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教育ハイライト

  1. 高度なデータリテラシーと戦略的な政策立案 
注目の教育
2021年11月1日(月)

高度なデータリテラシーと戦略的な政策立案 

全学横断特別教育プログラム ストラテジー・デザイン人材養成コース

The Keyword Is ”EBPM” Evidence Based Policy/Plan Making

EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)…
行政などの政策立案には既に不可欠となったキーワード。
行政の政策決定を、厳格に立証された客観的で合理的な証拠に基づくものにすることを意味します。
そして、そのためには、高度なデータリテラシーとエビデンスを提供できる人材が求められています。
本コースでは、政策や事業戦略の立案に必要なロジック・モデルや因果モデルを学ぶとともに社会に氾濫する様々なデータをロジカルに検証するリサーチリテラシーについて企業・行政などの産学共同でリアルな問題・課題解決を通じて実践的に学びます。
熱意と戦略データによって、次代の人・社会の共感を引き出せる人材を育成します。(文・柳澤 愛由)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第129号(2021.9.30発行)より

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データ活用と戦略立案を学ぶ新コース誕生。

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「その情報は本当に正しいのか」…ニュースなどで報道される情報には、必ずエビデンスが存在します。しかし、発信者側の切り取り方、理論(ロジック)の立て方、データの取得方法によって、市民や関係者が実際に感じている感覚とは乖離したものとして伝えられることも少なくありません。例えば、「この行政の政策は効果があった」という発信があったとき、「本当に?」「そうは思わない!」と、矛盾や違和感を抱く人もいるでしょう。
 2021年度、全学横断特別教育プログラム(※1)のひとつとして新たに設置した、ストラテジー・デザイン人材養成コースは、正しい「証拠(エビデンス/データ)」を得て理論(ロジック)を組み立てられるデータリテラシーを持った人材を養成するために始まりました。文系理系問わず、幅広い学生を対象にし、データサイエンスの考え方を学ぶ、幅広い層に向けた文理融合的コースです。
 「多くの人が矛盾を感じるようなニュースが生まれるのは、発信者側のロジックの立て方が間違っている、もしくはエビデンスとなるデータの集め方が間違っていることに大きな原因があります」。そう話すのは、本コースの授業を担当する西尾尚子助教。
 情報が溢れる現代社会では、その背景を正しく読み解き、踊らされないことが大切です。さらに、近い将来到来するAI社会で、データ駆動な考え方において重要なのは、データを適切に扱う能力です。分析スキルだけでなく、必要なデータを、どのような手法で、誰から取得するのか、リサーチリテラシーも不可欠です。
(※1)8学部全ての学士課程学生を対象に、学部・学年の枠を越え、専門分野だけでない知識や分析視点の獲得を目指す、信州大学独自の教育プログラム(全5コース)

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林 靖人 P R O F I L E
信州大学 学術研究院(総合人間科学系)教授
学術研究・産学官連携推進機構(SUIRLO)

愛知県出身。信州大学大学院総合工学系研究科修了(博士:学術)。専門は感性情報学。修士課程在学中から大学発ベンチャーの立ち上げに参画し、社会調査や行政計画等の策定に従事。信州大学産学官連携・地域総合戦略推進本部長、キャリア教育・サポートセンター副センター長を兼任。研究・教育に関わりながら、地域貢献活動として地域の地方創生総合戦略等の策定や地域活性化活動に多数関わる。

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西尾 尚子 P R O F I L E
信州大学キャリア教育・サポートセンター助教

長野県出身。首都大学東京(現 東京都立大学)大学院都市環境科学研究科都市システム科学域博士後期課程単位取得満期退学(博士:都市科学)。東京都立大学大学院都市環境科学研究科を経て2021年より現職。専門は都市空間解析、環境心理。

本コースが重要視する「EBPM」。 どの分野でも求められるデータリテラシーとは…

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西尾助教の専門は都市空間解析と環境心理。きちんとエビデンスに基づいたデータから多彩な分析がされている資料を拝見し、EBPMスキルの重要性を感じました。

