我らがふるさと 信州の火祭りフォーラム地域コミュニケーション

我らがふるさと 信州の火祭りフォーラム

信州の火祭りフォーラム

 信州大学と一般社団法人日本ケーブルテレビ連盟信越支部長野県協議会は3月9日、「我らがふるさと~信州の火祭り~」フォーラムを飯山市公民館講堂で開催した。  本フォーラムは、信大と日本ケーブルテレビ連盟信越支部長野県協議会との連携協定に基づく平成25年度の共同事業。

 連携協定は、地域貢献のための番組づくりや情報発信において相互に協力することを目的として平成23年に締結されている。

 第2回目のフォーラムとなる今回は、「地域の伝統・文化」に目を向け、様々な特徴を持つ「信州の火祭り」について、ケーブルテレビ各局が収録した映像を持ち寄り、各局スタッフと地域代表の飯山市長、研究者らと共に映像を観賞しながら「信州の火祭り」の多様性を検証することを目指した。

 特に、その模様が県下のケーブルテレビ9局にて公開生放送されるのは初の試みだった。ケーブルテレビのネットワークにより長野県内各地から集められた「火祭り」の映像は、フォーラムのサブタイトルにあるように「えっ!こんなにも地域で違うの?」と驚く内容であり、研究者を交えてその違いを検証することで、各地域の伝統文化の価値や資源を見直すことにも役に立った。

(文・柳澤 愛由)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第86号(2014.3.31発行)より

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地域代表、研究者らと制作現場スタッフの共演

 フォーラム当日は、信州大学・笹本正治副学長が司会・コーディネーターを務め、地域代表として足立正則飯山市長、倉石忠彦國學院大學名誉教授ら研究者のほか、各地区のケーブルテレビ制作スタッフの方々もパネラーとして登壇した。

 これら多様な経歴の方が席を並べるフォーラムというのもユニークな試みで、地域の伝統文化を検証する新しい手法は、新鮮さを感じさせるものだった。

 集められた映像は「やぐら部門」「飾りと焼くもの部門」「珍しい謂われ・風習部門」の3部門に分かれており、この映像を順次上映しながらディスカッションが進行した。

 公開生放送となった会場には約100名の観覧者が訪れ、映像を興味深そうにみつめる姿がみられた。


倉石 忠彦氏

コメンテーター
國學院大學名誉教授
倉石 忠彦氏

笹本 正治

司会・コーディネーター
信州大学 副学長、地域戦略センター長
笹本 正治

足立正則氏

パネリスト
飯山市長
足立正則氏


手塚 弘文さん

パネリスト
丸子テレビ放送(上田市)
手塚 弘文さん

坂口 静恵さん

パネリスト
ケーブルネット千曲(千曲市)
坂口 静恵さん

平山 直子さん

パネリスト
伊那ケーブルテレビジョン(伊那市)
平山 直子さん

寺島 仁美さん

パネリスト
あづみ野テレビ(安曇野市)
寺島 仁美さん

信州の「火祭り」その多様性の検証―「やぐら部門」

 「どんど焼き」「三九郎」「かんがり」「どうろく神」―、どれも長野県で主に小正月頃に行われる火祭りの名称だ。「火祭り」は、その呼び名、火を付ける時間、祭りの主体、やぐらの形や使う材など、各地域で違いがある。多くの人が「当たり前」だと思ってきた風習が、他地域からみれば実は非常に珍しい風習であることも少なくない。

 まず、「やぐら部門」では祭りの中心となる「やぐら」に着目し、違いを検証した。

 例えば、小諸市では「どんど焼き」と同時期に「獅子舞」を演じる伝統行事があったり、佐久市では東信随一という高さ15メートルのやぐらが工事用のクレーン車を使って建てられたりするという。他を見比べても「やぐら」の形、祭りの進み方に同じものはひとつも無い。

 映像を観た飯山市の足立正則市長は、「ここまで違いがあるとは驚いた」と感想を口にした。丸子テレビ放送(上田市)の手塚弘文さんは「同じ東信地域でもこれほど違いがあるのかと興味深い」と話し、各パネラーからも地域ごとの違いに驚きの声が上がっていた。

