
長野県内の市町村と信州大学との地域連携の現状にスポットライトを当てるシリーズ「地域と歩む」。6回目の本号は長野県北部に位置する須坂市を訪ねた。
須坂市と信州大学の連携・協働の歴史は非常に古く、その裾野は広い。須坂市は、豊かな自然と伝統ある歴史、そこに根付いた「ものづくり」の息吹などが象徴だが、それにふさわしく、信州大学との連携も多領域にわたり、かつ、学問領域の壁を超え学際的に〝文理融合〟の色合いが濃くなってきているのが特徴だ。
その中で、特に現在、花を咲かせ、実を結びつつある連携の取組みついて、(1)市内の名所「米子瀑布群」の学術調査委員会の活動、(2)小規模水力発電の進展、(3)蔵の町並みキャンパス事業の現状、(4)旧小田切家住宅の建物調査―の4つに焦点を当ててレポートする。
信州大学との包括的連携協定が調印されたのは国立大学が法人化された平成16年だが、それに先立つ平成14年には、須坂市出身のカーボンナノチューブの世界的権威・遠藤守信特別特任教授が牽引者となり、工学部と須坂市との研究連携センターを開設している。
その後、ものづくりの領域で連携が重ねられその成果は大きく、長野電鉄須坂駅前ビルには遠藤サテライトラボが設置されているほどだ。
だが同時に、平成17年から始まった教育学部土井進教授による信州すざか農業小学校への協力、平成18年スタートの工学部池田敏彦(現特任教授)らの小水力発電を活用した有害獣対策事業、さらに同じく平成18年に着手された蔵の町並みキャンパス事業などを通じて、連携の領域が大きく拡大している。
特に、蔵の町並みキャンパス事業は、工学部・教育学部・人文学部などが中心となり、県内外の他大学とも協力して、須坂の町並み全体をキャンパスとして活用するユニークな試みで、信州大学の地域貢献の一つのスタイルをつくったとも言えるものだ。これは、それ以前から行われていた歴史的建造物の調査・研究・保存・活用の取組みを前史としている。
「米子の瀑布群」学術調査委員会スタート
須坂市街地から南東方向の山間に、四阿山(あずまやさん)と根子岳に源流を発する壮大な二つの滝、権現滝と不動滝がある。
周辺の大岩壁・渓流・小滝などを含めて「米子の瀑布群」とされるこの深山幽谷は、古くから山岳信仰の霊場であり、景勝地として知られていた。
この地を、国の文化財保護法に基づいて「名勝」に指定することによって、適切な管理の下に保全活用し、後世に残すことをめざす取り組みが始まった。平成25年春、須坂市と信大が連携し、「米子の瀑布群」学術調査委員会が設置されその活動がスタートした。
委員会は「名勝候補地として証明したい価値」として、以下の3つを挙げている。
(1)権現滝と不動滝の二条の滝が、四阿山を背景に白い弧を描いて流れ落ちる姿を「ご神体」に見立てたと推測される不動信仰や、修験道の霊場としての性格。
(2)カルデラ地形と溶岩岩壁で作られた見事な景観。特に、柱状・板状節理の岸壁に、雨の日などに束の間現れる幾筋もの滝の壮観さ。
(3)江戸時代の文書「信濃奇勝録」にすでに名所として記載されている歴史性。
特に、中世史の担当である笹本正治信大副学長・人文学部教授は、滝の対岸にあたる奇妙山遺跡からの景観が、「米子大瀑布」の歴史性・宗教性を内包した本来の姿であるとして、和歌山県の那智の滝や栃木県の華厳の滝と並ぶ「信仰の対象」「ご神体」として、「名勝」指定を得たいと考えている。
今後、植生・山岳信仰・地質などの現地調査と、鉱山・動物・水質などの文献調査を行い、平成26年7月までには報告書をまとめる予定だが、文字通り多角的な視野から、須坂市の新たなシンボルづくりが進められようとしているわけである。
委員会の会議には、当然のことながら、須坂市から三木正夫市長、渡辺宣裕教育長も参加、文化庁や長野県教育委員会の文化財関連の職員などもオブザーバーで出席するが、調査・審議の中心は5人の委員となる。
この5人が、ことごとく信大関係者になった。このことは、もちろん偶然のことではあろうが、何か、信大と須坂市のつながりの強さを象徴するものでもあるかに見える。
委員長で名勝景観評価を担当する亀山章東京農工大学名誉教授は、もともと信大農学部で教鞭を振るわれた方。地域史を担当する須坂市文化財審議委員会の青木廣安氏も信大OB。残りの3人は、中世史担当の笹本正治副学長・人文学部教授、植生担当の島野光司理学部准教授、地形地質担当の竹下欣宏教育学部准教授だ。
須坂市、あるいはさらに広く信州のある地点の総合的な学術調査を行う場合に、地域の総合大学としての信州大学が、少なからずお役に立っていることを示していると同時に、信大の地域貢献が、学問領域の壁を超えて、文理融合の形で実現できるようになってきたことを示す、象徴的事態だと言ってもよいであろう。
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