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卒業式 学長告辞

令和3年度卒業式・学位記授与式学長告辞 (2022年3月)

  この映像は令和4年3月21日信州大学松本地区卒業式・学位記授与式での学長あいさつを収録したものです。




皆さん、ご卒業・修了・学位取得、おめでとうございます。
本日ご臨席を賜りました関係者の皆様方とともに、心からお祝いを申し上げます。

皆さんは今、この卒業式・学位記授与式という晴れの舞台で、学業を成し遂げたという達成感と満足感に包まれていることと思います。アメリカやカナダでは、卒業式・学位記授与式のことを"コメンスメント"と呼んでいますが、これは、このセレモニーが"新たな人生の始まり"に位置しているということ、に由来します。是非、この人生の節目にあたり、信州大学で何を学び、何を身に付けることができたのか、今一度みずからを振り返り、整理してみて頂ければと思います。

大学で身につけるべき力については、様々なことが言われていますが、私は、つまるところそれは、「困難に打ち勝つ力」であると信じています。

皆さんにとっては、今後、皆さんが本学で培ってこられた「困難に打ち勝つ力」、言い換えるならば「自己を啓発し、努力し続ける力」にさらに磨きをかけることが重要となります。北京で開催された冬季オリンピックには、信州大学スケート部出身の小平 奈緒 選手、一戸 誠太郎 選手、小島 良太 選手の3名が出場しました。本学の卒業生が世界のフィールドで戦う姿に、私は胸が熱くなりました。とくに小平選手の4大会連続での五輪出場という偉業、その弛まぬ(たゆまぬ)努力に対し、心から敬意を表したいと思います。付け加えるなら、私は、羽生 結弦 選手の「報われない努力だったかもしれないけれど・・一生懸命頑張りました」とのコメントや平野 歩夢 選手が3回目の試技においてもトリプルコーク1440(フォーティーン・フォーティ)を冷静に、しかも完璧に成し遂げたそのメンタル・コントロールの高さに、さらにはスーツ規定違反失格後のつらい気持ちを押し殺してジャンプに臨んだ高梨 沙羅 選手の不屈の精神力に感動し、それらを深く心に刻み込むことができました。

日々の心構えもさることながら、皆さんの身の周りで起こる様々な出来事、例えば、政治経済の動向や国際情勢の変化などに対しても、アンテナを張りめぐらせ、新鮮かつ深い洞察を注ぎ込み、自身の感想や意見を持つ努力をして頂きたいと思います。その結果、自身の主張を効果的に他人に伝えることができれば、新たな人間関係が形成され、そのプロセスは、皆さんの個性を、よりオリジナリティ豊かなものに仕上げてくれるでしょう。自分で考え、自分の意見を持ち、それを確固たる識見(しきけん)として高め、創造力(想像力)を含む情操と誠意を持って当たれば、いかなる困難にも打ち勝つことができると確信しています。不確実で予測困難な現代においては、既存の常識にとらわれることなく、高い志を持ち続けることが重要です。絶えず、自分自身をエンカレッジメントすることを怠らず、将来に向かってしなやかに、そしてアクティブにそれぞれの道を切り拓いていかれることを願って止みません。

さて、世界に目を転じれば、ミャンマーでの軍事クーデター、アフガニスタン政府の崩壊、そして、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻など、「世界の平和と自由」を根底から揺るがす深刻な事態が続いています。「原子力発電所」や「原子力研究施設」への攻撃が事実とするなら、それは、人類全体の生存権を脅かす蛮行と言わざるを得ないものであり、決して等閑視(とうかんし)できるものではありません。 新型コロナウイルス感染症については、最初の感染者が確認されてから今年で3年目に入りましたが、今なお世界各地で猛威をふるっています。わが国でも、より強い感染力を持ったオミクロン変異株BA.2株への置き換わりが懸念されており、感染再拡大は依然として予断を許さない状況が続いています。このような極めて憂慮すべき事態に加えて、私たちは今、地球の温暖化に代表される気候変動や地球資源の有限性の克服に関することなど、人類の存亡に関わる深刻な課題を抱えています。

進歩と発展を旗印にした経済の成長期から一転して、現代社会では、地球規模での不安定化と不透明感が強まっています。私たちには、生物多様性の保全を念頭にした食料の安定供給のあり方、地球環境保全を視野に入れたクオリティー・オブ・ライフの維持・向上、生産性を担保しながらのカーボン・オフ・セットの仕組み構築など、およそ数学的、物理学的に矛盾する究極の課題が突きつけられています。 こうした二律背反を解決できる道はただ一つ、新しい技術の開発だけではなく、新しいアイデアから社会的意義の高い新たな価値を創造し続けること、すなわちソーシャル・イノベーションを起こすこと以外には、有効な手だては無いように思われます。

私たちは、今まさに、二律背反の本質的課題に真正面から取り組まざるを得ない時代に生きています。皆さんは、この自然豊かな信州の地において、自由な発想と多様なアプローチに基づき、それぞれの領域における知識生産活動の一翼を担われました。そして、人類の持続可能な発展に資するべき術(すべ)と技を身につけられてきました。

皆さんに対する社会の期待は極めて大きなものがあります。信州大学が「地域貢献度ランキング」で長年国内トップクラスの評価を受け続けることができたのも、環境に優しい大学の世界ランキング「UI Green Metric World University Rankings」でこれまで4年連続国内1位の評価を受けることができたのも、ひとえに、皆さんの活躍があってこその結果です。どうか地球的視野でのものの見方を忘れずに、これまでに培ってきた知識を知恵に変え、新しい領域に対しても決してひるまず、果敢に挑戦し、存分に力を発揮して頂きたいと思います。皆さんの前には輝かしい未来と無限の可能性が広がっています。時には、前途に対する不安や迷い、漠然とした恐怖感に襲われたりすることもあるでしょう。しかし、それを乗り越えた、その先には、必ずや新しい未来、夢と希望にあふれたフロンティアが広がっているはずです。

皆さんの多くは、ここに至るまで様々な苦難や苦境、思わぬ事故など、いわば人生の試練のようなものに、多かれ少なかれ、直面したことがあったでしょう。その時々でご家族やご友人、先生方、地域の方々に支えられ、その困難を克服して、今日のこの日を迎えられました。皆さんのご努力に加えて、多くの方々からの支えがあったからこその今日のこの卒業式・学位記授与式です。そのことを胸に刻み、どうか、今日のこの日の感動を忘れないで下さい。皆さんが受けた感動を感謝に変え、これからの生き方を通じてそれを他の誰かに分け与えて下さい。

感動を分かち合い、感謝の気持ちを伝える、このシンプルなサイクルが回ればまわるほど、世の中は平和になっていくはずです。

宮沢賢治は、「農民芸術概論綱要」の中で、「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と述べています。家族、仲間、地域社会、国家、ひいては地球全体が幸せでなければ、個人の幸福とは言えない、との教えです。ウェル・ビーイングとは、まさにそのような生き方、生き様ではないでしょうか。折に触れ、家族、仲間、地域、社会、さらには世界にも思い(想い、念い)を巡らし、「個人と社会の幸福の循環システム」の構築の一翼を担っていただければと思います。

『幸せは、香水のようなものである。人にふりかけようとすると、知らないうちに、自分にも二、三滴ふりかかってしまう』のだそうです。

どうか初心を忘れず、ピュアな気持ちを持ち続け、そして、こころ豊かな人生をお送りください。皆さんのご健勝とご多幸、そして光り輝く未来をご祈念申し上げ、私からの餞(はなむけ)の言葉といたします。

令和四年三月二十一日
信州大学長
中村 宗一郎