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  1. スキルミオンの流体挙動と論理ゲート機能を理論的に発見
2025年11月4日(火)

スキルミオンの流体挙動と論理ゲート機能を理論的に発見

スキルミオンの流体挙動と論理ゲート機能を理論的に発見 ~ナノ磁気構造体の流体力学の創成とそのデバイス機能の開拓に道~

発表のポイント

  • 磁性体中に発現する「スキルミオン」と呼ばれる粒子状のナノ磁気構造体が無数に集まると、流体のように振る舞うことを発見しました。
  • 「スキルミオン流体」をアルファベットのHの形状をした磁性体素子に流すと、AND(論理積)やOR(論理和)に対応する論理演算ができることを数値シミュレーションにより発見しました。
  • これらの流体挙動と論理演算機能は、位相幾何学的な磁化配列を持つスキルミオンが無数に集まった結果として現れる創発的な現象と機能です。
  • この成果により、スキルミオン1個1個を制御する高度な技術が不要となり、スキルミオンの素子応用の研究・開発が促進されると期待されます。また、ナノ磁気構造体の流体力学を研究対象とする科学分野が創成されるとともに、新たな機能を開拓する応用研究の展開が期待されます。
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ナノサイズ(ナノは10億分の1)の磁気構造体であるスキルミオン※1は将来の磁気デバイスの素材として期待されていますが、極めて微小なスキルミオン1個1個を精密に制御する難しさが、研究・開発における大きな課題になっています。
早稲田大学理工学術院総合研究所 張溪超(ちょうけいちょう) 次席研究員/研究院講師と、同大理工学術院 望月維人(もちづきまさひと) 教授、信州大学工学部 劉小晰(りゅうしょうし) 教授らの研究グループは、この課題を克服するために、無数のスキルミオンを集合体として活用する可能性について検証しました。数値シミュレーションにより、膨大な数のスキルミオンの集合体の挙動を調べた結果、電流存在下で流体のように振る舞うことや、AND(論理積)やOR(論理和)に対応する論理ゲート※2としての機能を持つことを発見しました。この成果により、スキルミオンを使った素子の実現を阻んでいた課題が解決され、その素子応用の研究・開発が促進されると期待されます。また、ナノサイズの磁気構造体の流体力学※3を研究対象とする新しい科学分野が創成され、その現象と機能を開拓する研究の展開も期待されます。
本研究成果は、2025年11月1日 (土)にProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 誌にオンライン掲載されました。

※1 スキルミオン
磁性体中に現れる磁化が渦状、あるいは噴水状に配列した磁気構造のことです。中心の磁化は下向きですが、外側に向かうにつれてなめらかに回転し、最外周では上向きとなります。通常、数nm(ナノメートル)〜数百nmの大きさの円形状をしており、磁性体中で粒子のように振る舞います。スキルミオンを作ったり、消したりするには、必ず局所的に磁化を反転する操作が必要になりますが、この操作は比較的大きなエネルギーを要するために起こりにくく、スキルミオンは安定で、熱揺らぎや外部からの擾乱に強い磁気構造になっています。

※2 論理演算、論理ゲート
論理演算とは、「真(True)」と「偽(False)」という二値(0と1でも表される)を入力として、その組み合わせに基づき一定の規則で出力を決める操作のことをいいます。これは日常の「はい・いいえ」に対応する単純な判断を、数学的に扱えるようにしたものです。代表的な論理演算には以下のようなものがあります。
・AND(論理積):両方が真のときだけ真を返す
・OR(論理和):どちらか一方でも真なら真を返す
・NOT(否定):入力が真なら偽、偽なら真を返す
これらを組み合わせると、より複雑な条件判断を記述することができます。論理ゲートは、この論理演算を物理的に実現する最小単位の装置です。電子回路では、トランジスタやダイオードを使って0と1の信号を処理する仕組みとして構成されます。たとえば、ANDゲートは「二つの入力端子が両方1のときだけ出力が1になる」回路です。コンピュータは、これらの基本的な論理ゲートを大量に組み合わせることで、加算や乗算、記憶、プログラム実行など、複雑な情報処理を行っています。つまり、論理ゲートは現代の情報処理装置の最も基本的な構成要素なのです。

※3 流体力学
液体や気体の運動と力学的性質を研究する学問分野です。水や空気のように形を保たず流れる物質を「流体」と呼び、その流れ方や力の伝わり方を数理的に扱います。