地域コミュニケーション

信州アカデミア 地域戦略プロフェッショナル・ゼミ 全コース合同成果報告会+修了式

地域戦略プロフェッショナル・ゼミ

 地域の課題解決を担う人材の育成を目指す信州大学の「地域戦略プロフェッショナル・ゼミ」が修了、平成27年2月28日、松本市の松本キャンパスで修了式を行いました。受講生約70人が出席。コースごとに代表者やグループで成果を発表した後、三浦義正・信州大学理事(産学官・社会連携担当)より修了証を授与いたしました。
 同ゼミは、平成25年度の文部科学省「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」に採択された「信州アカデミア」事業の一環として初めて開講。年齢も立場も異なる74人が、「中山間地域の未来学」「芸術文化の未来学」「環境共生の未来学」の3コースで学び、地域振興やまちづくり、人と動物の共生などについて考えを深め合いました。
 今後、修了生らは地域での実践へとステージを移すとともに、未来の人材である信州大学生の地域課題教育にも関わっていきます。本ページでは、修了式で行われた各コースの成果発表の要旨を紹介します。

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第92号(2015.3.31発行)より

中山間地域の未来学Ⅰ

A班 對野進さん、大日方勲さん、 鈴木明子さん、横山健生さん、 宮木慧美さん
A班 對野進さん、大日方勲さん、鈴木明子さん、横山健生さん、宮木慧美さん
柳澤直樹さん
柳澤直樹さん

ムラとマチをつなぐ提案「ごっこ感覚」で魅力アップ

A班 對野進さん、大日方勲さん、鈴木明子さん、横山健生さん、宮木慧美さん

 ゼミのフィールドとした長野市七二会地区での体験を基に、地域資源を発掘し、地域の魅力と可能性を生かす事業計画として「七二会村人ごっこ~大人も子供もなにあいさんちに遊びに行こう~」を考えました。
 祭りなどの伝統文化や農業の担い手不足、空き家問題などムラで困っていること・足りないことと、自然や癒やし体験といったマチで求められていることとをつなげ、足りない部分を補い合うのが狙いです。そのために、田植えを「どろんこ遊び」、落ち葉拾いを「焼き芋ごっこ」など中山間地の作業を「ごっこ遊び」と呼び換え、参加のハードルを下げることで、都市住民も一緒に楽しんじゃおう―というわけです。
 参加回数に応じて付く「おだちんポイント」は野菜や米と交換。全回参加したら「空き家」をプレゼントしてもいい。そうした「ごっこ遊び」を通して、都市住民には行きつけの田舎ができ、新たな交流が広がり、ゆくゆくは定住者が現れることも期待されます。
 スタート資金として県の地域発元気づくり支援金、恒久財源として国の農地を守る日本型直接支払い交付金などを活用してはどうでしょう。七二会地区と長野市街地の交流をモデルに事業を考えましたが、どこの中山間地と都市部を組み合わせても構いません。さあ、大人も子どもも、ムラに遊びに行きましょう。


自然の力を利用した「未来農業」でイチゴ栽培

柳澤直樹さん

 「古い建物の無い町は、思い出の無い人間と同じである」とゼミで教わりました。中山間地の魅力はまさに、人々が営んできた歴史にこそあると思います。その魅力を存分に生かすのが「未来農業」と考えています。
 特徴は五つの力を活用することです。第1が「水」。自然流下する水圧を水車などで利用することで、電力や化石燃料によるポンプを不要にします。第2が「風」。高低差や方角に応じた気流の性質を見極めて換気に生かします。第3が「地」。温度変化の小さい地中で水や空気の温度を調節します。第4が「光」。光触媒技術を応用し、防虫ネットなど農業に取り入れます。第5が「命」。発酵技術を生かした有機栽培です。それらの力を生かすことによって、最終的に化石燃料を使わない農業を目指します。
 私は今春から専業農家となり、松本市三才山で夏秋(かしゅう)イチゴを栽培しますが、そこで「未来農業」を具体化したいと考えています。夏秋イチゴは高冷地向きで反収が高く、市場での人気もある品種です。
 幸い、この4月から農産物の機能性表示制度がスタートします。農産物はこれまで以上に“中身”で選ばれることになります。イチゴは産地の三才山地区にかけて「三才山果(ささやか)」と命名しました。「自遊農法」を冠したラベルも用意して出荷に備えています。

