特色ある教育「知」の継承

信州大学 国際交流座談会 信大留学経験者を囲む会

「地球をまたいで」~私たちの知りたい事、伝えたい事~

 平成25年11月に発表された文部科学省「国立大学改革プラン」の"大学の機能強化"の項目のひとつに「グローバル化」があります。積極的な留学生支援を行う将来構想では2020年までに日本人の海外留学生を6万人(2012年)から12万人に、外国人留学生の受け入れ数を14万人(2012年)から30万人に倍増させるとしており、信州大学もグローバル人材育成計画、リーディング大学院の採択などを契機として、積極的に(グローバル)人材育成に取り組んでいるところです。
 留学や海外生活経験のある学生、院生、社会人13名が海外に出て感じ、考えたことを話し合う「信大留学経験者を囲む会」が11月2日(土)に松本キャンパスで開催されました。留学を経験した学生3名が企画から運営を行い、合計13名が登壇しました。学生を始め社会人ら約40名が参加。参加者からも積極的に意見が飛び出し、会場は大いに盛り上がりました。
 座談会は、
 ①「外に出て気付いた日本のこと、海外のこと」
 ②「日本と海外の恋愛事情」
 ③「グローバル化について~グローバルからグローカルへ」
 以上3つのテーマをもとに話し合われました。事前にそれぞれのテーマについて留学経験者にアンケートを行い、その内容を中心に議論が進められました。
 留学を経て、学生たちが社会に出て行く中で、世界とどのように関わっていくのか、グローバルとは何か、など日本人と外国人が一緒になって熱い議論が交わされました。

(文・奥田 悠史)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第85号(2013.1.31発行)より

登壇者

卒業生・社会人<br /><b>村上 満さん( 工学部)</b> 運営学部生<br /><b>大塚 隼人さん( 理学部3年)</b> 学部生<br /><b>西村 玄矢さん( 人文学部2年)</b> 卒業生・社会人<br /><b>ジェイク・ティモシーさん( 国際交流センター)</b> 卒業生・社会人<br /><b>シュレスタ・マドゥスタンさん( 農学部)</b> 卒業生・社会人<br /><b>シャーク・ミンチュンスさん( 人文学部)</b> 院生<br /><b>李 佩瑩[ り ぺえい]さん( 工学部卒)</b> 運営学部生<br /><b>美濃川 恵理さん( 人文学部4年)</b> 運営学部生<br /><b>中島 直弥さん( 工学部3年)</b> 学部生<br /><b>関 亮太郎さん( 経済学部3年)</b> 卒業生・社会人<br /><b>宮澤 正輝さん( 経済学部)</b> 卒業生・社会人<br /><b>クリス・フリッツさん( 国際交流センター)</b> 院生<br /><b>車 憲[しゃ けん]さん( 経済学部)</b>

テーマ(1) 外に出て気付いた日本のこと、海外のこと

大塚さん

大塚さん(日本)
 事前のアンケートでは、外に出て気付いた日本のこと、海外のことというテーマに対して、「日本人は日本という狭い世界に満足しすぎている」という意見があり、私もこの意見に共感しました。このことについてどう思いますか――

村上さん.jpg

村上さん(日本)
 私もそう思います。日本は、確かに素晴らしい国だと思います。しかし、海外に出て、他国の文化を体験し、自分の視野を広げることも重要です。機会や意思があるならば留学は良い選択です。“旅行”と“住む”とでは、全く違います。実際に行って、日本と海外の違いを感じてきて欲しいですね。

シャークさん

シャークさん(オランダ)
 同感です。自国を愛するのは、大事なこと。しかし、実際に海外に出て、「何故、素晴らしいのか」を比較することで、自国のことをより鮮明に知る事が出来ます。
 自国の良いところだけでなく、悪いところも見えてきます。自分が思う日本や自国が実際はどうだったのかを知る事、感じる事が重要です。
 また、海外の良いところを知る事で、自国の発展にも活かすことが出来るのではないでしょうか。

大塚さん

大塚さん(日本)
 確かに海外に出ることで、自国の良いところ、悪いところが見えてきますね。
 私は留学経験の中で、他国の学生の自国に対する愛情や知識が深いと感じました。それに比べて日本人は日本への興味が薄いと感じる事があるのですが――

マドゥスタンさん

マドゥスタンさん(ネパール)
 日本人の日本への興味が乏しいとは思いません。日本人と海外へ仕事で行く事があるのですが、むしろプライドが高いと感じることも多いくらいです。

