"穿く"ロボット「curara®パンツタイプ」産学官金融連携

"穿く"ロボット「curara®パンツタイプ」

身体にまひが残る方や高齢の方などのリハビリ訓練・自立支援を目的に、 信州大学繊維学部で開発を進めてきた、“着る”生活動作支援ロボット「ロボ ティックウェアcurara®(クララ)」。その新タイプとなる、“穿く”タイプ(以 下パンツタイプ)の試作モデルを発表しました。

 身体にまひが残る方や高齢の方などのリハビリ訓練・自立支援を目的に、信州大学繊維学部で開発を進めてきた、"着る"生活動作支援ロボット「ロボティックウェアcurara®(クララ)」。その新タイプとなる、"穿く"タイプ(以下パンツタイプ)の試作モデルを発表しました。
 「curara®パンツタイプ」は、衣服を穿くように人の下肢に装着することができる、衣服一体型の歩行アシストロボットです。繊維学部橋本・塚原研究室が、2015年から地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター(東京都)と共同開発したもので、2年後をめどに、医療・介護現場での実用化を目指しています。
 試作モデルの発表会は、2016年7月21日、文部科学省情報ひろばラウンジ(東京都千代田区霞が関)で開催、報道陣のほか、企業、医療・介護関係者が会場を埋め、その関心の高さを示すものとなりました。

(文・柳澤 愛由)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第101号(2016.9.30発行)より

“穿く”という新発想で より「衣服」に近づく

装着デモンストレーションの様子

装着デモンストレーションの様子

装着デモンストレーションの様子

 curara®は、2011年から2015年まで、科学技術振興機構(JST)A-STEPの支援を受けて開発が進められてきた生活動作支援ロボットです。既に、手足の主な関節部分に小型のモーターと人の動きを検出するセンサが一体化したユニットを直接装着するタイプ(以下・従来型)の上肢・下肢・全身モデルが存在しています。従来型は、人とセンサとの間に生じるわずかな力を検出してロボットがその動きに同調、関節に力を伝え人の動きをアシストするという仕組みで、新しい発想のウェアラブルロボットとして各方面から注目されており、信大NOWの誌面上でも何度かご紹介してきました。
 しかし、従来型は、人の体に合わせて一つひとつのパーツを装着しなければならないため、装着に時間がかかる上、パーツが多くひとりでは装着しにくいといった課題がありました。そうした課題を解決するために、従来型の下肢モデルを進化させ、「穿く」という日常的な動作の中で使用できるように改良したのが、「curara®パンツタイプ」です。
 最大の特長は、装着にかかる時間が従来型の約10分から約3分と大幅に短縮された点です。また、ひとりでも装着が容易で、従来型の樹脂製の固定具ではなく、面ファスナーとゴム製の素材で脚や腰に巻きつけるようにモーターからなる装置を装着するため、拘束感が軽減され、フィット性も向上しました。また、既にパンツに装置が付属しているため、穿いた状態で一度その人に合った装置の位置関係を決めてしまえば、再度、その作業をしなくて済むというメリットもあります。パンツ部分を好みによってかえることもできるため、利用者の嗜好に合ったロボティックウェアが作れることも、大きなメリットのひとつです。
 curara®開発当初から、「衣服を着るようなウェアラブルな機器」を想定してきたという橋本教授は、パンツタイプの試作モデル完成にあたり、「より衣服に近づいたと思います。衣服感覚で使えるよう、利用者の立場に立って開発してきました」と、確実な前進面を強調していました。

ロボティックウェアcurara® の仕組みをおさらい

 これまでも信大NOW誌面上でお伝えしてきましたが、改めて、その特徴を簡単にご紹介します。
 curara®には、「同調制御法」という制御システムが用いられています。人の周期運動が作るリズムを利用した「人に同調することのできる」制御技術です。また、人のわずかな力(トルク)を感知するセンサが搭載されており、電極などを貼付することなく、センサで人の動きを感知し、それに合わせてロボットが動くという仕組みです。また、着用する人の関節部にモーターを直接固定し、力を関節にダイレクトに伝える「非外骨格型」という構造をしており、主に、力を増強し、身体機能を強化拡張することを目的とするロボットに採用される「外骨格型」(体の側面にロボット骨格を持つ)といわれる構造とはコンセプトを異にしています。そのため、柔軟で自然な装着感があり、体をねじる等の自由な動作も可能です。
 これらが、他の動作アシストロボットと異なる特徴であり、curara®が「人に優しいロボット」といわれる所以です。

満席となった発表会場の様子

満席となった発表会場の様子

東京都立産業技術 研究センターとの共同研究

 「“衣服を着るように”という発想は、長年、衣服や繊維の研究を進めてきた繊維学部だからこそ」と橋本教授。パンツタイプの開発にあたり、新たに東京都立産業技術研究センターが参画し、パンツの製作を担当しました。
 同センターは中小企業等への技術支援を行う機関で、繊維を専門に研究するチームが存在しており、「curara®を組み込んだ衣服の開発ができないか」という橋本教授からの要請を受け、共同研究が実現したとのことです。
 これまでも、小型モーターや駆動部の減速機には、長野県に拠点を持つ山洋電気(株)および(株)ハーモニック・ドライブ・システムズの技術が用いられるなど、信州大学と地元企業との産学官連携により生まれた最新技術が詰め込まれてきました。こうして、プロトタイプから改良を重ね、軽量化や装着しやすさを実現したのが、昨年完成した従来型の3号機でした。その技術をベースに、2015年には信州大学先鋭領域融合研究群による、curara®の技術を体内に埋め込む「歩行アシストサイボーグプロジェクト」がスタート、同時にcurara®の実用化も目標とする過程で、このcurara®パンツタイプが誕生した、という経緯です。

curara®が見据える 超高齢化社会

橋本稔教授
開発者の信州大学繊維学部橋本稔教授

 65歳以上の高齢者が総人口に占める割合は、今後ますます増加していくと見込まれています。介護する人の負担も増加し、日常の生活を補助するロボット技術の需要は年々高まっています。
 うまく動けなくなることは、その人の心身に多大なストレスを与えるだけでなく、周囲の人達にも、大きな負担を課してしまいます。そうした中、より多くの人が、その人らしく生きていく社会を実現するために、curara®のコンセプトである、利用者の日常生活に寄り添う“人に優しい”ロボット技術が、超高齢化社会で重要な役割を担っていくと、橋本教授は考えています。
 「curara®の開発で最も重要視したのは、いかに利用者の立場に立ち、着ている人の負担を軽減するか、という点です。超高齢化社会を迎える今後の日本で求められる技術だと思っています」と橋本教授。力を増強するのではなく、人の動きに同調し、寄り添うように動くcurara®のシステムには、橋本教授のそうした優しい思いが込められているのだと感じました。
 橋本教授は、「curara®の開発で、大きく輪が広がってきました。安全性や耐久性の確認をしながら改良を進め、具体的な実用化に向け、開発、研究に協力してくれる企業や医療・介護施設をさらに募っていきたい」と語り、実用化に向けた準備を進めています。

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