小林 憲明 先生(キリンホールディングス株式会社 取締役常務執行役員) の講義が行われました
2021. 06.16
- 現代産業論
2021年6月16日、2021年度「現代産業論」第7回の講義として、キリンホールディングス株式会社 取締役常務執行役員 小林 憲明氏から「バイオ戦略における国家プロジェクトの取組みとKIRINグループのDXの取組みについて」と題して講義が行われました。
小林氏は、同社に入社以来、生産や経営企画、海外事業等、多岐に渡る分野で業務に携わってこられました。取締役常務執行役員に就任後も、キリングループの構造改革・経営改革に大きく貢献されています。また、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」プログラムディレクター(PD)、バイオ戦略有識者構成員としても御活躍です。
講義の第一部として、SIP第二期「スマートバイオ産業・農業基盤技術」の取組みについてお話しいただきました。
2050年度の世界人口は97億人と予測され、食料生産は2010年の1.7倍必要と考えられています。しかし、世界中で地球温暖化が進み、いまだに収束が見えない新型コロナウィルス感染症の影響によりグローバル流通の脆弱さが明らかになり、国内では就農者の高齢化や休耕地の拡大、野菜・果樹などにおける作業自動化の遅れ、フードロス・フードウェイストの増大など、「食」の持続可能性に関する問題が顕在化しています。このような状況において、SIP第二期「スマートバイオ産業・農業基盤技術」では、「今、食べられるからよい」ということではなく、「今後も安定的に食べられるようにする」ために「日本の農業の成長産業化」、「地球環境にやさしい「食」産業の環境づくりを軸としたバイオエコノミーの拡大」を取組みの方向性として掲げ、まずは農業現場の効率化、儲かる農業の実現、就農者の支援やモノやサービスの流れのサーキュラーエコノミー化(「捨てる」から「使う」へ)を挙げられました。
スマートバイオ産業・農業基盤技術が目指す「スマートフードシステム」は、「食」のサステナビリティ実現に向けてデータ連携をメインにしながら、課題であるデータを活用していくインフラ整備とその構築に必要となる「データ・情報利活用基盤構築」に取組んでいます。また、開発や生産、流通消費、資源循環など各ステージで必要な「個別開発技術の展開」に取組んでいます。期待効果として、バイオ関連データの利活用による新規ビジネスの創出やベンチャー企業等の食領域事業への参入促進なども挙げられ、スマートフードシステムの実装に向けた取組みを御紹介いただきました。
「データ・情報利活用基盤構築」と「個別開発技術の展開」には、①食料供給の安定化、②フードロス・フードウェイストの減少、③食関連産業の発展、④ヘルスケア市場の活性化、⑤日本のバイオエコノミーの拡大、が社会的効果として考えられます。「食」のサステナビリティ実現には課題も多いものの、今後も成果の社会実装に向けた取組みで問題を解決していくことが期待されます。
第二部は「KIRINグループのDXへの取組み」として、ICTを活用した業務効率化、AIの活用事例などについて御講義いただきました。
KIRINグループは「CSV(共通価値の創造)」を経営の柱として進めており、社会課題の解決と価値創造の両立を目指してさまざまな取組みをされています。特に、「食から医にわたる領域」でグループをあげてグローバルに事業展開しており、「免疫・脳機能・腸内環境」の3つの重点領域の相乗効果によりイノベーションを創出。このうち、免疫に着眼した「プラズマ乳酸菌」の独自開発はヘルスサイエンス事業の要となっており、「キリンホールディングス」「ファンケル」「協和発酵バイオ」「協和キリン」と、強固なバリューチェーンが整い、健康への課題解決を提供しやすい体制を整えています。
また、業務効率化やお客様とのコミュニケーションを目的にICTを活用した取組みとしてUDトーク(音声認識・会話のリアルタイム文字化テクノロジー)の導入、経理部門におけるPRAツールによる大幅な作業時間削減の実現、AI活用による「醸成匠AI」や「棚割り作成システム」等、具体的に御紹介いただきました。
今後の課題・展開はデジタルについての人材育成と社員一人一人の意識改革だとして、事業や業務を理解し、プロセスそのものの変革を構想・提案できるような人材の育成がDXを推進していくうえで必要だと述べ、講義を締めくくられました。