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長野県各地区での呼び方の違いが紹介された。

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【やぐら部門】佐久市で作られる「やぐら」は高さ15mと東信随一。前日の早朝から商工会青年部によって準備が行われるという。16mもの竹が基礎となり、稲わらなどで作られる。「やぐら」は、各地域によって素材、大きさ、作る数や形にも違いがあり、特徴がある。

「火祭り」に何を託してきたのか―「飾りと焼くもの部門」

 続いて、「飾りと焼くもの部門」では、「やぐら」に施された飾りや「やぐら」に付随して焼かれるものについて、その意味と背景を考えながら論議は進行した。

 例えば、伊那市西箕輪上戸(あがっと)で作られる「でえもんじ」。1月14日、道祖神のある集落の辻に、住民手作りのもみ殻を入れた色鮮やかな巾着が飾られた高い柱を建てる。1月20日、その「でえもんじ」が降ろされると、巾着が各家庭に配られ、去年のものと交換して五穀豊穣・無病息災を願い神棚に飾られる。去年のものは「せいのかみ(火祭り)」で正月飾りと共に燃やされる。これは上戸地区にしか残っていない風習だという。

 南牧村川平地区では、やぐらの他に「おかりや」というものが作られる。男女の形をした道祖神の周りを小枝やワラで囲み、しめ縄を飾ったお椀を伏せたような形のものだ。それに火を点け全体に火が回った頃、地区の未婚男性によって道祖神が取り出される。「道祖神を火の中から助け出すと良縁に恵まれる」という言い伝えからだという。

 映像は「火祭り」がいかに多様な意味を持っているのかが伺えるものだった。「ひとつの行事にいろいろな要素がある。その中のどれを重視するかによって、地域の人々が行事に対し、どのような認識と理解をしてきたのかが分かる」と倉石名誉教授。

 私たちは行事そのものを単純にモノとして捉えがちだ。しかし、その行事が行われる背景、地域性、その時々で人々の関心を最も集めたものが「祭り」には表れる。生活環境、自然環境にも多分に影響されるものだ。

 ケーブルテレビ各局による「火祭り」の映像を通して見えてきた「火祭り」本来の意味と多様性は、日本に残る小さな地域に光を当てていくことへの重要性を物語る。

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【飾りと焼くもの部門】伊那市西箕輪上戸地区では、1月14日、道祖神のある辻に、住民手作りの巾着が飾られた「でえもんじ」と呼ばれる柱を立てる。巾着は1月20日に各家庭に配られると、前年のものと交換し、神棚に祀られる。前年のものは火祭りで正月飾りと共に燃やされる。

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【飾りと焼くもの部門】南牧村で「やぐら」と共に作られる「おかりや」(右)。中に道祖神が入れられ、火がつけられると地域の未婚男性によって取り出される。道祖神を助け出すのに成功すると良縁に恵まれると言い伝えられている。

変化していく風習と「火祭り」に込められた意味―「珍しい謂われ・風習部門」

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【珍しい謂われ・風習部門】飯山市で行われる火祭りでは、初孫長男の誕生を祝って親戚・近隣から送られた書初めが燃やされる。子供の健やかな成長を願った風習だ。「天高く舞い上がれ」という掛け声が響く。

 「珍しい謂われ・風習部門」では各地域で今なお残る、珍しい行事などが紹介された。

 中でも、フォーラムの会場となった飯山市では、雪に閉ざされる前の11月から12月に「やぐら」が作られる。豪雪地帯ならではの風習だ。そして、年が明けると、何件かの家庭の玄関先に数メートルはあろうかという長さの書初めが束になって飾られるという。

 これは前年に初孫の長男が産まれた家に、親戚や近所住民からお祝にと贈られるもの。「道祖神(火祭り)」当日は、初孫が産まれた家には親戚、近所住民が集まり賑やかに祝宴が開かれ、夜になると50束近くある書初めが降ろされ、火祭り会場まで運ばれる。「やぐら」に火が回ると書初めをかざし、「上がれ、上がれ」という掛け声と共に燃やされる。初孫の健やかな成長を願って行われる行事なのだという。

