産学官地域連携

多様な連携協力を可能にして地域の保健活動を推進

多様な連携協力を可能にして地域の保健活動を推進

 医学部地域保健推進センターが設立して1年が経過した。
 初年度は、保健活動に関する多くの会議や研修が開催され、教育活動が行われた。センター主催の健康講座も開催され、地域住民等、延べ約600名が参加して好評を得ている。これらセンターとして期待以上の成果を上げているのは、保健学科の潜在的なエネルギーが形になって現れてきたからだ。
 2年目を迎え、センターの内外で地域保健を推進する気運が高まっている。

(文・中山 万美子)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第93号(2015.5.29発行)より

「役に立つ」「また来たい!」好評の健康講座

健康講座の様子
心臓マッサージ

 センターは、女鳥羽川沿いの信州大学東門に近く、医学部保健学科の北校舎に隣接している。5月9日、昨年の秋に引き続き第2弾の健康講座「災害と健康」第1回が開かれた。4回開講のプログラムで今回はAEDの使い方と外傷の応急手当を習う。
 まずはセンター3階の多目的講義室で20分程、深澤佳代子教授の災害基礎知識の講義を受けた。続いて地震が起きたというシナリオに従って机の下に1分間もぐり、揺れが収まる(設定)と、階段を使って移動し、北校舎4階の看護学実習室へ向かった。
 看護学実習室には左右にマットを敷いたスペースが5つずつあり、右側にはAED、左側には外傷手当用の道具などがセットされている。参加者40名は、二手に分かれて実践する。
 外傷の手当用には、傘、新聞紙で作った棒、ラップ、タオルなどが並ぶ。
 「こちらへ集まってください」。中央でスタッフによるデモンストレーションが始まる。「災害時の怪我には、こうした手近にあるものが利用できます」。傷をタオルで押さえて止血する。少量の水で傷を洗い、拭き取ってからラップを巻く。スタッフの説明はテンポよくわかりやすい。熱心に聞いていた参加者たちは、説明が終わると4、5人のグループに分かれてそれぞれのスペースで同じようにやってみた。「あれっ、こうだったっけ?」様々な疑問が湧いてきて迷うが、スタッフの丁寧なフォローに安心する参加者の顔が見えた。
 参加しているのは老若男女の地域住民や、駐車場案内をしていた学生たちもいる。「町会で救急の事態が起きた時に役に立つように」という男性や「様々な状態を知っている先生だから、聞けることがある」という女性もいた。後半は、AED側と外傷側が入れ替わり、1時間半というコンパクトにまとめられた講座は終了。短時間だったが、どの参加者も充実した笑顔で会場を後にした。丁寧で無駄がない、スタッフのホスピタリティーがあふれる講座だった。
 健康講座の第1弾は、昨年の秋、連続10回の講座で「健康寿命延伸を目指して」というテーマで行われた。毎回のアンケートを集計すると、満足72%、やや満足13%と好評で、自由記述には、「ありがたい。ためになった」「またやってほしい」という意見が目立っていた。

“点と点”から、より大きな推進力を持つ、“面”の活動へ

金井 誠

金井 誠
信州大学大学院医学系研究科保健学専攻長
医学部保健学科長
医学部地域保健推進センター長
学術研究院 教授(保健学系)
医学博士 産婦人科医

 金井センター長は、この1年を振り返ると「点と点をつなぐ活動が、センターを拠点により大きな面の活動になり、“見える化”してきている」という。
 これまでも保健学科の教員は地域のネットワークと連携し、個々の専門性を活かして積極的な活動で地域貢献をしてきた。
 本郷実教授を中心としたグループは、若年層の生活習慣病を引き起こす大きな原因が小児期の肥満にあることを突き止めて、2005年から県内3つの中学校で生活習慣・生活習慣病の調査を行い「青少年のメタボリックシンドロームを考える会」を設立した。中学校への出前講座や出前クリニックのほか、講演会、市民公開講座など社会啓発・教育活動に積極的に取り組み、高い評価を得ている。2014年にはこれらの活動を基盤にして、松川村と地域連携協定を結んだ。信州大学医学部としては初めての自治体との地域連携協定だった。
 金井センター長は、松本地域のお産の受け入れ態勢が危機的な状況にあったことから、地域全体で分娩を支えられる、画期的なシステムを助産師の方々と共に構築している。他にも高齢者の運動機能を維持するために、各地で転倒予防教室などを開催するほか、地域の人々と共に行ってきた様々な取り組みがある。
 それぞれの専門分野がもつネットワークをセンターという拠点で、協力・連携する歯車が動き出した時には、より大きな推進力を持つ保健活動となっていくのだ。

