
信州大学大学院医科学系研究科(松本市)は早稲田大学大学院スポーツ科学研究科(埼玉県所沢市)と共同して、「運動を核にした健康寿命延伸社会のデザイン」と題した第1回の合同市民公開講座を、平成24年12月15日(土)、キッセイ文化ホール(松本市)で開催した。
4月に締結した両大学院の学術連携協定に基づいた初めての試みで、両大学院の研究者、連携する企業、行政関係者らが各分野からの研究成果、事例紹介等があり、講演者を含む65名が耳を傾けた。
市民、関係者合わせて65名が参加
年をとっても生き生きと暮らしたい、という思いを持つ人は多い。そのためには「運動」が必要不可欠だ。しかし、高齢者がスポーツ選手のような運動を行ってはかえって体に負担がかかってしまう。熟年者が効率良く運動し、健康長寿を実現させるためには何が必要なのか。――
信州大学大学院医学系研究科と早稲田大学大学院スポーツ科学研究科は、こうした課題を科学的に解明し、健康寿命延伸のための研究を、それぞれ進めてきた。それを踏まえて、特に、スポーツ医科学分野において「高齢者の健康長寿のための個別運動処方の国際標準化」を目指して学術協定を締結したのである。そして、広く市民に向け、「スポーツ」と「科学」の融合による研究成果を広めることを目的にして、合同市民講座を開催したのだ。
信大の能勢博教授は、40歳以上を対象にした「熟年体育大学」の事業について講演。早歩きとゆっくり歩きを繰り返すインターバル速歩、トレーニングの成果記録等が出来る携帯型カロリー計、インターネットを使った遠隔型個別運動処方システムなどを使った約5200名の運動指導の結果を提示し、持久力・体力の向上、血糖値等に改善が見られたことを報告した。国外でも検証を行い高い評価を受けている事業であり、「早稲田大学他との連携で日本に留まらず広くこの事業を進めていきたい」と呼びかけた。
続いて信大の増木静江助教は、継続的な運動習慣が定着し易いか否かは遺伝子レベルの違いによることなどを指摘、分析を進めることで個別の運動指導が可能となることを示唆し、注目を集めた。信大の橋本繁成助教は、「運動による炎症性遺伝子修飾(メチル化)」と題し、運動による予防医学への展望に期待を込めた研究成果を報告した。
研究報告を行う増木静江助教、橋本繁成助教
続いて、文科省、科学技術振興機構からは高齢者の体力づくりに関する支援事業や、各地で行われる高齢者の虚弱予防に関するプロジェクト事例が紹介された。
また、企業側からは、IT関連企業のキッセイコムテック(株)が健康医療に関する情報通信技術について報告した。健康機器のメーカーオムロンヘルスケア(株)からは、インターネットやアプリを使って個人が手軽に健康状態を管理できるサービスについての紹介があった。さらに、日本マイクロソフト(株)からはIT技術を活かした医療分野における未来型情報ビジネスのビジョンが提示された。
早稲田大学からは、文科省によって採択されたグローバルCOEプログラム「アクティブ・ライフを創出するスポーツ科学」に関わる研究者らを中心に、熟年者でも続け易い運動についてや地域における健康づくり戦略に関しての研究報告が行われた。
「スポーツと科学を結びつける人はそう多くはない」と言われる。だからこそ、早大などの教育研究機関や、企業・行政等と連携して、健康長寿を実現するためのスポーツ医科学分野の理解を広く図ることが急務となっている。
長寿国でもあり、超高齢化社会を迎えるとされる日本が、今後、いかに「健康寿命」を延ばしていくのかは、国内外からも注目される分野である。
市民講座は今後も両大学で交互に開催していく予定だ。
文科省スポーツ振興課溝部康雄氏、科学技術振興機構(JST)前場康介氏
企業側からの視点で講演したキッセイコムテック(株)の長岩利幸氏、オムロンヘルスケア(株)志賀利一氏、日本マイクロソフト(株)の神田宗宏氏
早大におけるスポーツ科学研究を説明する彼末一之教授、研究発表を行う早大若手の研究者丸藤祐子助手
最新の研究成果を報告する早大若原卓助教、荒尾孝教授、樋口満教授
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