信州大学×長野県ケーブルテレビ協議会共同事業信州の伝統野菜 特別番組 「野沢菜のルーツを探る旅」地域コミュニケーション

信州大学×長野県ケ-ブルテレビ協議会が大阪府天王寺地区を訪ねる特別番組作成!

 信州大学と長野県ケーブルテレビ協議会は、2012年に結んだ連携協定に基づき2020年度から「信州の伝統野菜を映像で残す映像アーカイブスプロジェクト」を進めてきました。高齢化等によって継承の危機に瀕する伝統野菜を映像記録として残そうと、生産者への取材の様子や食べ方などを紹介する計24本の映像コンテンツを昨年度までに作成した他、これらを題材としたシンポジウムも開催してきました。4年目となる2023年度は、これまでとは趣向を変え、特別番組「信州の伝統野菜 野沢菜のルーツを探る旅」を作成しました。
 番組では、信州の伝統野菜認定委員会の座長を務める、信州大学学術研究院(農学系)松島憲一教授が、伊那ケーブルテレビジョン放送部長・アナウンサー、信州大学農学部卒業生でもある平山直子氏と共に、長野県を代表する伝統野菜“野沢菜”のルーツを探るため、大阪府天王寺地区を訪ねる様子が紹介されました。(文・平尾 なつ樹)

・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」第146号(2024.7.31発行)より

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伝統野菜“野沢菜”ルーツは大阪にあり⁉

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江戸時代中期に書かれた「日本山海名物図会」(国立国会図書館所蔵)にも、天王寺蕪が大阪の名物として登場する

 日本三大漬け菜にも数えられる野沢菜は、長野県を代表する伝統野菜の1つです。野沢菜自体は県内各地の市町村で栽培されていますが、実は信州の伝統野菜として認定されているのは、野沢温泉村で栽培される野沢菜のみ。同村の健命寺には、そんな野沢菜のルーツが実は大阪にあるという言い伝えがありました。宝暦6(1756)年に、同寺の和尚が京都を訪れた際に、“天王寺蕪”の種を手に入れ持ち帰ったのが野沢菜の起源だというものです。

 今回CATVとの連携事業の一環で作成した特別番組「信州の伝統野菜 野沢菜のルーツを探る旅」は、この口伝をもとに、信州大学学術研究院(農学系)松島憲一教授と、伊那ケーブルテレビジョン放送部長・アナウンサーの平山直子氏が大阪市にある天王寺地区などを訪ねるドキュメンタリーです。

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松島 憲一教授
〈信州大学学術研究院(農学系)〉

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平山 直子氏
〈伊那ケーブルテレビジョン放送部長・アナウンサー〉
(※信州大学農学部卒業生)

 野沢菜のルーツとされる大阪府の伝統野菜「天王寺蕪」は、江戸時代初期から明治時代末期にかけて、大阪の名物として大層な人気を誇ったそうです。かの与謝蕪村や正岡子規も詩句に詠み、かつてはその名を全国にとどろかせていた野菜だといいます。しかし、それほどまでに人気を博した天王寺蕪も、明治時代後期には害虫被害によって壊滅状態に―。一度は生産が途絶え、長きに渡り生産者がいない時代が続いた天王寺蕪でしたが、1996年に大阪府の農業試験場に持ち込まれた種を栽培してみたところ、過去の調査資料や写真等から「天王寺蕪」だと確認されたといいます。メディア等で紹介されたことも呼び水となって復活の機運が高まり、栽培農家の開拓や、小中学校の畑での栽培・食育などが進み、今では再び大阪を代表する伝統野菜の1つとなったのだそう。番組では、大阪市内で天王寺蕪を栽培している農家の西野孝仁氏の畑を松島教授と平山氏が訪れ、実際にその場で試食。「瑞々しくて梨のように甘くてジューシー」とその美味しさに驚いていました。

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大阪市内で天王寺蕪を栽培している西野孝仁氏

 また、天王寺蕪の歴史について四天王寺執事の吉田明良氏にお話を伺った他、その復活・普及に尽力した、「天王寺蕪の会」の難波りんご氏や、元大阪府立食とみどりの総合技術センター主任研究員・農学博士の森下正博氏が、普及活動の中で作成した絵本と歌を披露する様子も紹介されました。

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四天王寺執事の吉田明良氏。四天王寺には2016年に建立された野沢菜伝来の記念碑がある

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口伝を証明するため研究が進む

 天王寺蕪は葉も食べますが、主に胚軸(茎と根の間の部分。一般的に蕪で食される部位)が食されるのに対し、野沢菜は主に葉を食べます。天王寺地区と野沢温泉村では土質が違うためか、京都から種を持ち帰って野沢温泉村でまいたところ、蕪よりも葉がよく育ち、“漬け菜”として広く普及するようになったのだと言い伝えられています(※諸説有り)。今では見た目も大きく異なる両者ですが、果たして本当に天王寺蕪が野沢菜のルーツだと断言できるのでしょうか?

 前述の森下正博氏は、天王寺蕪が野沢菜の祖先であることを証明しようと長年研究を続けている一人です。森下氏は、自ら考案した比較実験で種の特性を明らかにし、天王寺蕪と野沢菜は親子関係にある可能性を示唆する結果になったと総括しています。さらに、山形大学農学部教授の江頭宏昌氏によって、両者のDNA配列を解析した結果も最近になって学会で発表されました。これによると野沢菜の祖先が天王寺蕪だという可能性は高いといいます。現段階では確実だと断定はできないといいますが、さらなる研究が進むことが期待されます。

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「天王寺蕪の会」の難波りんご氏(右)と、元大阪府立食とみどりの総合技術センター主任研究員・農学博士の森下正博氏。天王寺蕪の普及に尽力したお二人が、「かぶらのうた」を披露

味だけでなく、文化を背負った伝統野菜

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 天王寺蕪と同様に野沢菜も、その魅力を広く伝えようとする普及活動が野沢温泉村で続いています。その1つが、「野沢温泉のざわな蕪四季會社(運営:野沢温泉観光協会)」が催す「蕪主総会」です。通信販売で村の野沢菜を購入した消費者を対象に懇親会に招待し、村人と交流したり、踊りなどを披露する他、翌日には野沢菜の収穫体験もしてもらうという体験型のイベントで、遠方からも多くの野沢菜ファンが参加します。番組では、野沢温泉観光協会代表理事の河野健児氏が「野沢菜という存在に私たちが育ててもらったと思っているので、これからもその魅力を伝える活動を続けていきたい」と、その思いを語りました。

 伝統野菜の普及や存続のために活動しているこうした多くの人たちの取り組みを受け、番組の最後に松島教授は「伝統野菜は味だけでなく文化を背負った存在だ」と実感を込めて語りました。

 また平山氏は、本学とCATVの連携によって今回このような番組ができたことに対し、「地域に密着したケーブルテレビと学術的知見をもった信州大学とが組んで、地域に残る映像を残すことができた」と、喜びを表現しました。

 番組は5月から長野県内各地域のケーブルテレビ局で複数回にわたって放送されました。また信州大学動画チャンネルでも公開されています。伝統野菜の価値を発信し、後世につなごうと尽力する人々の想いが詰まった番組を、ぜひご覧ください。CATVとの連携事業では、2024年度も引き続き伝統野菜をテーマとした映像コンテンツを作成する予定です。

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特別番組「信州の伝統野菜 野沢菜のルーツを探る旅」は、信大動画チャンネルでWEB配信しています。下記リンクよりご覧いただけますので、ぜひご覧ください。

信大動画チャンネル

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