世界のものづくりコミュニティと教育学部の出逢い FabLab Nagano地域コミュニケーション
世界のものづくりコミュニティと教育学部の出逢い FabLab Nagano
3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機器を気軽に使うことのできる、ものづくり工房「FabLab Nagano(ファブラボ長野)」が、2016年5月、信州大学教育学部(長野キャンパス)内に誕生しました。旧附属学校の空き施設をリノベーションした空間で、デジタルからアナログまで、ものづくりに関わるありとあらゆるツールを備えています。
そもそも「FabLab」とは、デジタル工作機器を個人がより気軽に利用することで、自由な、ものづくりの可能性を広げることを目的とした市民向けの、ものづくり工房のこと。アメリカの大学で実験的に始まり、現在、世界各国で開設する動きが広がっています。
大学がFabLabを運営するケースはこれまでもありましたが、学外にも開放する所は少なく、しかも教育学部がFabLabを運営するのは初めてとのこと。現在はまだβ(ベータ)版(※1)で、イベント時のみ一般に開放していますが、2017年度中に自由に利用できるスペースとして正式にオープンする予定とのこと。その仕掛け人である教育学部の村松浩幸学術研究院(教育学系)教授と、運営を担う学生達を訪ねました。
※1)β(ベータ)版・・・ソフトウェアなどで正式な製品が出る前の試作品。
FabLabでは試験運用中のラボをβ版と呼んでいる
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第104号(2017.3.31発行)より
遊び感覚を取り入れた実践型の市民工房誕生
「もともと、FabLabを通じたものづくりコミュニティが長野で作れたらおもしろいだろうと思っていたんです。そうした中、約1年前、(株)アソビズム長野ブランチと出会い『長野でおもしろいことをしたい』という共通の思いもあったことから、社会実験的な共同研究の一環として、ものづくりのコミュニティを作ることを目的としたFabLabを立ち上げることになったんです」(村松教授)。
FabLab Naganoを教育学部と共同で運営する(株)アソビズムは、スマートフォン向けゲームの企画開発などを行う東京に本社を持つ企業。長野市にあるオフィス「長野ブランチ」では、プログラミングなどのこれからの時代を生きるうえで重要とされるICTや、それを身につけるための探究力、創造性などを、楽しく学び育てるためのワークショップ「未来工作ゼミ」の企画運営も行っています。
こうして、「おもしろいことをしたい」という村松教授とアソビズムの共通の遊び心と、「遊び」を生み出すプロの感覚を取り入れながら、実践型の市民工房FabLabNaganoは誕生しました。村松研究室のほか、デザイン学を専門とする蛭田直(学術研究院(教育学系)助教)研究室も運営に参画しています。
欲しいモノを「探す」ではなく「創る」という新発想
現在、世界80カ国、1000カ所以上にそのネットワークが広がり、日本でも18カ所が運営されているFabLab。NPO法人、企業、個人と運営形態は様々ですが、そのどれもが「FabLab憲章」という共通の理念を掲げ、緩やかなネットワークを形成しています。「世界ファブラボ会議」といった国際的な会議も毎年開催されており、国境を越えた連携やワークショップ、プロジェクトなどを進めるケースもあります。
「一般的に、自分の欲しいものは探して購入する人がほとんどだと思います。でも、FabLabは、『自分の欲しいものは自分で創り、それを世界にオープンにしていこう』という発想なんです」と村松教授。
子供たちや市民が参加する多彩なワークショップ大盛況
まだ試験運用中のFabLab Naganoですが、すでに多彩なワークショップが開催され、子どもから大人まで、多くの人が集まる空間となっています。
例えば、「南米のイスを作ろう」という子ども向けのワークショップ。木製の椅子を組み立て、子どもが紙に描いたイラストをデジタル化してレーザーカッターで切り出し、それを背もたれの装飾にするというものです。実は、この椅子のデザインは、南米のFabLabがワークショップ用に作成し公開しているデータを利用。この時のワークショップでは、実際に南米のFabディレクターとテレビ電話をつないで、国際交流を行いながらものづくりを体験したそうです。
その他にも、3Dプリンターを使ってペン立てやハンコといったものを作ったり、レーザー加工機でグラスに好きな文字を入れたりするワークショップなど、多彩なイベントが企画されています。
次世代型の「学び」を育む場に
日本ではじめて教育学部が運営するという特徴も持つ、FabLab Nagano。技術系やデザイン系だけでなく、音楽、社会、理科など、文系、理系にかかわらず、様々な分野が交流しやすい環境にあることも、FabLab Naganoのおもしろさにつながっていきそうです。
教育学部4年の平岡駿さんは、FabLab Naganoの立ち上げから関わった学生のひとり。将来は教師となることを目指しています。「ものづくりっていろいろな知識を応用的に使う必要があります。ここができたことで、自分自身の学びの場にもなっているし、子ども達にものづくりの楽しさをもっと伝えたい、こんな力を付けさせてあげたいといった発想も生まれてきました」と話します。
学生の学びにもつながっているようです。
「教育学部にあるというメリットを最大限に活かして、次世代型教育のあり方を学んだり、教育研究などにも活用したり、そんな運用もしていきたいと思っています。いずれは、FabLabの概念を学校現場にも広げていきたい。何より、ものづくりを通した人と人のつながりが最大の財産。それがFabLab Nagano独自のスタイルにもなっていくのではないかと思っています」。
そう村松教授が期待するように、一般的な市場流通や大量生産の原理ではできなかった新しいものづくりが、ここから生まれていきそうです。個人の自由なアイデアが世界に発信できる時代、長野の小さな工房から生まれる自由なものづくりは、未来の大きな夢にもつながっていくのかもしれません。