拠点長メッセージ
政府は航空宇宙産業を自動車産業に続く我が国の次世代産業に位置づけ、2011年に愛知県、岐阜県を中心とする中部地域を対象に アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区を設けるなど、様々な施策を国策として進めています。一方、局所的な天気予報向けの気象衛星や 農地遠隔モニタリング、海運向け衛星など、今後、特定用途向けの小型人工衛星のニーズが世界的に高まってくると予想され、小さな衛星を コストの安い小型ロケットで飛ばす新しい宇宙ビジネスが拡大していくと予想されています。
そんな中、2014年には長野県飯田・下伊那地域にもアジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区の区域が拡大され、 地域企業や自治体が連携し、金融機関の支援を受けて航空機部品のモジュール化など付加価値の高い航空機産業創生が進められています。 2016年5月には長野県が航空機産業振興ビジョンを策定し、航空機産業を全県へ波及させることを目指しています。政府や自治体による 航空宇宙産業振興が推進される中、内閣府地方創生交付金事業「航空機装備品システムをベースにした産業振興」が採択され、その中の大きな柱として 航空機装備品に係る教育・研究が、長野県、飯田・下伊那地域の行政、産業界、金融機関などから本学に強く要請されたことを受け、航空機システム分野を中心とした研究開発の実施と飯田・下伊那地域や航空機システム産業界への高度な人材の輩出を目的とした 航空機システム共同研究講座 を2017年4月に4年間の時限で開設し、南信州・飯田サテライトキャンパスを拠点に教育・研究活動を推進してきました。当共同研究講座は、2021~2024年度までの4年間、第2期の共同研究講座として継続されています。 また、諏訪圏にあっては、2015~2019年度、第1期内閣府地方創生交付金事業「諏訪圏6市町村によるSUWAブランド創造事業」、2020~2022年度、第2期事業「モノづくり集積地SUWAのヒトづくりプロジェクト」が採択され、信州大学大学院社会人コース修了生が中心メンバーである信州・諏訪圏テクノ(SST)研究会が中心となって活動する SUWA小型ロケットプロジェクト(SRP)が、諏訪圏サテライトキャンパスを拠点に研究開発を推進し、 2015~2023年度までの9年間に計9機の小型ハイブリッドロケットの打ち上げ実験をすべて成功させ、高度な技術力を実証、ロケットを対象にした教育研究プログラムをとおして、 自ら考え提案することができる提案型技術者の育成に貢献してきました。 2023~2025年度の3年間は、岡谷市負担事業「小型ロケットをキーとした信州大学との連携強化事業」として、引き続き、提案型技術者の育成を中心とした産業活性化や若年人材の育成に貢献しています。
本学は、我が国の将来の基幹産業の一つとして期待される航空宇宙分野の教育・研究を推進するため、2016年10月に先鋭領域融合研究群次代クラスター研究センターに 「航空宇宙システム研究センター」を設置(テイクオフ!シンポジウム 2016.11.23)し、2019年4月には「先鋭領域融合研究群航空宇宙システム研究拠点」に改組しました。 航空宇宙に関連する技術分野は機械・電気電子・情報通信・材料・加工・計測などと広範で裾野が広いことが特徴ですが、当研究拠点では高度な関連要素技術(研究素材) を持つ様々な専門分野の理工学系研究者の参画を図り、航空宇宙システムの要素技術研究をとおして次世代航空機・小型ロケット・小型衛星の部品・装備品の高度化と モジュール化・システム化を推進し、地域産業の活性化、地方創生に貢献しています。また、研究開発の成果を社会実装する若手人材の育成も航空機システム共同研究講座等と密接に連携して推進しています。
