地域コミュニケーション

長野県下伊那郡根羽村+信州大学農学部

連携協定で進む持続可能な村づくり
長野県下伊那郡根羽村

 根羽村は岐阜県や愛知県の県境に位置する長野県南西部における最南端の村だ。人口は1048人(2013年5月現在)、面積の92%が森林で占められている。のどかで緑豊かなこの村は、鳥獣害、遊休荒廃地の増加、人口減少等様々な問題を抱えてもいる。
 そうした農山村の課題解決を図るため、根羽村と信大農学部は2011年から地域連携協定を結び、森林や里山資源の有効活用を目的に、産学官連携の取り組みを進めている。「持続可能」な村づくりを目指した相互の連携を追った。

(文・柳澤愛由)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第82号(2013.7.29発行)より

“シカは美味しい”を伝えるために

牧草でシカを誘引

牧草でシカを誘引し、効率的に捕獲するための実証実験も行っている



竹田 謙一 准教授

信州大学 農学部 食料生産科学科 動物資源生産学
竹田 謙一 准教授
2000年東北大学博士後期農学研究科修了。同年から信州大学助手。2008年から現職。

 「想像以上に美味しい」「臭みがない」。昨年12月、農学部学生食堂にて4日間限定で提供された根羽村産シカ肉使用の「シカ肉カレー」を食べた学生達の感想だ。4日間とも約30分で予定していた数を完売してしまった。
 農学部食料生産科学科の竹田謙一准教授が研究を進めるのは、シカの合理的・効率的な捕獲方法、そしてジビエとしての特産品化だ。昨年、根羽村のシカによる被害は、農林業全体で500万円を超える。村全体で被害が広がっていることを受け、これまで同村猟友会、森林組合、解体処理施設やシカ肉を提供するレストランを有す複合施設「ネバーランド」との連携により、捕獲から流通、消費という一連の流れを構築してきていた。
 三者の信頼関係があったため、ゼロからのスタートではなかったというが、猟友会の高齢化、会員減も進む中、食材として肉質を良く保つことに配慮した、かつ合理的・効率的な捕獲方法の検討は急務だ。それと同時に、より消費を促すためシカ肉を一般の人にも広く食べて貰えるような形での特産品化を進める必要があった。
   しかし、「農学部の学生ですらシカ肉を食べたことがないという学生がほとんどであることも事実でした」と竹田准教授。
 “シカは美味しい”―それをまずは知って貰わなければ利用にも繋がらない。そのための取り組みのひとつが学生食堂でのシカ肉カレーの提供だった。好評を受け、今後は定期的に提供する予定だという。
 また、岐阜女子大と共同で根羽村産の素材を使った弁当を作るという企画でも農学部がメニュー作りに参加。根羽村産のシカ肉とイノシシ肉を使ったイノシカ丼をメインに据え、カボチャやトウモロコシといった村産の農産物を使ったメニューが作られた。この「イノシカ弁当」は、「根羽のはこいり娘」と商品名が付けられ、ネバーランドと道の駅信州新野千石平(阿南町)で限定販売し、約2時間で完売した。
 こうした新しい「食」の取り組みは、シカ肉利用の新たな道筋と販路拡大への確かな手ごたえを感じさせると同時に、地元食材・素材を使った特産品づくりのヒントを得ることに繋がったという。

“生態系サービス”から見出す村の潜在価値

植物種多様性を調査中

根羽杉の高齢人工林で植物種多様性を調査中

 一方、農学部プロジェクト研究推進拠点の城田徹央助教が進めるのは“生態系サービス”の活用により根羽村の潜在的な価値を見出す研究だ。生態系サービスとは、生物や生態系に由来する人間の利益、いわゆる「自然の恵み」を指す。森林、水、食品といった物質的なものの他、美しい景観やレクリエーションの場の提供といった文化的な機能なども含まれる。
 城田助教が取り組む研究のフィールドは、根羽杉と呼ばれるブランド材を産出し、根羽村の人工林の約7割を占めるスギ人工林だ。
 まず行われた調査は人工林の種多様性評価と山菜など資源植物の利用可能性の検討だ。調査の結果、383種の下層植生が確認され、そのうち約180種が資源植物に該当することが確認された。また、こまやかな管理によって、人工林でも多様な生態系を作り出すことが検証された。
 こうしたデータの裏付けと科学的根拠は、「根羽村の魅力を都市住民にアピールするための材料づくりでもある」と城田助教は話す。
 根羽村は矢作川※の水源域の村でもある。その流域は隣県の愛知県にも及ぶ。下流域との連携・交流の中で、水源涵養機能を十分に発揮するための流域全体の森づくりや木材利用を進める「森づくりガイドライン」「木づかいガイドライン」作成に向けた、ひとつのデータとしても位置付けられている。
 ※延長117㎞の一級河川。長野県下伊那郡を水源として岐阜県や愛知県にまで流域が広がる。水系流域内の人口は約69万人。

