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研究ハイライト

  1. 工学部:太陽光と水からクリーンな水素エネルギーを作る光触媒の開発  先鋭領域融合研究群 環境・エネルギー材料科学研究所 特別特任教授 堂免一成
注目の研究
2018年3月26日(月)

工学部:太陽光と水からクリーンな水素エネルギーを作る光触媒の開発  先鋭領域融合研究群 環境・エネルギー材料科学研究所 特別特任教授 堂免一成

人工光合成プロセスにおける効率と拡張性のブレークスルーを目指します

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図1 粉末光触媒による水分解反応.

 私たちは日常生活を送る中で多くのエネルギーを利用しており、そのエネルギー資源の8割以上を化石資源に依存しています。私たちの社会が化石資源に依存したまま発展していけば、資源の枯渇や供給体制の不安定化、温室効果ガスである二酸化炭素や酸性雨の原因となる窒素酸化物や硫黄酸化物の排出量の増加により、地球規模でエネルギー問題や環境問題が起こると懸念されています。
 化石燃料にかわる新たなエネルギーとして水素が注目されています。水素は理想的な条件下では燃焼しても生成物として水しか生じませんし、高エネルギー密度の燃料として長期間保存することができます。また、化学工業における重要な原料でもあり、水素を利用して二酸化炭素や窒素を資源化して有用な化合物を製造することも可能です。しかし、現状では、水素製造の様々な過程で化石資源が利用されています。エネルギー問題や環境問題を根本的に解消するには、正味で化石資源を用いずに水素を製造できる技術の開発が必要です。
 持続可能な水素の製造方法の一つとして、太陽エネルギーと光触媒を用いて水を水素と酸素に分解する反応が研究されています(図1)。ここで用いられる光触媒は半導体であり、光を吸収することで負電荷をもった電子と正電荷をもった正孔が発生し、それらにより酸化還元反応が引き起こされて水が分解されます。再生可能な太陽エネルギーにより反応が進行するので、究極的には化石資源を消費することなく水素を作ることができると期待されています。このような、太陽エネルギーを利用して低エネルギー物質を高エネルギー物質に変換する化学プロセスは人工光合成とよばれ、近年活発に研究されています。

 太陽エネルギーを有効に利用するには可視光を吸収して活性を示す光触媒の開発が必要です。当研究室ではそのような光触媒材料として主に粉末状の酸窒化物、窒化物、酸硫化物半導体を研究しています。これらの材料群には長波長の可視光を強く吸収するものが数多く知られています(図2)。こうした光触媒材料群を高活性化するために、材料の合成法と物性、活性化の手法や光触媒作用の相関を詳しく調べています。また、実験室で得られた知見を実社会で役に立つものにするために、大面積に展開可能な光触媒反応器の製作にも取り組んでいます。

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図2 様々な色を呈する窒化物系粉末光触媒材料.

 当研究室では太陽光照射下で効率よく水を分解できる反応系として、2種類の粉末状の光触媒が導電性材料に固定化された光触媒シートを提案しています(図3)。光触媒シートは構造が単純で、水中に設置して太陽光を照射するだけで水を分解することができます。また、大面積に拡張しても活性が低下しないという特徴があります。光触媒シートを用いて、粉末光触媒による太陽光水分解反応としては世界最高レベルの、1%超の太陽光水素エネルギー変換効率が達成されています。

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図3 光触媒シートによる水分解反応.許可を得て文献1,2より改変引用.c 2016, Springer Nature,c 2017 Elsevier B.V.

 さらに、光触媒シートを大面積に展開するのに適したパネル反応器を研究しています。パネル反応器に光触媒シートを格納すると、水深がわずか1mmであっても実用上十分な速さで水を分解して水素と酸素を放出できることがわかっています。水深を浅くすることで、水の重量を従来のフラスコ型の反応器と比べて大幅に低減できます。そのため、パネル反応器は軽量で安価な材料で製造できる可能性があり、大面積化に適していると考えられます。実際、試作した1㎡サイズの光触媒パネル反応器は、光触媒シート本来の活性を損なうことなく、太陽光照射下で水を水素と酸素に分解できることが確認されています(図4)。

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図4  1㎡スケールの光触媒パネルの模式図と外観.許可を得て文献3より改変引用.© 2017 Elsevier Inc.

 現在、研究室では、長波長の可視光照射下で水を分解する光触媒材料、粉末光触媒をシートに加工するプロセス、パネル反応器の100㎡スケールへの拡張に関する研究等を、物理化学、触媒化学、化学工学的観点から進めています。また、外部の研究者と共同で、水素を分離・精製するプロセスの構築、人工光合成システム全体のエネルギー効率や経済性の評価と最適化にも取り組んでいます。

文献
1. Wang et al., Scalable water splitting on particulate photocatalyst sheets with a solar-to-hydrogen energy conversion efficiency exceeding 1%. Nat. Mater. 2016, 15, 611.
2. Hisatomi et al., Progress in the demonstration and understanding of water splitting using particulate photocatalysts. Curr. Opn. Electrochem. 2017, 2, 148.
3. Goto et al. A Particulate Photocatalyst Water-Splitting Panel for Large-Scale Solar Hydrogen Generation. Joule, https://doi.org/10.1016/j.joule.2017.12.009.