産学官地域連携

さきおりプロジェクト

信州大学教育学部発 産×学×福祉連携

 信州大学教育学部の福田典子准教授・蛭田直助教と学生は、衣類の生産工程で余剰した生地や古着を再利用したリユースの織物「さきおり(裂き織り)」を素材とした新製品を、シャツメーカーの企業と社会福祉法人との共同プロジェクトで開発、平成25年3月に記者会見を行った。製品化においては、市場調査・商品企画からプロジェクトロゴ作成まで一貫して取り組み、教育学部が産学福祉連携を行うという、非常にユニークなプロジェクトだ。


さきおり概要

今回の産・学・福祉連携では組織が枠を越えて「協働」のスタイルをとっているのが特徴。商品企画の段階からデザイン・試作・ビジネスプランの評価・アドバイスなどが同時進行する、言わば身内の"一気通貫的なコミュニケーション"で連携するプロジェクトとなっています。



記者会見

記者会見の様子

独特の風合いを持つ先人の知恵、
「裂き織り」生地に学生の感性が取り入れられないか。

福田 典子准教授と蛭田 直助教

(左)教育学部家庭科教育コース 福田 典子 准教授
研究分野:衣生活教育・被服整理学1986年広島大学教育学部卒、1988年広島大学大学院教育学研究科修了、1990年琉球大学教育学部助手を経て1999年より現職。

(右)教育学部美術教育コース 蛭田 直 助教
研究分野:メディア表現、1998年倉敷芸術科学大学芸術学部卒、2008年情報科学芸術大学院大学メディア表現研究科修了、2009年より現職。

 ご存知の方もいらっしゃると思うが、「裂き織り」は古くからある布生地を再利用する先人の知恵。布生地の再生では究極のリサイクルともいわれ、布を一定の幅に裂きヨコ糸とし、麻や綿などのタテ糸に織り込んでいくと、ざっくりとした手作りの、温かい風合いを持つ生地になるのが特徴だ。
 千曲市にあるシャツメーカーのフレックスジャパンはシャツ生産工程で出る生地のハギレを社会福祉法人しあわせの施設“クロスロード”に提供、ここではさきおりでランチマットやコースターなどが作られていた。が、残念なことに、商品としての新規性はなかった。
  「独特の風合いを持つ“裂き織り”製品に学生の新しい感性を取り入れたい」・・・フレックスジャパンの北沢裕二氏が、教材としてハギレ生地を提供していた信州大学教育学部家庭科教育コースの福田典子准教授に、こう相談したのが、この産学福祉連携のきっかけだったという。その後、教育学部美術教育コースの蛭田研究室が計画に賛同、両研究室の学生19名で「さきおり」商品開発プロジェクトチームが2年前に誕生した。プロジェクトチームは議論を重ね、重さ、質感、洗濯に不向きなどといった生地の特性を検討し、着衣には向かないもののファッション性の高い“インテリア小物”というコンセプトに辿り着く。
 平成24年からは開発対象として絞り込んだ4つの製品ごとにグループで製品化に取り組み、この3月に試作品完成にこぎつけた。

教育学部×企業×福祉法人、
さらに家庭科教育と美術教育の融合という異色の組み合わせが新鮮。

 図画工作・美術教育コースはこの場合、企画とデザインで社会貢献を行う。信州大学教育学部は「臨床の知」を教育理念に掲げており、実際に販売される製品の市場調査・商品企画から始められたことは、かなり有意義な実践型演習となっている。会見時、「社会とつながっているのが嬉しい」と話す学生の声にも、実感や手ごたえが漂う。マーケティング、インダストリアルデザイン、ブランディングといった一連の商品開発と展開にデザイン関係者が最初から関わることも、活動の推進力を高めている。プロトタイプの製品誕生に伴い発表された「さきおりプロジェクト」ロゴタイプ・マークも製品コンセプトを明快に反映したもので、企業がリリースしたもののように洗練されており、一連の“仕事”にクオリティの高さが伺える。
 そして今年の秋発売を目標に、さらに生産工程の管理にも関わっていく。織機の台数に限りがあること、障害を抱えておられる作業者には、複雑な作業ができないなどの制約があるからだ。生産効率を高められるよう工程表を作成し、製造現場にも足を運ぶことになる。また特許や意匠登録など知財面の整備も今後の計画に入っている。産学福祉連携といった新しい取り組みが、教育→社会貢献→新規ビジネスと、見事に昇華することを期待したい。

さきおり風呂敷ハンドル・ベルト

「さきおり風呂敷ハンドル・ベルト」に見るファッション性と機能
震災後、非常時の家財持ち出しなどに風呂敷が見直されていることに注目、風呂敷を機能的に担ぐことができる器具がついたベルトを商品化。ベルト単体でもかなりオシャレ感がある逸品。写真も学生が撮影、ファッション製品のカタログを見ているようだ。

アイデアシートとデザインボード

「さきおり」新製品開発のためのアイデアシートとデザインボード
まずは布性ファッションアイテムの市場をリサーチしつつ、自由な発想とアイデアから斬新な製品プランがいくつも誕生、オシャレ度・スタイリッシュ感は学生ならではの感性が反映されている。デザインボードはさらに完成品を意識して、CGでマッピングするなどかなりの精度を持つ。ここからプロトタイプを作成した。蛭田助教の図画工作・ビジュアル教育コース研究成果発表会でも発表された。  

さきおりペンケース

「さきおりロールペンケース」
生地の上半分を折ることでペン立てとしても使える。

さきおり時計

「さきおり時計」
5種類の形に変化。置き場を選ばない実用性が魅力。

さきおりおまもり

「さきおりだるま」
片目のボタンを外して願いを込めて持ち歩き、願いが叶ったら再び目のボタンを取り付ける。

 

今後、より消費者目線を意識したニュービジネススタイル構築に期待

北沢祐二さん

 今から3年ほど前に、弊社の生産工程などで不要になった生地を同じ千曲市内の「クロスロード」さんに有効利用を目的に使用して頂きました。活用法として「さきおり」に出会い、その温かみのある素材感に魅かれ、この“Only one textile”に学生のフレッシュなアイデアをプラスして「新しい感性商品」を考えられないだろうかと考えて福田先生に相談しました。その後、蛭田先生にもご協力いただき、魅力的なさきおりオリジナル製品を考案して頂きました。
 1ステージ目でこれだけの結果が得られて感謝です。今後、産官福の連携による消費者目線を意識した商品開発を充実させ“ニュービジネススタイル”が構築できることを期待しています。

フレックスジャパン(株) 北沢 裕二 さん

織物に込めた想いはきっと伝わるはず

湯原寛子さん

 平成21年7月より、「フレックスジャパン」さんから提供されるワイシャツのハギレを使ってクロスロードで織る「さきおりプロジェクト」がスタートしました。プロジェクトでは、信州大学の学生さんが参加することで、どんなデザインが出来るのか、施設のみんなと楽しみにしていました。そして、昨年デザインが発表された時は、想像もしていなかったデザインに本当にびっくりしました。学生さん達の柔軟な発想に感激です。
 今は、早く作りたいと、さきおりに興味の無かった施設の人もさきおりに挑戦しています。
今秋には商品化し、クロスロードの看板商品にしていきたいです。

社会福祉法人しあわせ“クロスロード” 湯原 寛子 さん

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