ブナの実活用プロジェクト地域コミュニケーション
教育学部発!地域志向研究[ブナの実活用プロジェクト]ブナプロ!
長野県北部の飯山市に広がるブナの林。このブナの"実"を用いたようかんを作ろう、というユニークな試みが、信州大学教育学部で進んでいる。「ブナの実活用プロジェクト(通称:ブナプロ)」と名付けられたこの取り組みは、ようかんに限らず、豪雪地帯の飯山市に自生する"ブナ"を地域資源として活用していくことを目的に、教育学部の4つの専門分野がタッグを組んだプロジェクトだ。
地域ならではの自然の恵みの価値を、これまでとは違った切り口で新たに創造していこうという「ブナプロ」の試みを聞いた。
・・・・・ 信州大学広報誌「信大NOW」」第97号(2016.1.29発行)より
教育学部の領域を横断するユニークなプロジェクト
その思いが実現するきっかけとなったのは、2013年春、長野県が運営するシニア世代の社会参加活動の促進を目的とした「長野県シニア大学」で講師として「ブナの実ようかん」のことを話した際、社会人受講生のひとり、足立幸子さんが「作ってみたい」と名乗りを挙げたことだった。足立さんは受講生により組織された「おせっかいグループ」に所属しており、受講終了を前に「子ども達が誇れるものを地域で作り、形ある活動として残したい」という思いがあった。井田准教授が特にようかんにこだわったのは、足立さんが遠く山形まで足を運び、オリジナルレシピを聞き取るなど、熱心に取り組んでくれたからだそうだ。
各専門分野の連携で唯一無二のようかんづくりを
その「おせっかいグループ」と試作品を作りながら、何とか製品化の道はないかと考えた井田准教授。そこで「面白いもの好き」だという教育学部の教員に声をかけ、信州大学が進めるCOC地域志向研究支援の助成事業に申請、採用されたことを契機に「ブナプロ」は分野を超えたさらなる進展をみせる。
調理科学の高崎教授は、レシピ検討のほか、成分の分析を担当。ブナの実の成分の報告は少なく、学術研究としても興味深い。他の木の実にくらべ、ビタミンE含量が多く、その組成も特徴的であることがわかった。
福田准教授は草木染めを長年研究してきた経験を生かし、ようかんを製造する際に出る廃棄物などを活用した染色実験などを進めている。ようかんのパッケージや染め物などへの応用が期待できる。
パッケージデザインを担当したのは蛭田助教。まず、ブナの実の味を、より感じてもらえるよう、棒状の一口ようかんの形を提案。しかし、一般的なようかんと同じ製造方法ではコスト的に実現できないため、内袋に透明な真空パックを採用することで、地域の加工所でも安価に、しかも小ロットで製造できるようになった。
さらに、安価で、より魅力的な形のパッケージを実現するため、家庭用プリンターとカッティングプロッターという切れ目を入れる機械を用いて1枚から外袋を作れるよう工夫した(※)。「地域の人が地域で作る」ことを想定したからこそのデザインだ。
地域にある「宝」の再発見
「地方の現状は年々厳しさを増しています。ただ自然は大事だ、守っていこうと言っても、地域の人たちが抱える課題を共有することはできない。だからこそ、裏山のブナの木が少しでもお金を生む、価値があるものだと実感してもらうことが大事なんです」。井田准教授は「ブナプロ」に込めた思いをそう語る。
かつて、飯山の人々にとって、ブナ林は民家の建材や薪などの木質資源を得るために欠かせない存在だった。また、ブナは保水力に優れ、洪水や雪崩などを防止する機能も併せ持つ。その重要性を認識していた飯山の人々は、過度な伐採を避けながら、雪国特有の里山文化を育み、ブナの森を守り継いできた。しかし、人々の暮らしに寄り添ってきたブナ林も、時代の変化の中、地域の中でのその存在感は薄らいでいる。
「ブナの実ようかん」を起点に地域志向型環境教育へ
Profile
(写真左から)
● 学術研究院准教授(教育学系)福田 典子(ふくだ のりこ)
専門は衣生活教育学、被服整理学。1988年広島大学大学院教育学研究科修士課程修了。琉球大学助手を経て1999年より現職
● 学術研究院准教授(教育学系)井田 秀行(いだ ひでゆき)
専門は森林生態学。1996年広島大学大学院生物圏科学研究科博士課程修了。博士(学術)。長野県自然保護研究所技師を経て2000年より信州大学。2009年より教育学部附属志賀自然教育研究施設長
● 学術研究院助教(教育学系)蛭田 直(ひるた すなお)
専門はデザイン学。フリーランスのデザイナーとして活動後、2008年情報科学芸術大学院大学メディア表現研究科修士課程修了。同大学院大学研究補助員を経て、2009年より現職
● 学術研究院教授(教育学系)高崎 禎子(たかさき さだこ)
専門は調理科学、食品機能学および食品加工学。1983年名古屋大学大学院農学研究科修士課程修了。博士(学術)。東京都立短期大学助教授、首都大学東京助教授を経て、2007年より現職