30年続くりんご部隊のリンゴ愛。地域コミュニケーション

30年続くりんご部隊のリンゴ愛。

 前号では「ハナサカ軍手ィプロジェクト」を紹介しましたが、信州大学にはまだまだ個性豊かなサークルがたくさんあります。そしてこの時期なにかと話題になるのが、農家ボランティアサークル「りんご部隊」。りんご部隊の主な活動は、年間を通して長野県安曇野市のリンゴ農家のもとで農作業のお手伝いをすること。全学部から集まった「隊員(所属学生)」数は100名を超え、サークルのなかでも屈指の規模を誇ります。さらに今年、なんと最初の活動開始から30周年という節目の年を迎え、信州大学を代表する伝統のサークルといえます。
(文・柳澤愛由)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第114号(2018.11.30発行)より

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葉摘み作業の様子。「他大学の友人に『サークルで農作業やっている』と話すと驚かれます」と話す学生も

活動開始から30年!「りんご部隊」が信州大学にある理由

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時折おしゃべりもしながら、楽しそうに作業を進める学生たち。着ているのはりんご部隊オリジナルデザインのパーカー

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年度ごとにデザインが違うオリジナルパーカー(右)。販売イベントのときなどは、おそろいの法被(左)を着ることも

 長野県は青森県に次いで全国第2位のリンゴの生産量を誇ります。りんご部隊の活動拠点である安曇野市は長野県内でも5本の指に入るほどのリンゴの産地です。
 りんご部隊の活動期間は、リンゴ農家が特に忙しくなる春から秋。期間中は毎週末、各キャンパスから作業可能な学生が集まり、安曇野市三郷地区の8軒の受け入れ農家のもとで、季節ごとの農作業を手伝っています。受粉、摘果(摘花)、葉摘み・玉回し、収穫など、1年のうちにやらなければならない作業量は想像以上に膨大です。初夏に行われる「摘果(摘花)」は、リンゴを大きく育てるために、多くつきすぎた小さな果実(時期によっては花)を落とし、より良い果実のみを残す作業です。リンゴが赤く色付き始めた頃に行う「葉摘み・玉回し」は、太陽の光が果皮にまんべんなく当たるよう、果実に影を落とす葉を摘んだり、太陽が当たる方へ果実を回したりする作業のこと。主要栽培品種である「ふじ」のような、果皮の赤いリンゴには不可欠な作業です。
 学生たちが1年間の作業を終えると、1人1作業につき1コンテナ分のリンゴを作業報酬としてもらうことができます。受け取るリンゴの多くは市場流通には回せない規格外品ですが、わずかな傷やスレがある程度で、味に大きな変化はありません。作業報酬として受け取ったリンゴは、毎年11月に開催される京都大学の学祭「11月祭」で販売し、その売上をサークルの活動資金に充てています。今年、販売したリンゴは、数にしておよそ9,720個(!)。30年間、大学からの援助などに頼ることなく、活動を継続させてきました。

「りんご部隊」、30年の歴史

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りんご部隊代表の奥田百音さん(真ん中)と副代表の小寺由さん(右)、会計の可児竹生さん(左)

