スペシャルレポート

工学部で「ひらめき☆ときめきサイエンス」開催

理工系の学びの楽しさを子ども達に!

 大学における研究成果を小中学生・高校生にも広く知って貰うことを目的にした小中高生向けの体験型科学イベント「ひらめき☆ときめきサイエンス~ようこそ大学の研究室へ~」が、平成26年8月9日、信州大学工学部で開催された。
 本事業は、「科学研究費助成事業(以下:科研費)」の成果を広く一般に知って貰おうと、(独)日本学術振興会(JSPS)が大学や各研究機関と連携し、実施するもので、今年度は信州大学工学部が実施機関のひとつとなって開催した。プログラムの企画をしたのは、科研費をもとに研究を行う5人の研究者。
当日は、申し込みのあった85名の小中高生が工学部・長野キャンパスに集まり、希望するプログラムへそれぞれ参加した。キャンパス内は、子ども達の明るい声が響き、活気に溢れていた。

(文・柳澤愛由)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第89号(2014.9.30発行)より

※科学研究費助成事業(科研費)とは...
大学などの研究機関で研究者の自由な発想で取り組まれる学術研究を、研究費の面から支える事業。国の予算をもとに支出され、毎年、10万件ほどの応募のなかから、3万件ほどの研究が選ばれる。文学や歴史から自然科学まですべての分野で、幅広い研究活動を支えている。

サイエンスを“五感”で学ぶ

実験を行う子ども達
真剣な様子で実験を行う子ども達
スプーンで飛行船を動かそう
スプーンで飛行船が飛ばせるのかと心弾ませる子ども達

 手嶋勝弥 学術研究院教授(工学系)が実施した「水をキレイにする化学」と題したプログラムでは、オレンジジュースを透明にしたり、活性炭を使った水の浄化の仕組みを学んだりする実験を行った。オレンジジュースを浄水器でろ過すると、たちまち透明の液体となり、子ども達からは驚きの声があがった。
 手嶋教授は、「人工結晶」を用いて水の有害イオンをナノレベルまで除去する技術や次世代型小型高性能電池の開発などを研究テーマとして扱っている。先駆的な研究を進める手嶋研究室だが、今回、子ども達に行ってもらった実験も、本質的な部分は同じ。実際の研究をより身近なもの、安全なもので置き換えているだけなのだという。
 「特に『水』は生活の中で欠かせない存在。子ども達でもその重要性は理解できる」と手嶋教授はその意図を語る。
 香山瑞恵 学術研究院准教授(工学系)は、「コンピュータ・サイエンスの基礎の基礎:不思議なスプーンで飛行船を動かそう!」というプログラムを実施した。
 コンピュータは「0」と「1」の信号を組み合わせることで、様々な指令を出している。本プログラムは、普段食べるときに使うスプーンでその指令を出 し、飛行船を動かそうというものだ。つまり、スプーンを叩かない=「0」、叩く=「1」、という符号に置き換え、この動作を組み合わせて「0101」といったコードを子ども達が設計する。そのコードを前・後・左・右などの動きに変換、それを飛行船に組み込み、運行制御する。「スプーンを叩く」という身近な現象を用いることで、コンピュータ内部で起きていることを実体験の中に落とし込みながら、体感的に理解させることを目指している。
 子ども達はスプーンで飛行船が飛ばせるのかと、驚きながらも心弾ませた様子で、香山准教授の説明に聞き入っていた。
 樽田誠一 学術研究院教授(工学系)が実施したのは「光る雲母を作って見よう」というプログラム。雲母は、化粧品や塗料などにも利用される身近な物質。燃料電池の材料に応用する技術開発も進んでいる。今回は、雲母の化学合成実験と共に、特殊な添加物を添加し「光る雲母」を作ることで、その性質や光る要因などについて、子ども達と共に考察した。最初、子ども達は白衣に着替えながら、本格的な実験を前に少し不安げな様子。しかし、いざ実験が始まると、わくわくとした表情で実験結果に見入っていた。
 目で見て、匂いをかぎ、味をみて、手で触って体感する。普段なかなか学校では教わらない五感で感じる科学の世界に、子ども達は歓声をあげたり、黙々と作業をしたり、時には素直に疑問をぶつけたりと、様々な反応を示しながら真剣に取り組んでいた。

信大生の役割は、未知の世界の“楽しさ”を伝える

空気砲
子ども達と手づくりした空気砲
シーソー型のキット
シーソー型のキットを組立てながら自動制御の仕組みを学んだ

 本事業は信大生の存在も欠かせない。準備や進行だけでなく、子ども達と大学との橋渡し的存在としての役割も担った。
 例えば、飯尾昭一郎 学術研究院准教授(工学系)の研究室では、「ながれの不思議~渦を利用した輸送から飛行まで~」と題し、流体力学の基礎を学生がレクチャー。その後、体育館に移動して、実際の空気の流れを観察できる「空気砲」を子ども達と手作りし、流体力学の世界を共に実体験。
 本プログラムは、講義から実験まで、学生達が中心となって準備した。年が近いせいもあり、講義中、打ち解けた子ども達からは「何で?」「どうして?」という素朴な疑問が投げかけられ、それに丁寧に回答する姿が見られた。
 千田有一学術研究院教授(工学系)が実施した「組み立てて制御してみよう!シーソーに載せたボールがひとりでに止まるよ」というプログラムは、シーソー型のキットを組み立てながら車両などの自動制御の仕組みを学ぶ、という内容。ここでも学生が活躍した。
 このキット、実は大学の研究でも使われる本格的なもの。1から組むと4時間はかかるという。それを彼らは、実習時間内の2時間で済むよう、参加者分の20数個を事前に準備。「好きだからこそできる」と千田教授。当日も、いきいきと子ども達にその組み立て方や仕組みを教えていた。
 「学生達の、科学が好き・楽しいんだ、という気持ちが、子ども達にも伝わって欲しい」。そう千田教授は期待する。