芸術文化の未来学Ⅰ

小松順子さん
小松順子さん
青木由里さん
青木由里さん

自由で無垢なアートをもっと楽しめる地域に

小松順子さん

 正規の芸術教育を受けていない人による自由で無垢(むく)な芸術作品・スタイルを指す「アール・ブリュット」を地域にもっと普及させたい。そのための一案が「オモシロたのしい? アール・ブリユットギャラリー」です。
 「アール・ブリュット」は障がい者支援施設での制作活動にとどまるものではありません。県内では1998年の長野パラリンピックの際のアートパラリンピックをきっかけに広がったものの、一般の認知度はまだ低いのが現状です。ただ、制作に取り組む施設などを県内で探してみると「思った以上」の広がりがあり、それらと地域社会をつなぐ仕組み作りが必要であることが分かりました。
 そのために、まず、制作活動に取り組んでいる福祉施設などと協働して、オリジナルグッズのデザインや制作、チラシやパンフレットによるそれらの施設の紹介、情報誌の作成に着手します。2年後をめどに「出前ギャラリー」として学校や図書館、地域の企業などに作品を展示する機会を提供。医療施設や高齢者施設などでは演劇や美術、工芸などの「出前ワークショップ」を開いて作り手も育成します。
 さらに5年後には「ギャラリーショップ」の運営を始めます。制作活動をしている福祉施設から作品を借り、展示会を開催。ゲストを招いてギャラリートークも開きたいと思います。
 障害のある人もない人も、アート活動をする機会や発表の場を得ることで、作品を皆で楽しめる地域を実現すること―それが夢です。


演劇的手法は“生きる力”を養う

青木由里さん

 コミュニケーション力の低下は現代社会の問題としてしばしば指摘されます。これを、演劇的手法によって改善、解決しよう―というのが、長野市のNPO劇団に長年関わってきた私からの提案です。
 体の柔軟性を高めるストレッチ、声の大小・高低を自在に操るための発声練習に始まり、台本の解読、舞台制作・発表…など、演劇活動の各段階には伝達力や思考力、判断力といったコミュニケーション力を高める要素が詰まっています。演劇の手法は“生きる力”を養ってくれるのです。
 「まちづくり」は人をつくること。そういう人を、演劇活動を通して育てたい―と常々考えてきました。演劇と表現の関係についても、仮説を立てながら県内を中心に各地でコミュニケーションワークショップ(WS)も開いてきました。
 その活動の効果を、今後は専門家の支援を仰ぎながら体系化・理論化したい。そして、さらに多くの参加者を募り、WS活動も拡大。子どもも社会人も、生きる力を持った人の育成にいっそう励みたいと考えています。

環境共生の未来学Ⅰ

宗京裕祐さん
宗京裕祐さん
大石将司さん
大石将司さん

同時に、地道に、地域一丸で獣害対策に特効薬はない

宗京裕祐さん

 伊那市の地域おこし協力隊として農業振興によるまちおこしに取り組んでいます。獣害に悩まされている農家が地元にもたくさんいて、何か力になれることがないか―とプロ・ゼミに参加しました。ただ、結論からいえば、動物と人間が共生するうえで特効薬はない、あらゆる対応策を「同時に」「地道に」「地域一丸となって行う」しかない、ということが分かりました。
 なぜ、特効薬がないか。私は、獣害は針葉樹の植林が盛んに行われた明治中期以降の問題であり、それ以前の姿に山を戻せば解決する、と思っていました。しかし、そんな単純な問題ではなく、例えば江戸時代にはシカの頭数も多く、獣害も多かったのです。
 地域事例から見えてきたことは、獣害がなかなか解決しない大きな要因として、地域が一丸となっていない、つまり住民間に獣害に対する「温度差」があることが挙げられます。「高齢化・人口減」による担い手不足も課題です。
 そうした課題を踏まえ、これからすべきことは、まず「守る」。防護柵や電気柵、緩衝帯整備などを地道に続けていくことで、獣にとって里を魅力的な場所でなくするのです。そして「攻める」。個体数の調整などによって人と動物の境を明確にする。また、今後もっと増えていく高齢者も参加できるよう「手間を減らす」仕組みづくり。最後に「みんなが参加する」。地域一丸で、自分事として取り組まなければ、特にサル害などは解決できないでしょう。
 その際、大事なのは、人が動物を支配するのではなく「共生」するという考え方です。官民産学の多くの視点を取り入れて、山の整備から地域教育・食育、人口増まで短期的・中期的・長期的に、総合的な取り組みが求められています。


山とともにある生き方をもっと身近なところから

大石将司さん

 私も地域おこし協力隊(中川村)として、村の農産物の振興を軸に活動しており、任期終了後もここで地に根差した生き方をしたいと思っています。
 ゼミでは獣害対策についてもいろいろ学びましたが、私は、そうした対策を練ることも大事だけれど、自分たちのライフスタイルをもっと変えていくことが解決につながるのではないかと考えています。今の生活は山を必要としていません。地域の外部からエネルギーを持ち込み、使うことによって、私たちは生きています。でも、先祖の人達は山とともにある生き方ができていました。
 単純に、昔に戻ればいいと言うつもりはありません。しかし、もっと身近なところから、そういう生活に変えていけること、築いていけることがあるはず。自然が豊かな信州から変えていければ―と思います。

確かな手応え、ゼミが自信に (受講生アンケートより)

 受講前後に行った受講生アンケートによると、地域で主体的・能動的に活動していこうという意識は一段と向上。地域課題解決に向けて相談できる受講生仲間が「6人以上いる」という答えは0%から32%に急増するなど、受講生間のネットワークも大きく広がっており、受講生も確かな手応えを感じていることがうかがえます。

地域戦略プロフェッショナルゼミ修了式

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