平成24年度入学式告辞 (2012年4月4日)
冬の寒さが一段落ついたとはいえ、朝夕にはまだ寒さが残り、桜前線の到達が待たれる信州の春です。春は人との新しい出会いの季節です。
本日ここに、平成24年度信州大学入学式を開催できますことに感謝を申し上げます。
新入生の皆様、ご入学誠におめでとうございます。信州大学全学を挙げて皆様を歓迎いたします。そして、ご両親、ご家族の方々に心からお慶びを申し上げます。おめでとうございます。
皆様が本日入学式を迎えることができましたのは、厳しい受験勉強を克服された努力の結果であります。と同時に、励まし頂いたご家族、友人そしてご指導頂いた先生をはじめ多くの方々のお陰だということを改めて深く胸に刻み、感謝の気持ちをいつまでも持ち続けてください。
また、留学生の皆様は母国を離れ、言葉、文化、生活習慣の異なる信州に生活することになりました。初心を貫徹され、4年後に大きな成果を挙げられることを期待しております。
さて、東北地方太平洋沖で発生した巨大地震・津波による重大な危機に直面した昨年3月11日から、はや一年が過ぎました。東日本大震災からの復興は、津波被災地のガレキの片付けから始まって、少しずつゆっくりではありますが進んでいます。
この一年の間、若い皆様はこのたびの災害について多くのことをお感じになり、お考えになり、またボランティアなどの行動を起こされた方もいらっしゃるかと存じます。その思いと行動の尊さに敬意を表します。
今回の震災をきっかけにして、地震の予測と防災技術、原発の安全性など、日本社会の安全とエネルギー基盤技術に不安を感じる人が増え、先端科学技術、そしてその担い手である大学への不信に繋がりかねない状況が散見されました。
それと同時に、安全・安心な新しい社会システムの構築に資する人材は必須であり、若い有能な人材の育成を大学に託す機運も高まっています。
では、災害からの復興と日本の再生に貢献する人材には、どのようなことが望まれるのでしょうか。
例えば、広範な放射能汚染に対する除染と安全に関わる新しい知識と技術、電力・エネルギーなどのように大規模で複雑化・効率化する社会システムの安全性と透明性を確保するための新しい知識と技術など、少子高齢化が進行するなかでのグローバル化社会の構築に役立つ専門知識と新しい知を創造する能力が望まれることは論を俟ちません。
これに加えて、日本人としてのアイデンティティを持つことが大切ではないでしょうか。
私たちの先人は、地震・津波などの災害によって繰り返される壊滅的な被害に屈することなく、その度に力強く復興してきました。そのことは、「美しい風土、自然に寄り添う生活、やさしい思いやりの文化」を、長く万葉の時代から現代まで絶やすことなく受け伝えられてきたことからもわかります。
岩手、宮城、福島、そして日本全国に、この「日本人のこころのふるさと、こころのみなもと」を取り戻すことが、「日本の再生」の第一歩になると考えます。
震災を機に、人類知の継承(教育)と新しい知の創造(研究)という大学の社会的責務を果すことが強く要請されています。
信州大学は、昨年の10月から信州「知の森」づくりの計画を進めています。「知の森」とは、様々な木々が信州の大地にしっかりと根を張り、澄んだ空に向かって枝を広げる、明るく風通しよく透明性高い英知の森です。
この森で、皆様は高度な専門性を身につけるとともに、人と自然を愛する心の豊かさを育てて頂きたいのです。
皆様は、本日、受験勉強から解き放たれたのですが、もう勉強はしなくて良いなどとは決して考えてはいませんよね。これからが、「本当の意味での勉強」です。
まず、人間としてどのように生きるかということを一生懸命に考えて頂きたい。そのための準備としては、教養科目を系統的にしっかり学び、読書を多くすることです。
特に、読む本は自分自身の将来に関係する専門書も良いのですが、専門外の書を多く読むことをお勧めします。理系の学生なら、哲学・文学書や経済・社会学に関連する本を、また文系の学生なら、生物学を含む理工学・医学書などを読むことで、視野と考え方を拡げたいものです。
このような、広範な読書によって、先人の「生き方、生きるための哲学」、すなわち先人の持つ「歴史観、世界観、人間観、倫理観」が学べます。後は、あなたなりに解釈し、参考にすることによって、自分自身の「生き方、生きるための哲学」を作り上げてください。この作業によって、日本人としてのアイデンティティも生まれてくると考えます。
また、「生き方、生きるための哲学」は読書や机上の講義だけでは作れません。行動することが大切です。サークル活動、ボランティア活動、時には遊ぶことなどを通して、感動をたくさん経験して欲しいのです。この経験を通して、人間的な豊かさ、優しさ、逞しさなどの人間力が涵養され、いかに生きるべきかという「生きるための哲学」が作り上げられると考えます。
ところで、皆様は今まで特に意識したことはなかったかもしれませんが、大学卒業後に社会生活を送っていくなかで、家庭での様々な負担が集中しがちな女性が、仕事をとおして充実した人生を送れるようにすることは、特に少子化が進行する日本では、社会全体の大きな課題です。
信州大学も、大学で学び、働く人々が充実した毎日を過ごしてこそ、優れた教育や研究が行なえると考えて、昨年度から男女共同参画に力を入れています。男女共同参画を進めるとは、男性も女性も共に力を出し、お互い助け合いながら、生かし合いながら、自分自身も大学も成長していける環境づくりを行なうことです。大学などの研究者にとっては、特に理系の実験系を中心に、職場でなければできない仕事、家に持ち帰って続けることが難しい分野があります。
信州大学では、女性研究者の出産や育児、介護などの人生における大きな節目に際して、せっかく続けてきた仕事を諦めず、キャリアアップしていくための制度を独自にスタートさせました。ほかにも、仕事のオンとオフのバランスがとれた生活である「ワーク・ライフ・バランス」を進め、男女ともに働きやすい環境を目指しています。
本日、信州大学にご入学の皆様には、大学生活をとおして男女共同参画を深く理解し、実行して巣立っていただけるよう、大学の制度を少しずつ、確実に、より良くしていきます。
このように、信州「知の森」での、自発的な学修(勉強)を通して、また仲間たちとの切磋琢磨を通して、自分自身の能力や人間としての豊かさを高めて頂きたいのです。
信州で自ら学んだ証(あかし)を誇りと自信にし、日本人としてのアイデンティティを確立し、日本の再生に貢献できる若者に育ってください。
最後になりますが、皆様は、一日も早く新しい生活環境に慣れ、心身ともに健全に保ち、勉学に励み、目標に向かって進んでください。
大学生時代は、長い人生の中でもかけがえのない大切な時期であります。充実した楽しい大学生活を過ごされることを期待して、告辞とします。
平成24年 4 月 4 日
信州大学長 山沢清人

