卒業式 学長告辞
令和5年度卒業式・学位記授与式学長告辞 (2024年3月)
この映像は令和6年3月21日信州大学松本地区卒業式・学位記授与式での学長あいさつを収録したものです。
皆さん、ご卒業・修了・学位取得、おめでとうございます。本日ご臨席を賜りました関係者の皆様方とともに、心からお祝いを申し上げます。
思い起こせば、学部卒業生の皆さんが入学された令和2年は大変な年でした。新型コロナウィルス・パンデミックがもたらした影響は甚大で、皆さんの重要な人生の節目であるべき入学式を執り行うことが叶いませんでした。このことを思い返す度に、私たちは深い悔恨の念に駆られます。講義は初年次からオンライン授業、課外活動やアルバイト等も大きく制限され、それらは、皆さんが思い描いていた学園生活とは程遠いものではなかったかと思います。そのような中でも皆さんは、一心不乱に勉学に取り組まれ、今日のこの日を迎えられました。この間の皆さんのご努力に対し、まずは心から深い敬意を表します。人生無駄なものは何一つない、と言われています。皆さんが経験されたことは、皆さんの人生において決して無駄にはならないはずだと、固く信じています。北米では、卒業式・学位記授与式のことをコメンスメントと呼んでいますが、これは、このセレモニーが"新たな人生の始まり"に位置しているということに由来します。この人生の新たな始まりにあたり、信州大学で何を学び、何を身に付けたか、そして何ができるようになったか、今一度、自らの歩みを振り返ってみていただければと思います。
『何ができるようになったか』については、最近、「コンピテンシー」という言葉がよく使われるようになりました。コンピテンシーには、専門的な技術や知識だけでなく、コミュニケーション・スキル、チームワーク、問題解決能力、リーダーシップなど、職場や日常生活で求められる様々な能力が含まれます。昨年、本学は、「信大コンピテンシー」を定めました。~信州という美しい環境で、人を敬い自然を愛しつつ、豊かな未来を切り拓く力を身につけている~となっています。この間、皆さんは、創立75年の歴史と伝統に裏打ちされた信州大学の教育プログラムの中で、一生懸命に学業に励んでこられました。皆さんには、それぞれ、「師から学んだ知識やスキル」もさることながら、「師の心」を受け継ぎ、人間の尊厳を大切にし、他者への思いやりを持ち、地球のこと、人類の未来のことを考えることができ、そして、豊かな社会を創造することができるマインドが醸成されたことと思います。
今年2月に東京で開催された信州大学東京同窓会で、『パフォーマンス学』の提唱者で知られる佐藤綾子先生にお会いしました。佐藤先生は、これまで200冊の著書を世に送り出されている日本を代表する心理学者のお一人と目される方です。先生は、IQ(知能指数)やEQ(感情指数)と同様に、人間の成功にはPQ、すなわちパフォーマンス指数が重要と説かれています。PQは自己表現力といっても良いでしょう。つまり自分自身を効果的に表現する能力が、ビジネスや日常生活において成功を収めるための鍵であり、そのためには自己発見力、自己肯定力、自己強化力、そして何より、非言語的な表現スキルを磨くことが重要とのお話でした。PQを高めることにより、より充実した、より豊かな人生を送ることができるとのお考えに、私は深い感銘を受けました。ちなみに佐藤先生は、松本市のご出身で、信州大学教育学部のご卒業です。大学で身につけるべき力については、様々なことが言われていますが、私は、つまるところそれは、「困難に打ち勝つ力」であると信じています。今後、皆さんが本学で培ってこられた「困難に打ち勝つ力」、言い換えるならば「決して諦めず、活路を見いだす力」にさらに磨きをかけることが重要になります。プランAが駄目なら、プランBを考える。プランBも駄目になったらプランCではどうだろう、と考える。何かがうまくいかなくなった時、どのように方向転換すれば夢を実現することができるか、活路を見出すことができるか、目標に向かって軌道修正するための柔軟性と適応力が試されます。世の中、一生懸命やっている人間(ひと)は必ずうまくいくことになっています。不思議なもので、世の中の仕組みはそのようになっています。『お天道様はみている』、『報われない努力はない』、折に触れこの言葉を思い出し、出し惜しみをせずに、何事に対しても一生懸命に、そして誠実に向き合っていただければと思います。