スペシャルレポート

池上彰 信州大学特任教授の夏期集中講義

池上彰 信州大学特任教授の夏期集中講義

日本初、ゴールデンタイムのニュース解説番組を高視聴率に導き、テレビや雑誌など多くのメディアに登場している池上先生。そのわかりやすいニュース解説は、絶大な人気を誇っている。

池上先生は松本市出身。NHK 記者時代に経済学部を取材したことが縁となり、現在は特任教授に就任している。

講義では、「現在の経済を分析する上で、知らなければならない現代史」、特に「日本との関係における、第二次世界大戦後の世界史」をジャーナリストならではの視点で解説。まさに“ そうだったのか!”の事実と熱く、軽妙な語り口に、約330人の受講生(一般聴講者を含む)が引き込まれた。

4 日目の講義を終えた池上先生に、笹本副学長がインタビュー。現代史を学ぶことの意味や、学生たちに知ってほしい思いなどを聞いた。

                                                                           ・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第65号より

現代史「未修」。その溝を埋めたい

池上 彰 特任教授と笹本 正治 副学長
左:池上 彰 特任教授   右:笹本 正治 副学長

笹本: 今回の授業で池上先生が一番伝えたいことはなんでしょうか?

池上: 経済学部の授業ですから、現在の経済を分析する上で、「なぜ今、世の中がこう動いているのか」「日本が、世界がどうなっているのか」を知るためには、今より少し前のことを知らなければならない。けれど高校の歴史の授業は第二次世界大戦までくらいで終わっていて、その状態のまま、大学の授業を受けなければならない。その溝を埋めるような授業ができればと考えながらやっています。

笹本: 信大生の印象はいかがですか?

池上: ひたすら真面目ですね。私語をする人も居眠りもいない。こんなに真面目でいいのかと思うほど真面目です。例えば「先生はそう言うけどね」というような批判意識が、もう少しあると、もっといいかなと思いました。

有機的、立体的に考えるための材料を提供

笹本: 学生たちは批判意識は持っていますが、今日の授業のように、自分たちがまったく習ったことがない現代史の事実を前に、反論できるところがなかったのではないでしょうか。池上先生は沢山ある歴史上の事実の中から、どうやって「話す部分」を選ばれているのでしょう?

池上: 常に「今、こうなっているのはなぜか?」をわかってもらえるようにと考えています。例えば、日本の若者は、中国の若者の「反日意識」に驚いている。なぜなのか? それを知るには、過去を遡らなければなりません。

天安門広場で、学生たちが命がけで要求した民主化は進んでいません。そんな中で、中国共産党の政治的正統性を問う学生の反乱は、幹部にとって恐怖となった。そこで、「中国共産党の政治的正統性」を学生に叩き込むことにした。全国の学校で「愛国教育」という名の「共産党を愛そう」教育が実施されます。

かつて中国人民は、日本軍国主義によって悲惨な生活を強いられた。それを打ち破り、中国人民を解放したのが共産党である。共産党の偉大さを強調するため、それ以前の人民の悲惨さを強調した。結果的に「反日教育」になってしまったんだよ、と学生たちに話しました。昨日は、北朝鮮がひどい状態なのは中国の真似をしたから。では中国ではどんなことが行われていたのかということを今日話しました。一昨日はソ連のスターリンのもとで悲惨なことが行われたことを話しました。単に中国の現代史だけではなく、よその国で起きたことがそれぞれの国に有機的に繋がり、結果的に東西冷戦の中でこのようなことがあったということを、立体的に見てもらえる「材料になる」ものを選んでいます。

まず知ること。「学び」は自分で深めて

対談中の池上彰特任教授

笹本: 事実の確認はどのように行っていらっしゃいますか?

池上: 膨大な資料に当たり、現地に行って調査し、インタビューを取ります。データを使う時には必ず出典を明らかにしています。が、事実の確定は難しい。「これが事実」と思ってやっていますが、学生にはぜひ、「本当かどうかわからない」という批判的な目を持って聞いてもらいたいですね。

笹本: 私は歴史を学ぶことは「未来を学ぶ」ことだと思っているのですが・・・。

池上: まさにその通りです。独裁者の国は後継者が育たず、結果的に国が弱くなる。企業も同じです。昨日は企業の実名を挙げ、「カリスマ指導者がいなくなったら潰れてしまった例」などを話しました。「今日は無礼講」という会社ではなく、毎日が無礼講で、上に何でも言える会社が伸びていく。現代史を学ぶことは社会に出た時に参考になるということですね。

でも、私が話しているのは極めて初歩的なレベルです。まずは「こんな問題があることを知ってほしい」。そのことに学生の皆さんが触発され、もっと知りたい、学びたいという気持ちになり、自ら学びを深めてくれることこそ、私が一番望んでいることです。

インタビューを終えて  笹本正治

授業も受けさせていただきましたが、おもしろく、わかりやすく、学生たちを引き込む、とらえて放さない力はさすがでした。知らなければならない事実はたくさんあり、授業の中から、何を取りだし、次の世に向けて行動をとるか。それが個々人の課題です。

授業直後にもかかわらず、疲れも見せず、熱意を込めた話しぶりはテレビや授業と同じ。自分は教員として、「事実を易しく伝える」という難しいことへの努力をどれだけしているか、課題を突きつけられた思いです。多くのことを学ばせていただきました。

 

池上彰先生集中講義の内容

・8月2日
1)東西冷戦とはなんだったのか
2)ドイツの東西分割とベルリンの壁崩壊
3)ソ連の誕生と崩壊

・8月3日
4)中国と台湾の対立
5)朝鮮戦争とその後
6)中東戦争とその後

・8月4日
7)ベトナム戦争と日本
8)キューバ危機と核開発競争
9)ポルポトの悪夢

・8月5日
10)天安門広場が血に染まった1
11)天安門広場が血に染まった2
12)天安門広場が血に染まった3

・8月6日
13)ひとつのヨーロッパへの夢
14)911そしてイラクとアフガニスタン
15)期末試験

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