松尾 元信 先生(金融庁 証券取引等監視委員会 事務局長)の講義が行われました
2021. 06.23
- 現代産業論
2021年6月23日、2021年度「現代産業論」第8回の講義として、金融庁 証券取引等監視委員会 事務局長 松尾 元信氏から「金融庁のデジタル化戦略」と題して講義が行われました。
松尾氏は1987年に大蔵省へ入省後、さまざまな部署において要職を経たのち、2020年より証券取引等監視委員会事務局長に就任され、現在に至っておられます。その間、金融庁においてフィンテック関連の法改正に取り組まれてこられました。
現在、社会のデジタル化は金融を含めたあらゆるビジネスで継続的に進んでいますが、新型コロナウィルスの影響を受け、さらに加速しています。金融の領域では、キャッシュレス化が大きく進展し、FINTECH(フィンテック)企業やプラットフォーマーの出現、金融ネットワーク構造の変革等が起こり、今後に向けたビジネスモデルや業務方法の転換が求められています。
FINTECHと呼ばれる金融サービスと情報技術の融合は、金融・非金融を通じた情報の利活用によって、スマホやAI・ビッグデータ等による安価で瞬時・個別のサービスを提供する新しい金融ベンチャーの登場につながりました。
また、Eコマース企業やSNS企業、情報企業等の異業種分野が金融サービスに乗り出した結果、自らのエコシステムを作り出していくプラットフォーマーが数多く参入しました。
FINTECHの進展により、金融システムのネットワークの姿は従来の「金融機関ハブ型」からインターフェイス企業が顧客のニーズに沿ってサービスを組み合わせて提供する「インターフェイス企業中心型」、さらには、顧客同士が直接取引を行う「分散型」へと変化するなど多様化しています。
このような状況下において、金融庁では「金融デジタライゼーション戦略の推進」を政策課題として掲げ、実行に移す取り組みを始めています。具体的には、情報・データの利活用促進のために社会的な進展を踏まえた法改正、イノベーションに向けたチャレンジ促進や支援策として「FinTechサポートデスク」や「FinTech実証実験ハブ」の開設、決済・資金供与・資産運用・リスク移転といった各機能に対応するサービスについて横断的に提供することを可能とする「横断的な金融サービス仲介法制」の導入、さらに2022年度中を目途に資金決済システム参加者の拡大や、多頻度小口決済の簡素化・利便性向上への早期稼働に向けて取り組んでいることなどを熱く語っていました。
松尾氏は、金融機関がデジタル化へ対応していくためには、①供給側の視点ではなく、「ユーザー視点」で新しい商品やサービスを発想すること。ユーザーが何を求めているか徹底的に考え、金融の世界にとらわれないこと、②時間をかけて完璧な計画を作るのではなく、「スピード感のある意思決定」をすること。そのためには、経営トップがビジョンを持って変革への強い意志をもたないと変わらない。さらに、若い人の発想も必要、との見解を示されました。
講義終盤では、暗号資産の仕組みやブロックチェーン、ステーブルコインなどについてのお話しがあり、ブロックチェーン技術の可能性やFacebook発行のデジタル通貨「リブラ」の課題やリスク、中央銀行デジタル通貨(CBDC)検討に向けた今後の実証実験の流れについて解説いただきました。
政府担当部署の幹部職員によるハイレベルな内容でありながら、金融庁での取り組み事例や手段、今後の課題など多様な視点からお話しを展開され、大変わかりやすく御講義いただきました。