 とくに本コースで重要視しているのが、「EBPM」(※2)という考え方です。EBPMとは、統計データなど、客観的エビデンス(根拠や証拠)に基づいて政策や事業戦略を決定し、それらを効果的かつ効率的に実行すること。ICT活用やDX化が進む、昨今の省庁や自治体で積極的に取り入れられており、政策立案には欠かせない考え方として定着しつつあります。世界的にも、まちづくりやインフラ活用などの場面で、さまざまな実証実験が行われています。本コースでは、「EBPM」を基軸とし、政策や事業戦略の立案に必要なロジック・モデルや因果モデルについて学び、検証に必要なリサーチリテラシー(社会調査法や実験計画法など)について、実践的に学ぶカリキュラムが用意されています。
 「どんなに優秀なAIであったとしても、そのAIに入れる情報が適切でなければ、導き出される結果も正しいエビデンスにはなり得ません。例えば、『東京五輪の開催は妥当だったと思うか』というアンケートを取る場合、対象とする年齢層や職業に片寄りがあれば、得られる結果は変わってきます。つまりデータの取り方ひとつで、結果を誘導することもできる。そのため、情報と対峙するときは前提を疑うことのできる知識と、適切に扱える能力が不可欠なのです」と、本コースを監修する林靖人(学術研究院 総合人間科学系)教授は、カリキュラム設計の背景を語ります。
(※2)Evidence-Based Policy Making(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)の略

学生が企業や自治体のリアル課題に向き合う産学共同のカリキュラム

 本コースでは、企業や自治体と協力し、実社会で得られたデータやリアルな課題を扱うことも重要視しています。ITサービス事業を展開する日本ユニシスや、JR、ネクスコといった民間企業のほか、近隣自治体ともデータ提供などで協力関係を築く予定であり、リアルな現場での問題・課題解決を通じて実践的に学ぶ授業が行われます。
 「授業で扱うテーマが実社会とズレないよう、産学共同で授業を進めていく予定でいます。学生たちには、フィールドを実際に経験することで明らかとなったデータや知識をもとにして、課題に向き合って欲しいと考えています」(西尾助教)
 1年次前期では、信州大学、富山大学、金沢大学の3大学をリモートでつないだオンライン型授業「地域のトップリーダーを繋ぐ」を実施。これは、2020年度に新たに始まった地方創生人材を育成する教育プログラム「ENGINE」(※3)の認定科目でもあり、各地域で活躍する企業人を講師に迎えました。後期からは専用科目「ストラテジー&リサーチリテラシー」がはじまり、社会調査や統計などの実践的なデータ活用について、ケース学習を行います。
 2年次からは、企業経営や政策策定におけるデータニーズや現状を学び、ロジック・モデルの構築やデータ活用の実際などを体験する全2回の集中科目「ストラテジー構築実践」が始まります。2回目では、KPI・KGI評価など、団体や企業の経営課題に踏み込み、リアルな数値やデータなどを扱いながら、データ収集に向けたロジック・モデル設計、調査設計、分析を行うことで、事業評価や改善提案につなげます。また、同時にキャリアイベントとして、信州ベンチャーコンテストや地方創生政策アイデアコンテストなどへの参加も想定しています。続いて3年次では、課題解決型インターンシップを実施。自治体や団体、企業などでのリアルな経験によって、個々人の実践力を高めます。
 「ストラテジーは『戦略』という意味。データは政策や事業戦略を立てるための材料であり、その前提となるデータリテラシーが重要です。学生たちには、自身の専門性も踏まえながら自ら課題を見つけ取り組んでもらいたいですね」(林教授)
 数限りないデータが溢れ、さまざまな情報が交錯する現代社会。本コースで得られるスキルは、学生たちにとって、社会に出たときのひとつの重要な指針となることでしょう。
(※3)文部科学省『大学による地方創生人材教育プログラム構築事業』の一環で、信州大学・富山大学・金沢大学が連携して行う、新たな教育プログラム。全学横断特別教育プログラムと連携した単位認定を行っている