子ども達の夢が、科学の“め”(目・芽)を育む


 「将来はロボット博士になりたい」
 千田教授のプログラムに親子で参加していた長野市の小学校に通う男の子は、真剣な眼差しで語った。これまでも、他の施設で催される同様のイベントには参加したことがあったというが、「これまで作った中で一番難しい」と、悩みながらも真剣な様子。
 男の子の母親は、「大学構内には、なかなか入る機会がありません。今回のような本格的なキットも、簡単に手に入るものではなく、大学の様子も知ることができて、いい機会を与えていただいた」と、参加した感想を笑顔で話していた。全工程を修了すると、参加者には修了証書「未来博士号」が授与され、子ども達からは嬉しそうな笑みがこぼれた。
 全プログラムを見学した大石修治工学部長は、「小さな頃のちょっとしたきっかけや実体験、憧れがその人の未来を決めることもある。そのきっかけの一つになったのではないかと思います」と、期待を込めて語った。
 この事業は、科研費の成果と大学研究への理解を深めてもらうことが直接の目的だが、同時に、大学という場で、科学の楽しさや面白さ、不思議な感覚に触れてもらい、理工系への関心を広げて欲しいという強い思いも込められている。また、とかく「敷居が高い」というイメージを持たれがちな大学を、子どもの目を通し広く地域に開きたいという願いもある。
 子どもの「科学離れ」の傾向は各方面で耳にする話だ。しかし今回、各教室では、目を輝かせながら、純粋に科学の世界を楽しむ子ども達の姿があった。こうした経験は、科学の楽しさと不思議を実感すると共に、世界を見る“目”を変えるきっかけにもなるだろう。そして、そのちょっとしたきっかけが、小さな科学の“芽”を生むこともある。それが10年後、100年後の画期的な研究成果に結び付くこともあるかもしれない。その“め”(目・芽)を育むこともまた、地域に根付く国立大学の役割のひとつになっている。

理学部でも開催! 子ども向け科学イベント

「青少年のための科学の祭典2014松本大会」
科学の祭典

 小中学生・高校生を対象に科学の楽しさや面白さを体験してもらうことを目的に毎年実施している「青少年のための科学の祭典2014松本大会」が、平成26年8月9日・10日、理学部(松本キャンパス)で開催された。本祭典は、(公財)日本科学技術振興財団・科学技術館が主催し全国で実施されているもので、信州大学が長野県を受け持ち、毎年、理工系の各学部が持ち回りで開催している。
 今年度は理学部が主体となり、各教室を開放。理学部以外からも教育学部や工学部、また民間企業や近隣の高等学校の自然科学部などからの出展もあり、ブース数は60を超えた。
 大学出展のブースでは、大学が研究対象としている内容を子ども達に分かり易く伝えるため、工夫を凝らした展示や体験コーナーを用意。強い磁気力を発する大型装置の体験や宇宙線を観察する展示など、普段なかなか触れることのできない装置や展示に、歓声をあげたり、真剣に覗き込んだりする子ども達の姿がみられた。
 本祭典の実行委員会事務局を務める竹下徹 学術研究院教授(理学系)は、「実際に見たり、体験したりすることで、科学の様々な分野に興味を持ってもらい、将来を担う子ども達に何かしらインパクトを与えることができれば」と話した。

ページトップに戻る

スペシャルレポート
バックナンバー
信大には、独創力を育む環境がある。

信州大学伝統対談 Vol.2 濱田州博学長×スタジオジブリ 宮崎吾朗さん

どくとるマンボウと信大生のDNA

信州大学特別対談 山沢清人学長×エッセイスト齋藤由香さん

信大発夏秋イチゴ「信大BS8-9」の魅力

北海道から九州まで、全国へ栽培拡大!

信州大学 SVBL 設立10周年記念シンポジウム

理念と信念を持って行動 経営者に聴く、起業の心構え

CITI Japanプロジェクト

研究倫理教育責任者・関係者連絡会議

ひらめき☆ときめきサイエンス
100億光年かなたの天体の立体視を確認
往来と創発
栄村秋山郷で小水力発電システム稼働開始
第3回東アジア山岳文化研究会
座談会 信州大学と「春寂寥」
JST-RISTEX「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」採択事業
大学と県民一体で目指す健康長寿県「信州」
長野県北部地震 災害調査研究報告会 in長野県栄村
山岳科学研究のメッカを目指して
「運動を核にした健康寿命延伸社会のデザイン」
信州大学自然科学博物館オープン!!
かつての諏訪湖を取り戻そう!
医療人を目指す女性のために
信州大学大学院医学系研究科疾患予防医科学系専攻設立。
日本科学未来館でキックオフセミナーを開催。
医師・看護師をめざしたい! 中高生のための診察・手術体験 「メディカルフォーラム イン 信州2011」
「地下水制御型高効率ヒートポンプ空調システム」実証実験プラント竣工
農学部の学生地域活動グループが長野県知事とタウンミーティング
子どもの健康と環境に関する全国調査
池上彰 信州大学特任教授の夏期集中講義
「大学は美味しい!!」フェアに参加
繊維学部創立100周年関連行事
信州メディカルシーズ育成拠点設置
信州大学創立60周年まとめ