メインコンテンツへ移動

メニュー
閉じる
閉じる

研究ハイライト

  1. 全国でも知られる、信州を代表する伝統野菜 野沢菜で信州の食習慣と免疫再発見!
注目の研究
2021年11月1日(月)

全国でも知られる、信州を代表する伝統野菜 野沢菜で信州の食習慣と免疫再発見!

 長野県の漬物の代名詞として知られている「野習菜漬け」。しかし、その機能性はあまり知られていません。信州大学農学部の田中沙智准教授(学術研究院 農学系)は、野沢菜に含まれる糖の一種が生体内の免疫細胞に作用し、免疫機能を高める効果があることを発見しました。田中准教授が免疫学や予防医学の視点から探求を続ける、長寿県信州の食習慣と免疫の関係性について、ご紹介します。(文・柳澤 愛由)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第129号(2021.9.30発行)より

hatake2.JPG_1.jpg
nozawana raw.JPG_3.jpg

野沢菜に見る食習慣と免疫機能の深くて長い関係

tanakasensei3_4.jpg

P R O F I L E
信州大学学術研究院(農学系)准教授
田中 沙智 (たなかさち)
2009年東北大学大学院農学研究科修了。
北海道大学、帯広畜産大学を経て、2013年10月より信州大学農学部に赴任。
2018年より現職

 人の体内には、細菌やウイルスなどの異物を排除し、炎症を抑制するための免疫機能が備わっています。しかし、食生活の乱れやストレス、加齢など、さまざまな要因によって免疫機能は低下してしまうことが分かっており、それがアレルギーやがんなどの疾患の原因になることも少なくありません。とくに、食生活は免疫機能に大きな影響を及ぼします。田中沙智准教授は、食と免疫機能の関係性について、免疫学、栄養学、予防医学の面からアプローチを続けています。注目するのは、長野県独特の食文化です。
 「食と免疫機能の関係については、明らかになっていないメカニズムがまだまだたくさんあります。長野県で古くから食べられている野沢菜漬けの機能性も、そのひとつでした」と田中准教授。
 田中准教授が野沢菜の研究を始めたのは、2015年頃。野沢菜は、長野県が認定する「信州の伝統野菜」のひとつで、県内各地で広く栽培され親しまれている漬菜です。しかし、その機能性を科学的に調べた研究は多くありません。田中准教授は、まず、野沢菜とその他の野菜との違いを明らかにするため、野沢菜を含めた49種類の野菜を集めてスクリーニング調査を実施。免疫を司るマウスの脾臓細胞に野菜の抽出物を添加し、免疫細胞の活性度合いを調べました。指標としたのは、インターフェロン-γ。免疫細胞から分泌される、サイトカインと呼ばれるタンパクの一種です。生体内のさまざまな免疫細胞の増殖や活性に影響を与え、ウイルスなどの異物を排除するのにも重要な役割をもつ物質です。調査の結果、アブラナ科やユリ科の葉菜類が断トツ、中でも野沢菜はトップクラスでインターフェロン-γの産生を促す効果が高いことが分かってきました。

mechanism.JPG
comparison3.JPG_1.jpg

野沢菜漬けがもつ免疫アップ効果のメカニズムとは

nozawana2.JPG

生よりも漬物!
生よりも漬物の方が免疫賦活効果を高めることも明らかに。発酵に伴う乳酸菌の増加が要因

 インターフェロンの産生を促しているのは、野沢菜に含まれる多糖と呼ばれる糖類の一種であることも分かってきました。多糖は、単糖が多数結合した物質で、生体内の免疫細胞のひとつである樹状細胞を刺激します。そこから免疫細胞刺激物質が産生し、免疫細胞の一種ナチュラルキラー細胞に作用し、インターフェロンの産生が促され、さまざまな免疫細胞をさらに活性化させます。それが、野沢菜が免疫機能を高めるメカニズムです。野沢菜の抽出物を食べさせたマウスと食べさせないマウスとで行った比較実験でも、食べさせたマウスの方がインターフェロンの産生量が大きく増加していました。
 興味深いことに、生の野沢菜よりも野沢菜漬けの方が、インターフェロンの産生量を増やす効果が高いことも明らかとなりました。「しかも浅漬けよりも半年以上漬けた古漬けの方が、効果が高いことが分かりました」(田中准教授)。その理由は、恐らく乳酸菌。野沢菜漬けは古漬けになるほど乳酸発酵が進みます。田中准教授は、野沢菜漬けにどのような乳酸菌が働いているのかも調査し、それらが免疫機能にどう関わっているのか、詳細なメカニズムの解明も続けています。また、ウイルス感染症抑制効果も期待できることから、インフルエンザウイルスでの試験も始まっています。
 「食と免疫機能の関係をより多くの人に認識してもらうには、ストーリーが大切だと考えています。野沢菜は、信州の人にとって非常に身近な野菜のひとつ。冬になると多くの家庭で野沢菜漬けが食卓にのぼります。歴史的にも文化的にも、野沢菜は十分なストーリーを持っていました。それが魅力ですよね」(田中准教授)

長寿県信州の伝統食材に秘められた未知の可能性

shimidoufu.JPG_2.jpg

今年4月には、凍り豆腐の免疫効果も報道発表!

 2021年4月、田中准教授は、長野県飯田市の凍り豆腐メーカー旭松食品(株)との共同研究により、凍り豆腐(高野豆腐)に含まれるタンパク質の一種レジスタントプロテインも、インターフェロン-γの産出を増加させる効果をもつことを発見しました。凍り豆腐は豆腐を凍結乾燥させた保存食で、市場に出回る9割以上が長野県内の食品メーカーで製造されています。
 信州の食習慣と免疫の関係について探求を続ける田中准教授。研究の先にある目標をお聞きしました。「食品免疫学を極めながら、いずれ食品の免疫機能性を簡単にスクリーニングできるシステムを構築できたらと思っています。食べて健康になれる、疾病を予防できる、そんな食品を簡単に探すことができるシステムができたら、また新しい可能性が拓けるはずです」(田中准教授)。長寿県信州の食習慣には、まだまだ明かされていない未知の可能性が秘められているのかもしれません。