経済×生物多様性 消費の裏側でおこる絶滅危惧種への影響をマップで視覚化!特別レポート

経済×生物多様性 消費の裏側でおこる絶滅危惧種への影響をマップで視覚化!

経済×生物多様性 消費の裏側でおこる絶滅危惧種への影響をマップで視覚化!

 グローバルな経済活動が活発化し続ける現代、今や、食べ物から工業製品、建築材に至るまで、海外から原料や商材を輸入することは欠かすことができません。しかし、各国の経済成長・消費拡大が続く中では、グローバルなサプライチェーン(※1)が自然破壊や野生動物の生息域の減少などを引き起こし、地球上の生物多様性へ大きな影響を与えてもおり、それが見過ごせない国際的課題にもなっています。

 こうした時代のニーズに応える形で、信州大学経法学部・金本圭一朗講師(学術研究院・社会科学系)は、日本やアメリカ・中国など世界187カ国の製品やサービスの生産・消費活動が、約7000種の生物種の絶滅のリスクにどの程度影響するかを、地図上に視覚化するシステム手法を開発しました。ノルウェー科学技術大学との共同研究による成果で、平成29年1月4日、アメリカの世界的科学雑誌Nature誌の姉妹誌 Nature Ecology & Evolution誌(電子版)に論文が掲載されたことを契機に、米有力紙The New York Times、The Washington Post等でもその成果が報道されるなど、 世界的な反響を呼んでいます。

 その概要と研究を進めた独自の視点を、金本講師にお聞きしました。

※1 原料の段階から財やサービスが消費者の手に届くまでの全体的な流れ

(文・柳澤 愛由)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第103号(2017.1.31発行)より

コーヒー豆から工業製品まで。身近な「消費」が脅かす生物多様性

 現在、国際自然保護連合(IUCN)(※2)が公表している「レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)」には、約2万種もの野生生物が名を連ねています。その多くが人類の経済活動に起因する自然破壊が要因となって危機に瀕しているといわれています。

 しかし、自分の身近にある製品に、地球上の生物を絶滅に追い込むリスクがどれだけ潜んでいるのか、遠い国の消費者が実感する機会はそれほど多くありません。

 「これまで、『どの生物がどの地域で絶滅に瀕しているのか』を地図上で明示する試みはありましたが、それが世界の経済活動とどう結びついているのか、具体的に検証されたことはありませんでした。今回、生物多様性保護に対する責任の所在を、視覚的に明らかにできたことで、より効果的な環境保護政策の策定や、企業のサプライチェーンの見直し、生物多様性を意識した製品開発にもつながると考えています」と金本講師は話します。

※2 1948年に創設された、国際的な自然保護団体。国家、政府機関、NGOなどを会員としている

「経済」×「生物多様性」で見えてくるもの

 図1は、金本講師が開発した手法に基づき、日本における生産・消費活動が世界のどの場所の生物多様性に悪影響を与えているのかを明示した世界地図です。影響が大きい地域ほど、陸域では濃い紫色、海域では黄色で着色されています。

 この地図をみると、日本の消費は、マレーシアやインドネシアなどの東南アジアやアフリカの国々の生物多様性に対して、局所的に大きな影響を与えていることが分かります。経済学的な統計データと絶滅危惧種のデータを結び付け、視覚化したことによって、初めて明らかとなった事実です。

 実際、日本はインドネシアやマレーシアから、食料や木材などを多く輸入しています。例えば、日本がコーヒー豆を多く輸入するインドネシアでは、国際的な需要に応えるため、森林を伐採して農地を広げています。木材を多く輸入しているマレーシアでは、熱帯雨林の伐採により、マレーグマなど希少な野生動物の生息・生育環境が奪われているといわれています。また、食料品だけでなくスマートフォンなどの工業製品にも、野生生物の減少につながるリスクが潜んでいるといいます。

 今回の研究成果は、今後、企業が環境負荷を抑えた商材の輸入先の選定を行う際のツールとして、また、効果的な生物保護区域を設定する有効なデータとして、さらには、消費者が環境負荷の少ない商品を選択するための基準として―など、様々な活用が期待されます。

endangered-species2017_02.png

図1)日本の消費で引き起こされる絶滅危惧種への影響を示した地図。色が濃いほど影響が大きい

「視覚化」のすごさ!

 この「世界地図」の作成には、国際自然保護連合(IUCN)が公表している「レッドリスト」などが用いられました。金本講師は、そこから、生物多様性が脅かされている「ホットスポット(※3)」の世界分布図を作成。また、「世界経済モデル(※4)」に基づき、世界187カ国における1万5000以上の製品・サービスのサプライチェーンを追跡し、データベース化を行っています。さらに、日本やアメリカなどの国ごとに着目して、そのデータとホットスポットの世界分布図を統合しました。

 こうした作業を基礎にして、レッドリストに掲載されている生物種のうち、絶滅の恐れが高く、生息範囲が分かる約7000種に対して、どの国の生産・消費活動がどの程度影響を及ぼしているのかを推計し、数値化しました。そして、その7000種の数値データとその種の生息範囲を組み合わせ地図上で可視化し、分かりやすく着色することで、経済活動に起因する生物の絶滅リスクを明示する「世界地図」が完成しました。

 今後、この手法を他の環境問題にも応用していきたいという金本講師。「企業の方々との共同研究もできたらと考えています。いずれは、消費者向けに環境負荷が少ない製品として売り出す際のラベリング制度などにも、このマップが活用されれば」と期待を寄せていました。

※3 生物多様性が豊かであるにもかかわらず絶滅危惧種が多く生息し、危機に瀕しており、急いで保全すべき地域のこと

※4 世界経済全体の動きを解析し、方程式体として組み立て、予測、政策効果の分析などを行ったもの

Profile

信州大学 経法学部 金本 圭一朗(学術研究院・社会科学系)講師

29-1_1.png

2014年、東北大学環境科学研究科博士後期課程修了、博士(学術)。

日本学術振興会特別研究員(2011年~2014年)

シドニー大学客員研究員(2009年~2011年)

九州大学「持続可能な社会のための決断科学センター」講師(2014年~2016年)を経て、2016年より現職。

ページトップに戻る

MENU