
信州メディカルシーズ育成拠点47設備稼動と経済産業省「課題解決型医療機器の開発・改良に向けた病院・企業間の連携支援事業」採択(3件)
メディカル(医学・医療関連)領域でのイノベーション創出の動きが一挙に加速している。
信州大学が、長野県、長野県経営者協会と共同して設置した信州メディカルシーズ育成拠点では、最新鋭の分析・評価機器47機種を設置。地域のメディカル産業の飛躍的発展のための体制を整えた。
これに先立ち、医療現場の喫緊の課題解決をめざす、経済産業省「課題解決型医療機器の開発・改良に向けた病院・企業間の連携支援事業」に、信州大学の関連する3件が採択された。これらを中心にメディカル分野での産学官連携による技術開発が本格的に推進されようとしている。
・・・・・信大NOW70号(2011.7.25発刊)より
界面制御CNTコンポジット素材を用いた高機能人工関節の開発
信州大学 医学部保健学科齋藤 直人 教授
信州大学・ナカシマメディカル株式会社・財団法人長野県テクノ財団 他
変形性関節症や関節リウマチなどにより、近年、人工関節手術を必要とする患者数が飛躍的に増加している。だが、現在、人工関節に使用されているポリエチレンやセラミックスは摩耗・破損しやすいため、術後20年ほどで再手術が必要になる例も増加。人工関節の長寿命化を切望する医療現場の声は大きい。この問題の解決のため、カーボンナノチューブを用いた耐久性の高いポリエチレンやセラミックスの複合素材を利用。生体適合性が高く、再手術を必要としない人工関節の臨床応用をめざす。
信州大学が世界に誇るカーボンナノチューブ(CNT)を含んだ複合材料を、世界で初めて生体材料として臨床応用することをめざす実践的研究だ。
「CNTの優れた特性に注目し、人工関節に利用するアイデアを提案したのは8年前になります。以来、信大の文科省『知的クラスター創成事業』を基盤として、NEDO委託事業『ナノテクチャレンジ』に発展させ、様々な基礎研究を工学部や企業と共同で重ねてきました。工学的には製品としてほぼ完成されつつあります。医学部の研究チームでは、その生体適合性を検証してきましたが、今回採択された事業では、公的な外部機関に依頼して徹底的に検証していただき、いよいよ臨床応用へ歩を進めることがテーマになります」。信大でこの研究を牽引する齋藤直人医学部教授はこう話す。
人工関節は主に、股関節や膝関節に利用されることが多いが、これまでのポリエチレンやセラミックスを利用したものは耐久性に問題があり、術後20年で10~20%の患者が再手術を余儀なくされている。「再手術を不要にする耐久性の高い人工関節は患者さんの負担を大きく軽減するものなのです」という。
世界中の研究者が注目している。多様な性能を持つ高機能素材CNTを、世界で初めて生体材料として使用する研究であるためだ。
齋藤教授が研究成果を世界に発信するために執筆した論文は、イギリス王立化学協会の機関誌「ケミカル ソサエティ レヴュース」に、この2年間で2本も掲載された。特に今年7月号では、裏表紙で大きく紹介され、高く評価されている(中央写真参照)。自然科学・社会科学分野の学術雑誌の影響度を客観的に示す指数であるインパクト・ファクターが26.6。全世界に8000以上ある雑誌の28位にランクされているトップクラスの学術雑誌だ。
「CNTの生体材料への応用というテーマを世界に先駆けて提案したのは信大です。そして、今回の事業で、人工関節という形で、世界で初めて生体応用を実現したいと思っています」と齋藤教授は思いを語る。
「人工関節は、整形外科の世界ではかなり古くから重視されてきた手術です。50年ほど前から、現在のポリエチレンやセラミックスを使ったものが開発され、患者さんに多くの恩恵を与えてきました。しかし、それでも摩耗・破損という難問を抱えていた。CNTという新素材は、それを大きく改善する可能性を持っているのです」と齋藤教授。
だが、それだけではない。人工関節への利用で生体応用が実現すると、それを切り口に一挙に医療分野への利用が広がる可能性もあるという。CNTに限らず、ナノカーボンの持つ大きな可能性が医療の世界で花を開きそうなのだ。
その一つが、再生医療への応用だ。再生医療は人の手を使って人の生体組織を再生させるが、その時に必要なのが、細胞と成長因子と、足場材と呼ばれる組織の土台に当たるものだ。ナノカーボンは、この足場材に適しているという。
「骨の再生の足場材に適しているということも信大が世界で初めて発表しています。また、ナノカーボンの生体適合性研究も徹底的に行ってきました。人工関節の研究との相乗効果で、ナノカーボンの様々な医療分野への応用を実現し、医学の発展に貢献したいと思っています」。齋藤教授の言葉に力がこもった。
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