信大教員クローズアップ

「環境文学」による環境教育プログラム

「環境文学」による環境教育プログラム
Profile

学術研究院(総合人間科学系) 松岡 幸司 准教授

[全学教育機構准教授] ドイツ文学

1965 年 東京都生まれ
1988 年 信州大学農学部林学科卒業
1992 年 信州大学人文学部ドイツ文学講座卒業
1994 年 信州大学大学院修士課程人文科学研究科修了
1999 年 名古屋大学大学院博士後期課程文学研究科単位取得満期退学
2001 年 立教大学ランゲージセンター講師
2002 年 博士(文学)取得(名古屋大学大学院)
2006 年 信州大学 全学教育機構准教授
2011 年 日本独文学会理事


・・・環境報告書2014より

行動を起こす「環境マインド」へ

ハノーファー市の街で
ハノーファー市の街で

 知識は、経験し行動することにより、初めて活かされる。環境マインドを育むには様々な学びが必要だが、「知っている」だけの環境マインドでは、なかなか行動に結びつかない。
 課題・問題に対し行動するには、それを自分の事と感じる心があるかどうかがポイントだ。ここをどう育成するのか。
 実際に体験できなくとも、文学作品なら多くの疑似体験ができる。松岡准教授は、環境文学の研究から「心で体験する」ための環境教育プログラムの開発に取り組んでいる。

森林への関心からドイツ語圏の文学、そして環境文学へ

 松岡准教授の専門分野はドイツ文学だが、経歴はユニークだ。農学部林学科を卒業している。在学時に研究室で行っていた森林環境に対する住民意識の国際比較の調査に関わったことから、文学への道が拓かれた。当時、流行っていた文学作品の映画を観て、解釈の多様性を知り、文学の面白さに目覚める。そこで森林観の変遷を文学の中に読み取ろうと、文学作品に現れる森林の描写に注目した。
 卒業後は、人文学部へ学士入学、ドイツ文学に身を投じる。人文学部での卒論ではドイツの森林観をグリム童話から探り、考察した。
 修士の時、初めての留学でドイツへ向かう機内で読んだ、オーストリアの作家シュティフター(1805 -1868 年)の作品集『石さまざま』の序文に大きな衝撃を受けた。そこに書かれた「穏やかな法則」―日々繰り返す営みの中にこそ、自然と人間のどちらにも共通して、絶え間なく作用し続け導くものがある―の世界観に共鳴する。「日常的な営みの中にこそ、目を向けるべきものがある。今の世の中に必要な視点であり、エコロジーにもつながっていく」(松岡)と。
 この視点がその後の研究生活の基盤となり、これを機に准教授のテーマは、森林観から自然観、そして人間と自然というテーマに広がり、ネイチャーライティング、環境文学という分野に辿りついた。
 ネイチャーライティングとは、自然をテーマとしたノンフィクション形式のエッセイで、代表作にはレイチェル・カーソンの『沈黙の春』や、H.D ソローの『森の生活』がある。自然描写と、観察する自然に対する書き手の「私」の反応、心理、思考など、人間と自然との交感が描かれている。これを広げて環境文学とは、“環境と人間の関係を扱う”小説や詩、戯曲など文芸全般のことをいう。

「場所の感覚」をつかむと共感が生まれる

 環境文学のキーワードは、「場所の感覚」。「場所」とは、土地ではなく、生活する自分を取り囲むもの全てだ。自分の存在するところ、居場所や故郷などで、それらはアイデンティティと密接な関係にある。環境文学では、自分を取り囲んでいる環境と自分との関係性、互いの働きかけ、感じ合い、そういうテーマが描かれているのだ。
 「たとえば棄老物語の『楢山節考』も環境文学として扱います。主人公のおばあさんは自ら山へ行きたいと思っているのです。息子が山の上でおばあさんを背中からおろすと、おばあさんは死に人の顔になっている…“楢山さん”に行く準備ができているわけです。こういった描写から自然と人間の生との関係、人間存在を考えられるのです」(松岡)
 「環境」と言った時に、取り囲んでいる自然や社会のシステムなど数値に表れる状況だけでなく、その中に存在しているものとの関係性に着目することができれば、日頃の自分の「場所」に共通するものを感じ取り、「なんとかしなければ」と一歩踏み出していくマインドへと変わっていくのではないか。これは「自分だったらどうか」と自分の事としてとらえることと同じことになる。
 例えば、福島。先祖や歴史と共にあった場所に汚染で住めなくなった人々がいる。彼らのアイデンティティの喪失に思いをよせつつ、取り囲む環境の数値を見つめることにもなるのだろう。
 今後はプログラムに相応しい教科書や作品選集などの教材研究に取り組んでいくという。

* 教育プログラムで取り上げている作品は、前述のほかにこのようなものがある。宮沢賢治「注文の多い料理店」、石牟礼道子「苦界浄土」、彭 見明「山の郵便配達」、ヘルマン・ヘッセのエッセイ等。

学校生物センター

ハノーファー市の学校生物センター

ユーンデ村

バイオマス発電で地産地消のエネルギーのシステムを持つユーンデ村の説明をうける

写真について:准教授は、理系学部出身の強みも生かした「ドイツ環境ゼミ」(グローバル人材育成事業)という、2 週間のドイツ語研修と1 週間ほどの環境施設研修を合わせた授業も行っている。

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学術研究院(総合人間科学系) 松岡 幸司 准教授

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