中島さん

中島さん(日本)
 大塚さんも僕もヨーロッパへ留学していました。ヨーロッパは、地続きの大陸であり、国と国が隣接しています。戦争や衝突を繰り返す中で、それぞれの国のアイデンティティが強くなってきたのではないかと感じました。対して日本は島国で、地域間の争いが多く、国への愛着というよりも地域への愛着が強いのではないでしょうか。
 視野を広げて、他国のことなどを知った上で、色々な事を考える事が重要だと思います。

大塚さん

大塚さん(日本)
 アメリカでは、自国への興味や愛国心というものはどう捉えられていますか――

ジェイクさん

ジェイクさん(アメリカ)
 私は、茨城県の中学校で教師をしています。中学生の話を聞いていると、「自分は日本人だ!」という自覚が少ないと感じます。私は小学生の頃から「自分はアメリカ人だ」と自覚していました。自分がその国の人だということを自覚することによって、自国への興味が増していくのではないでしょうか。

美濃川さん

美濃川さん(日本)
 アメリカやヨーロッパの話が中心になってきていますが、アジアではどうでしょうか。私は、韓国に留学していました。そこで感じたのは、韓国の人たちは自国の歴史に詳しいということです。日本は、地元愛が強く、それ以上広い範囲の事を知らない人が多い。留学をしたことで、外を見る目を養えたと思います。

テーマ(2) 日本と海外の恋愛事情

大塚さん

大塚さん(日本)
 2つ目のテーマでは、「外国人の男性は優しくて、日本男児はモテない」という意見が出ています。日本男児としては、これは悔しい意見なのですが、この点については、どう思いますか――

宮澤さん

宮澤さん(日本)
 私がアメリカに留学していた頃、密かに金髪美女の彼女が出来たらいいなと思っていました。結果は、出来ませんでした(笑)。そこで感じたのは、日本男児は愛情表現が下手くそだということです。アメリカ人は、愛情表現がとてもストレートだと感じました。そういうこともあってか日本男児は、あまりモテません。

大塚さん

大塚さん(日本)
 日本人の恥じらいというのも一つの文化かもしれませんね。
 愛情表現の話が出ましたが、公共の場所でのカップルも海外と日本ではやはり違うと感じます。公共の場での愛情表現についてはどう思いますか――

クリスさん

クリスさん(アメリカ)
 公共の場所かそうでないかは、関係なく、愛情表現をしないのは、不思議だと思います。

ジェイクさん

ジェイクさん(アメリカ)
 愛情表現やスキンシップをしなければ、恋人同士なのかが分かりません。
 自分の親の存在も大きいと思います。欧米では親同士が子どもの前でも愛情表現をしており、スキンシップをしないと、愛情が伝わっているか不安に思います。

マドゥスタンさん

マドゥスタン(ネパール)
 公共の場所でのスキンシップだけが愛情表現ではないと思います。また、人前でする必要もないのではないでしょうか。

村上さん.jpg

村上さん(日本)
 付き合い方は様々だと思うのですが、日本では愛情表現をしなくても気持ちは伝わっているだろうと考えているところがありますね。一つ聞きたいのですが、欧米では、愛情表現をしなくなると愛情がなくなったと判断されてしまうのですか。

ジェイクさん

ジェイク(アメリカ)
 アメリカでは愛情表現をしなくなったら終わりだと思います。しかし、私の妻は日本人で、最近は手を繋ぐということが少なくなりました。どこの国の人かというのもありますが、暮らしている国の文化に慣れてしまうということも大いにあると思います。

西村さん

西村さん(日本)
 日本は、欧米に比べて「付き合うこと」へのハードルが高いと思います。日本人は、カップルから、父・母という別ものになっていく感覚があります。
 結婚というものをどうしても視野に入れてしまうので、付き合うことへのハードルが高いのではないでしょうか。

宮澤さん

宮澤さん(日本)
 確かに、欧米人にとっては付き合う事への敷居が低いと感じました。日本では、告白するというのは、本当に大変。アメリカの友人は、「デートしようよ」という感じで、フランクに付き合っている人が多かったのが印象的でしたね。

大塚さん

大塚さん(日本)
 男性の意見ばかりになってしまいましたが、女性としては、付き合う事をどのように考えますか――

李さん

李さん(中国)
 言葉でしっかりと気持ちを伝えて欲しいです。相手の気持ちを知って初めて次に進めると思います。

大塚さん

大塚さん(日本)
 付き合う事へのハードルという話がありますが、結婚に対してはどうなのでしょうか。ドイツでは、彼女が出来たら、「実家においでよ」という形で、気軽に誘っているのを聞きました――

