
環境化学が専門分野。ダイオキシンや水銀・鉛などの重金属に代表される環境汚染物質の発生や拡散の状況を分析し、それらの毒性影響、さらにはその除去や分解の方法を研究する。
城の堀や沼地の底に沈殿した泥の層を採取したり、大学周辺のポイ捨てゴミや、家庭の掃除機のゴミパックを集めたりと幅広い研究を行っている。
環境汚染物質から環境の状況を診断する「環境のムシ」だ。
プロフィール:1968年大阪生まれ。1991年大阪大学応用化学科工学専攻卒業。1996年大阪大学大学院応用科学科工学専攻博士課程後期修了。1996年大阪市立環境科学研究所研究員。2007年信州大学准教授。
・・・・・ 信州大学環境報告書2010より
「4年前に信大に来たのやけど、それまでいた大阪の環境の汚なさに比べ、信州の環境はほんまにきれい。仕事あるんかなぁって悩みましたわ。」大阪弁丸出し。聞いている方も愉快になる明るい語り口だ。
だが、やっている仕事はまさに泥まみれ。大阪城の堀の底に溜まった沈殿物を、その層を崩さないまま採取し、年代ごとに汚染物質の蓄積量を調査した。ターゲットは、多環芳香族化合物。ダイオキシン同様、物を燃やした時に出る環境汚染物質であり、発がん性を有するものもある。
採取したお堀の泥は、1600年から現在まで、大気に飛んでいたチリが層を成していた。汚染物質の量は、江戸時代までは大きな変化がなく、工業化が進んだ1900年頃から増え始め、大気汚染・公害の被害が大きくなった1970年代をピークに漸減傾向を示しているという。特筆すべきは、第二次大戦で空襲が激化した1945年に、他の時代よりも高い数値が見られたこと。「戦争が最大の環境問題だということが良く分かりました」と振り返る。
お城の堀以外にも日本全国の溜池の底にたまった泥を採取し、分析している。その測定結果から、汚染物質の拡散状況やその発生源を推定することもできる。2008~2009年にかけて、沖縄から北海道の10ヶ所近くのポイントで調査したところ、1990年代後半以降に、中国が発生源と考えられる汚染物質の飛散による汚染増加の傾向が顕著に見て取れたという。
また、かつて硫黄鉱山があった須坂市の米子川・百々川の水や石を採取し、汚染状況を検討したこともある。繊維学部キャンパスの周辺で毎月1回、5ヶ月間にわたりポイ捨てゴミを収集し、そこからどんな汚染物質が抽出されるかを調べたり、知人の家庭の掃除機のゴミを収集して、家庭ごとの化学物質による汚染状況の違いを分析したり・・・・・と忙しい。
発生源からの汚染物質の排出の状況と、その拡散の状況を調査する環境分析が環境化学の重要な柱だからだ。、自ら得意とする物質の分子量を計る質量分析法を駆使して新しい分析手法を開発し、これまで分からなかった環境の現状を見出そうと努力もしている。
汚染物質の生物への影響や、その除去や分解方法についても研究する。「せっかく繊維学部にいるのだから、繊維学部らしい研究をしよう」と取り組んでいるのは、カイコの卵とその孵化のメカニズムを活用した毒性の試験方法。上田蚕糸専門学校時代から育んできたカイコの孵化の管理技術は充実しており、試薬を投与するタイミングなど微妙な調整が簡易にできることが強みだという。もう一つ、養蚕時に出る「くず繭」を利活用した油の吸着・除去方法なども考案中だ。
その池、水のにごりを除去する凝集沈殿という方法の改良や、太陽光で汚染物質を分解することが可能な触媒の開発なども進める。
「環境問題はデリケートな問題。マスコミの情報に踊らされず、正しい情報を持ち、正しく解釈し、正しく行動することが大切ですわ。そのために正しい研究をすることが最大の課題ですね。」笑顔で話す目は、遠くを見据えている。
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昆虫群集による環境評価
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