村の価値を見出し、持続可能な村づくりへ

 その他、食料生産科学科の井上直人教授が遊休農地を活用したソバ等雑穀の栽培が進められており、今後は里山資源を活用した都市と山村の交流促進プログラムや木質バイオマスエネルギーの利用検討も行われている。
 農学部と根羽村との共同事業は、単なる研究とそのフィードバックというだけに留まらない。学生も交えた村民との連携は、「村の価値」に村の人々がいかに気づき、そして村の課題といかに向き合うかを考えるきっかけにもなっているという。
 村の新たな価値を見出し、それが産業を生む。そんな「持続可能な村づくり」を目指した取り組みが徐々に形を作り始めている。

人工林の植生を調査中

学生が根羽村に調査に入り、人工林の植生を調べ上げた

城田 徹央助教

農学部プロジェクト研究推進拠点
城田 徹央助教
2000年九州大学博士後期農学研究科林業学修了。2007~2009年北海道大学大学院農学研究院研究院研究員。2009年より現職。

この村で暮らし続けるために村の「悩み」と向き合う

根羽村森林組合 参事
今村 豊さん
東京都出身。信州大学に進み、大学卒業後は長野県庁に就職。2009年根羽村森林組合に転職。

 根羽村と農学部の連携は、村の人達にも大きな影響を与えています。今、村の最大の悩みは「人口減少」。若い人も、この根羽村で暮らし続けられるような産業の創出を連携協定の中で目指していきたいと思っています。
 村の人々が村の悩みをいかに見つけ、それに対応していくか。信州大学がこの根羽村を活動のフィールドとしてくれていることで、「今、根羽村が抱えている問題は何か」を村の人達が気づくきっかけとなっています。それはさらに、村の魅力の再発見にも繋がること。地域再生のためのモチベーションを持ち続ける原動力にもなっているのです。
 根羽村で生きる人々がこれからもこの地で暮らし続けるための「持続可能な村づくり」を一緒に進めていきたいと思っています。

ページトップに戻る

地域コミュニケーション
バックナンバー
教育学部発!地域志向研究

[ブナの実活用プロジェクト]ブナプロ!

防災・減災 機能の強化を考える

平成26年度信州大学地域連携フォーラム

ふるさと信州の祭再発見 映像で学び再評価する霜月まつり

信州大学×日本ケーブルテレビ連盟 信越支部長野県協議会 連携協定
第3回連携 フォーラム

信州アカデミア 地域戦略プロフェッショナル・ゼミ 

全コース合同成果報告会+修了式

信州大学COC「信州アカデミア」

地域戦略プロフェッショナル・ゼミ開講!

海外事例調査大学の地域“連繋”の先進地域を見る! (Universiyty Engagement)
我らがふるさと  信州の火祭りフォーラム
「豊殿サイエンスキッズ」プロジェクト
地域と歩む。其の七 上田市
地域と歩む 其の六 須坂市vol.2
地域と歩む。其の六 須坂市 vol.1
長野県下伊那郡根羽村+信州大学農学部
伊那谷を農林ビジネスの拠点に
「変貌する里山」平成24年度公開講座
地域と歩む。 其の五 長野市vol.2
地域と歩む。長野市 vol.1
地域と歩む。其の四 Vol.3
地域と歩む。其の四 vol.2
地域と歩む。其の四 vol.1
地域と歩む。其の参 vol.3
地域と歩む。其の参 vol.2
地域と歩む。其の参 vol.1
名前の落としかた ~名づけと名付け以前とをめぐる~(人文学部)
地域と歩む。 其の弐
地域と歩む。其の壱
MINIKURART 【ミニクラート】
絵本制作グループ ”共創デザインラボ”
里山ボランティアサークル「洞楽村」
こいこい松本~松本国際ふるさと祭り~
伊那守【いなもり】 (農学部)
team HACILA(工学部有志)
"装いとまち”で展覧会をつくろう!
ハナサカ「軍手ィ」プロジェクト