シャークさん

シャークさん(オランダ)
 結婚へのハードルは、海外でも高くなると思います。ですが、お互いの両親に会うという部分では、海外の方がフランクだと思います。日本も海外との交流を深めていく中でそのように変わっていくのではないかとも感じています。

大塚さん

大塚さん(日本)
 それぞれの国によって、恋愛や結婚の形、それに至る過程まで様々だということが分かりました。しかし、そうしたことを知った上で行動することも重要だと感じました――

テーマ(3) グローバル化について

大塚さん

大塚さん(日本)
 3つ目のテーマに移ります。近年、「グローバル化」という言葉をよく耳にします。グローバル人材を求めている企業も多く、国もそうした人材の育成に力を入れようとしています。それでは、グローバル化、グローバル人材とは、どういったものなのでしょうか――

村上さん.jpg

村上さん(日本)
 相手が日本人であれ、外国人であれ、相手のことや文化を理解した上で、対等な立場で話すことがグローバル化の1歩だと思います。
 例えば、海外に工場を作った場合、日本の常識を押し付けるだけではうまくいかない。相手の文化や慣習を理解した上で、上手く融合していく必要があります。

中島さん

中島さん(日本)
 海外への工場展開と言う話がありましたが、日本の企業などが賃金の安い地域で“物”を生産するというのは、一種の搾取になってしまうと危惧しています。その地域で成り立っていた社会構造を崩しかねないのではないでしょうか。

村上さん.jpg

村上さん(日本)
 現地の社会構造を崩してしまう危険性もありますが、決してそれだけではありません。その地域のマーケットを開拓したり、雇用を産み出す事で、その地域の活性化に繋がる事もあるので、多面的に考えていく事が必要でしょうね。

美濃川さん

美濃川さん(日本)
 留学に行く前は、グローバル化というと、語学が出来て、海外の人とコミュニケーションを取ることだと思っていました。ですが、韓国で生活する中で、言語は所詮“ツール”だと感じました。そのツールを如何に使うかが重要ではないでしょうか。

シャークさん

シャークさん(オランダ)
 英語が出来る、TOEICの点数が高いということが、グローバル人材に直接繋がる訳でありません。但し、英語が出来ることで、多くの文献や人と触れる事ができることも事実です。その語学や知識をどう活かすかの方が大事な事ですね。

大塚さん

大塚さん(日本)
 語学は単なるツールだという話がありましたが、それでは、語学以外に何をもってグローバルな人材になるのでしょうか――

参加在学生(安部志帆子さん)(日本)
 私は、昨年ベルギーに留学していました。海外に行く前は、グローバル化とは、自分自身が国境なんて関係なく地球村の1人になることだと思っていました。しかし、留学を終えて考え方が変わりました。それは、日本人である、ということの重要性です。自分が何人であり、どういった歴史やルーツがあるのかを知っているからこそ考えられるアイデアや意見があります。立派な日本人になることがグローバル人材への近道であると感じました。

関さん

関さん(日本)
 私もアメリカへ行き、様々な人と話をする中で、自分自身が日本人なんだ、と認識することが多くありました。日本人として何が出来るか、何をするかを考えていく必要がありますね。

中島さん

中島さん(日本)
 立派な日本人という考え方の先には、立派な個人になることが求められていると思います。
 自分自身を守るのは、個人でしかありません。言語力や技術力といった個人の能力で、切り拓いていくことも重要です。

大塚さん

大塚さん(日本)
 グローバル人材について、色々意見が出ていますが、企業側から見たグローバル人材というのは、どのような人物を指しているのでしょうか――

村上さん.jpg

村上さん(日本)
 どこでも、何にでも対応出来る適応力が必要です。
 ビジネスパートナーに物怖じせずに交渉・対話しなくてはなりません。何でも受け入れるのではなく、現地でのコモンセンス(常識や良識)を持って、意見を戦わせるファイティングスピリットも必要。また、企業人としてビジネスする以上、言語力も求められます。こうした能力を身につけていくためにも、留学したいという好奇心があれば、それは大切にしてほしいですね。

参加者(岩本講師)
 グローバル化というと、海外に向けてビジネスをしたり、海外でビジネスしたりすることをイメージすると思いますが、決してそれだけではありません。日本に目を向けてみると、至る所に外国の方が生活しており、国内もグローバル化が進んでいるのが分かります。海外にばかり目を向けるのではなく、国内にも目を向け、住んでいる外国人と如何に共生していくかを考える事もグローバル化だと思います。もっと多面的に考えていく事が重要ではないでしょうか。

