先端研究「知」の創造

国際ファイバー工学研究所(2) 4部門のミッション

国際ファイバー工学研究所 4部門のミッション  
(文・毛賀澤 明宏)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第89号(2014.9.30発行)より

高強度・高性能・ナノ―基盤技術から次へ
 ―フロンティアファイバー研究部門

大越 豊

大越 豊(おおこしゆたか)
信州大学学術研究院 教授(繊維学系)
先鋭領域融合研究群 国際ファイバー工学研究所
フロンティアファイバー研究部門長


東京工業大学工学部卒、同大学院(理工学研究科)修了
信州大学繊維学部助手、2006年より教授。2014年3月より現職。

 部門紹介のトップバッターはフロンティアファイバー研究部門の大越豊部門長。レーザー光線を長く照射し高性能・高機能の合成繊維を開発する研究を進めてきた。
 「持続社会の構築のためには、限られた資源・エネルギーを有効に活用するための、省エネルギーやリサイクルに貢献する材料、また人々が求める安心・安全への要請に応える材料の開発を行わなければならない」とし、そのために「高強度繊維、高性能繊維、ナノファイバーなどの新規繊維の製造に関する基盤技術を構築し、さまざまな機能・性能を有したフロンティアファイバーを創出することがわが部門のミッションだ」と説明した。新しい機能を持った繊維材料を、その新しい作り方と共に研究開発するということだ。
 部門メンバーは、大越部門長の他、加えるだけで個体物を作るゲル化剤や粘性物を作る増粘剤の分子設計を研究してきた英健二教授。極限まで細いナノファイバーを作り、異物のフィルタリングや浄化作用、燃料電池の性能アップを目指してきたKIM IKSOO(金翼水)准教授。そしてナノサイズのセルロースや、カーボンナノチューブ、金属ナノ粒子などを組み合わせて、強度を増したり、導電性や抗菌性を付与する研究をしている後藤康夫准教授の4人。
 大越部門長は最後に、間近に成果が期待できる研究として、絹から生まれた特殊な素材を使ったナノファイバーを、再生医療において細胞から組織を構成する際の足場材に活用する研究や、次世代電池・キャパシタなどの高性能化につなげるナノファイバーの活用研究、炭素原子が1原子の厚さで並ぶグラフェンを活用したナノファイバー不織布による水処理膜の研究などを具体的に提示した。

ファイバー工学の医学・健康領域への応用
  ―バイオ・メディカルファイバー研究部門

阿部 康次

阿部 康次(あべ こうじ)
信州大学学術研究院 教授(繊維学系)
先鋭領域融合研究群 国際ファイバー工学研究所
バイオ・メディカルファイバー研究部門長


早稲田大学理工学部卒、同大学院(理工学研究科)修了
大学院修了後、民間企業に就職。1年後、信州大学繊維学部奉職。1998年より教授。2014年3月より現職。

 次に、バイオ・メディカルファイバー研究部門のミッションと体制について、阿部康次部門長が紹介した。
 阿部部門長は、「現代は、化石資源が枯渇し、再生可能な資源への注目が集まっている」との認識のもとに、一つ目のミッションとして、「従来より使用されている天然繊維の改質や、新たな天然素材を利用した繊維の開発」を挙げた。前者は例えばセルロースや絹、羊毛など、後者は水生昆虫が吐く絹用素材や、ケナフ、廃棄物などだという。
 さらに二つ目のミッションとして、再生工学や臓器創生工学などに不可欠の足場材の開発、ヘルスケア・福祉介護領域へのファイバー工学の応用、三つ目として、メディカルロボットとそれらの制御技術の開発などを挙げた。また、バイオナノファイバーの創製、バイオインターフェイシング ファイバーの創製などもミッションであるとした。
 阿部部門長自身、人工臓器などの生物医学領域で利用可能な高分子材料の開発を進めてきた。他に、海に棲む二枚貝が作る「足糸」と呼ばれる繊維などに注目し、水中生物が繊維を作る仕組みを活かして未来繊維の創製を目指す大川浩作教授や、外科手術用の縫糸として古くから利用されてきたシルクを再生医療に活用する研究をしている玉田靖教授、空気圧で収縮する数多くの人工筋肉を協調させ、ロボットの動きをしなやかで繊細にする研究を進める西川敦教授、ポリロタキサンというネックレス上の「超分子」や、生物由来のセルロースやキチンを利用してフィルムや繊維の補強材を作る研究を進める荒木潤准教授などが同部門の研究メンバーだ。
 水生生物が産み出す繊維を、水中接着剤や体内埋め込み人工臓器素材に利用する研究や、ロボットハンドや内視鏡手術用ロボットなどの開発が注目されるという。

