産学官地域連携

農商工連携のキーパーソンを輩出した信州直売所学校

農商工連携のキーパーソンを輩出した信州直売所学校

全国的に農産物直売や手造り加工の事業に熱い注目が集まっている。こうした中、信州大学では平成22年度、産学官連携推進本部(地域ブランド分野)が中心となり、広く市民に門戸を開放した信州直売所学校を開講した。この講座は、全国中小企業団体中央会の農商工連携等人材育成事業に採択されている。農産物直売所や、それと結びついた手造り加工を、農商工連携・6次産業化の原型と捉えた新な切り口のものだ。当初定員の3倍もの応募者の中から40人の受講生が選ばれた。彼らは、実に14期日29単元、合計53時間にも及ぶ講義・実地研修・視察研修を終え、直売所や加工所の次世代リーダーとして、また連携のキーパーソンとして巣立っていった。
全国でも初めての例となった大学主催の直売所学校は、何を目指したのか?─その取組みを振り返る。


・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第68号(2011.3.25発行)より

実践者・研究者・専門家― 多彩な講師陣が熱弁

伝統職と伝統野菜についての講義
伝統食と伝統野菜について講義する大井美知男農学部教授

本講座の最大の特徴は、講師の多彩さだ。信州の伝統野菜に造詣が深い農学部副学部長の大井美知男教授をはじめ農学部の教員が、蔬菜園芸学・農業経済学・機能性食品学などを講義した。また、地域の歴史と食文化について研究する副学長の笹本正治人文学部教授、「ながのブランド郷土食」で食品産業の振興の道を探る天野良彦工学部教授など、「オール信大」の陣容だ。

長野大学の古田睦美准教授も地産地消と地域作りについて語り、県内高等教育機関の連携の強化にもつなげた。

現場で活躍する実践者の顔ぶれも豪華。産直市場グリーンファーム(伊那市)、たてしな自由農園(茅野市・原村)、アルプス市場(松本市)など県内の有力直売所の運営者や、全国各地の農家から農産物の受託加工を引き受ける小池手造り農産加工所(喬木村)の代表など、県内の産直・直売・加工のカリスマリーダーが次々と登場した。その他、商品づくりサポートの専門家、農商工連携事業のサポートリーダー、県の農産物マーケティング室など、専門分野の方々も登場し、講義内容を掘り下げた。

直売所・体験農場・加工所・レストランの複合施設で大きな発展を見せる三重県のもくもくファームや、それぞれ特色ある地域おこしの拠点になっている群馬県のららん藤岡、田園プラザ川場への視察研修も実施。

また、小池手造り農産加工所での加工実習や、10月松本で開催された「信州松本そば祭り」での販売実習なども行なった。

アグリビジネスブームの昨今、直売・産直事業に新たなビジネスチャンスを探して参入する企業なども多いが、講座では、単に運営ノウハウを学ぶだけでなく、直売所の社会的役割や、地域の持続的なあり方などにも視野を広げ、多角的な視野から考察を深めた。

修了生の実践的テーマ― 地域振興のカギを握る

そば祭りでの販売研修
信州松本そば祭りでの販売研修。受講生は「自分が進める逸品」3点を消費者にアピールした

受講生の構成は右ページの図1のようなバランスだった。受講生のほとんどが、応募当初から「直売所を新規開設したい」「自家農産物で付加価値の高い加工品をつくりたい」「農商工の連携で町づくりを進めたい」などの明確なテーマを持っており、本講座での研修を通じて、その具体化の方向性が明確になった様子だ。

下伊那郡大鹿村の村役場にふるさと協力隊としてIターン就職し、村おこしを進めるなど、連携のコーディネーター的役割を担い始めた人が5人、飯山市・長野市・安曇野市・松本市・茅野市・箕輪町・松川村などで既存の直売所や加工所の次世代リーダーとして取組み強化を図る人が8人、農業従事者で直売との連携や加工への進出による新展開を目指す人が3人、非農業で直売事業や加工事業への進出を図る人が5人、さらにIターンなどで農業を軸にした連携事業に携わろうとしている人が多数……

