特色ある教育「知」の継承

エネルギーの行方。資源産出国「タイ」で学ぶ環境と資源

平成26年度 環境教育海外研修報告

 平成26年度「環境教育海外研修」に参加した工学部・教育学部の学生4名と引率の酒井俊郎学術研究院准教授(工学系)が、平成27年6月15日、松本キャンパスで在学生や教職員向けに報告会を開催した。
 「環境教育海外研修」は、国外における地球環境活動について学び、持続可能な地球社会に向けた国際的な「環境マインド」を持つ人材の育成を目的に実施しており、毎年数名の学生を海外に派遣している。7回目となる平成26年度は、発展途上国に分類される東南アジアのタイが研修先に選ばれた。実施期間は平成27年3月6日~16日の11日間。タイ国内の大学ほか、エネルギー関連研究施設などを訪問した。

(文・柳澤 愛由)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第94号(2015.7.31発行)より
集合写真

◎参加学生( ※学年は現在)
大國 美奈(工学部3年)
佐藤 李花(工学部4年)
田岡 光月(工学部3年)
福田 稔(教育学部3年)

◎引率教員
酒井 俊郎(学術研究院准教授 工学系)

◎引率職員
伊藤 奈津奈(財務部経理調達課)

日程

引率教員

酒井 俊郎

酒井 俊郎
信州大学学術研究院准教授 工学系


2002年、東京理科大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。
株式会社コンポン研究所・ニューヨーク州立大学・東京理科大学・信州大学ファイバーナノテク国際若手研究者育成拠点などを経て、2012年より現職。研究分野はコロイド・界面化学。

タイでみる持続可能な進歩の形

 タイは、天然資源の乏しい日本とは違い、アジア有数の石油・天然ガスの産出国であり、天然資源に恵まれている。
「CO2といった温室効果ガスの増加、資源の枯渇など、石油・天然ガスにまつわる世界的な課題は多い。天然資源の乏しい日本と資源産出国タイでは、この課題に対する考え方、対応の方向性は異なっているはずです。タイにおける環境活動、教育、研究を体験することで、日本とは違った見識が得られるのではないかと思いました。それが、タイを研修先に選んだ理由です」と、今年度の研修をコーディネートした酒井准教授は語る。


あらゆる視点を持った「環境マインド」を育む

 今回の海外研修では、タイの学生と共に化学実験をする機会にも恵まれた。タイという異国の地とそこで暮らす同世代の若者達に身近に触れ合える機会を得た学生達は、自身の置かれた状況だけに捉われない国際的な視野と知識に基づいた「環境マインド」の必要性を自覚したことだろう。  「進歩の形は一つではない。本当の進歩とは何か?それを学生達に感じてもらえたのではと思う」と酒井准教授は語った。

REPORT1 新エネルギーと既存エネルギーの共存を

大國 美奈さん


大國 美奈さん
( 工学部物質工学科3年)

 私はもともとバイオマスエネルギーに興味がありました。研修中、興味深かったのは、家畜の排泄物を活用し、バイオガスを精製する施設です。
 しかし、それ以上に既存エネルギーである石油利用の応用研究がとても盛んで、進んでいることに驚きました。これまで、私は、石油は持続不可能で環境負荷の高い資源だと思っていましたが、タイには、Green Petrochemical industries=グリーン石油化学」「Sustainable Petrochemicals=持続可能な石油化学物質」といった言葉があることを知りました。これまでの知識ではとても違和感のある言葉でした。
 そうした中、訪問した「PETROMAT」というチュラルンコン大学の研究施設では、石油を使用する際問題になる排出規制物質やガスを除去する多孔質物質(ゼオライトなど)の開発や、反応を高効率に進行させ、石油利用の際のエネルギーロスを低減する触媒の研究などが行われていました。つまり、タイ国内での最先端研究は、「環境負荷を少なくした形でいかに石油を活用するか」を目的としたものが多くありました。
 研修前、バイオマスエネルギーは夢のエネルギーで、石油を使わない生活をすれば環境問題は解決するように思っていました。しかし、石油などの利用を否定するのではなく、有効に活用するための研究を同時に進めていくことの重要性を感じることができました。

チュラルンコン大学訪問

チュラルコン大学を訪問。タイの最先端研究に触れた

バイオガス

     豚の排泄物を活用したバイオガス

REPORT2  進むタイの「環境活動」

佐藤 李花さん


佐藤 李花さん
( 工学部環境機能工学科4年)

