ ライフ)を維持する健康長寿をいかに実現するかが重要な研究課題になっている」と藤井教授。
 その課題解決のために、医学部で研究されている「持続可能な医療」を支えるものとして、生命機能科学・食品機能科学・生物資源科学を融合させた健康長寿科学を確立することが目標だ。
 具体的には、ゲノム情報の発現制御と機能解析や、幹細胞工学、動物生理学などによる生命機能の解明。食品免疫学や食品機能学、食品分子工学などを駆使した食品の生体調節機能の解明や機能性食品の創製。そして代謝工学、天然物ケミカルバイオロジー、タンパク質工学などの研究手法による生物資源の高度利用化と創薬の開発などを行う。

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