ユスリカ大量発生問題解決へ信州大学がサポート ほか特別レポート

大阪・関西万博で起こったユスリカの大量発生を覚えているでしょうか?ニュースになったのは万博が始まって間もない初期の頃で、最近では発生量も減少しているため、すでにお忘れの方もいるかもしれません。しかし、実はこの問題を解決するために発足した対策本部の委員長を務めたのは、他でもない本学の平林公男副学長です。国内で数少ないユスリカの専門家であるため対策本部委員長に任命されたのです。大量発生の背景や、対策として講じられた手段など―華やかな万博開催の裏で起こっていたユスリカ対策について、平林副学長に聞きました。(文・平尾 なつ樹)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第153号(2025.9.30発行)より

平林 公男 副学長(入試担当)信州大学学術研究院(繊維学系)教授

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2024年10月より、2度目の副学長を務める。専門分野は、陸水生態学(淡水生物学)、環境衛生学、衛生動物学。2024年から日本衛生動物学会の学会長を務める。生物指標を用いた水環境変動の解析を専門に行っており、水生昆虫類の分布パターンや生息密度の変化を調査することにより、生息場所としての水環境の変化を化学指標とともに明らかにしている。

大量発生を受け6月に発足した対策本部

ユスリカの大量発生が報道され出したのは、ゴールデンウイークが明けた、5月初旬の頃でした。大屋根リングにびっしりと大量に張り付いた姿に驚いた方も多かったのではないでしょうか。夜の万博来場者を増やそうと、パビリオンのライトアップや噴水ショーなど夜間のメニューを増やしていたさなかに起こったユスリカの大量発生―。博覧会協会は頭を悩ませ、独自に調査も実施したそうですが、結局問題解決には至らず、翌月6月8日に、外部専門家6名からなる対策本部が立てられました。そこで委員長として招集されたのが、平林副学長です。大学院時代から、諏訪湖などでユスリカの研究を続けてきた平林副学長。防除や対策も研究対象としてきたそうですが、実は国内で同様の研究を行っている研究者はほとんどいないそうで、博覧会協会から白羽の矢が立てられたのです。

被害範囲と誘引される光の質について調査

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ユスリカ捕獲用トラップ

ユスリカは、蚊とよく似た見た目ですが、人を刺すことはありません。川や湿った土など、水のあるところならば「日本全国どこでも見られるポピュラーな昆虫」だと平林副学長は話します。

今回万博で発生したのは、ユスリカの中でも「シオユスリカ」という昆虫の一種です。世界的に見ても、大量発生に対し有効な防除を行ったという記録は少なく、「ユスリカのことを一般の方によく知ってもらうための良い機会だと思った」と振り返ります。

対策本部がまず行ったのは、シオユスリカの被害範囲を特定すること。信州大学の研究室で使われていた機器を持ち込み、会場内5か所に設置して、どこでどれだけ飛来しているのかを調べたそうです。この結果、海から50メートル以内の範囲で多く飛来していることが明らかになったといいます。

そしてこの調査と平行して調べたのが、シオユスリカがどのような光に誘引されるのかについて。過去の調査では、より強い光に誘引されるという論文があったといいますが、今回行った実験では、光の強さを変えても誘引される個体数には差がないという結果が出たそうです。一方で光の質を変えて調査したところ、比較的波長が短い光に誘引されることが判明。このため「(光の波長が短い)紫外線を出す殺虫機で防除すれば、有効な対策ができるのではないかと思っています」と、平林副学長。

秋の大量発生に備えて対策を練る

多くのユスリカは年に2回、春と秋に大量に発生する習性があるそうで、現在(2025年8月:取材時)は発生量も少なく落ち着いている状況だといいます。

ただ10月13日まで開催される万博期間の中で再び大量発生する可能性もあるため、博覧会協会からは「大量発生する時期を予測してほしい」との要望を受けているそうです。

このため、会場内「つながりの海」で採取された泥を毎週1回、クール宅急便で本学まで郵送してもらい、その泥の中にいる幼虫・さなぎの数を平林副学長自ら調査しているとのこと。「現在は一定の数で安定していますが、さなぎの数が増えてきたらそこから近いうちに大量に成虫が発生するという予測が立てられます」と話します。その場合の対策として、前述した光による誘引のほか、薬剤を散布するという案も出ていたそうですが、「“いのち輝く未来社会のデザイン”をうたう、世界的イベントの大阪・関西万博で殺虫剤を撒くのは慎重にならなければならない」と、環境への影響について、十分な調査の必要性を訴えます。

