【Special Interview】世界初の学問領域「アクアロジー専攻」特別レポート

新設となる大学院総合理工学研究科アクアロジー専攻を 杉本 渉 設置準備室長が語る。

【重要】2026年5月末において、改組は予定であり、内容に変更が生じる可能性がございます。

2027年4月、信州大学は世界で初となる新たな学問領域「アクアロジー(Aqualogy)」を掲げた新専攻を大学院に設置予定です。本学はこれまでJ-PEAKSにも採択されたアクア・リジェネレーション(水循環利用と水由来の水素エネルギー生成)の研究に特に力を入れてきましたが、今回の新専攻設置は水や水素に関する世界トップレベルの研究リーダーを育成、強化するものと言えます。従来の大学院教育の常識にとらわれない制度や仕組みも導入しながら、水に関わる経済「アクアノミクス※1」を回し、世界が直面する水課題の解決に取り組む人材を育成する―。こうした目標を掲げるアクアロジー専攻※2について、専攻長に就任予定の杉本 渉 アクアロジー専攻設置準備室長に、構想やビジョンを伺いました。(文・佐々木 政史)

※1)アクアロジー教育が上流とするとアクアノミクスは下流域の経済発展。川上から川下までの一気通貫をイメージした造語。

※2)2027年4月信州大学総合理工学研究科に新設予定。「アクアロジー」は信州大学が名付けた新しい学問領域の名称です。

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第157号(2026.5.29発行)より

Special Interview

J-PEAKS採択、ARG機構設立… 次は大学院教育の 「アクアロジー専攻」へ

―「アクアロジー専攻」とはどんな特徴のある新専攻か、設置背景も含めてお聞かせください。

そもそも、「アクアロジー(Aqualogy)」という言葉は聞いたことがないですよね。

それもそのはず、水(Aqua)と学問(-logy)・技術(technology)を合わせて私たちが新たにつくった言葉で、“水関連技術の学問”といった意味になります。そして、これを学べる世界初の「アクアロジー専攻」を、私たちは2027年4月に新設する予定です。

もともと、文部科学省のJ-PEAKS(地域中核・特色ある研究大学強化促進事業)という、全国の大学がそれぞれの得意領域を伸ばしていく事業で、信州大学は強みである“水領域”の研究が採択され、取り組みを進めてきました。2024年にはアクア・リジェネレーション(ARG)機構を立ち上げ、研究を一層強化してきましたが、一方で「次代の研究者育成へ教育にも本腰を入れていく必要がある」と考え、今回のアクアロジー専攻の新設構想に至りました。研究と教育、この“両輪を回す”ことで、信州大学の水研究をより一層発展させていきたいのです。

従来の水研究には、水文学や水質学、土木工学といった学問分野があります。川の流れを調べる、水質を分析する、そういったアプローチが中心で、これはこれで大事な学問です。一方で、私たちがアクアロジーで取り組もうとしているのは、これらとは異なります。水そのものではなく、「材料科学」のアプローチから、水の浄化や再利用であったり、水の資源やエネルギーとしての高度利用を目指すものです。具体的には、きれいな水を供給するための膜や、水から水素を作るための触媒技術の開発など。材料科学は、日本がとても強い分野なのですが、この視点から水を捉え直す専攻は、おそらく世界中探しても他にはない。だからこそ、やる意味があると思うのです。

私たちが最終的に目指すのは「アクアノミクス」。直訳すれば“水の経済”といった意味で、これも私たちがつくった新しいキーワードです。研究のまま終わらせず、その成果を産業づくりに役立たせる。これは、すごく大事なことですよね。私たちは水研究を通じて、しっかりと経済を回していく人材を育てたいんです。アクアロジー専攻で育成した人材が、企業の研究者や信州大学のアクア・リジェネレーション機構での研究などを経て、最終的に水を軸にした経済を牽引する―こうした、“川上”から“川下”までをつなぐストーリーを、私たちは描いています。