大塚さん

大塚さん(日本)
 岩本さんの指摘を受けて、グローバル=海外に行くだけではなく、国内にも視野を広げて、行動・思考していくことが重要だと感じました。また、広い視野を持った上で、足元(地域)から行動していく「グローカル」ということも考えていく必要がありそうですね。
 さて、本日の議論を経て、様々な事が見えてきました。今回得たヒントを元に今後も考え続けていきたいと思います。

中島さん

中島さん(日本)
 グローバル化を考えていく上で、学生の私たちが出来る事は、様々な経験や文化的な背景を持った人たちが集い、文化的・歴史的多様性の中で、いまある社会の現状を把握することから始まると感じました。そして、自分たちがどのような社会を作っていくのかを考え、その実現の可能性を探求していくことが重要です。
 そして、留学を経験してきた私たちだからこそ出来ることを考え続けていきたいと思います。
 本日は本当にありがとうございました。

講評「大胆に世界と」

信州大学国際交流センター 副センター長 佐藤 友則

グローバル人材育成計画

 グローバル人材とは、いかなる場所でも相手と対等にネゴシエーション出来る人材だと考えています。相手を受け入れるだけでも否定するだけでもありません。交渉していくことが重要です。そのためには、様々な“力”が必要になります。語学力や、自分の意見・意思を発信する力、そして、国外の生活に耐えるタフさやグループ生活を送る力が必須なのです。
 こうした“力”を身につけていくためには、海外に出て、様々な気づきや経験を積む事が重要です。
 信州大学では、グローバル社会で活躍できる人材育成に注力しています。
 グローバル人材の育成には「HOP 」、「STEP 」、「JUMP」という3つのステージがあります。まず「HOP」段階では、学生が海外への興味を持ち視野を広げるモチベーション作りをしています。
 次の段階「STEP」では、海外に興味を持った学生達が、大学の制度を利用し、交換留学や海外インターンシップを行います。海外生活の中で刺激を受け、自立心や競争心を持って次のステップへと繋げて欲しい。
 最終段階の「JUMP」はグローバル社会への飛躍を意味しています。海外の大学院へ形での進学や海外企業への就職といった即海外へ挑戦するのもいいでしょう。しかし、国内の企業でもグローバル人材として活躍する場はたくさんあります。
 単に外国語が出来る、ということだけでなく、海外で得たものを活かし、誰とでもネゴシエーションできる人材になって欲しいと考えています。大学生活は、サークルや友人・バイトなど色々な関係が出来てきます。しかし、学生生活というのは、限られた時間しかありません。その中で、自分は海外に出て成長して帰ってくる、という強い意志を持ってもらいたいのです。そのためには「何かを捨てる」覚悟も必要です。
 今回の座談会では、海外生活を経験した様々な立場の人たちが議論してくれました。本当に多様な物の見方、考え方があると改めて実感しました。今後もこうした会を通じて、学生に刺激を与え、海外へ行くという決断をしてもらうお手伝いが出来ればと思います。

佐藤 友則

信州大学国際交流センター 副センター長
佐藤 友則 准教授


専門分野:日本語教育
1988年新潟大学人文学部卒業。1995~98年韓国・全北大学校客員講師を経て、1999年より信州大学講師を務める。
2007年より現職。

ページトップに戻る

特色ある教育「知」の継承
バックナンバー
平成26年度環境教育海外研修報告

エネルギーの行方。資源産出国「タイ」で学ぶ環境と資源

第1回地元酒造業者支援スピーチコンテスト

若者の日本酒離れに歯止めをかけ、地域の酒造メーカーを支援しよう

多様化する金融犯罪とどう向き合うか

―関東財務局・長野県警との連携特別講義、経済学部で開催―

グローバル卒業生に学ぶ社会人基礎力

現地の声を聞き、外の世界に目を向ける

信州大学環境教育海外研修(6)

開発途上国が抱える環境問題―ネパールを訪ねて―

グローバル人材育成事業 平成25年度ネパール農業実習
信州大学 国際交流座談会 信大留学経験者を囲む会
「信大YOU遊」20周年記念シンポジウム開催
教職実践演習特別企画
信州大学環境教育海外研修(5)
学生から発信する経済学部の学び
信州大学環境教育海外研修(4)
信大の教室で他大学の授業を!
「信大YOU遊」で未来をつかむ!
スペシャルオリンピックスで学ぼうゼミ
同じアジアで「共に」環境を考える
医学部合同新入生ゼミナールの取組み
第1回しんしんゼミナール
信州大学環境教育海外研修(2)
信州大学環境教育海外研修(1)
YOU遊世間(ゆうゆうワールド)