高度な複合的機能の次世代繊維素材を開発
 ―スマートテキスタイル研究部門

石澤 広明

石澤 広明(いしざわひろあき)
信州大学学術研究院 教授(繊維学系)
先鋭領域融合研究群 国際ファイバー工学研究所
スマートテキスタイル研究所所属


東北大学理学部卒、信州大学大学院(工学研究科)修了
(株)島津製作所、(一社)長野県農村工業研究所などを経て2002年信州大学繊維学部助教授。2014年3月より現職。

 それ自体が生き物であるかのように、条件を感知するセンサー機能を有していたり、フレキシブルな反応をしたりする夢のような繊維素材=スマートテキスタイルの研究については、高寺研究所長が部門長を兼任し厚い体制で取り組む。開所式では、高寺部門長に代わり、石澤広明教授がメンバーを代表して、ミッションと体制・具体的テーマを紹介した。
 同部門のミッションは第一に、ファイバー工学・技術を基盤として、ナノテク・ファイバー分野を融合し、新しい機能を有するスマートテキスタイルを創出すること。第二に、新規な機能デバイスを利用し、半導体技術や織編技術などによる実装を経て、衣服のように装着できる(=ウエアラブル)ロボティックウエア(運動補助装置)や、バイタルサインセンサシステム(生体反応感知装置)のシステム統合を目指すこと。そして第三に、新機能創発からシステム化までの一連の過程及びノウハウを検証して、スマートテキスタイル共同開発のための試作・評価のプラットフォームを確立し、この研究開発分野で、世界的なリーダーシップを発揮することだ。
 スタッフには、採血せず血糖値を計る光学的非侵襲性血液検査システムの開発を進めてきた石澤教授ほか、ナノ複合材料から多機能材料まで様々な材料開発を進める倪慶清(NIQINGQING)教授、介護用ロボティック・スーツで注目される橋本稔教授、強く・軽く・リサイクルしやすい繊維強化複合材料を開発する鮑力民(BAO LIMIN)教授、ナノサイズの高分子微粒子の開発を進める鈴木大介准教授らが揃っている。

ものづくりと人間の接点を科学する
 ―感性・ファッション工学研究部門

乾 滋

乾 滋(いぬいしげる)
信州大学学術研究院 教授(繊維学系)
先鋭領域融合研究群 国際ファイバー工学研究所
感性・ファッション工学研究部門長


早稲田大学理工学部卒、東京工業大学大学院(総合理工学研究科)修了
繊維高分子材料研究所、物質工学工業技術研究所、産業技術総合研究所などを経て2002年より信州大学繊維学部教授。
2014年3月より現職。

 部門紹介の最後に立ったのは感性・ファッション工学部門の乾滋部門長。同部門は、衣服工学・ファッション工学の発展を基礎とした〝ものづくりと人間の接点を科学する〟研究であり、材料・素材系とともに現代ファイバー工学の柱をなすという認識のもとに、以下の6つのミッションを明らかした。
 第一は、感性計測手法により、衣服の着心地評価構造を解明するための分析的な研究。第二は、同じく感性計測手法により、衣服の構造と着心地評価との関係を明らかにするための研究。第三は、美しく快適な衣服のための衣服材料と衣服設計の研究。第四は、衣服材料としてのテキスタイルの遠隔取引に関する研究。第五は、立体裁断の仮想化の研究。第六は、人体モデルのための応用連続体統計学の手法開発の研究だ。
 情報技術をとり入れて仮想的な衣服の設計・施策を行う研究を進めてきた乾部門長のほか、衣服の好みに科学的なアプローチを試みる高寺政行教授(国際ファイバー工学研究所長)、スポーツウエアの着心地や自動車シートの座り心地の数値化を研究する西松豊典教授、心と体の快適度を計測し、感性価値のあるものづくりを研究する上條正義教授、足裏の圧力分布の計測から個人識別や健康状態検査を行う研究をするパタキ・トッド准教授、「美しくて快適な衣服」をファッション工学の視点から明らかにすることを目指す金炅屋(KIM KYOUNGOK)テニュアトラック助教らがスタッフとなり、具体的には、衣服の設計生産技術の解明、衣服デザインの仮想化、滑らかな連続体解析法―などの研究において、飛躍的成果を挙げていこうと意欲満々だ。

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