 「農家さんにとってリンゴは大切な売り物です。サークル活動というくくりではあるけど、りんご部隊の活動は、社会とつながった活動でもあると思っています」。そう話すのは、第31期りんご部隊代表の奥田百音さん(農学部2年)。毎年2年生をサークルの代表とするのが、りんご部隊の慣わしです。副代表の小寺由さん(農学部2年)、会計の可児竹生さん(農学部2年)と共に、受け入れ農家とのやり取り、作業に参加する学生数の把握など、全てを取り仕切っています。
 もともとりんご部隊は、信州大学教養部(現:全学教育機構)の故・玉井袈裟男名誉教授が担当していた「農学ゼミ」に所属する学生たちが、人手が足りないリンゴ農家を支援しようと始めた活動でした。発案者は1988年度入学の農学ゼミ生。安曇野市三郷地区に住む京都大学出身の方のアドバイスを受けながら、京都大学の大学祭で規格外のリンゴを売る、という活動も始まりました。玉井名誉教授が退官した後も、有志の学生たちによって活動は引き継がれていきました。
 「実際の生産現場に入れる機会なんて、本来なかなかありません。大学教育ではできない、貴重な経験をしていると思いますよ。何より学生たちが楽しんで活動している。学生たちの自発的な活動だったからこそ、今に続いているのだと思います。まさか30年も続くとは、当初は思いもしませんでしたが(笑)」。顧問の渡邉修学術研究院(農学系)准教授は感慨深げに話します。実は30年前のりんご部隊発足時、渡邉准教授もその活動に参加していた学生の1人でした。「まさか30年も続くとは・・・」と活動を始めた当時の友人たちと驚き合ったこともあるのだとか。

リンゴを162コンテナ! 京都大学「11月祭」で販売

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1年の集大成である京都大学での昨年の販売の様子。固定客も多く、1個100円のリンゴが飛ぶように売れていきます。30年の積み重ねは伊達じゃありません!

 りんご部隊の学生たちが「京都遠征」と呼ぶ京都大学での販売も、固定客がつくまでに定着しています。1年の集大成となる行事ということもあり、今年は70名ほどの学生が参加。2トントラックで京都まで運んだ、のべ162コンテナ分(約9,720個)のリンゴを3日間で販売しました。売り場にできる長蛇の列は毎年恒例の風景。一般のお客さんの方が多いそうで、午前中にはその日の販売分をほぼ売り切ってしまうそうです。
 京都大学の学生側もりんご部隊の受け入れ体制が引き継がれており、長年、学生寮のひとつである「吉田寮」を宿泊場所として提供してくれていました。こうした学生同士の自発的なつながりも、活動を支えています。

信州のリンゴ農家の現状を知り、信州リンゴの魅力を伝えるために

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この日の作業に集まった学生はなんと25名!日によって、数名のときもあれば、30名以上の学生が集まることも

 「『私たちは作業をさせてもらっている立場なんだ』ということを忘れないようにしないといけないと思っています。農家さんとのつながりを大切にすることが、りんご部隊が続いていくために一番大事なことだと思っています」(奥田さん)
 長年の活動が評価され、今年10月、(公財)信濃育英会から「明るい社会に貢献する学生」として表彰、サークルとして奨学金を受け取ることもできました。
 りんご部隊の活動理念は、“信州のリンゴ農家の現状を知り、信州リンゴの魅力を伝える”こと。りんご部隊を通じ、本当のリンゴのおいしさを知ったという学生も多いといいます。そんな「リンゴ愛」を持つ卒業生や学生たちの存在は、信州大学にとっても、長野県にとっても、かけがえのない財産です。30年受け継がれている「リンゴ愛」を胸に、これからも信州リンゴの魅力を、多くの人に伝えていって欲しいと思います!

受け入れリンゴ農家インタビュー 増田農園 増田智幸さん

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 学生たちとの関係も30年になりました。初期の頃は数人しかいなかったけれど、いつの間にか増えて、今では大分大所帯になりましたね(笑)。若い学生たちと話していると気も若くなるし、人手も不足していますから助かっています。規格外のリンゴで作業報酬を支払えるのもありがたいです。
 年によってはうまくいかないこともありましたし、「遊びじゃないんだよ!」と叱ったこともありました。その都度、学生たちで話し合って、先輩たちから引き継いだ活動を自分たちで途絶えさせちゃいけないとがんばってきてくれました。卒業してから遊びに来てくれる学生もいるんですよ。農業という限定したものではあるけど、仕事の辛さとか楽しさとか、ここでいろいろと経験すれば、社会に出たとき必ず役に立つのではないかと思います。

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