林業の未来を変えるスマート精密林業開発長野モデルとは?地域コミュニケーション

林業の未来を変えるスマート精密林業開発長野モデルとは?

林業の未来を変えるスマート精密林業開発長野モデルとは?

 平成28年12月、信州大学松本キャンパスで、信州大学・アジア航測・北信州森林組合・長野県・中信森林管理署・長野県森林組合連合会の6者が連携協定を調印、記者会見とキックオフシンポジウムを行いました。

 そのテーマが「レーザーセンシング情報を使用した持続的なスマート精密林業技術の開発」。

 日本林業の概念を根本的に変える、革新的な産学官連携プロジェクトで、まさに山岳地、長野県ならではの「長野モデル」と呼べる持続的な産業ソリューションを目指します。

(広報室)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第103号(2017.1.31発行)より

地域産業活性化への期待は大きいが森林資源と林業の抱える課題は多い

 研究代表となる、山岳科学研究所加藤正人教授から、まずは現状の課題が4つ挙げられました。

① 木材生産が伸びていない

長野県では“森林県”から“林業県”へ、森林資源の活用による地域産業の活性化を目指しているが、生産に伸び悩んでいます。

② 森林資源データや活用の仕組みが未整備

大量の森林資源データはあるものの、現場で使えるデータとしての仕組みや体制がとれていないため、十分に生かされていません。

③ 素材流通のアウトプットが明確でない

正確な森林資源情報がないため、どの場所で、何(どんな木)を、どの位伐ればよいのか…ということがあまりわかっていません。

④ 調査コストが高い割に数値は“目安”で精度が低い

標準地(毎木)調査は調査コストが高い割に得られる情報の精度が低く、目安数値では適切な事業計画が立てられません。




 つまりマーケットの需要と豊富な供給資源があっても、製品化、安定生産のためのシステムがない、ということになります。

地域戦略を踏まえ、アバウトから精密へ、産学官連携コンソーシアムへ

 このような背景から、長野県は、平成23年から10年間の森林づくり指針として「森林を活かし 森林に生かされる 私たちの豊かな暮らし」を掲げ、森林の適正管理、持続的に豊かな資源の管理と供給、競争力のある林業を構築するための素材生産量増大といったアクションプランを策定、2025年には木材自給率50%回復させ、林業及び木材産業の再生を目指しています。

 これらの指針を受けて、森林管理・供給を最適化・省力化、既コスト大幅削減、生産量向上で、木材生産の安定供給に寄与する研究開発が求められてきました。つまり施策の方針としては「アバウトから精密」に変革する必要があり、これを解決するため“満を持して”発表されたのが、航空機・ドローン・バックパックのレーザーセンシング(LS)情報をかけ合わせた統合技術によるシステム化、データベース化の技術開発というわけです。さらにこれを実現するために産学官連携で「LSによる精密林業コンソーシアム」体制(図1参照)で臨むことになりました。総合して「長野モデル」と呼べる展開です。


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研究シーズから見る革新的ソリューションの4つのフェイズ

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 第1フェイズは、3つのレーザーセンシング(以降LS)情報を統合することにあります。航空機による空からのLSによる「高精度の森林資源情報」、長野県は撮影済みの既存情報を活用します。次にドローンによる空中からのLS「森林の見回りと森林調査による情報」、調査の省力化や間伐木の確認など資源情報を更新します。そしてもうひとつが、北欧発のバックパックLSで「地上での収穫調査情報」です。木材の曲がりなどの品質、素材生産量の算定などが計測可能です。
 もともと個別に機能していた調査方法ですが、GIS(※1)による30cm四方で区切った位置情報と木の種類・直径・高さなどの情報が圧倒的な高精度で整備されることになります。

※1 GIS:Geographic Information System. 地理情報システム


 第2フェイズは、これら高精度情報の整備と運用体制の確立です。資源管理は4次元情報(多時期計測により時間軸も加味した情報)で一元管理し、単木レベルでの樹高・DBH(※2)・在積など資源量が把握でき、もちろん、施業履歴、更新情報もあわせて管理し、「精密林業」としてデータを配信可能にします。

※2 DBH:Diameter Breast Height. 胸高直径


 第3フェイズは収穫と素材生産の段階。前フェイズで得たLS情報から選別した収穫木にチェンソーとハーベスタをナビゲートして伐採などのアシストと生産量の自動集計など、「収穫情報の見える化」を実現します。適切な事業計画により履歴管理と生産設備の稼働率を向上させます。また、LS情報とGISの活用と4次元情報で、履歴管理と次回施業の指標が作れます。つまり適切な施業時期がわかる、というわけです。


 第4フェイズはこれまでの要素技術を掛け合わせ統合技術を確立し、現場で使えるデータの体制づくりと展開を図ります。これにより国際競争力のある地域イノベーションを目指したスマート精密林業を先導していきます。

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選別した収穫木にチェンソーとハーベスタをナビゲートすることで伐採アシストと生産量の自動集計などが行える。

そして目指すゴールは生産量の倍増と地域の競争力強化

今回の実証地区の北信州森林組合を核とした長野県北部地域は、現在の木材販売量55,000m²を平成30年度以降には約2倍の100,000m²に増加させることを目指しており、県内の優良普及モデルとして展開します。「長野でできなければ、他県ではまず実現しないと考えています」(加藤教授)。

記者会見で同プロジェクトの概略を説明する加藤教授

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信州大学先鋭領域融合研究群 山岳科学研究所

教授 加藤 正人


1957年北海道生まれ。

北海道大学農学博士、北海道立林業試験場 資源解析科長を経て、2002年信州大学農学部AFC助教授、同教授、同センター長、2014年より山岳科学研究所教授。

研究分野は森林計測・計画学。

2010年日本森林学会賞他

調印式と記者会見の様子

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信州大学松本キャンパスで、報道機関を前に、「LSによるスマート精密林業コンソーシアム」6団体が連携協定の調印式と記者会見を行った。

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