入学式学長式辞
信州大学入学式学長式辞(2024年4月)
この映像は令和6年4月4日令和6年度信州大学入学式での学長あいさつを収録したものです。
新入生の皆さん、本日は誠におめでとうございます。信州大学を代表して、皆さんのご入学を心より歓迎いたします。また、皆さんを長年にわたり温かく支えてこられたご家族や関係者の皆さま方に対し、心よりお祝いを申し上げます。
さて、この特別な日に、まずは皆さんと、信州大学の存在意義について、共有したいと思います。 ご存知のように、信州大学は、旧国名を冠する唯一の国立大学です。また、長野県唯一の国立大学でもあります。地域のソーシャル・キャピタルとして、信州大学に寄せられている期待には、極めて大きなものがあります。言い換えれば、私たちには、「社会の公器」として、その役割を果たさなければならないという普遍的な使命と責任が求められてきました。このことを踏まえ、信州大学は、一昨年、信州大学の価値創造と社会的責任を果たすための行動指針として「大学改革実行プランinGEAR」を策定しました。inGEAR は、inGenious, Enterprising and Actionable Regional revitalizationの頭文字から構成されており、"独創的、進取的かつ能動的な地方創生"を意味しています。信州大学は、このフィロソフィーに基づき、ギアを一段上げて、地域の振興に真剣に、そして本気で取り組んでまいりました。
信州大学には、大学創設以来培ってきた特長と強みを伸ばすことを目的に設置された「先鋭領域融合研究群ICCER: Interdisciplinary Cluster for Cutting Edge Research」という研究組織があります。このICCERを核に、信州大学は、社会が直面する困難の克服と新しい価値を創出するための研究活動をアクティブに展開してきました。その結果、本学は、いくつもの国が主導する研究開発プロジェクトに採択され、信州の地に新たな活力をもたらしてきました。ICCER構想は、同時に、人材育成の面でも大きな影響力を発揮してきました。その一例として「全学横断特別教育プログラム」が挙げられます。このプログラムは、地域から地球規模の課題を幅広く俯瞰し、実践的なスキルを身につけ、環境保全や持続可能性、データドリブン社会への未来を見据えた解決策を見出すことのできる次世代のリーダーを育成することを目指して開発されました。受講生は、所属するそれぞれの学部で専門的な学修をすすめる傍ら、異分野の知識を副専攻として学び、物事の本質を深く追求する姿勢や社会貢献のマインドを養うことができます。このアプローチは、北米の教育制度で見られる「メジャー」と「マイナー」の学位の組み合わせとよく似ています。
論語に「君子多能を恥ず」という教えがありますが、これは、表面的な知識や技術への執着を避け、学びを通じて深い洞察力と多面的な能力を育むことを奨励したものとされています。皆さんには、これから人格を成長させる旅の中で、さまざまな分野に挑戦し、個性を磨き、内面の美しさと品格を高めることが求められています。そのような意味で、全学横断特別教育プログラムの履修はお勧めです。このプログラムは、ローカル・イノベーター養成コース、グローバルコア人材養成コース、環境マインド実践人材養成コース、そしてストラテジー・デザイン人材養成コース及びライフクリエイター人材養成コースの5コースから構成されていますが、中でも、ライフクリエイター人材養成コース、略してLCコースは、「推し」です。
現代社会は、予測が難しく、変化が激しいことからVUCAの時代と称されています。また、知識が主要な資源となり、経済的・社会的発展の推進力となることから、知識集約型社会とも呼ばれています。今の時代を特徴づけるのは、人工知能AIの急速な発展とビッグデータへの容易なアクセスです。LCコースでは、AIからの指示を短絡的に受け入れるのではなく、それらを巧みに活用し、新しい価値を生み出す力を持った人材、創造的かつ豊かな社会を築くことができる次世代のリーダー、すなわち「ライフクリエイター」の育成を目指しています。このLCコースのディシプリンは、極めてプロミッシング、有望です。是非、多くの方に履修いただき、未来を切り拓く知識とスキルを身につけていただければと思います。
近年、大学には、入学してから卒業するまでに、『何ができるようになったか』、今はやりの言葉で言えば「コンピテンシー」が問われるようになりました。コンピテンシーには、専門的な知識やスキルだけでなく、コミュニケーション力や問題解決能力、リーダーシップなど、職場や日常生活で必要な多岐にわたる能力が含まれます。昨年、本学は、「信大コンピテンシー」を定めました。~信州という美しい環境で、人を敬い自然を愛しつつ、豊かな未来を切り拓く力を身につけている~、となっています。 皆さんには等しく、この信州の豊かな自然の中で、のびのびと学業に励んでいただき、地球のこと、人類の行く末のことを慮る(おもんぱかる)ことができ、そして、豊かな未来を創造することができるような人になっていただきたいと強く願っています。
