
教育学部学生有志が運営する「信大YOU遊」(顧問:土井進教授)の活動が19年目を迎えた。
「信大YOU遊」は、地域の人々とコミュニケーションをしながら、子ども達のための学びや遊びの企画を実施する活動。教師に必要な実践的指導力を身に付ける場として、全国から注目され、高い評価を得ている。
活動のモットーは「やりたい人が やりたいことを やりたいようにやる」学生のやる気がすべてを動かす原動力になり、そこに地域の方々の支援があって子ども達のためのプログラムは実現している。
教育学部から車で5分の農場、「信大
「稲から採れるのは、お米。お米って英語でなんて言うのかな」
「ライス―ぅ」
じゃがいもと人参の植え付けから始まった、第一回(4月21日)の活動の後、5月には夏野菜、さつまいもの植え付け、本日は3回目となり田植えをする。昨年までは「信大茂菅ふるさと農場」と称していた農場は、今年から小学校の英語必修化に合わせ、農作業に英語を取り入れることになった。天気は小雨がぱらついているが子ども達は元気で、やってくるやいなや学生たちに飛びつく。ここでは、お兄さん、お姉さんと一緒に野菜作りのほかに虫取りなども楽しめる。みんな月に一回のこの活動をとても楽しみにやってくるのだ。3年、4年と年数を重ねて参加している子ども達もいて、ノリがいい。
「グッドモーニング マイネーム イズ ~」
英語の自己紹介が終わると、さっそく田んぼへ。「キャ~、あはは」歓声をあげながら、裸足で入る。少し冷たいぬるぬるした田んぼの感触、生まれて初めて味わう子どもたちもいる。
学生から苗を受け取り、田の端から端にはった綱に一列に並び、JAの営農指導の小池健さんに教えてもらいながら植えていく…が、うまく植えられない。そこに事前講習を受けていた学生がやさしく教えながら、子ども達をフォローしていく。
まじめに一生懸命植えて、うまくいったのを喜ぶ子、泥をなげて遊び始めてしまう子、列から抜け出てしまう子。子ども達ののびのびした個性そのままの姿にどう対応したらよいのか、学生たちは迷いながら、でもやりとりを楽しみながら、共に苗を植えていく。
そんな様子を見ながら「学校だったら、もっと統制されてしまうけど、ここではたとえ農作業に入れなくても、その子なりのペースで過ごさせてもらって、それを学生さんが見てくれるのもうれしいですね」と保護者。
予定通り、田んぼの半分を植え終わると、今度はおにぎりタイムになった。農場長の手塚亮介さん(3年)が「いただきますしよう」というと、子どもから「かじっちゃったよ~」と声が飛んだ。学生たちも自分で握ったおにぎりをほおばって、作業の事、おにぎりのこと、お兄さんのしているバイトのことなど子ども達と話しながらにぎやかに食べている。
おにぎりを食べ終わると英語の時間が始まった。
英語担当のダルトン コリーン先生(全学教育機構講師)が「おにぎりはヤミ~」(おいしい)といえば、「ヤッキー」(まずい)という子も(笑)。「遊び感覚で英語が身に付きます。家でもやっていますよ」(保護者)と英語活動もなかなかの評判だ。
農作業をしながら子どもに英語を教えるにはどうしたらよいか…準備には苦労したらしい。「初めは普通に訳していたんです。
でも例えば畝は英語でridgeというけど、子どもは畝とは言わないですよね、子どもがふつうに使うことばにしようということでsmallmountainと表現しました」(第一回活動にて)英語の先生にもアドバイスをもらい、一つ一つイメージしながら準備した。
「今年は英語を取り入れると聞いて心配していましたが、学生さんたち工夫してうまくやってこられていると思います」とJAの小池さん。
活動の仕上げに、子ども達は絵日記を描く。田んぼらしきところに黒い針金のようなものを描きこんでいた女の子に感想を聞くと「あめんぼうつかまえて楽しかった!」とのこと。
参加した親子が車で農場を後にする。