また、人を刺すことはないシオユスリカですが、体質によってはアレルギー症状の出る人もいるため、「大屋根リングの周囲を夜に歩く際は注意してほしい」と、博覧会協会からお客様へ呼びかけるそうです。

閉幕までわずかとなった大阪・関西万博―開催期間中に再びシオユスリカ問題が起こるのかはわかりませんが、平林副学長らによる調査・対策が実を結び、速やかに収束となることを祈ります!

信大RO膜と「ラムダ技術部」がコラボイベント

“最強の浄水器vs激マズ汁”

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ラムダ技術部が「信大RO膜」使用の浄水器で、激マズ汁(とても酸っぱい汁・とても苦い汁)を浄水しているところ

大阪・関西万博で開催された文部科学省主催イベント「わたしとみらい、つながるサイエンス展 ~あなたは、みらいをつくれる人~」のステージイベントで、信州大学は本学卒業生で教育系人気YouTuber「ラムダ技術部」(ラムダさん・ロッシーさん)とコラボレーションし、浄水パフォーマンスを実施しました。「最強の浄水器 vs 激マズ汁」というテーマで、エンターテインメントの要素も取り入れながら、飲むことが難しい水をアクア・リジェネレーション機構 遠藤研究室の「信大RO膜」の浄水技術を使って実際に浄水し、その技術の高さと科学の魅力を伝えました。来場者は、大人も子どもも真剣なまなざしで、パフォーマンスに見入っていました。(文・佐々木政史)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第153号(2025.9.30発行)より

浄水の基本原理を エンタメ風に楽しく解説

「皆さん、どの汁を私たちに飲ませたいですか?」パフォーマンスに用意したのは、次の5種類の水。

①小ネギを入れた水(ゴミの混じった水の想定)

②水溶き片栗粉

③とても甘い汁(砂糖の約600倍甘いスクラロースを溶かしたもの) 

④とても酸っぱい汁(クエン酸を溶かしたもの)

⑤とても苦い汁(世界で最も苦いといわれるデナトニウムを溶かしたもの)

ラムダ技術部のロッシーさんが、会場のお客さんの挙手が最も多かった「⑤とても苦い汁」を飲むと、言葉にならない程の苦しい表情で悶絶。会場からは大きな笑いが起きました。続けて、「①小ネギを入れた水」「②水溶き片栗粉」もざるで濾して飲んでみました。小ネギを入れた水はうっすら小ネギの味がするものの飲めるように。しかし、水溶き片栗粉はほとんど濾過されず、とても飲めるようにはならず。「これは、小ネギはざるの網目よりも大きいので濾されますが、片栗粉の粒子は網目よりも小さいため通り抜けて濾過されないためです」と、浄水の原理を実演で分かりやすく説明しました。

超最先端の浄水技術に会場が沸く!

次に、小石、ビー玉、ビーズ、活性炭、コーヒーフィルターを使って手作り濾過装置をつくり、ざるでは濾過できなかった水溶き片栗粉水の浄水に挑みました。

すると、うっすらと片栗粉の味がするものの飲料水として飲めるように。続けて、③とても甘い汁と、④とても酸っぱい汁を手作り浄水器で濾過しましたが、味は残っていました。「これは、片栗粉の粒子は手作り浄水器の網目よりも大きいけれども、とても甘い汁ととても酸っぱい汁の粒子は網目よりも小さいために濾過できないから」と説明。それならば、より細かい網目の浄水器で濾過すればよいと、「信大RO膜」で、とても酸っぱい汁と苦い汁の浄水を実験しました。手押しポンプで濾過し、ラムダさんとロッシーさんが飲んで真水になっていることを確認すると、会場からは驚きの声が。続けて、信大RO膜が低圧で浄水でき、高い性能を持っていることを分かりやすく説明しました。

信州大学とラムダ技術部がコラボレーションしたパフォーマンスは、最先端の科学技術について、子どもから大人まで関心を持ってもらうきっかけになったようでした。

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