保健活動を一体となって推進していく

地域貢献のさらなる推進

 そうした動きの中から生まれてきたのが、「実践力ある在宅療養支援リーダー育成事業」というプログラムだ。超高齢化社会の中で在宅ケアのニーズの高まりに応えられるよう、在宅療養を支え、促進するリーダーとなる看護師を育成する。難病・がん・重症児など、これまで不足していた新たな形の在宅や専門的な知識も学ぶことができる。
 附属病院看護部と保健学科全体とがコラボレーションした事業で、看護、理学療法、作業療法、検査技術各分野の観点が活かされるクオリティーの高い教育が期待されている。講義はセンターで行われるが、WEB会議システムを使い、通う時間が取れない時でも自宅にいながらリアルタイムで受講することができる。今年6月に開校式を行い、第1期生は来年12月に修了となる。
 「センター設立後、保健学科は、単にそれぞれの分野の独立した専門職を育てているのではなく、保健活動というものを一体となって促進していく集団であり、そういう人材を育てているということが、より明確化しています。ここで地域の関係諸団体の方々とお互いにwin-winの関係をつくり、それが最終的に地域の健康増進に役立っていくということを目指しています」と金井センター長はいう。
 センターの歩みは、そのまま今後の地域の健康増進の歩みと重なっていくことが期待される。

地域連携: 松川村との地域連携事業

 2014年3月「健康長寿を基盤とする活力ある地域づくりを推進するとともに、地域の発展と人材の育成に寄与すること」を目的として、信州大学医学部と長野県北安曇郡松川村との地域連携協定が締結され、現在、様々な取り組みが実施されている。
 2014年度は健康長寿健診、生活習慣病に関する講演会、食育活動、介護予防教室、認知症予防教室、従来からの松川中学校で生活習慣病調査、出前クリニック(全生徒を対象とした健康教育と保護者を交えた個別指導)、食育出前講座などが行われた。松川中学校では、肥満の生徒の割合が年々少しずつ減少し、出前クリニックや出前講座の教育的効果も現れ、生徒の食生活管理能力が向上している。

担当:本郷実教授、研究分担者(保健学科教員11名、学科外4名、医学部大学院生4名)

医学部基礎棟にて

2014年3月11日 医学部基礎棟にて

食育活動

食育活動


企業との連携: 生体モニタウエアラブルおよび生活支援機器・器具の開発

 2013年4月から愛知県刈谷市にある株式会社デンソーおよび長野県富士見高原にあるセイコーエプソン株式会社と共同研究をしている。主に高齢者の在宅での健康状態を見守る“見守りシステム”や、身体の負担を少なくして健康状態を検査できる機器の開発を行っている。具体的には、体の下に薄いシートを敷くだけで、寝姿や呼吸状態を遠隔で見守ることができる機器、脈を計測することで睡眠の状態がわかる腕時計型の機器の開発。さらにこれを応用して肺の機能も測定することができる機器を開発している。
 見守りシステムでは離床・在床・体動・呼吸のモニタが可能となり、一人暮らしの高齢者の孤独死を減少させる可能性がある。

担当:藤本圭作教授、研究分担者(保健学科教員18名、医学科教員3名)

見守りシステム

見守りシステム

睡眠段階自動判定ウエアラブル

睡眠段階自動判定ウエアラブルの開発

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