産学官地域連携

"辛口"研究で地域を熱く!とうがらしWORLD

 この秋、七味とうがらし製造販売会社=「八幡屋礒五郎」(本社・長野市)は本学松島准教授の監修による、季節の七味シリーズ「秋の信州七味」を発表した。えごまを加え、ごま、麻の実を多く使い、秋らしい木の実の豊かな風味に仕上げたこの「秋」は、2014年から続く同シリーズの総仕上げ。これで、春・夏・秋・冬の「四季」が勢ぞろいした。各季節の限定販売であるが、「信州土産にピッタリ」と消費者の評判も上々だ。この取組みと背景について、学術研究院農学系の松島憲一准教授に聞いた。

(文・毛賀澤 明宏)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」」第96号(2015.11.30発行)より

農学部ウォームビズで発進

 「季節の七味シリーズ」のきっかけは、農学部の環境ISO学生委員会が提案した環境保全のためのウォームビズのイベントだった。
 2013年の冬、CO2排出量抑制・暖房費削減を目指して同学生委員会は、「体が内からポカポカ温まる信大特製七味を作ろう」と提案。以前から七味とうがらし用の新品種開発についての共同研究で「八幡屋礒五郎」と親交のあった松島准教授が協力し、体を温める効果がある生姜がたっぷり入った「信大ウォームビズ七味」を同社に製造提供していただいた。それを農学部の学生食堂などで使用したところ、大学内外で大評判となったのだった。その後、東急ハンズ長野店のオープンに併せて、同店他で「冬の信州七味」として冬季限定で販売されることとなった。

松島 憲一 (まつしま けんいち)
信州大学学術研究院准教授(農学系)


信州大学農学部卒・同大学院農学研究科修了、博士(農学)/農林水産省勤務を経て、2002年より信州大学。専門は植物遺伝育種学。

農学部の農場で栽培される新品種のとうがらし

信大発・信州育ちの特産品が続々と

信州七味
春夏秋冬が出揃った季節の「信州七味」のパッケージ。並べると確かにブレンドの違いで色も違う。缶は渋谷ヒカリエd47食堂や農学部の学食で提供した際に八幡屋礒五郎さんがオリジナルのシールを貼って作ってくれたもの。
色も形もバラエティーなとうがらし群
色も形もバラエティーなとうがらし群

 続く「春」は、2014年、東京渋谷の渋谷ヒカリエ内で全国各地の郷土料理を提供するd47食堂でそのプロトタイプが登場した。伊那市長谷地区で鹿ジビエと山師料理の宿、ざんざ亭を経営する長谷部晃さんが考案した「鹿ローメン」(伊那市名物のローメンに鹿肉を使用したもの)が、この店で提供されることになり、それに合うオリジナル七味として松島准教授が監修したのだ。この特製七味はジビエにあうフルーティな味にするため、陳皮(みかんの皮)を多めにし、柚子も加えたものだったが、2015年に「春」として販売するにあたり、柚子を天竜村産に変え、さらに駒ヶ根市産のごまも使用することで伊那谷の春をイメージする商品にブラッシュアップされた。これは農学部を中心に産学官連携を進める組織、伊那谷アグリイノベーション推進機構の取組みとしての一面もあるのだ。
 「夏」は、2015年初夏、東京新宿で開催された「第8回『大学は美味しい!!』フェア」でも、早々に売り切れるほど好評であった。赤味も辛味も強い情熱的なとうがらしを基調に、長野産のシソを多く使い、バジルも少し入れて夏らしさを演出した。このフェアには、全国から3 4 大学が様々な「大学ブランド食品」を持ち寄ったが、その中でも、大学の企画・アイデアを、地域の農産物をつかって、歴史ある地元企業が実現、製造した商品として輝きを放った。
 そして、冒頭に述べた「秋」の発売…。
 「季節の七味シリーズ」は、まさに信大発・信州育ちの特産商品としての歩みを進めてきたのである。

信州がフィールドの農学研究

内堀醸造(株)アルプス工場と共同開発
内堀醸造(株)アルプス工場と共同開発した「すっぱ辛の素」、中野市の「ぼたごしょう」で作られた「ぼたんこしょう味噌」。どれもご当地ならではの人気商品だ。
ブータン王国の山菜類
松島准教授の調査研究は国内にとどまらない。アジアの山岳地帯には数々のユニークな有用植物資源があるようだ。 (写真はブータン王国の山菜類)

 「季節の七味シリーズ」の監修以外にも、松島准教授は、これまでに様々な地域資源に関する研究を進めてきている。例えば、2012年に大鹿村で行った「食の宝探しプロジェクト」。地産地消や6次産業化に係る情報発信や事業支援を行う(株)産直新聞社(本社・伊那市)と共同して、大鹿村に伝わる伝統食や伝統食材の聞き取り調査を行った。これにより掘り出された在来のとうがらし品種は「大鹿とうがらし」として栽培生産が定着しており、商品化にまで至っている。
 そもそも松島准教授は、栄村の「ししこしょう」、信濃町の「ぼたごしょう」、中野市の「ぼたんごしょう」、伊那市高遠の「てんとうまぶり」、阿南町の鈴ヶ沢「なんばん」をはじめとして多くの在来品種の掘り起こしやその評価、栽培生産の技術支援、さらには商品化に向けたプロジェクトを、それぞれ地域の実情に合わせて、農業生産者や自治体などとともに進めている。また、飯島町ではとうがらしを用いた特産新商品の開発と産地形成を、内堀醸造(株)アルプス工場と地元の農業法人および自治体とともに、農商工連携のプロジェクトとして進めてきた。そして、これらの実績をもって、2015年からは長野県の「信州伝統野菜認証制度」の委員も務めている。
 このような取組みは、松島准教授らの研究室が、長きにわたり実施してきたネパールやブータンなどアジアの山岳地帯における有用植物資源や遺伝資源の探索研究=信州大学農学部の特色の一つである=で培われてきた技術や精神を、まさに「実学」として信州の地域振興に生かしたものとも言えるであろう。
 「ちょっとかじれば、ひりひり辛く元気が湧く。とうがらしの研究は、近い将来『消滅する』と危惧されている中山間地の集落を、むしろ元気にする大きな力を持っていると思います」。最後にこう締めくくった。

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