加えて、信州大学は、グレーター・ユニバーシティ・ビジョン、Vision for Greater Shinshu University、VGSUという大変大きな志を掲げています。VGSUは、地域の枠を越えて世界全体を元気にそして豊かにすることを目指しています。VGSUのフラッグシップのもと、地域の中心にしっかりと根をおろしながらも、地球的視点で世界通用性の高い研究を精力的に展開してきました。その結果、昨年、本学は、地域中核・特色ある研究大学J-PEAKS、12大学の1つに選定されました。J-PEAKSは、大学ファンドによる国際卓越研究大学と対をなすもの、カウンターパートと目されているものです。この枠組みに認定された大学には、日本全体の研究アクティビティを強化・向上させ、世界における日本のプレゼンスを高めることに加え、革新的な価値創造のフロントランナーとしての使命を果たすことが期待されています。「この研究分野ならこの大学」ということで、本学の「水及び水由来グリーン水素」に関する研究実績が評価されました。信州大学には、今、水の惑星地球における「水のサステナビリティ」の維持向上という重要な任務が課せられています。これには、水の高度循環や革新的な水素生成技術を含む水資源の高度利用の分野において先導的な役割を果たすことが含まれます。その過程では、グローバルサウスをはじめとする世界中の人々と深く、強く連携することが必須となります。それは、地球に暮らす全ての人々が、地球再生Nature Positiveという考え方を共有し、それを実践することが不可欠になるからです。 J-PEAKSの使命の1つには、人々のウェル・ビーイングやサステナビリティに資することのできる人材を育成することがあげられています。信州大学では、これまで地域貢献度ランキングや環境に優しい大学の世界ランキングで長年、高い評価を受け続けて来たという実績があります。J-PEAKS研究大学群の一員となった信州大学に入学された、皆さんに対する社会からの期待には、極めて大きなものがあります。皆さんお一人おひとりの知的躍動を大いに期待しています。
「無知を恐るることなかれ、偽りの知識を恐れよ」これは、17世紀を代表する学者、哲学者でもあるブレーズ・パスカル(Blaise Pascal)からのメッセージです。皆さんには、学びの喜びを心に抱き、読書を通じて多様な知識を吸収することを強くお勧めします。文学から哲学、科学、報道、経済まで、大江健三郎、吉本隆明、井上光晴、本多勝一、立花隆、柳田邦男、カフカやトルストイ、ドストエフスキー、アダムスミスやケインズ、果てはマルティン・ハイデッガー(Martin Heidegger)に至るまで、幅広い分野の著作に触れてみてください。この感受性豊かな人生のひと時に、様々な視点と触れ合うことが出来れば、皆さんの人生観や世界観は、間違いなく、より一層恵まれたものになることでしょう。
私たちは自らの人生を、自ら切り開き、前へと進んでいかなければなりません。頼れるものは自分自身だけであり、どこまでも一人であることを理解しなければなりません。しかし同時に、人は、決して一人で生きていけません。大学での生活は、新しい人間関係を築き、人間性を磨く貴重な機会です。人が人を『評価』する際の観点については、様々なことが言われていますが、私は、それは、つまるところ想像力Imagination、思いやりCompassion、そして責任感Responsibility、この3つに集約されると考えています。 想像力は、私たちが直面する問題に対して創造的な解決策を見出すために必要な能力です。この力を発揮するためには、広範な知識と情報を取り入れ、それを自分の中で統合し、新しいアイデアや解決策を生み出すことが求められます。 思いやりは、他者への深い理解と共感を基にした、人と人との強い絆を築くために不可欠です。人を思いやる気持ちは、自らを輝かせることに繋がります。 責任感は、個人としてだけでなく、社会の一員としての自覚を持ち、誠実に行動するために重要な価値観です。
これから始まる信州大学での学びの中で、皆さんには、どんな困難にも果敢に立ち向かう人材に成長していただきたいと願っています。 努力は、必ず報われます。必ず皆さんを、輝かしい未来へ、成功へと導いてくれます。一生懸命やっている人間(ひと)は必ずうまくいく、世の中はそのようになっているのです。一生懸命にやっていると、運も必ず巡ってきます。ただし、めぐってきた運を逃さないためには、潜在する価値を見出す知識と感性が求められます。オルタナティブスAlternativesをひねり出す基礎学力が必要になります。愚直に突き進むピュアな心持ち、決して諦めない根気も必要となります。良い運気を呼び込むことのできるよう、どうか日々の努力を怠らず、人間性を磨き、実り多き、充実した学生生活を送ってください。
私たちも、皆さんとともに学び、そして価値ある研究成果を社会に向けて発信し、成長し続けてまいります。所定の就学期間の後には、全ての皆さんが、笑顔で卒業式、修了式に臨まれることを心からご祈念申し上げ、私からの式辞といたします。
本日は誠におめでとうございます。
信州大学長 中村 宗一郎