第1期直売所学校の修了生となった人々の今後の活躍は、それぞれの地域の地域振興のカギを握るであろう。こうしたメンバーが直売所学校で実際に交流と連携のネットーワークを構築していることも重要なポイントだ。その輪は、修了生の多くが2月25日に木島平村で開催された長野県産直・直売サミットに参加・あいさつするなどを通じて、さらに広がりを見せている。

連携で未来を切り拓く―直売事業の岐路にたって

ニンジン入りリンゴジュースの加工研修
下伊那郡喬木村の小池手造り農産加工所で行なったニンジン入りリンゴジュースの加工研修

高齢化と後継者不足、遊休農地の拡大、鳥獣害被害の拡大など、山間地の農業を取り巻く課題は多い。それは地域や集落の継続的維持と密接不可分に結びついている。こうした問題の解決に向け、直売所・加工所を核にした農商工の連携が大きな役割を果たすことは、多くが指摘することである。

だが他方で、流通資本の産直・直売事業への参入をきっかけにしたアグリビジネスブームを背景に、単なる「利益競争」の波が押し寄せてきている。2010年の農林業センサスによれば、直売所は全国で1万6829ヵ所を数え、前回調査の2005年に比して約24%増、特に首都圏や近畿圏で急増している。「1兆円産業に成長した」と指摘する声もあるが、その背後で、山間地の直売所で、売上げ減や高齢化などを原因に閉店する店も増えてきている。

それは直売事業のみならず集落そのものの危機を示すものだ。こうした中で、山間地の農業振興や町・村づくりと密接に結びついた農商工連携・6次産業化の具体的あり方を探り、全国に向けて発信するのが、山間の農業県=長野県の、そしてそこをフィールドとする信州大学の一つの責務であろう。

信州直売所学校は、その成果が高く評価され、平成23年度も第2期を継続実施することが決まっている(6月頃開講予定)。産学官・農商工の新たな連携をさらに広げたいと、担当スタッフは胸を膨らませている。

受講生の顔ぶれも多種多様

直売所運営に関わっており、そのスキルアップを目指す人が3割、農業関係者で直売や加工との連携で新たな事業展開を目指す人が3割、非農業で農業関連事業への進出を目指す人が3割、残り(行政関係・学生など)が1割だった。応募者もほぼ同じ比率だった。

広がる連携の輪

修了生の代表が、2月25日に北信の木島平村で開催された長野県産直・直売サミットに参加。直売所学校の紹介と修了生の抱負などを提起。「親の開設した直売所の後を継ぐ」「伝統の笹寿司文化を守りたい」「新聞配達のインフラを直売事業など地域に活かしたい」「定年後、〝青年〟新規就農で頑張りたい」など、修了生の言葉に、会場を埋めた450人の直売・加工関係者は大きな拍手で応えた。

ページトップに戻る

産学官地域連携
バックナンバー
"辛口"研究で地域を熱く!とうがらしWORLD

季節の七味シリーズ「信州七味」

多様な連携協力を可能にして地域の保健活動を推進

医学部地域保健推進センター

進化したインターバル速歩 i-Walkシステム

ビッグデータで予防医学の未来を変える遠隔型個別運動処方システム「i-Walk System」が登場!

技術シーズ展示会2014

”気づき”を新しいカタチに

信州の「知の森」を歩く「第1回 信州大学見本市 ~知の森総 合展2014~」開催

信州大学の研究効果、一挙公開

食・農産業の先端学際研究会 FAID(フェイド)
さきおりプロジェクト
バイオマスタウン構想から持続可能社会実現へ
桑の葉入り かりんとう 「くわりんとう」を商品化
信州型グリーン・イノベーション研究の現在
産学官民で考える自然エネルギーとものづくり
信州直売所学校 2年間の軌跡
信大発超小型衛星ついに宇宙へ!
信州大学が推進するグリーン・イノベーション研究の総合力。
メディカル産業集積地目指し、産学官金が連携信州大学が地域と進めるライフイノベーション
全国的注目を集める信州直売所学校
磁気技術で電子機器の進化に挑戦
”心地良さ”を科学する新領域
青色LED量産に道を拓く、新技術を開発
「黒部ダムカレー」販売!
雑穀"ソルガム"で農業振興・CO2削減
「天空の里」飯田市上村下栗の明日にかける