経済産業省の航空機産業サプライチェーン対策関係者協議会(2021.1.15)においては、新型コロナウイルス感染症の影響に伴って、航空機産業が大きな影響を受けている中、 この難局を乗り越え、将来の成長につなげていくため、政府、事業者、地方自治体、関係機関が連携して、中小企業を含め航空機産業のサプライチェーンを支えていく方針を確認、 また、長野県においても、航空機需要急減や、国産ジェット旅客機事業の事実上の凍結などにより、「長野県航空機産業振興ビジョン」策定当時から状況が大きく変化していることから、 「長野県における航空機産業振興の当面の対応方針」を、第2回長野県航空機産業推進会議(2020.11.24)において決定し、今後、ビジョンと対応方針に基づき、 国等とも連携しながら関係機関が一丸となって取り組み、ビジョンに掲げる目指す姿「アジアの航空機システム拠点」の形成を実現していく、としています。
なお、世界では、遠隔監視や物流・人流の新たな手段としてドローンや空飛ぶクルマによる「空の移動革命」が潮流となっており、ベンチャー企業から大企業まで様々なプレイヤーが、人を乗せて移動できる「空飛ぶクルマ」のプロジェクトを立ち上げ、研究開発や実証事業を実施しています。日本においても、2018年に設置された「空の移動革命に向けた官民協議会」において、関係省庁(経済産業省、国土交通省、総務省、気象庁など)ならびに産業界が連携して「空の移動革命」の実現に向けた検討が進められ、利活用・環境整備・技術開発の3項目にわたるロードマップが策定されました(2022年3月に改訂)。自動車や航空機の業界などの有志が集まる団体や、ドローンなどのベンチャー企業、投資ファンドなどの様々な分野の関係者が、都市の渋滞を避けた通勤、通学や通園、離島や山間部での新しい移動手段、災害時の救急搬送や迅速な物資輸送などの構想を描いて、「空飛ぶクルマ」の研究開発を始めています。当研究拠点の研究者も、国が推進するプロジェクト研究に参画しています。長野県では、航空機システム電動化プロジェクトを進めており、このプロジェクトにも当研究拠点の研究者が参画して、航空機装備品の電動化や業務用電動無人航空機の研究開発に取り組んでいます。2023年9月には、ドローン利活用拡大や空飛ぶクルマの早期実装等、長野県の空域の有効活用に向けて産学金官が連携して取り組むため、県独自の「信州次世代空モビリティ活用推進協議会」が設立され、当研究拠点の研究者が参画しています。なお、2024年3月に開催された推進協議会の総会においては、信州「空モビリティ×山岳高原イノベーション」創出ビジョン・2040年代までのロードマップが公表されました。このロードマップでは、本学に対して空モビリティのエコシステムのコアとしての役割、産業振興と地方創生への貢献、さらには国内外のハブ拠点となることが強く期待されています。当研究拠点では現在、当研究拠点を母体に、空モビリティシステム「信州モデル」を実現するための要素技術と認証関連技術の開発、要素技術を統合した空モビリティ実機試作と実機試験、さらには大学院教育とリカレント教育による人材育成を産学官が連携して推進する次世代空モビリティシステム研究拠点を組織整備する方向で検討を進めています。
国産初のジェット旅客機事業が2023年2月に撤退、新型コロナの感染拡大により大きなダメージを受けた航空業界も、足元では概ね需要・業績改善に転じてはいるものの、コロナ禍以前の状態に戻るには5年ほどの時間を要するとの予測もある中、経済産業省は2024年3月27日、国産初のジェット旅客機の開発から撤退した経緯を踏まえ、今後、航空機産業が目指すべき新たな戦略案を取りまとめ公表しました。得られた教訓をもとに、国際連携などで開発力を高め、2035年以降、ハイブリッドや水素エンジンなど、脱炭素に対応した次世代の旅客機の事業化を目指し、政府の資金支援も検討すべきとしています。 当研究拠点においては、国や県の方針や経済社会情勢も踏まえながら、中長期的な視点で着実に、産学官とも連携しつつ、研究開発と人材育成を推進していきます。
航空宇宙分野に夢と関心をお持ちの次世代の皆さん、きらめく技術を集結させて、"大空へ、そして宇宙へ!"向かおうではありませんか!