学生たちはどの車にも満面の笑みで手を振り送っていた「また、来てね~」
「信大YOU遊」の2012年からの名称は「信大YOU遊未来(Chance)」だ。全国の学生と切磋琢磨を図る機会(Chance)であり、子ども、地域、学生それぞれの未来を創造する機会(Chance)となるようにという願いが込められている。
19年前、顧問の土井進教授は教育実習を終えた学生たちから「もっと子ども達と関わりたかった」という声を聞いた。教育実習は忙しく、学生たちは指導案づくりに必死にならざるを得ないが、本当はもっともっと子ども達と触れ合いたかったのだ。土井教授は「土曜日に子ども達をキャンパスに呼んで、共に遊び、学ぶ機会をつくったらどうか」と学生に提案し、学内外の了承を得るために自ら場づくりに奔走した。
翌年学生たちは数遊びやスライムづくりなどの楽しく学び、遊べる講座を準備し、子どもたちをキャンパスに招いた。これが第1期「信大YOU遊サタデー」(1994年)となった。3年後に文科省(当時文部省)が全国の教員養成系大学に、フレンドシップ事業を始めるよう推奨したのは、この取り組みがモデルになったといわれる。
やがて活動の場が地域に広がり、「信大YOU遊広場」、「信大YOU遊世間(World)」と名称を変えながら18年間継続、19年目の活動に突入した。今や、信大Y O U 遊に関わった卒業生も2000名を超え、信大YOU遊で培った経験を教師の現場で活かす多くの卒業生がいる。
信大YOU遊の活動場所はプラザといい、現在は9つのプラザ*が運営されている。地域の方々と共に子どもの育成事業に関わりながら活動する、須坂、長野市(湯谷)(大岡)、青木村、麻績村、喬木村のプラザやYOU遊サタデーのように講座を用意して子ども達をキャンパスに呼ぶ「信大YOU遊フェスティバル」、キャンプを主催する「YOU-YOUキャンプ」、そして「信大茂菅Farming Village」。それぞれに子どもと学生、学生と地域の人々の触れ合いがあり、絆も生まれている。
茂菅農場は、13年前に土井教授が「農業を通して学生を育てたい」とJAながのに土地の相談をして、近くに住む林部信造さんに農業指導をお願いしたところから生まれた。林部さんの温かな指導に、学生たちは「長野のお父さん」と呼び親しんでいる。林部さんのお宅には、毎年大勢の卒業生から年賀状や暑中見舞いが届いているという。
*信大YOU遊のグループとしては、教師になるために個々を磨くための「未来道場」という場もある
農場長
手塚亮介さん(左)
副農場長
遠山芽衣さん(中央)
副農場長
井上甲斐さん(左)
手塚 やりたい人がやりたいことをやりたいようにやる。そこに地域の人が連携をしている活動。
井上 用意されたものでなく、自分たちの意思で子ども達と関わる。その関わりが楽しく、運動してでも手に入れたいほど価値のあるもの。
遠山 学生が主であり楽しみたいという純粋な気持ちで生まれる茂菅農場の三役に聞きました。活動で、子どものために何ができるかを自分たちで考えて突き進んでいけるもの。
手塚 人と関わるのが苦手なところがあったのですが、今、同じ目的で集まった仲間で意見を言い合いながらやっていることがとても楽しいです。ここには教師になるために、大人になるために必要なことがあると思います。
井上 コミュニケーションに不安があっても、YOU遊の活動はきっかけになります。お互い(心が)開かれた関係があり、開いている子は他の人をどんどん開いていこうとする。閉ざされたものが開いていく、そのことがチャンスを、未来を拓いていくのだと思います。
遠山 将来、幼稚園教諭を目指す私には、幼児の参加が多いことが魅力です。また、ここでなくては会えない方々と関われて得したと思います。それは温かい関わりなんです。
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