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卒業式 学長告辞

令和4年度卒業式・学位記授与式学長告辞 (2023年3月)

  この映像は令和5年3月21日信州大学松本地区卒業式・学位記授与式での学長あいさつを収録したものです。




皆さん、ご卒業・修了・学位取得、おめでとうございます。
本日ご臨席を賜りました関係者の皆様方とともに、心からお祝いを申し上げます。

皆さんは今、この卒業式・学位記授与式という晴れの舞台で、学業を成し遂げたという達成感と満足感に包まれていることと思います。アメリカやカナダでは、卒業式・学位記授与式のことを"コメンスメント(Commencement)"と呼んでいますが、これは、このセレモニーが"新たな人生の始まり"に位置しているということに由来します。この人生の節目にあたり、信州大学で何を学び、何を身に付けることができたか、そして何ができるようになったか、今一度、みずからの歩みを振り返ってみて頂ければと思います。

最近、コンピテンシー(competency)という言葉がよく使われるようになりました。コンピテンシーは、優れた成果を生み出している「ハイパフォーマー」に共通する特性を指して、企業の人事評価などでも用いられている用語です。私は、信州大学におけるコンピテンシーを"人間の尊厳を大切にし、他者に想いを馳せ、地球のこと、人類の未来のことをおもんぱかることができ、そして、豊かな社会を創造することができるマインドが醸成されていること"と考えています。この間、皆さんは、創立74年の歴史と伝統に裏打ちされた信州大学の教育プログラムの中で、一生懸命に学業に励んでこられました。皆さんは、『師から学んだ知識やスキル』もさることながら、『師のこころ』を受け継ぐことはできたでしょうか?私は、もう一つのコンピテンシーを"「知」の継承と発展だけでなく「新たな知」を創造する術や世の中への関与の仕方を自らの血肉(けつにく)へと昇華していること"と捉えています。

大学で身につけるべき力については、様々なことが言われていますが、私は、つまるところそれは、「困難に打ち勝つ力」であると信じています。皆さんにとっては、今後、皆さんが本学で培ってこられた「困難に打ち勝つ力」、言い換えるならば「決してあきらめず活路を見いだす力」にさらに磨きをかけることが重要です。プランAが駄目になったら、プランBを考える。プランBも駄目ならプランCではどうだろう、と考える。何かがうまくいかなくなった時、どのように方向転換すれば目標を達成することができるか、夢を実現することが出来るか、について柔軟にかつ前向きに考えることのできる力が問われています。不思議なもので、一生懸命やっている人間(ひと)は必ずうまくいく、世の中はそのようになっているのです。『努力は必ず報われる』、『お天道様はみている』、折に触れこの言葉を思い出し、出し惜しみをせずに一生懸命やることで、これから必ず訪れるであろう、様々な困難を乗り越えていただければと思います。

日々の心構えもさることながら、皆さんの身の周りで起こる様々な出来事、例えば、政治経済の動向や国際情勢の変化などに対しても、アンテナを張りめぐらせ、新鮮かつ深い洞察を注ぎ込み、自身の感想や意見を持つ努力をして頂きたいと思います。 その結果、自身の主張を効果的に他人に伝えることができれば、新たな人間関係が形成され、そのプロセスは、皆さんの人生を、より豊かなものにしてくれるでしょう。自分で考え、自分の意見を持ち、それを確固たる識見(しきけん)として高め、創造力(想像力)含む情操と誠意を持って当たれば、いかなる困難にも打ち勝つことができると確信しています。

不確実で予測困難な現代においては、既存の常識にとらわれることなく、高い志を持ち続けることが重要です。絶えず、自分自身をエンカレッジメントすることを怠らず、将来に向かってしなやかに、そしてアクティブにそれぞれの道を切り拓いていかれることを願って止みません。

