特色ある教育「知」の継承

「信大YOU遊」20周年記念シンポジウム開催

教師をめざす学生たちの実践トレーニングの場・地域貢献活動

 「信大YOU遊」の活動が今年度20周年を迎え、平成25年8月10日(土)、記念シンポジウムが開催された。会場となったホテル信濃路(長野市)には、全国各地より卒業生や関係者など約170名が参集した。第20期運営委員長の木田達也さん(教育学部3年)が開会を告げ、現役学生の活動紹介が行われると、会場のあちこちで感嘆の声が漏れる。先輩たちは大きく成長したYOU遊の姿を感じとっていた。

(文・中山 万美子)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第83号(2013.9.30発行)より
小岩井 彰氏

小岩井 彰氏

永松 裕希 教育学部 副学部長

永松 裕希 教育学部
副学部長

山口 直行さん

山口 直行さん

木田 達也さん

木田 達也さん

教育実践の場を学生の手でつくろう!


 「もっと、子ども達と遊び、ふれあいたかった。僕たちはこのまま教師になって、本当に子ども達を指導できるのか?」
 1993年秋、教育実習の事後指導をしていた土井進教授は、実習を終えたばかりの学生たちの切実な声を聞いた。当時、実践的な授業は6週間の教育実習のみ。学生達は自らの経験不足に危機感を感じていた。「なんとか実践する機会をつくることはできないか」。
 その頃学校は週5日制への移行期だった。教授は「土曜日の『受け皿』にもなるから、子どもたちをキャンパスに呼んだらどうか」と学生たちに提案した。
 この提案に手を挙げた山口直行さん(シンポジウム実行委員長)は仲間と共に「教育実践の場を学生の手でつくろう!」と1994年6月に実行委員会を立ち上げ、同年9月10日(土)、第一回「信大YOU遊サタデー」を開催。けん玉遊び、おやつ作りなど、手作りの遊びの講座を設けて子どもたちと遊んだ。当時の新聞では「自主教育実習」と紹介されている。それから20年、「やりたい人が、やりたいことを、やりたいようにやる」という徹底した学生の自主性・主体性を柱に活動が引き継がれ、「YOU遊広場(プラザ)」(第8~9期)、「YOU遊世間(ワールド)」(第10~18期)、「YOU遊未来(Chance)」(第19期~)と名称を変更しながら、発展してきた。

地域へ。学生たちの「社会力」が加速する


第2期 1995年10月14日 長野(教育)キャンパス

第7期 2000年5月27日 松本キャンパス

 1999年、土井教授は一過性のイベントからの転換を図り、農作業を取り入れようと教育学部から車で5分のところに茂菅農場(現「茂菅Farming Village」)を借りる。ここを足掛かりにYOU遊の活動の場はキャンパスの外へと進展する。青木村、麻績村、長野市で子ども育成事業への参画など、地域との協働が始まった。
 シンポジウムでは、実行委員長の山口さん、永松裕希教育学部副学部長の挨拶に続き、青木村でYOU遊と共に通学合宿を立ち上げた小岩井彰氏(上田市立北小学校長)が「地域からみた『YOU遊』の価値―青木村と長野市大岡での通学合宿を通して―」と題して講演した。
 小岩井氏は「学校現場の諸問題は、『社会力』を培って、根っこにあるべき人に対する関心、愛着、信頼を持つことができれば、自ずと解決されていく」と「社会力」育成の重要性を力説した。
 「社会力」とは門脇厚司氏(筑波大学名誉教授、シンポジウムに参加)が提唱した言葉で、人と人がつながって社会をつくっていく力のこと。『信大YOU遊』で培われるのは、まさにこの「社会力」。小岩井氏は「活動で村が活性化され、子どもたちにも良い刺激があったのは、間違いない。しかし私が最も期待したのは学生たちの社会力向上です」と語り、議論を重ね、叱咤激励、お互いに学び合いながら「0を1にする」ために「本気で向った」エピソードを紹介した。小岩井氏は「常に師を求めて学び続ける覚悟を」と学生と今や教員になった卒業生に語りかけ、「YOU遊で得た学びを子どもたちへつないでいってほしい」と熱き想いを結んだ。

教育現場で活かされる、YOU遊体験


 講演に続き分科会が行われる。テーマは「YOU遊の中で最も楽しかったことは何か?」「体験が現在の教育実践にどのように生きているか?」。
 参加者は20のグループに分かれて話し合った。「子ども達の生活面を見ているから、子どもの立場で考えられた」「地域と関わる良さを知っていたから、地域の方々と積極的につながっていける」等々、子どもと関われた嬉しさ、仲間や地域の方々との関わり、現在の様子がそれぞれに語られた。
 シンポジウムが終了すると記念撮影。約170の笑顔が1枚の写真に収められた。

*  *  *

 地域協働への足掛かりとなった茂菅農場は、今期で14年間の活動を閉じる。開墾から始められた農場の活動は、地元農家の林部信造氏の献身的な協力に支えられてきた。YOU遊の活動はここを礎として、活動20年の節目を機にさらに地域へ、次代へと向かう。

懇親会で。卒業生の声

 茂菅農場のコンセプトは「土づくり」による「人づくり」。JAさんが「開墾は機械で」といったのですが、土井先生が「そこは大事なことだから、人力でやろう」と。新しい鍬を揃えてもらって、先生が率先して作業しました。
(第7期 杉山雅幸さん・小学校勤務)

 子どもと接する機会も増えてきてYOU遊は役割を終えていくかと思いましたが、継続されていたのをみて驚きでした。地域と関わるようになったからこそ続いてきたのだと思います。
(第4期 中條 悟さん・中学校勤務)

 茂菅農場でどろんこ遊びを企画しました。大勢の学生スタッフを集めたり、体を洗う水をどうやって運ぶか悩んだりしましたが、実現できました。工夫すれば実現できるということを知った経験でした。今、子どもが無理なことを言ってきても、簡単にあきらめず、なんとか実現させようと思っています。
(第9期 那須紋子さん・小学校勤務)

 様々な支援をいただきながら活動が20年続いたことに深く感謝しています。代が変わっても学生達の意識が途切れず、形を変えながら発展していることは嬉しく、今後も後に続く人たちに活動が引き継がれていったなら、これ以上の喜びはありません。
(第1期 山口直行さん・中学校勤務)

卒業生から花束を受け取る土井教授
卒業生から花束を受け取る土井教授
左は夫人の土井美知子さん

 今回、大勢のご来賓の方々にご出席いただけたのは、地域社会の皆様の熱いご理解とご協力をいただいてきた賜物だと思います。卒業生もYOU遊との出会いが教育者生活に大きな力になったと感謝して集まり、草創の苦労を共に担ってくださった名誉教授の漆戸邦夫先生、藤沢謙一郎先生とも、共に喜び合うことができました。
 教員養成の仕事は、学生が教師、子ども、地域社会と、また学生同士で、心と心のふれあいによる成長を一歩一歩積み上げていく以外に策や方法はないと、私は信じています。これからも微力ですが、学生の輪の中に飛び込み、切磋琢磨していきたいと念願しています。

YOU遊顧問 土井進(生活科指導法・教師教育学)

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