成功への道は一直線ではなく、必ず多くの障害が伴います。それらの障害、逆境を乗り越える過程で学ぶ教訓と経験は、次の成功への不可欠な要素となるはずです。直木賞作家の浅田次郎は、著作を通じて、「傷つくことは当たり前。傷つくことは人生の一部であり、成長と前進のためには必要なこと」、と語っています。挫折や失敗を恐れず、それらを乗り越える強さと決意が、結局は皆さんを成功へと導くのです。努力が報われ、希望の光を見出すためには、全力を尽くし、チャレンジを怠らず、自分自身の可能性を信じることです。困難に直面した時こそ、果敢に、そして、決して諦めることなく前へと進んでいくことが、充実した人生を送る秘訣です。不確実で予測困難な現代においては、既存の常識にとらわれることなく、高い志を持ち続けることも重要です。絶えず、自分自身をエンカレッジしながら、将来に向かってしなやかに、そしてアクティブにそれぞれの道を切り拓いていかれんことを願って止みません。
エルゼビア・ジャパンの統計は、信州大学が、居並ぶ指定国立大学に一歩も引けを取らず、極めて質の高い研究成果を発信し続けていることを明らかにしています。このことを裏打ちするように、昨年、本学は、水とエネルギー分野の研究で、「地域中核・特色ある研究大学、J-PEAKS」12大学の一つに選定されました。J-PEAKSは、大学ファンドによる国際卓越研究大学と対を成すもので、わが国全体の研究力向上を牽引する研究大学群のことを意味しています。今回の選定結果は、国が信州大学の研究力に大きな期待を寄せているということを示した証と言えます。研究には、当然のことながら、それを支える優秀な人材が必要となります。本学がこれまで、人々のウェル・ビーイングやサスティナビリティに資することのできる人材育成に傾注してきたことも採択の大きな原動力となっています。皆さんおひとりお一人の弛まぬ努力、研鑽が実を結んでの、今回のJ-PEAKS採択と言えます。皆さんに対する社会からの期待には、極めて大きなものがあります。信州大学が「地域貢献度ランキング」や環境に優しい大学の世界ランキング「UI Green Metric World University Rankings」で長年、高い評価を受け続けることができたのも、ひとえに、皆さんの活躍があったからこその結果です。どうか地球的視野でのものの見方を忘れずに、これまでに培ってきた知識を知恵に変え、新しい領域に対しても決してひるまず、挑戦を続け、存分に力を発揮していただきたいと思います。
皆さんの前には輝かしい未来と無限の可能性が広がっています。時には、前途に対する不安や迷い、漠然とした恐怖感に襲われることもあるでしょう。しかし、それを乗り越えた、その先には、必ず、明るい未来、夢と希望にあふれた新たなフロンティアが広がっているはずです。皆さんの多くは、ここに至るまで様々な苦難や苦境、思わぬ事故など、いわば人生の試練に、多かれ少なかれ、直面したことがあったでしょう。その時々でご家族や友人、先生方、地域の方々に支えられ、その困難を克服して、今日のこの日を迎えられました。皆さんのご努力に加えて、多くの方々からの支えがあったからこその、今日のこの卒業式・学位記授与式です。そのことを胸に刻み、どうか、今日のこの日の感動を忘れないで下さい。
Be the change you wish to see in the world
世の中に変化を求めるなら、あなた自身がその変化そのものになりなさい
これは、非暴力と平和の力を信じ、その信念を通じて世界平和に不朽の足跡を刻んだ、マハトマ・ガンジーの残したメッセージとされているものです。私たちにも、自身の行動を変えることによって大きな変革をもたらす力が備わっています。本当に世界を変えたいと思うなら、皆さんが望む未来を現実のものにしたいと思うなら、その変革の劈頭(へきとう)を飾るのは皆さん自身です。皆さん一人ひとりが、社会変革の担い手となり、自らの行動を通じてより良い未来を築く魁(さきがけ)となられんことを願ってやみません。どうか初心を忘れず、ピュアな気持ちを持ち続け、そして、こころ豊かな人生をお送りください。皆さんの健康と幸せ、そして明るい未来へと続く道が常に皆さんを照らし続けることを心からお祈りし、私からの餞(はなむけ)の言葉といたします。
本日は誠におめでとうございます。
信州大学長
中村 宗一郎