浮かび上がる多様な文化の“組み合わせ”

 「火祭り」の多様性は、「各地域の特色に伴い重要視してきた要素をどのように組み合わせたかによって生み出されたものではないか」と倉石名誉教授は指摘する。

 足立市長は「飯山で初孫長男を祝う書初めは当たり前。それを燃やすのが『道祖神(火祭り)』だと思っていた」と語る。飯山市での「火祭り」は、初めて子供が迎える小正月を祝う、つまり一種の「人生儀礼」の側面を年中行事に組み込んでいるのだ。

 それぞれの地域の人々が「火祭り」に対してどのようなことを込め、祭りを行ってきたのか、各地域の映像をこうして繋ぎ合せることで、それぞれの地域性が分かる。それにより浮き彫りになったのは、人々が「火祭り」に込めた、その土地で生き続けるための“願い”でもあるのだろう。

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須坂市で作られる「やぐら」は3つ。

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木島平村では「ものづくり団子」と呼ばれる団子が作られ、火祭りで焼いて食べられる。各地域で盛んに作られる「まゆ玉」とほぼ同じもの。

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上田市真田では「どんど焼き」の後、2月初旬に行われる「道祖神祭り」で「ねじ」というお米の粉を使って野菜や動物などを象った菓子が作られ、交換し合うという風習がある。

地域の人々が「火祭り」に込めた“願い”を後世へ残すために

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ケーブルテレビ県下9局で公開生放送されるという初の試みだった。多くの聴講者が集まり、会場が一体となって、視聴者と共に楽しく学べるフォーラムとなった。

 しかし、急速な時代の変化の中、これまでの歴史の流れとは比べ物にならないくらいの変化を余儀なくされることもある。

 「今回、映像として各地の火祭りが撮影されたということに大きな意味がある」と笹本教授。

 ケーブルネット千曲(千曲市)の坂口静恵さんは、「非常に面白かった。しかし、まだまだたくさんの小さな集落があり、各地で火祭りが行われている。それらの映像が撮れなかったのが課題。まだいろいろな映像が撮れると思う」と今後への意欲を示した。

 倉石名誉教授は、「これだけの資料を県下横断して比較できる、非常に貴重な機会だった」と話し、「今後は出来れば行事をモノではなく、コトとして行事全体を取り上げ映像に残してほしい。なぜこの地域のこの文化が残っているのかまで検証する資料とすれば、地域における文化・行事の価値、評価に繋がる。そしてそれこそが、地域の行事を未来へ繋げていくためのヒントとなる」と続けた。

 伊那ケーブルテレビジョン(伊那市)の平山直子さんは、「後世に残していくためにも映像の果たす役割は大きい。文化の伝承はきめ細やかな映像づくりができるケーブルテレビの役割」と述べた。

 地域に密着し映像を撮り続けるケーブルテレビは、地域の文化を映像として後世に残していく役割を担っているともいえる。そして、ケーブルテレビが横の連携を深めることで、その映像の蓄積は多 様になり厚みを増していく。そして大学は、こうしたフォーラムも含め、地域文化の価値を見出し、後世に伝えていく点で協働していくことが重要だ。

 また、あづみ野テレビ(安曇野市)の寺島仁美さんは、「自分達の地域の行事が決して当たり前なことではない。そうした新たな発見があった」と話した。

 「人が横に繋がり互いの文化を比較し、自分自身の地域を見つめ直すことで、地域の価値に気付く。足元を見つめ直すということは、『日本人とは、私たちとは何か』という問いに答えることにも繋がる」と笹本副学長はフォーラムをまとめた。

 地域貢献の充実を目指す信州大学と、地域を見つめ続けるケーブルテレビが連携することでアーカイブされ、検証される映像の価値は、地域にとって未来に向けたひとつの指標・資産と成り得る可能性を秘めているように感じた。





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