世界に目を転じれば、今もなお、ミャンマーにおける深刻な人権危機やロシアによるウクライナへの軍事侵攻のように、「世界の平和と自由」を根底から揺るがす深刻な事態が続いています。新型コロナウイルス感染症、COVID-19パンデミックがもたらした社会変革に加えて、私たちは今、地球の温暖化に代表される気候変動や地球資源の有限性の克服など、人類の存亡に関わる深刻な課題を抱えています。 進歩と発展を旗印にした経済の成長期から一転して、現代社会では、地球規模での不安定化と不透明感が強まっています。私たちには、生物多様性の保全を念頭においた食料の安定供給のあり方、地球環境保全を視野に入れたクオリティー・オブ・ライフの維持・向上、生産性を担保しながらのカーボン・オフ・セットの仕組み構築など、およそ数学的、物理学的に矛盾する究極の課題が突きつけられています。 こうした二律背反を解決できる道はただ一つ、新しい技術の開発だけではなく、新しいアイデアから社会的意義の高い新たな価値を創造し続けること、すなわちソーシャル・イノベーションを起こすこと以外には、有効な手だては無いように思われます。

私たちは、今まさに、二律背反の本質的課題に真正面から取り組まざるを得ない時代に生きています。皆さんは、この自然豊かな信州の地において、自由な発想と多様なアプローチに基づき、それぞれの領域における知識生産活動の一翼を担われました。そして、人類の持続可能な発展に資するべき知識と術を身につけられてきました。

皆さんに対する社会の期待は極めて大きなものがあります。信州大学は、エルゼビア・ジャパンの統計によると、2017年からの5年間で合計6,883本の学術論文を発表しています。総論文数では国立大学の中で19位に甘んじていますが、総論文に占めるトップ10%論文の割合は14.4%であり、このパーセンテージは、東京大学に次いで2位であることが示されました。すなわち、信州大学は、居並ぶ旧帝国大学に一歩も引けを取らず、極めて質の高い研究成果を発信し続けていることが明らかになりました。 信州大学が「地域貢献度ランキング」で長年国内トップクラスの評価を受け続けることができたのも、環境に優しい大学の世界ランキング「UI Green Metric World University Rankings」でこれまで5年連続国内1位の評価を受けることができたのも、ひとえに、皆さんの活躍があってこその結果です。どうか地球的視野でのものの見方を忘れずに、これまでに培ってきた知識を知恵に変え、新しい領域に対しても決してひるまず、果敢に挑戦し、存分に力を発揮して頂きたいと思います。皆さんの前には輝かしい未来と無限の可能性が広がっています。時には、前途に対する不安や迷い、漠然とした恐怖感に襲われることもあるでしょう。しかし、それを乗り越えた、その先には、必ず、明るい未来、夢と希望にあふれた新たなフロンティアが広がっているはずです。

皆さんの多くは、ここに至るまで様々な苦難や苦境、思わぬ事故など、いわば人生の試練のようなものに、多かれ少なかれ、直面したことがあったでしょう。その時々でご家族やご友人、先生方、地域の方々に支えられ、その困難を克服して、今日のこの日を迎えられました。皆さんのご努力に加えて、多くの方々からの支えがあったからこその今日のこの卒業式・学位記授与式です。そのことを胸に刻み、どうか、今日のこの日の感動を忘れないで下さい。皆さんが受けた感動を感謝に変え、これからの生き方を通じてそれを他の誰かに分け与えて下さい。

感動を分かち合い、感謝の気持ちを伝える、このシンプルなサイクルが回ればまわるほど、世の中は平和になっていくはずです。

Darkness cannot drive out darkness; only light can do that.
Hate cannot drive out hate; only love can do that.
闇で闇を追い払うことはできない。
光だけがそれを可能にする。

これはマーティン・ルーサー・キング・ジュニア、キング牧師の残した言葉です。私は、この言葉を家族、仲間、地域社会、国家、ひいては地球全体が幸せでなければ、個人の幸福とは言えない、と捉えています。ウェル・ビーイングとは、まさにそのような生き方、生き様ではないでしょうか。折に触れ、家族、仲間、地域、社会、さらには世界にも想いを巡らし、「個人と社会の幸福の循環システム」の構築の一翼を担っていただければと思います。

『幸せは、香水のようなものである。人にふりかけようとすると、知らないうちに、自分にも二、三滴ふりかかってしまう』のだそうです。

どうか初心を忘れず、ピュアな気持ちを持ち続け、そして、こころ豊かな人生をお送りください。皆さんのご健勝とご多幸、そして光り輝く未来をご祈念申し上げ、私からの餞(はなむけ)の言葉といたします。

本日は誠におめでとうございます。

令和五年三月二十一日 
信州大学長
中村 宗一郎