
メディカル関連の新技術・新ビジネスの創出を目指す医療機器製品・部品メーカーの技術シーズ展示会が、9月4日・5日の両日、松本キャンパス医学部附属病院で開催された。製造業・ものづくりに関わる技術者・研究者や、医療介護に関わる医師・看護師ら医療スタッフ・研究者、また行政関係者などが集まり、現在までに開発してきている新技術・新ビジネスの紹介と意見交換を通じて、さらに一歩進んだ研究開発を目指した。
出展社は「信州メディカル産業振興会」に加盟する企業等20社。本号では、その中で松本キャンパスに設置されている「信州地域技術メディカル展開センター」(注・「広がるメディカル分野での連携」の覧参照)の研究ラボに入居する4社の新技術・新製品にスポットを当てた。
いずれも、医療・介護現場の〝気づき〟を新しいカタチにしたものだ。
主催:信州メディカル産業振興会
信州メディカルシーズ育成拠点
信州大学産学官・社会連携推進機構
信州大学医学部附属病院
共催:(公財)長野県テクノ財団
長野県上伊那郡宮田村に本社を置くタカノ株式会社が展示した一つが「サージカルボディーサポート」。立ったまま手術する術者の姿勢を保持し疲労軽減を目指した体位サポート機器だ。
医学の進歩に連れて、手術も微細な技術を要するものになり、現在では、術者が顕微鏡で術部を見ながら、長時間、同じ姿勢で手術を続ける例が多くなってきている。しかも、手術機器を足で操作するフットペダルも多く、下半身は不安定になりながらも、体位を保ち、上半身―特に手や頭―は、〝不動〟に近い状態を保たなければならないという過酷な条件に置かれている。
「サージカルボディーサポート」は、こうした術者の体位を支え、手術手技の安定と下肢の負担軽減をもたらす。医学部附属病院脳神経外科の伊東清志助教との共同研究で開発した。長年に渡るオフィスチェアの開発・製造により蓄積してきた同社の人間工学の応用や、金属加工・クッション材の研究などのノウハウを活用し、「現場に近い」という「信州地域技術メディカル展開センター」のメリットを最大限活かしてきたという。
神経筋疾患、運動失調、睡眠障害などの症状評価や薬効評価に必要な、活動量や睡眠状態の解析システムを展示したのが、松本市に本社を置くキッセイコムテック株式会社。
小型活動量計を7日間程度、腰につけて生活するだけで、活動量と睡眠状態を解析・評価できる。
活動量については、毎日の合計運動エネルギー(kcal)と、2分間ごとの活動度を計測。睡眠状態は、毎日の睡眠時間、睡眠効率、睡眠パターンなどを評価レポートにして提示する。そして、活動量と睡眠状態の相関解析により、両者の因果関係を把握し、各種疾患の症状評価や薬効評価を行うことが特徴だという。
同社は、キッセイ薬品工業株式会社のIT部門が分離独立した子会社で、企業の情報システムの企画・設計から、導入・運用・保守までをトータルにサポートするシステムインテグレーションを事業の柱にしている。そのソフト部門のノウハウを活かして、メディカル分野に進出した。
他にも、タブレット端末などを用いて、在宅療養者、家族、及び、そのケアチームを繋ぐクラウドシステムなども展示した。
千曲市に本社を置くチヨダエレクトリック株式会社は、「安全で、使用者に安心してもらえる、洗浄・消毒・滅菌工程」をテーマにした最新鋭機3機種を展示した。
そのうち、すでに信州大学医学部附属病院耳鼻咽喉科で使用されている耳鼻咽喉科用自動内視鏡消毒器「エンドスコープ・ディスインファクター」は、内視鏡の挿入部だけでなく、操作部も含めて、短時間で簡易に、洗浄・消毒できるようにした装置。
「操作部まで消毒した方が安心」という現場スタッフの意見を受けて、約3年間かけて開発した。また、作動中の音も、極力、静音化することに努めたが、これも現場からの要望に応えたものだという。
「信州地域技術メディカル展開センター」に入居しており、附属病院の現場スタッフと頻繁に意見交換できることが、大きなプラスになったそうだ。
その他にも、各種医療器具を洗浄する「ウォッシャー・ディスインフェクター」、洗浄後の器具の細菌類を完全に殺菌する「卓上高圧蒸気滅菌器」も出展していた。
脳梗塞や脳内出血、また交通事故等での外的力による頭部損傷など、頭蓋内部の圧力の変動を迅速・正確に測定することが治療のカギを握る病気やケガの際に、手術などで頭蓋を開いて、内部に測定機器を入れずに(=「非侵襲」)、それを可能にすることを目指したモニタ機器が、これだ。外耳道(耳の穴)にセンサーを入れて、そこで得られる観測数値から頭蓋内圧を推定するという。
現在は臨床研究段階だが、実用化すれば、救急医療における初期診断や、ベッドサイドでの長期間の監視など、主に脳神経外科に関連する医療で、患者の負担を大幅に改善することにつながる。
副学長で医学部附属病院長の本郷一博教授の指摘をもとに共同研究を進め、2年をかけて現在にいたった。
開発した株式会社イチカワは、東京都羽村市に本社を置く計測制御機器の開発メーカーで、以前より信州大学工学部との共同研究などを進めてきていた。「信州メディカルシーズ育成拠点」の開設を機に、医工連携の流れの中でメディカル分野に進出したという。
医療・介護・健康分野には、国際的な必要性の高まりとともに産業界などの注目が集まっている。超精密技術を中心に電子、情報、自動車関連などの産業が集積する信州では、そうした地域の強みを活かし、次世代産業の一つの柱として成長させようと、産学官の連携が進んでいる。
平成22年には信州大学松本キャンパスに50種類以上の医学的解析機器を共同利用化した「信州メディカルシーズ育成拠点」が開設。同時に産学官から広く会員を募り「信州メディカル産業振興会」が設立された。事務局は信州大学産学官・社会連携推進機構。
さらに平成25年には、共同研究のために企業が入居できるレンタルの研究室を備え、医師などとも「ひとつ屋根の下」で、メディカル分野の共同研究を総合的に推進する「信州地域技術メディカル展開センター」を新設、信州大学医学部附属病院や、近隣の松本歯科大学とも協力した、産学官・地域連携の輪が広がっている。
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