先端研究「知」の創造

環境・エネルギー材料科学研究所(1)新コンセプト「クロスブリード」で進化するマテリアルイノベーション!

新コンセプト「クロスブリード」で進化するマテリアルイノベーション!

 本号より、信州大学先鋭領域融合研究群を構成する5つの研究所を順次紹介する。第一弾は、環境・エネルギー材料科学研究所。
 平成26年5月1日、長野(工学)キャンパスの信州科学技術総合振興センター(SASTec)で開催された同研究所のキックオフシンポジウムより、手嶋勝弥所長による同研究所の設立趣旨と概要説明をまとめた。

(文・毛賀澤 明宏)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第87号(2014.5.30発行)より

アイデアをクロスブリードし、革新的な材料を創成する

手嶋 勝弥 博士

信州大学 学術研究院 教授(工学系)・学長補佐
先鋭領域融合研究群
環境・エネルギー材料科学研究所長・蓄電池部門長
手嶋 勝弥 博士(工学)


名古屋市生まれ。2003年名古屋大学大学院工学研究科博士課程後期課程修了。2005年信州大学工学部助手、2010年同准教授。2011年同教授。日本フラックス成長研究会副会長。2014年3月より現職。

 「環境・エネルギー材料科学研究所のミッションは、圧倒的な省エネルギーと低環境負荷に資する革新的な材料を創成することを主な目的にしています。その実現のために、材料科学の領域内での研究、ならびに周辺分野の研究をクロスブリードし、従来の手法では解決困難だった課題を打破すること、そしてそれを通じて、持続可能な社会の実現に貢献することを目指します」
 1972年生まれ、42歳の研究所長、手嶋教授はこう切り出した。信州大学が開拓したフラックス結晶に関わる研究シーズを継承し、電気自動車などに使用する次世代電池の材料などを研究している。信大の若手研究者の共同の取り組みを牽引してきた若きリーダーだ。以前より、分野を超える研究者の交流とアイデアの共有・融合の重要性を訴えてきた。それを進めるコンセプトや仕組みが、先鋭領域融合研究群のキーワードにもなっている「クロスブリード」だ。

6つの研究部門と研究所としての目標

持続可能な社会

 同研究所は、蓄電池、燃料電池、太陽電池、光デバイス、革新創製・高度解析、課題探索・横断研究領域の6つの部門があり、これを運営・マネジメント室が束ねるという組織構成だ。
 各部門の中での研究者間の協働だけでなく、部門をまたぐ、さらには他の研究所や学外の研究者などとの共同で研究を進めるが、その目標の第一は、当該のテーマに関するこれまでの研究の延長線上にはない不連続なイノベーションにより、新材料を創製することだ。これまでは予想もつかなかったアイデアや技術を持ち寄り、研究の前進に立ちはだかる高いハードルを越えることを目指す。
 第二は、環境への負荷を圧倒的に低下させることを目指して、既存材料の新たな利用法を開拓すること。第三は研究や実用の過程で、これまで見えなかったのを見えるようにする(「見える化」)新たな材料評価・測定法を開発することだ。そして、長期的展望に立って30年後に実現を目指す技術に対する画期的な解決法を創出し新しい価値を創造すること、さらには新概念や新課題を提示することを、第四、第五の目標として掲げている。

クロスブリードコンセプトと運営ポリシー

 先にも触れたように、こうしたミッションや研究目標を実現するために手嶋所長らが提唱するのがクロスブリードである。様々な分野の研究者や、彼らが持つ斬新なアイデアを融合させて研究を進める仕組みであり、そうした仕組みに重みを置く視点・コンセプトのことでもある。これまでの共同研究よりも他分野を相互に深く理解することで、より高いレベルでの異分野融合を目指す。
 実際に、クロスブリードを推進していくために、分野・部門の垣根を越えた研究者の横断的な交流を進め、異なる知識を相互に深く知り合うことを心掛けると同時に、研究部門の構成も社会の要請に応えて定期的に見直し、課題探索部門の活動から革新的課題が見出された場合には、新規部門に設定して研究を進める。こうしたフレシキブルな部門体制とすることが運営ポリシーだ。

世界トップレベルの外国人招聘教員と日常的な共同重視の活動方針

環境・エネルギー材料科学研究所

 もちろん世界トップレベルの研究者も順次招聘、滞在していただいて、グローバルな研究を展開する。当面、電池やスーパーキャパシタ材料の世界的権威であるUniversite Paul Sabatier(フランス)のパトリース・サイモン博士や、量子制御と量子情報の第一人者であるMassachusetts Institute of Technology(アメリカ)のパオラ・キャペラーロ博士などの招聘が決まっている。
 こうした外国人招聘教員も交えて、研究所全部門が集い、それぞれの部門の課題などを共有し解決策を議論する全体討論会を随時開催し、部門ごとの進捗状況を報告し、研究開発の方向性などを議論する部門報告会(各部門2カ月に1回)、研究テーマごとに進捗状況を確認し、役割分担などを打ち合わせる研究ミーティング(随時)などを行う予定だ。
 「環境・エネルギー材料科学研究所は、呼称を『クロスブリードセンター』とするほど、この仕組みにこだわっています。こうした新しい協働と融合が、新たな地平の研究を進めるカギを握っていると確信しています」。手嶋所長は力を込めた。

環境・エネルギー材料研究所概要

・ 2030年における圧倒的な省エネルギーと低環境負荷に資する革新的な蓄電池、太陽電池、光デバイス、革新創製、高度解析を中心とした研究を推進するとともに、次世代を担う新規研究課題を探索し、技術実証を目指す。
・ 化学、材料科学および周辺分野の革新技術を有する研究者が互いの技術をクロスブリードしながら、共有の産業分野、材料創出手法、評価・解析技術でグルーピングし、材料の潜在能力を引き出すことで、マテリアルイノベーションを戦略的に推進する。
・ 高い潜在能力を有する新進気鋭の化学、材料科学者および周辺分野の研究者間のアイデアのクロスブリードにより、新学術領域創成とコア技術を育成し、タレントイノベーションを戦略的に推進する。


環境エネルギー材料科学研究所ホームページ: http://www.shinshu-u.ac.jp/project/xbreed/

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