
信州大学の研究シーズを広く地域社会へ発信するため、研究内容を展示・発表する「第1回信州大学見本市─知の森総合展2014」を3月4日、長野(工学)キャンパス総合研究棟を会場に開催した。主催は信州大学見本市開催実行委員会(構成:信州大学AGENDA・信州大学産学官連携推進本部)。
当日は、文系・理系を問わず、それぞれの分野で活躍する本学の研究者らが一堂に会し、124のテーマで135ブースを出展。10時30分の開場と共に、県内外の企業をはじめ行政関係者や一般市民など17時の閉会までに約480名の参加者が切れ目なく訪れた。
「信州大学見本市」は、本学の研究シーズを広く地域へ発信すると共に、総合大学としての特長と強みに触れてもらいながら相互に情報交換を行い、新たな製品・技術開発、課題解決を図ることを目的とした初の試みだ。山沢清人学長を実行委員長に据え、大学総力をあげての企画として位置づけている。
大学が、しかも全学部が一堂に会し展示会を行うという試みは、他大学でもあまり例が無い。もともと、この企画の原案は、実行委員幹事長を務める繊維学部・杉本渉教授が属するプロジェクトチーム「信州大学AGENDA」の中で挙がっていたものなのだという。「信州大学AGENDA」は、各学部を横断し次世代のグリーンエネルギー研究における研究者を結集、信大の総合力を活かし、課題解決のための研究シーズを探ることを目的に設立されている。
「産学官連携」の高まるニーズも本見本市開催の追い風となった。信大AGENDAと共に主催構成組織として本見本市を推進した信州大学産学官連携推進本部は、これまでも企業と大学とを結び付けてきており、既に多くの受託研究・共同研究がおこなわれてきた。しかし、幹事長を務めた杉本渉教授は、地域との連携に関して「まだまだ出来ることが多い」と力を込める。企業は、最先端の知見を得たくても、大学でどのような研究が行われているのか情報収集に大きな労力を要する。しかも、信大は4地区5つに分散するキャンパスという形態。それぞれの学部ごとの研究情報を総合的に得るのはより難しい。学部を越え、各分野に亘って広く研究内容を展示する機会を作ることで、どの学部でどのような研究を行っているのかをまず知っい、大学をPRすることが重要だった。そうした思いがあるからこそ、信州大学は大学側の研究シーズと企業側のニーズを引き合わせる場としての機能をこの見本市に託したのだ。ブースを学部別ではなく分野別に並べたのにはそうした思いをレイアウトにも反映させたからだ。
地域がどのような課題を抱え、どのようなニーズがあるのか、企業や団体からの情報提供と意見交換を行ってもらうことも本見本市の大きな目的のひとつだ。大学側が地域の課題とニーズを知り、それが新たな研究テーマへ繋がれば、研究がより身近なものになる。
日本経済新聞社・産業地域研究所が毎年実施している「大学の地域貢献度調査」(2013年は全国737の国公私立大学対象、526大学回答)において、平成25年度、信州大学が2年連続ランキング1位を獲得したことは記憶に新しい。そして2位以下にランキングされる大学も地方大学の名が連なる。地方における大学は、都市部の大学に比べ置かれた環境が大きく異なる。大学はどのような個性を持つべきなのか、常に模索していく必要性もあるだろう。だからこそ、いかに「地域にひらかれた、地域のための大学」として存在し続けられるかが、地方大学のひとつの重要な使命といえそうだ。
学術体系だけでなく、研究を行うフィールドや地域性が、大学の個性や特色を作る。そして企業も地域性によって育まれることは多い。信州の豊富なものづくりフィールドを利用した企業との連携が強化されれば、「信州大学」の特色づくりをより磨きあげることに繋がるのだ。
“分散型キャンパス”である本学の形態では、外部のみならず学内の情報交換も容易ではない。そのため、研究者にとっても信州大学が総合大学である、ということの強みと魅力に気付きにくい状況にあるといえるかもしれない。
それぞれのキャンパスで研究を進める研究者にとって、たとえ内容に共通する部分があったとしても相互の交流はそれ程多くなく、ましてや他分野、特に文系と理系の研究者とが顔を合わせる機会はより少ない。
杉本教授は「先生方が直接顔を合わせ、それぞれの知的興味を刺激し、文理融合、学部を越えた共同研究や連携を行うきっかけにもなれば」と語る。
研究者は自身の研究に対して目線が一点に集中しがちだというが、文系・理系問わず研究者同士が顔を合わせる機会があれば、多様で柔軟な思考が生まれる。それが総合大学としての強みと魅力のひとつでもある。