修士からの経済支援がセットとなった修士+博士の「5年一貫教育」などが魅力

―これまでにないまったく新たな学問領域であることがよく分かりましたが、教育体制にも新たな工夫や特徴があるのでしょうか。

大きく3つあります。まず、修士2年+博士3年の「5年一貫教育」。アクアロジー分野のグローバルリーダーを育てるためには、修士課程や博士課程からでは時間が足りず間に合いません。ですから、長期的なカリキュラムに基づき、じっくりと人材育成に取り組んでいきたいと思っています。

2つめは、授業は5年間を通して英語で行うということ。英語で議論し、発信する。水課題は世界を活躍の場としますので、これは必須だと考えています。一方で留学生には日本語の授業も提供します。信州大学グローバル化推進センターとも連携しながら、支援体制づくりを検討しています。

そして3つめの特徴が、手厚い経済的支援です。修士課程1年生から博士課程3年生までの5年間、ずっと支援する方針です。授業料無償化の大学は他にもありますが、私たちは修士課程からの“経済的支援”を検討しています。学生には経済面での負担を減らして、学びや研究に集中していただきたいと思っています。

教育指導体制も従来の常識にとどまらないものにしたいと考えています。今までは基本的には「研究室の教員に任せる」というかたちでした。しかしそれだと、教員の専門分野に引きずられて、どうしても学生の可能性が広がりきらない。ですから、今回は専攻全体でチームとして一人ひとりの学生を育てる体制を取りたいと考えています。例えば、野球のドラフトで、育成枠に入った選手をフロントが相談して「この学生は足が速いから外野に育てよう」と指導していくようなイメージです。

“出口”、つまりどのようなリーダーになりたいか、そこから逆算し設計する独自の教育カリキュラム

―カリキュラムイメージを拝見するといくつかのモデル例がありますが、どういったところがポイントでしょうか。

いくつか従来の大学院の常識にとどまらない仕組みも考えています。

そのひとつが入学条件です。特定の学部・専攻は問いません。物理でも化学でも農学でも、さらには文系出身者にも門戸を開きます。なぜなら、水の課題は本当に多様であり、多角的なアプローチが必要だからです。ですから私たちは、様々なバックグラウンドを持つ学生に機会を与え、多角的に水課題に立ち向かえる人材を育てていきたいのです。

さらに、カリキュラムも従来とは異なる考え方で組みます。具体的には、“出口” (就職、キャリア)からバックキャストした設計です。アクアロジー専攻の修了後は、化学メーカー、水処理プラント、総合商社、公的機関など、世界の水関連のありとあらゆる企業や研究機関への就職が想定されますが、そこで活躍するために何が必要か―それを逆算し、求められる実践的な人材の育成を目指します。

ここでの「実践的な人材」とは、専門知識だけでなく、“文化人的思想”を持った人を指します。文化人的思想とは、相手の考えや文化を理解し、交渉する力、そして組織を導くリーダーシップといったものであり、これが世界で活躍するグローバルリーダーには必要だと考えます。そして、それを養うために、カリキュラムには「コミュニケーション科目」を組み込んでおり、リーダーシップ研修やロジカルシンキング研修などをしっかりと行います。これにより、「入社すぐに戦力になりますよ」というお墨付きを渡せる。そうなれば、どんな企業だって喉から手が出るほど欲しがるはずです。

私たちが求めているのは、ただ成績が良いだけじゃなくて、何かひとつでも強みを持っていて目がキラッと輝いている学生です。「アクアロジー専攻って、なんだか面白そう」「自分も何か貢献できる気がする」―そんな好奇心と意欲を持った学生に来てほしい。これまで学部で何を専攻してきたかは関係ない。とにかく、アクアロジー専攻に“ビビビ”ときたら、ぜひ応募してほしい。水・エネルギーというテーマを通して、新しい時代を切り拓こうとする意欲を私たちは待っています。

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