 研修先のチュラルンコン大学やカセサート大学は広大なキャンパスを持ち、バスや自転車で敷地内を移動することができます。そこで近年注目されているのが、自転車を不特定多数の人とシェアする「Bike Share」というサービスです。大学内だけでなく、タイ全体で注目されており、渋滞緩和や燃料消費量の削減といった観点から、「Bike Share」ができる地点が増えつつあります。
 また、大学では、生ゴミなどの分別が徹底、さらに紙やペットボトル、缶といった資源ゴミは、分別・回収することでお金に換えることができます。メリットが明確化されるので、率先した分別が行われ、モチベーションも高く保たれるそうです。ゴミ箱にも工夫がされており、網目状のゴミ箱には何が捨てられているのかが一目で分かり、ポスターなどによる広報活動も積極的に行われていました。
 環境活動は身近なところから実践できます。それに加えて、タイでは「BikeShare」=無料で便利、「ゴミ分別」=お金になる、といった、環境活動に対するメリットもはっきりしていました。
 環境活動で大事なのは、いかに多くの人に参加してもらうか、という視点だと思います。経済成長が進む東南アジアのタイは、環境に対し悪いイメージが強いかもしれません。しかし、学生達に環境活動について聞くと、誰もが即答できる程、環境への意識が高いことも分かりました。

大学のキャンパス内を走るバス

大学のキャンパス内を走るバス

Bike Share

「Bike Share」のための自転車がずらりと並ぶ

分別されたゴミ箱

分別方法が視覚的に分かり易く工夫されたゴミ箱など、タイ国内の大学では環境活動が進んでいる

REPORT3  都市間の環境差。タイ国内の課題も感じた

田岡 光月 さん


田岡 光月 さん
( 工学部物質工学科3年)

 タイではバイオディーゼルの研究が盛んで、ディーゼル車への継続的な需要もまだまだ多くあります。
 日本では、CO2を排出しない新エネルギーへの転換が、最先端だとされることが多いと思います。しかし、資源産出国のタイでは、国策として、石油の応用利用の研究を進めています。「石油をクリーンに、そして有効に使おう」という意識が強く、日本とはエネルギーへの捉え方に大きな違いがありました。  そうした中、都市間の大きな環境差も目の当たりにしました。
 タイは、日本と同等かそれ以上の車やバイクが走っている上、建設ラッシュも続いています。それでも、首都であるバンコクでは、極端な大気汚染は見られませんでした。政府による規制や、最新の触媒技術の導入、また、大学のバスに電気自動車を採用するなど、環境への意識が高く取組みが進んでいるためだと考えられます。  一方、バンコクから北に720㎞程の場所にある地方都市チェンマイでは、バンコクより圧倒的にディーゼル車の数が多く、排気ガスや日常的な野焼きなどによって、喉が痛くなる位の激しい大気汚染が起こっていました。
 今後、バンコクとチェンマイを日本の新幹線で結ぶ計画があります。この環境差をどのように感じるべきなのか。観光都市としてのタイの側面とは、また異なった視点を得て、視察を終えることができました。

トゥクトゥク

タイではメジャーなトゥクトゥクという三輪タクシー

建設ラッシュ

建設ラッシュが続くタイ国内

スモッグ

スモッグで先が見えないチェンマイ市内

REPORT4  タイの「二極化」を目の当たりに。この経験を環境実践力に活かしたい

福田 稔さん


福田 稔さん
(教育学部学校教育教員養成課程ものづくり・技術教育コース3年)


 高学歴層の多い首都バンコクは、大学の広大なキャンパスを電気自動車(バス)が走り、学生の誰しもが利用することができます。他にも、網目状のゴミ箱があったり、電池の回収ボックスが透明な容器で行われていたりと、一目で分別方法が分かるような「可視化」された環境活動が進んでいました。
 一方で、地方都市チェンマイ市内や観光客の多い地域は、スモッグや排気ガスが充満し、大気汚染も進んでいました。バンコクでも、郊外では路地裏にゴミが散乱しているような場所もありました。同じくバンコクから少し離れたオンヌックにあるゴミ処理場では、バンコク市内から大量のゴミが集まり、分別、リサイクルされています。
 敷地内には大量のゴミがあふれ、その中で遊ぶ子ども達もいました。こうした環境下で育つ子もいるのだと実感しました。
 このように、タイでは地域間での環境の「二極化」が進むと共に、環境への意識や教育の「二極化」が存在していると感じました。
 また、今回「環境に関する意識調査」も行い、タイ国内の学生の多様な考えにも触れることができました。
 この研修で得た地球環境に関する理解と経験を、信州大学のエコキャンパスづくりだけでなく、将来、教育者になった時、子ども達に多様で自律した考えを持ってもらえるような「環境教育の実践」に活かすことが、次の私の目標です。

オンヌックゴミ処理場

オンヌックゴミ処理場には大量のゴミが集まる。ゴミが散乱している場所もあった

環境に関する広報活動

タイの大学ではポスターなどで積極的な環境に関する広報活動が実施されており、意識の高さがうかがえた

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