見本市への出展を学内に呼びかけた際、当初約100ブースの想定に対し予想を超える135ブースの応募があったことは、いかにこうした機会を多くの研究者が求めていたかの証明でもあるといえる。
ここで、当日の様子を紹介する。
特別展示のブースでは、2月28日に打ち上げが成功した信州製超小型人工衛星「ShindaiSat(シンダイサット)」(愛称・ぎんれい)の実物大模型の展示が行われた。「ぎんれい」からのモールス信号による受信の実演なども行われ、興味深そうに覗き込む人の姿がみられた。
また、人の動きに同調して運動を補助するリハビリ訓練・日常生活支援のためのロボティックウェア「curara(クララ)」の上肢タイプが初披露され、実用化までの期待を感じさせた。
研究紹介の部屋では、分野別にブースが配置されそれぞれの研究者が自身の研究を紹介し、会場は熱心に聞き入る人で溢れていた。
展示されていた研究内容の一部に簡単に触れる。繊維学部杉本教授は開発した世界初の導電性のある酸化ルテニウムナノシートについて、燃料電池の応用が期待できるとメーカーとの共同開発を呼びかけた。工学部太子敏則准教授は、省エネ化に寄与する「単結晶」の育成をPR、理学部の太田哲准教授は、酸化還元駆動型分子ピンセットを開発、将来的には有用物質の捕捉などに応用できる可能性を示唆。農学部中村浩蔵准教授は、ソバを使った乳酸発酵物が高血圧予防に大きな効果を発揮するとして、新機能食品の創出を期待させた。
そして多くの研究者が、「想像以上の来場者で驚いた」「画期的な企画。これを契機に他学部との学内連携も探れたら」などと感想を話し、本見本市の成果と今後に期待する声が上がっていた。
見学に訪れていた県内の化学系企業は、「幅広い分野の勉強、情報収集を行うことが出来た。最先端の情報を得るにはインターネットなどだけでは限界がある。実際に話を聞けたことが大きい」と多くの知見に触れられたことへの成果を口にした。
長野市の部品販売・卸会社の田中秀一さんは、工学部との繋がりはあったが他学部との繋がりは無かったと話し、「技術があっても絵に描いた餅ではもったいない。製品化を見据え、学部間の連携を図りながら頑張って欲しい」と語り、大学の技術力へ期待を寄せていた。
「信州大学見本市」は今後も広く門戸を開き、継続して開催する予定だ。多くの人が信州の「知の森」を共通のフィールドとしていくことが出来れば、その英知はより茂り、豊かになっていくことだろう。
![]() 信州大学 繊維学部 東京都出身。早稲田大学理工学部卒、 早稲田大学大学院理工学研究科博士課程修了。 1995年株式会社東芝、1997年日本学術振興会特別研究員、 1999年信州大学繊維学部助手、2007年同准教授、 2013年同教授。趣味は「暴飲暴食」。 |
信州大学「知の森」らしい展示会になったと思っています。見本市を通じてより地域との連携を強め、文系・理系問わず信州大学「知の森」の良いところ、長野県唯一の国立総合大学の力を、地域の方々に知って貰いたいという思いでこの見本市を開催しました。
当日も多くの企業・団体の方にお越しいただき、大学からの情報提供に大きな意義を感じているということを実感しています。
そして、会う機会の少ない各学部の先生方が顔を合わせる場を提供することも目的のひとつです。柔軟な思考と発想が必要不可欠な研究者にとって、それぞれの知的興味を刺激するこうした機会は重要な場であると思います。偶然の出会いが新たな発想とイノベーションを生むきっかけになることもあります。
最近、私は「セレンディピティ」という言葉をよく使います。「セレンディピティ」とは、探していたものとは違うたまたま出会った人やコト、ふとしたきっかけの中に価値を見出す…という概念のことを指します。
偶然を演出する、という点で本来の意味からは離れてしまうかもしれませんが、この見本市は「セレンディピティ」の場を演出することで、新たな発想とイノベーションのきっかけを生み出したい。企業と大学、研究者同士、地域と大学、そうした人々の出会いは、様々な意味でここ「信州」を盛り上げていくことに繋がっていくと期待しています。
季節の七味シリーズ「信州七味」
医学部地域保健推進センター
ビッグデータで予防医学の未来を変える遠隔型個別運動処方システム「i-Walk System」が登場!
”気づき”を新しいカタチに
信州大学の研究効果、一挙公開