災害時、ボクらはどうなるの?地域コミュニケーション

災害 その時 問われる動物との絆 ~見えない課題が見えてくる~

災害時、ボクらはどうなるの?

 信州大学地域防災減災センターは、防災・減災についての認識を深めてもらうため定期的に市民向けシンポジウムを開催しています。
 2017年11月23日に開催された第5回目のテーマは「災害と動物」。各機関で動物に関わる研究を進める講師陣を迎えた講演と、行政や大学関係者も交えた全体討論を行いました。災害時の身近な"動物"との関わり合い方という、目を向けられることは少ないものの、当事者にとっては切実なテーマを切り口にして、防災の大切さをより考えてもらおうと企画しました。会場となった信州大学工学部 信州科学技術総合振興センター(SASTec)には、市民や学生、行政関係者など約150名が集まり、その関心の高さがうかがえるシンポジウムとなりました。

(文・柳澤 愛由)
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第109号(2018.1.31発行)より

【 第一部 講演 】ペットとの同行避難 事前の対策で適切な判断を

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 最初に成城大学法学部打越綾子教授が「ペットの同行避難(※1)をリアルに考える」と題して講演。「『同行避難』をしても、人間とペットの居場所は避難所の状況次第で決まります。飼い主の愛情あふれる主張だけではルールはまとまりません」と訴えます。また、ペットは飼い主にとっては家族でも、他人から見れば“動物”であることを自覚し、だからこそ飼い主が予め災害時に向け対策を行うことが重要であると呼びかけました。
 「ペットは多種多様。言葉も通じません。災害時に行政組織を頼れるかというとキャパシティ的に困難です。ペットの命を守るのは飼い主の責任。ペットの特性を知り、防災政策そのものを学ぶことで、パニックになる度合いを減らすことができ、災害時の適切な判断につながります」と重ねて訴えました。

(※1)自宅からペットを一緒に連れて避難すること。環境省のガイドラインによると、災害時、ペットは同行避難が推奨されている

取り残される家畜達 対応は大きな課題

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 続いて講演を行ったのは竹田謙一信州大学学術研究院(農学系)准教授。「災害時の産業動物への対応とアニマルウェルフェア(※2)」をテーマに、東日本大震災で調査に入った福島県で目の当たりにした、取り残され餓死した家畜、また被爆し保護された家畜の実情などに言及しました。「確かに保護されたウシは命をつないでいました。しかしエサを与えられているにも関わらず、小屋が非常に過密状態で中には極端にやせているウシもいました。さまざまな意見があるとは思いますが、アニマルウェルフェアの視点に立つと災害時の安楽死も止むを得ないと感じます。中途半端な保護は余分な維持コストを農家に強いることにもなります」と指摘しました。
 また、長野県北部地震で被災した栄村での様子を例に「復興後の畜産経営継続に向けた取り組みや産業動物の救済フローなど、地域、行政、生産者を含めた議論が必要」と訴えました。

(※2)動物福祉。動物がその生活している環境にうまく適応している状態をいう

動物から人へ 増加する感染症リスク

 京都産業大学鳥インフルエンザ研究センター、大槻公一センター長は「災害時の飼育動物と感染症」について講演。「動物から人に感染するものは思っている以上に多い。その中でも恐ろしいのが『狂犬病』です」と警鐘を鳴らします。狂犬病は長い間国内での発生は確認されていませんが、災害時はペットと野生動物との接点が濃くなるため、リスクが増します。また、人も動物も災害時は大きなストレスを抱えるため、免疫機能が著しく低下し、普段以上にさまざまな病気にかかる可能性があるといいます。加えて、近年日本における狂犬病の予防接種率が70%にまで低下していることにも言及。多くの人が現在世界で起きている感染症への知識とリスクについて知ることの重要性を伝えました。

【 第二部 パネルディスカッション 】

動物と私たち、何を心がけるべき?

