
繊維学部機械・ロボット学系の橋本稔教授が山洋電気株式会社及び株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズと共同で開発した生活動作支援ロボティックウェアcurara(クララ)が、平成25年9月18日~20日に東京ビッグサイトで開催された第40回国際福祉機器展で大きな注目を集めた。多くの来場者がブースを訪れ、学生が実際にcuraraを装着してデモンストレーションを行なった最終日のプレゼンテーションは、立ち見の参加者が出るほどの大盛況ぶりだった。
ロボティックウェア「curara(クララ)」1号機改良型
curaraは、身体能力が低下した高齢者や障がい者の方でも、健康な人と同じように歩くことができるように開発された、身に纏うスタイル(=ウェアラブル)の動作アシストスーツだ。リハビリテーション用途にも適した機能も持ち、自分自身の足で歩行することを助けることもできる。
サーボモータや冷却ファンなどを製造している山洋電気(本社:上田市)と、高性能の減速機で定評のあるハーモニック・ドライブ・システムズ(安曇野市)との共同で研究開発を進めてきた。独立行政法人科学技術振興機構(JST)の平成23年度A-STEP本格研究開発ステージ(シーズ育成タイプ)にも採択されている、注目の研究開発だ。
curaraという名前は、アニメでも世界的に有名な「アルプスの少女ハイジ」(原作:ヨハンナ・シュビリ「少女ハイジ」)の登場人物クララにちなんでいる。体が弱く常に車椅子に乗るクララが、ハイジたちに見守られて自分の足で歩き始めるのは有名なシーン。「人が人を助けるように」との思いから、この名を付けた。 |
curaraは、身体能力が低下した方でも、日常生活で違和感なく着用できることを目指した。そのため、従来のパワーアシストロボットのような「外骨格型」構造ではなく、「非外骨格型」という新たな構造を採用していることが大きな特徴だ。
「外骨格型」とは、いわば骨や筋肉の代わりに、金属や樹脂製の添え木とそれを動かすモータを人体の外側に取り付け、その「剛体ロボット」の動きを人の体に伝えるという仕組みだ。これに対して「非外骨格型」とは、着用する人の骨格系を利用して、関節の動きを補助するというまったく新しい発想に基づく仕組みだ。
「剛体」がない分、身軽に、優しく着用できるだけでなく、歩く方向を変える時などに問題になる下肢のねじりなどの動作が容易になる。拘束感がより少ない形で、自然に身体を動かすことができるのだ。産業用に開発されたサーボモータを、ロボティックウエア用に用途を絞り込み、小型軽量化・高性能化できたこともカギを握っている。
これまでのアシストロボットは、自動制御されたロボット側の一定のリズムで、装着した人が強制的に歩行の動作を行うものであった。これに対してcuraraは、着用した人の動きを読み取り、それに追従して歩行動作をアシストするという、これまたまったく独自の「同調制御法」を採用している。これが第二の特徴だ。これにより、着用している人は、まるで自分の体の一部であるかのような感覚で使用できるようになった。
このアイデアは、人が人を助ける際に、助ける人の動きに合わせ、それに追従するようにして支えていることに注目し、学んだことにより生まれた。こうしたアシスト法をロボティックウエアで再現することを目指したのだ。
この「同調制御法」を実現するために、専用のアクチュエータ(駆動装置)やセンサをオリジナルに開発していることが第三の特徴だ。
特に、着用した人の動きを追従するようサポートするためには、人の動きとロボティックウエア自体の動きの相互作用力を検出する必要がある。そこで、ハーモニックドライブ内蔵型トルク検出法という、モータの動きを人の動きのスピードに合わせるための減速機の内部に、特殊なセンサを内蔵する方法を新開発した。
さらに、こうして感知した相互作用力に応じて、着用した人の意思を反映する形でロボティックウエアがサポート力を出せるように、周期的に入力される情報に対して、自身の固有周波数を変化させて同調する〝引き込み特性〟を持つ神経振動子という新たな仕組みを用いている。
このような新たな技術の開発によって、着用者の自由な動きに協調して、それを支える動きのできるロボティックウエアcuraraが生まれたのである。
サーボモータの技術で定評のある山洋電気と、世界的な減速機メーカーハーモニック・ドライブ・システムズ、そして、もともとは織り機などの研究開発からスタートした繊維学の構成要素としてのロボット工学―これらが共同して、まるで衣服のようなウェアラブルな動作アシスト装置curaraが誕生した。
運動機能の低下した方々に、体を動かす喜びを広げるために、いよいよ実用化に向けた道を歩み始めようとしている。2015年の9月までにはさらに改良を加えた3号機が完成する予定。下肢だけでなく上肢のサポート用も研究開発中だ。
curaraは、着用する人と着用されるロボティックウエアとの相互作用、インタラクションに焦点をあて、ロボティックウエアに、人の動きに同調する能力を付与するという新しい視点から研究開発を進めてきました。信州の生んだ優れたものづくり企業2社の協力で大きく前進でき、とてもうれしく思っています。相互作用に注目するのは、〝場の論理〟という極めて日本的な視点・哲学に通じるものです。ロボットなど現代工学の最先端で、人とロボットの関係を考えようとする時に、協調性とか同調性が問題になり、そこで日本的な相互関係の論理が活かされていくという点は、大変興味深いものだと思います。
信州大学繊維学部 電気通信大学助手、鹿児島大学助教授を経て、1999年より現職。研究分野はバイオロボティックス。「個性あふれる学生と、わくわくどきどきの毎日です。皆さんもバイオロボティックスの研究に参加してみませんか」。 |
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