この特許技術のもうひとつのキーワード、硬い親芋を処理するために用いられる「酵素処理技術」についてもご説明します。
酵素とは、食物中に含まれるタンパク質や多糖類などの物質を、アミノ酸やブドウ糖などの単糖に分解する触媒分子のことです。物質によって反応する酵素は異なり、「発酵」も菌が作り出した酵素の働きのひとつです。「酵素処理」とは、その酵素を使って人為的に物質の酵素反応を促す技術です。それでは、この酵素を使った里芋のペースト化の特許技術にはどのような特徴があるのか、そのメカニズムと共にご説明します。
里芋と水に溶かした酵素
カットした里芋に酵素を入れてどのくらいで柔らかくなるかを実験。硬い親芋でもあっという間にペースト状に
1つ目の特徴は、硬い親芋でも短時間で簡単にベビーフード並みの柔らかさにできること(グラフ②)。通常「ペースト化」というと、加熱したあとに機械によって粉砕する方法を思い浮かべますが、この特許技術では加熱した里芋をカットし、酵素を入れて混ぜ合わせるだけ。時間の経過と共に酵素反応が進み、硬い親芋も徐々にペースト状になっていき、最終的にはさらさらの液体にまで形状を変化させることができます。熱を加えるだけで反応を止めることができるので、酵素の量や反応時間を調節すれば、目的に合った柔らかさにすることも可能です。
2つ目の特徴は、酵素処理を施すことで細胞壁由来不溶性食物繊維を水溶性に変化させることができることです。水溶性食物繊維は大腸の微生物の有用なエサとなるため、腸内環境の改善にも役立ちます。また、酵素反応によってタンパク質も増加するため、栄養価がさらに高まるという利点もあります(グラフ③)。
3つ目は、消化効率の向上です。この酵素処理法では、細胞をバラバラにするだけの物理的な機械処理に比べ、消化効率は約2倍になります(グラフ④)。これはセルロースやヘミセルロースといった、人の消化器系では分解されにくい植物細胞壁由来の繊維が酵素処理により溶け、均一に分解、断片化するためだと考えられます。
このように、酵素処理による里芋のペースト化技術によって、栄養価も高く消化性も良い、高齢者の嚥下食の開発にはうってつけの理想的な食品素材を作ることができるのです。