 パネルディスカッションでは、講演者3名のほか、長野県健康福祉部食品・生活衛生課の小平満 氏、伊那市農林部農政課の早川佳代 氏、信州大学からは濱田州博学長と、本シンポジウムの企画者である地域防災減災センターの横山俊一研究員が登壇し、菊池聡地域防災減災センター長を司会に、研究者、行政、そして大学としての立場から「災害と動物」という切り口での討論が行われました。
(内容一部省略・敬称略)

打越 長野県は狂犬病予防接種率全国1位、2位をキープしています。意識の高い飼い主が多いことを示しています。また30年程前に「長野県動物愛護会」が設立され、行政とボランティアの連携した取り組みが長年行われてきたことも他県にはない特徴で、長野県の良いところだと思います。

小平 長野県は災害時、ペットや飼育者を救護支援するため長野県獣医師会、長野県動物愛護会と協定を締結しており、災害時にペットの一時保護や譲渡などの活動もしています。災害時の動物愛護救護対策ガイドラインも自治体向けに配布しています。災害対応が難しい産業動物に関しては、課題を再認識しました。

早川 伊那市周辺は大きな畜産農家が多く、災害対応の難しさもありますが「うちは大丈夫だろう」と思っている農家も多いです。現在は万が一のときのため「エサの自給」を促しています。また災害を想像することの大切さは根気強く伝えていきたいと思います。

竹田 ただ、農家はなかなか災害のことまで考える余力がないという実情もあります。ペットに関しては法律の中である程度仕組みづくりができていますが、家畜は宙ぶらりんな状態。支援する仕組みづくりが必要だと感じています。

濱田 大学も避難所になる可能性がありますが、ペットや動物という視点は欠けていたかもしれません。大学でも動物を飼っていますが、現状の対応はどうなっていますか?

竹田 信州大学では幸いエサをほぼ自給しているので、災害時は余剰分のエサを地域へ供給したり、放牧地は一時避難先として活用できるかもしれません。

打越 実験動物がいる大学は、危機管理体制が問われているように思います。

大槻 私たちのセンターでは、災害時に実験動物が外へと拡散しないよう、実験室を地下に設け、災害が起きた際には施設を完全に潰せるように対策しています。

横山 地域性を知った上で、災害時のことを想定することも大切です。伊那市の畜産の特徴を聞いて地域の実情に合った対策が必要だと感じました。

菊池 やはり、防災・減災を考えるのに“動物”という視点は見逃せないですね。災害時は身近なところでさまざまな問題が起こります。その自覚を持って、信州大学は今後も地域の皆さんと一緒に防災・減災に取り組んでいきたいと思います。

 今回、“動物”という視点から災害を考えてきましたが、動物だけではなく、基本的な防災・減災の知識を持った上で、災害を想像することの大切さも再認識されました。今後も信州大学は、地域の中に生きる大学として、蓄積してきた災害研究、大学独自のネットワークを活かしたさまざまな切り口で、地域の防災・減災を考えるきっかけを市民の皆さんに提供していきたいと思います。

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成城大学 法学部教授

打越 綾子 氏

2002年より同大学で行政学、地方自治論の教鞭を取る。2007年より長野県軽井沢町に定住し、保護猫5匹を飼育しながら、動物に関わる政策研究に従事。

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信州大学 学術研究院(農学系)准教授

竹田 謙一

家畜管理学、応用動物行動学、アニマルウェルフェアに関する研究が専門。2014年より現職。

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京都産業大学鳥インフルエンザ研究センター長/鳥取大学特任教授

大槻 公一 氏

1971年に鳥取大学農学部に講師として着任。1978年頃より、当時国内ではほとんど未知であった鳥インフルエンザの研究に従事。2006年より現職。

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長野県健康福祉部食品・生活衛生課課長補佐

小平 満 氏

1996年入庁。食品衛生、食肉検査、動物愛護管理行政などを担当。獣医師。2015年より現職。

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伊那市農林部農政課農業振興係

早川 佳代 氏

児童福祉、学校教育などに携わった後、2012年より農業振興全般を担当、2016年より畜産を担当。管理栄養士。

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信州大学長

濱田 州博

2015年より現職。本シンポジウムの挨拶では「"動物"という今までとは異なる視点で、災害が起きたときの行動シミュレーションをして欲しい」と呼びかけました。

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信州大学 地域防災減災センター長

菊池 聡

信州大学学術研究院(人文科学系)教授。認知心理学が専門。2015年より同センター長。

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信州大学 地域防災減災センター研究員

横山 俊一

環境系コンサルタント会社、大学非常勤講師などを経て現職。本シンポジウムの企画者。

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