2024年4月 佐藤 敏郎
拠点について
拠点設置の背景
信州大学には、精密・電子・情報・材料科学など多岐にわたる分野において、それらを専門とする教員が多くおります。教員の有する研究開発能力や技術は、航空機装備品(航空機システム)分野への応用可能性が高く、航空機システムの国産化と航空機産業の発展へ大いに寄与できる可能性を秘めています。このようなことから、「航空宇宙」をひとつのテーマと据え、「各教員の要素技術(研究素材)の航空宇宙システム分野への展開」、地域の特色・強みを活かした「地域産業の基盤技術の活性化と人材育成の推進」を行うことをミッションとした拠点を設置しました。
地域との連携
長野県には、各地域に特色のある産業が根付いています。信州大学ではこれらの企業の特色を活かすべく、飯田・下伊那地域や諏訪地域において人材育成・研究活動を行ってきました。当拠点は、次代の地域産業を牽引する航空宇宙分野の新技術の創成と人材育成を推進し、地域の特色を活かした地方創生に貢献します。
〇諏訪圏サテライトキャンパスを置く地域自治体との連携協定 信州大学と岡谷市の協定 2021.6.4 航空宇宙システム研究拠点と下諏訪町の協定 2023.4.1 〇南信州・飯田サテライトキャンパスを置く地域自治体との連携協定 信州大学と飯田市の協定 2019.12.26「航空宇宙システム」というキーワードを信州大学の研究分野に
当拠点は、将来的には、地域・企業と連携して信州という地域が航空宇宙分野の国内外の拠点のひとつとなることを目指し、信州大学が保有する要素技術を結集して、ニーズ指向、プロジェクトベースで、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの関連研究機関や企業と連携し、航空宇宙分野に関連する特色ある教育・研究を推進しています。 2017年4月には航空機システム共同研究講座が開講、また、2020年度には、JAXAと連携大学院協定を締結、この協定に基づいて2021年度から毎年、本講座に所属する1名の修士学生をJAXA航空技術部門に派遣し、これまでにGPS/INS複合航法技術や航空人間工学技術の研究をJAXAと連携して推進しています。
「空へ、宇宙へ!座談会」
2016年10月、信州大学次代クラスター研究センターが発足。 これを記念して、信州大学広報誌:信大NOW No.102に 航空宇宙システム研究センター特集「空へ、宇宙へ!座談会」が掲載されました。 (1~6ページ) 制作/信州大学総務部総務課広報室 2016年11月30日発行 |
信大Now No.137掲載;信州大学航空宇宙システム研究拠点REPORT「長野県から航空宇宙システム研究開発を担う人材を輩出」
信州大学広報誌:信大NOW No.137にSURCASの人材育成の取組みが掲載されました。 JAXAとの連携大学院、空飛ぶクルマの実用化に向けて、 年次シンポジウムでのモデルロケット教室の取組みが紹介されました。 (12ページ) 制作/信州大学総務部総務課広報室 2023年1月31日発行 |
和英併記パンフレット SURCAS Pamphlet
Edited and Published by Division of Reseach Support Date of issue:March 2020 Date of revision August 2024 発行・編集/信州大学研究推進部研究支援課 2020年3月発行 2024年8月改訂 |
航空宇宙システム研究拠点のロゴについて
きらめく技術を集結させて空へ向かう! |
シンポジウム等の開催
拠点のミッション達成のための事業のひとつとして、地域の産業界や市民の皆様、 |
外部評価報告書
信州大学先鋭領域融合研究群航空宇宙システム研究拠点外部評価委員会設置要綱第7条の規定に基づき、外部評価報告書を公表します。
【信州大学先鋭領域融合研究群航空宇宙システム研究拠点外部評価委員会設置要綱】 【2019年度外部評価報告書(概要)】 【2019年度外部評価報告書】 【2020年度外部評価報告書(概要)】 【2020年度外部評価報告書】 【2021年度外部評価報告書】 【2022年度外部評価報告書】 【2023年度外部評価報告書】拠点長・副拠点長・運営支援教員・事務統括・事務担当
拠点長 | 佐藤 敏郎 | 工学系教授 |
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副拠点長 | 天野 良彦 | 工学系教授 |
拠点教員 | 香山 瑞恵 | 工学系教授/工学部長 |
運営支援教員 | 山沢 清人 | 工学部特任顧問 |
運営支援教員 | 三浦 義正 | オブザーバー |
運営支援教員 | 半田 志郎 | 顧問 |
事務統括 | 大久保 圭 | 工学部事務長 |
事務担当 | 徳武 文雄 | コーディネーター |
事務担当 | 湯沢 陽子 | 研究支援推進員(飯田) |
事務担当 | 宇都宮 れい子 | 事務職員(長野) |