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研究ハイライト

  1. 「異文化」を明らかにする文化人類学
注目の研究
2018年3月26日(月)

「異文化」を明らかにする文化人類学

学術研究院 総合人間科学系・准教授 分藤大翼

 私の専門は、フィールドワークに基づいて「異文化」を明らかにする文化人類学です。大学院生だった1996年より、中部アフリカのカメルーン共和国の熱帯雨林地域をフィールドとして、そこに暮らすBaka(バカ)という狩猟採集民の文化を調査・研究しています。
 文化人類学におけるフィールドワークには4つの条件があります。1. 長期滞在、2. 現地語の習得、3. 信頼関係の構築、4. 現地社会の一員になること、です。人の暮らしは季節に応じて変化しますから、ある人々の生活を知りたいのであれば、一年を通じて暮らしを共にする必要があります。観察だけではなく聞き取りを行うためには、現地の人々が話す言葉ができなければなりません。当然のことながら、現地の人々との間に信頼関係がなければ、一緒に暮らすことも調査もできません。また、「よそ者」のままでは大切なことを教えてもらうことはできません。現地社会の輪の中に、なんとか入れてもらう必要があるのです。文化人類学における異文化理解とは、このような取り組みの中で、少しずつ果たされるものです。植民地化(グローバル化)が進行する時代に、文化人類学は研究と内省を積み重ね、異なる文化を生きる人々が、支配と従属、搾取-被搾取という関係に陥ることなく共に生きてゆく道を模索しています。

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子供たち

水浴びついでの川遊び.JPG

水浴びついでの川遊び

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精霊の踊り

 狩猟採集民の文化を学ぶ意義は、人類の未来について考えるヒントを得るためです。人類は一万年ほど前に農耕や牧畜を始めるまで、その歴史の99%以上の期間を狩猟採集民として生きてきました。自然を人の都合の良いように作り変えて利用する農耕や牧畜に対して、狩猟採集はありのままの自然から食料を手に入れるという生き方です。一日のうち狩猟採集活動にあてられる時間は5時間程度。それも多くは楽しみとして行われています。また、手に入れたものは分かち合うため、食べることに困る人はいません。平等性を重んじるため、集団を統率するような者もいません。集団間の人の移動が頻繁なため、人間関係が煮詰まるようなこともありません。子供は親だけではなく、周りにいる年長者が共同して育てます。このような生き方を踏まえた上で、私たちは現在の生き方を見つめ直し、未来の社会を作り上げてゆく必要があるのではないでしょうか。
 私はBakaという人たちが行っている歌や踊りを中心に、その背景となる精霊に関する認識や、精霊によって執り行われる儀式について。また、歌と踊りの場で形成される対等な人間関係などをテーマに研究を進めてきました。さらには、2002年から映像を活用した研究も行っており、共編著『フィールド映像術』(古今書院)では、Bakaの人々の生活を改善する目的で実施している研究について紹介しています。これまでに制作した映像作品は、いずれも国内外の映画祭等で上映されており、『jo joko』というBakaの食文化を描いた作品は、セルビア共和国の映画祭においてUNESCO南東ヨーロッパ無形文化財保護地域センター特別賞を、フランスの映画祭において観客賞を授与されています。

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煮える鍋

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籠一杯の食料を持ち帰る